呪術師と審神者   作:あれなん

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【2】2人は医師から良好と診断されたが、七海は胃薬を処方された

夏油はふとした瞬間に思い起こす。

 

あの時別れた理子や審神者たちについてもそうではあったが、何よりあの満月の夜、審神者に吐露した自分の言葉について、何度も反芻した。

 

あの言葉は本心だった。

 

直前に五条が倒れている姿を目にして動揺していたことも要因だったかもしれない。任務で呪術者の死体も非呪術者の死体もいくつも見てきた。手や指しか残っていないもの、スープのように融かされたもの。個人の識別ができるほど形が残っているならまだ僥倖だとさえ思っていた。

 

深夜に五条と寮の部屋で桃鉄をしていても、時折黙り込むほどだった。

呪霊を飲み込む際の味覚を感じなくなってから、異常があればすぐに報告するように夜蛾に言われている。

そのことをそばで聴いていた五条はどういう解釈をしたのか、五条の制服のポケットに押し込められている、体温でちょっと溶けた飴やら煎餅やらを夏油に渡してくるようになった。

 

以前、五条が愛用しているスプレー式のホイップクリームをそのまま口に突っ込まれ暴発したときは、両者ともども大惨事になった。少しは学習し二度としなくなったことは幸いだった。

 

飴なんて黒飴や黄金糖が多く、この渋すぎるチョイスからどこかのおばちゃんから渡されたものをそのまま流していることは丸わかりだ。

 

 

押し付けられた飴の個包装に描かれた花を眺める。

 

「その飴、案外うめぇだろ?」

 

「……悟は、いまの呪術界ってどう思う?」

 

「は?」

 

「…私は呪術の「じゅ」の字も知らない一般家庭出身だから、大変だった。悟はどうだった?」

 

「なにって……そうだな。呪術界は――簡潔に言うと腐ったみかんの集合体だな。あいつらは権力の塊で呪力と呪術しか頭にない。おかげで才能あふれる俺はそれはそれはお上品に育てられた」

 

「…」

 

「なんだよその目は」

 

「いや、五条家が頑張ってお上品に育てると悟みたいなのが出来上がるのかと思うと…現代教育の敗北だとおもって……ディズニーチャンネルを見せ続けて育てた子どもの方がましに育ちそうだね」

 

「はー!?そんなこと言うならさっきやった飴返せ」

 

「嫌だね」

 

「……まあ、呪力に理解があるってことは、それしか重視されないってことだ。それに死にかけの老ぼれ同士で足の引っ張り合いもしょっちゅうだ。ーー、俺はそれを変える」

そう言い切った五条に夏油は驚いた。

 

「…なんだよ、それが聞きたかったんだろ」

その言葉に夏油はなんだか笑えてきた。あの審神者の悪い影響だろうか、少し意地悪したくなる。

 

「…具体的には?」

 

「はぁ?」

 

「具体的にどうするんだい?」

その返答は予想外だったのか五条は片手で頭を掻き乱しながら答える。

 

「…あーー、夜蛾みたいに高専の教師になって育成するかもな。要はポケモンみたいに経験値あげればいいんだろ?」

 

「ーー、教師になる前にディズニーチャンネル…いや、おかあさんといっしょから見直して学ぶ必要があるな」

 

「はー!?まじ腹立つ」

 

「悟が高専の先生になるなら、私はそれより幼い子どもに教えようかな」

 

「おっ、ロリコン宣言か?おまわりさーんここにロリコンがいまーす」

 

「…一発だけでいいから思いっきり殴らせてくれないか」

 

「むーりー」

 

そんなやりとりをしていると、部屋の外から勢いよくノックされる。

もう時計の短針は12時を指している。ふたりで顔を見合わせ、部屋の主である夏油がドアを開けた。

 

顔見知りの補助監督が青い顔をして立っている。

 

 

「大変です!灰原さんが!…」

その言葉を最後まで聞かず、2人は医務室に向かって走った。

 

医務室の前の廊下に備え付けられているベンチには灰原と共に今日の任務に向かった七海が仰向けに倒れ込み両目を隠すようにタオルで覆っている。

 

七海の制服は泥と血で汚れきっていた。

覚悟を決めて医務室のドアを開ける。

 

「あれ?こんな時間に医務室くるなんて、何かあったんですか?」

 

「「…は?」」

 

 

そこには血塗れで服はあちこち破れているがぴんぴんしてる灰原がいた。

 

「灰原……おとなしく、成仏してくれ…」

五条が夏油を盾にしながら灰原に言う。

 

「もー、いやだな。僕は生きてますよ!」

両手を腰に当てながら灰原は言う。

 

「あーあー聞こえない、なんまいだーぶなんまいだーぶ」

夏油を挟んで言い合いをする2人の頭にいつのまにか来た夜蛾の拳が落ちた。医務室の地面にのたうち回る2人を置いて夜蛾は言う。

 

「お前たちは補助監督の話をちゃんと聞いてなかったのか」

 

「ーーあんな青い顔で言われたら普通、想像つくだろ!?」

まだ床に転がりながら五条は夜蛾に反論する。

灰原は夜蛾に手加減されていたのかすぐに立ち上がった。

 

「僕もダメかと思ったんですよねー、でも血を流しすぎて気が遠くなったとき、胸の辺りが熱くなってパッと光ったんですよ。そうしたら、戦ってた呪霊もさっきまで負ってた傷も無くなってました」

 

「けど入り口で七海が…」

 

「あー、七海は僕が死んだとおもってたら生きてたので心労であんな状態になりました!」

 

あの普段きっちりしている七海の珍しい姿を思い出して夏油は苦笑した。

 

「ちょいまち、灰原…胸のポケットなに入れてる?」

床から復活した五条は六眼で灰原を見たようだ。

 

「?…あー!五条さんにもらったお守り丸焦げになってる!」

原形を留めていない黒焦げの物体を灰原は取り出した。

 

「これってこの前渡したやつか」

 

「お守りって…前に蘇芳さんから貰ったお守りのこと?」

 

「そうそうそれ、俺最強だし、賭け麻雀で灰原に負けたときにやったんだった」

 

「よくわからないけど、おかげで助かりました!」

灰原の明るい笑顔に一気に空気が緩んだ。

 

「それはともかく、灰原お前あとで、俺たちを医務室まで走らせた罪でアルゼンチンバックブリーカーの刑な」

 

「えー!」

 

「悟がアルゼンチンバックブリーカーにするなら私はフランケンシュタイナーにしようかな」

 

「えー!ひどい、夏油さんまで!」

 

そんなやりとりを眺めていた夜蛾は灰原に念のため明日七海と共に検査を受けるように告げると夏油にも同様に言った。

 

「明日から任務でいない予定なんですが…」

 

「既に代わりの者を手配している。任務を口実に前も検診行かなかっただろう。灰原たちと一緒に行ってこい」

 

「一緒に行きましょう!夏油さん!」

灰原の一点の曇りもない眼で見られると夏油は頷くしかなかった。

 

夜蛾と灰原の後ろで夏油に向かってべろべろばーをしている五条は夜蛾に再度拳を落とされ沈められた。

 

 




後日、灰原は七海から逆エビ固めをくらうことになる
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