呪術師と審神者   作:あれなん

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【4】夏油と夜蛾はその夜、酒を酌み交わし今までの労をねぎらいあった

 

 

 

審神者という仕事は保育士と似ている。

 

 

刀剣男子たちは顔と身体能力だけ見ればそこらの人間よりもはるかに優れている。しかしそれを軽く凌駕するほど灰汁が強い。

 

ネガティブ発言を連発するだけならまだましで、見かけは普通に見えても思わぬところに地雷が有ったりと慎重にならざるを得ない。

 

本丸内で連日迷子になる刀剣男子も何人かおり、捜索することに嫌気がさして、ショッピングモールにあるような館内放送設備を本丸に導入するほどだった。

 

本丸内での刀剣男子同士の喧嘩は日常茶飯事で、審神者には興奮した刀剣男子たちを静め落ち着かせるための話術と根気、そして時折腕力が求められる。

 

蘇芳は初期に徴兵されたこともあり審神者歴としては長い。

 

今ではくせの強い刀剣男子とどうやって触れ合えばいいのか審神者同士の意見交換スレッドが乱立している。

蘇芳の頃はそんな便利なものはなく、地雷を踏んではいちいち心配していたが、地雷も踏みなれてくると大体の対処はできるような図太い神経を持つようになった。

 

 

その審神者の摂氏零度の視線を浴びて、五条は満員電車で座席に座れたサラリーマンのように両脚をぴったりと揃えて姿勢を正している。

 

その状態の五条を一瞥し、捨て置いたまま審神者はソファに座る虎杖の方に駆け寄るとその明るめの色をした頭を抱き寄せた。

 

 

「――――、よかった、無事で」

虎杖はもがいていたが、ため息交じりの審神者の言葉に動きを止めた。

 

「……姉ちゃん、心配させて、ごめん」

その言葉に審神者は虎杖の頭を抱え込むことを止め、虎杖の柔らかい髪を撫でた。

 

「自分で決めたんでしょう?」

 

「…うん」

 

「なら、ちゃんと胸を張りなさい。俯くことは許しません」

審神者にぽんぽんと背中を軽く押され、虎杖は丸まっていた姿勢をまっすぐにされる。

 

 

「……ありがと、姉ちゃん…」

虎杖は呟くように言った。

 

 

 

「―――で、ちょっと、先生と、お話があるから、悠仁は部屋に戻ってなさい」

 

不意に鋭い視線を向けられ、従姉弟同士のしんみりした空気に背中を丸めていた五条は急に氷を入れられたごとく背中を伸ばした。

 

虎杖は審神者とまだ話したりないのかチラチラ審神者の方を見ている。

五条の監視のために部屋にいた夜蛾に、夕食を用意するから一緒に食べるといいと言われると、審神者に手を振りながら嬉しそうに応接室を退室した。

 

 

 

虎杖がいなくなると、空気が完全に沈黙した。

 

五条は虎杖の朗らかさが恋しくなった。

 

 

「…ここに来る途中に夏油さんよりお聞きしたのですが、悠仁の死亡通知は五条さんが出すように指示したらしいですね?」

 

「……ハイ…」

 

「なにか思惑があってのことだと思いますが、そんなに死亡通知をほいほい出すとは何事ですか」

 

「ハイスミマセン」

 

「悠仁のことについては、本人が決めた以上、私の方で言うことはありません。しかし、本人の意に反して何かを強いるようであれば、こちらも介入せざるを得ません」

 

「………今回の件については僕のミスだった。そのことについては謝罪しよう」

 

五条の言葉の後、静寂が部屋に満ちた。

 

 

 

「………五条さん、何か変な物召し上がられました?」

審神者が眉を顰めながら夏油と夜蛾に訊ねる。

 

「は?」

 

「以前お会いしたときよりおとなしいので…それに素直に謝罪するような方ではなかったはずですが…」

 

「失礼過ぎない!?僕も成長したの!」

 

「あんな性格だった方がここまで変わるなんて……大変だったでしょうに…」

審神者は夏油と夜蛾の方を見ながら言い、2人は決して否定せず、大きく頷いていた。

 

 

 

「審神者ってほいほい次元超えて移動できるほど暇なの?」

五条は意趣返しとして審神者にいう。

 

「おかげさまでたくさん始末書を書くことになります」

嫌味たっぷりに審神者は打ち返した。

 

「そういえば理子ちゃん、元気かい?」

空気を変えるべく、夏油は話題を提供した。

 

「?…あれ、理子さんたちからご連絡なかったんですか?理子さんは審神者はなりませんでしたよ」

 

「「は?」」

夏油と五条の声が重なり部屋に響いた。

 

 

「審神者になるには一定の霊力が必要なのですが、あと1㎜足りないというところでした」

 

「でも、あの時、天内に審神者になるって…」

 

「私は審神者『候補』と言ったんですよ。それに審神者になるためには3ヶ月は審査期間を要します。そもそも審神者になってもならなくてもどちらでもよかったんです」

 

「…詭弁じゃないか」

夏油は呟いた。

 

「嘘も方便です」

審神者は2人を真っ直ぐ見てにこやかに答える。

 

 

 

審神者は夕食を悠仁がいる部屋で食べた。食事はジャンキーなピザだったが五条が持ってきてくれた。

 

地下にあり、テレビとソファーがあるだけの質素な部屋に悠仁は一時的に借りてる部屋で自室じゃないからと慌てて言い訳をしている。

 

虎杖と審神者は一時的ではあるがそれぞれの立場を忘れ、ただの従姉弟に戻り、たくさんのことを話した。

学校でのこと、コンビニのおすすめの新商品のこと、そして亡くなった祖父のこと。

 

虎杖は最後まで祖父は偏屈だったと言い、審神者は虎杖がまだ記憶がないような頃の祖父の話をした。

 

 

 

「おーー、まだ話してるの?もう10時だよ」

五条が階段を下りながら2人に話しかける。

 

「あら、そんな時間でしたか。そろそろお暇しないと…」

ソファから審神者が立ち上がりながらそう言うと虎杖は少しさびしそうな顔をしたが一瞬で笑顔に変わった。

 

 

「姉ちゃん!また手紙出すから!」

 

「楽しみにしてる。悠仁もお腹出して寝ないように気を付けて」

 

「わかってるって!」

 

 

五条と審神者は地下室を出て、審神者を迎えにきた車の方まで歩く。もう辺りは真っ暗で、星もよく見えた。

 

 

 

 

「――ねぇ、悠仁を目の敵にしてる奴ら、見たくない?」

五条が審神者に問いかける。

 

「……それは、とても、興味がありますね」

審神者は目を細めながら言う。

 

「近々、交流会があるから招待するよ」

 

「――、ええ、その時は喜んで参りますね」

 

 

 

 

 

 





夏油はおかあさんといっしょはやはり情操の育成に効果があったのだと語った
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