呪術師と審神者   作:あれなん

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【番外編 五条ルート(中)】話を聞いて深読みしすぎた夏油は五条にボラギノールを渡す

 

 

こんなことなら実家でちゃんと作法を学んでおくべきだった。

五条は包まった布団の中でそう思っていた。他の者よりも優れた術式を持ち、家ではちやほやされて据え膳上げ膳でここまで来てしまったことをこの歳になって後悔するとは思いもしなかった。

 

しばかれまくったケツは術式のおかげで無事で猿の尻のように腫れあがることはなかったが、メンタルは襤褸雑巾のようになっている。

SMプレイのスパンキングでもあんなに容赦無く叩かれることはないだろう。二度と年末のあの番組は笑って見れなくなった。朝にここ(本丸)に来たときには精々小言を言われ、最悪乱闘になっても術式でどうにかすればいいかと考えていたのに、一挙手一投足に嫁いびりをする姑のように文句を言われるなんて思いもしなかった。

 

昼飯も夕食もあの藤色の髪の男につきっきりで指導されたせいで食べた気がしない。

夕食後解放されてやっと現世に帰れると思ったのに、審神者から渡された手紙を読んで絶望の淵に立たされた。手紙は夜蛾からで「ちゃんと認められるまで帰ってこなくていい」とその一文だけが(したた)められていた。

 

こんなことなら獄門彊に閉じ込められたときの方がずっとましだった。

あそこには重箱の隅を突くような奴はいなかった。

 

五条は暫く布団の中で丸まりめそめそしていたが、どことなく賑やかな本丸の雰囲気に中を探索することにした。

あの玄関にいたおかっぱの子どもと藤色の髪の男以外に合わなかったが、本丸には他にも人が大勢いるのかあちらこちらで笑い声やら足音が聞こえる。高専や五条家にも人はいたが、ここまで賑やかではなかった。その明るい声に惹かれてあてがわれた客間を出た。

 

邪魔をする気はなかったので気配を消していたが、さすが付喪神と言ったところだろうかすぐに見つけられた。小学生のような子どもたちにまとわりつかれ、本丸内を案内されたことは、自身の現在地も把握できていない五条としては僥倖であった。

五条がいた客間にはトイレも風呂もついていたが、本丸には大浴場と露天風呂もあるらしかった。外はもう陽が落ちて景色は見えなかったが、中庭に大きい池があり鯉も泳いでいると子どもは言った。子どもたちに手を引かれ五条が次に連れられたのは台所だった。台所と言っても大人数の食事を用意するため広く、置かれている鍋はどれも大きかった。台所では五条たちと同年代のように見える男たちが酒盛りをしていた。

 

「おっ!主の結婚相手じゃないか!一緒に呑まないかい?」

長髪の男にそういわれた五条であったがこんな状況になってしまった原因ともいえる酒にちょっと懲りていた。

 

 

「……あたたかいぎゅうにゅうをください…」

そう弱々しくいった五条にその場の全員が吹き出した。

 

 

 

子どもたちはもう寝る時間なのか五条を台所にいる男たちに任せて部屋に帰ってしまった。

 

「あー、歌仙にこってり絞られたらそうなってもしょうがないねえ」

 

「歌仙の旦那はこの本丸の風紀委員長だから気にすんなって。鶴丸の旦那なんて叱られて5分でピンピンしてらぁ」

その言葉に蜂蜜入りのホットミルクをちびちび飲んでいる五条は励まされた。

 

白衣をまとった少年は熱燗を呑んでいる。ここの風紀委員長は成人男性の作法にはちくちく言うが、未成年の飲酒には寛容らしかった。

 

「僕いつ帰れるんだろ…」

まだ五条は特級呪霊が出て現世に呼び出されることに淡い期待を抱いている。

 

「やだね、言っちゃったらおもしろくないじゃないか」

 

「僕は面白くなくていいんだけど…」

 

「あたしたちがおもしろくないんだよ!!」

なんとも酷い理由だった。

 

 

「まあ、一緒に呑んだ仲だからちょいとだけヒントをあげようか。

――どうなるかはあんた次第だね」

 

「は?」

 

「ほら、明日もはやいんだからさっさと寝な!薬研、客間につれていってやってよ」

 

「おう!まかせな」

白衣の少年は日本酒を何合も呑んでいたがふらつきもせずに立ち上がった。

 

 

 

作ってくれた牛乳と励ましの言葉のおかげなのか五条はよく眠れた。

普段よりずっと早い時間帯に目が覚めたにも関わらず、頭が冴えていた。

 

客間を出て、縁側から外の景色を見る。空気は一片の淀みもなく、澄んだ空気を肺いっぱいに行き渡らせた。あれほど騒がしかった本丸も皆眠りについている時間帯なのか静まり返っている。朝焼けの赤紫色でぼんやりと辺りが染まる中で力強さを感じさせる光が山の合間から漏れ、池に反射する。その光を集めて飲み干すことができたならきっとこの世から憂いはなくなるだろう。

 

「よいところだろう」

横から話しかけられる。手拭いを頭に巻いた男が傍に立っていた。

 

「俺は何百年と生きているが黎明(れいめい)は何度見ても美しい」

そう男は呟き、五条と並んで朝焼けを見た。

 

なにも考えずにこうして朝焼けを眺めたのはいつぶりだろうか。

 

五条と敵対しているものはひとつではない。呪霊、呪詛師に上層部。

自身の術式は最強と言っていいものではあるがそれでも守りきれないものはいくつも両手からすり抜けて行った。自己嫌悪で悩むような歳でもないがぼんやりと失ったものを思い出す。

呪術師はイカれてないとできない。そうでないなら呪霊に殺されなくても、いつか自身で自分の首を絞めることになるだろう。その基準は正しかった。自分はイカれている。

 

 

「なにやら難しいことを考えておるな」

男に顔を覗き込まれ言われる。男の瞳には月があった。

 

「どれ、そんなときには禊が一番だ。もう石切丸は起きているだろう」

そういわれ手招きされる。ついて行くとどこか神社のような空気感を感じた。

 

 

「石切丸、この者も禊を受けさせてやってくれ」

 

「君は…、君も主同様、いろんなものを抱えているね」

 

五条は実は神社があまり好きではない。呪霊と神は表裏一体ともいえるからだ。人は、特に日本人は八百万の神を信仰してきた。大地や海はもちろんそこら辺の木や石に何かしらの意味を与えてきた。

現代社会ではそれも薄らいでいるが、根底に染みついた考えは拭えていない。

地蔵にドロップキックしようとするような輩は肝試しで好きな子にいいところを見せようと見栄を張った男子かヤンキーぐらいだ。

 

子どもの頃に悪さをすれば誰かに「(ばち)があたるよ」と言われたことがあるだろう。誰が罰を下すのだ。親か兄弟かそれとも八百万の神のうちのひとつか。

 

山や石を祀り神としたものもあれば、自身の先祖のように恨みを募らせて悪霊となった者を鎮めるために祀ったものもある。朝廷を憎み人々を混沌の渦に落とす悪霊となったはずがいつの間にか勉学の神となったのは皮肉でもある。

 

それだけ日本の神は揺らぎやすい存在で傲慢だ。怒り狂って呪霊化した元神を祓ったこともある。それは罪深いことだろうか。

 

 

緑色の袴を穿いた男に終わったことを告げられる。気が付くともう朝餉の時間なのかどこからか味噌汁の匂いがした。

 

白御飯、大根と油揚げの味噌汁、大根の葉のお浸し、焼鮭。それとお新香。

典型的な和食だ。

 

昨日とは打って変わり部屋に隔離されて食事を取るわけではないようだった。

手拭いの男と袴の男に連れられて部屋に入ると御盆を渡された。普段からセルフ方式らしい。ケツはしばかれたが、昨日は客人として一応もてなされていたようだ。

 

味噌汁を一口飲むと不思議とほっとして肩の力が抜けた。その様子を一緒のテーブルに座った男たちは見て微笑んだ。

 

昨日に引き続き部屋で作法を教えられるかと思っていた五条の予想は当たらなかった。

 

「おう!おはようさん!昨日は寝れたか?今日は俺っちと一緒だぜ」

昨日客間まで案内してくれた白衣を纏った子どもが五条に告げた。

 

「君らとなにすんの…?」

あの地獄が終了したのはよかったが一体子どもたちとなにをやらされるのだろうか。

 

「おにごとしましょう!」

そう言って銀髪の子どもは五条の背に()し掛かってきた。

 

「鬼事?…あぁおにごっこか……なんで?」

 

そう言っているうちに庭に向かわされた。

ここにはかなりの数の子どもがいるようだった。小学生から中学生ぐらいの子どもが揃っていた。子どもの世話ならまだましかと思い、そのままでは大人気(おとなげ)ないため術式を解いた。

 

「くれぐれも怪我すんなよ。もし怪我したら俺っちのとこまで来てくれ」

そう白衣の子どもは五条に告げて一人縁側に腰掛けた。

 

 

「…君は参加しないの?」

 

「俺っちは審判兼救護係ってところだな。まァ気にすんな。あと大将からアンタに連絡だ。呪力と術式なしで短刀の相手をしろってさ」

 

「ふーん」

審神者に言われずとも既に術式は解いているし、子どもの相手に本気になるわけないだろと五条は思っていた。

 

「それじゃあいきますよーー!よーーいどん!!」

そう言うと先程まで15mは確実に離れていた銀髪の子どもが五条の目の前に現れ、小さな手が五条の足に触れていた。

 

「は?」

 

「つぎはおにいさんがおにですね!」

 

「短刀全員練度が上限までいっているから舐めてかかると痛い目みるぜ」

 

子どもたちは一瞬のうちに五条の前から影すら残さず姿を消す。

 

 

 

「――うそでしょ」

 

楽勝だと思っていたのは五条だけだったようだ。

 

 

 

 

 





生還した五条は夏油にケツが腫れるかと思ったと愚痴をこぼした。
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