呪術師と審神者   作:あれなん

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【5】鴉を通して見ていた冥冥は仲良くなれそうだと口角を上げた

 

 

 

 

交流会と聞いて何が浮かぶだろうか。

五条に帰り際に聞いた内容から従弟が出る交流会は演練に近しいものだと審神者は思った。

 

演練に  従 弟  が出る。

 

そう理解できると帰りの車中で一気に審神者は狼狽した。

せめてお守りと金の玉の刀装でもいくつか持たせないといけない。

 

 

刀剣男子たちが演練に出ることには審神者は慣れきっている。刀剣男士たちが腕を落とされようが、撃たれようが冷静に戦況を見て采配できるという自信がある。

しかし、あの従弟が、小さい頃おねしょをしては審神者に泣きついていた従弟が、出るとあっては一大事であった。

 

本丸に戻った後の審神者は夜叉のようだったと刀剣男士は語る。

 

溜まっている仕事と無断外出に対する始末書なんぞ放り捨て、霊力で破裂寸前のお守りやお札を作った。

 

刀剣男士たちは審神者の形相を見てヒエッとしたし、いつも夜中でも騒がしい本丸が、その夜からひっそりと静まり、テレビの音だけが微かに聞こえるようになった。

短刀の内数名は夜にひとりで厠に行けなくなり、一期一振は寝不足になった。

 

交流会当日、五条はうきうきだった。

 

虎杖はうまく呪力を使いこなせるようになっており、交流会でどれだけ成果を残せるのか楽しみであったし他の同世代の呪術師に触れどのように成長するのかといった期待もあった。

それに虎杖と審神者の関係を知ると、保守派も大分沈静化するかもしれない。楽巌寺がどんな反応をするのかも楽しみだった。

 

五条が審神者を出迎えると、以前のように狩衣を纏っ審神者はなぜか大荷物を持っていた。

 

「…どしたの、それ」

大荷物にちょっと引きつつ、五条は審神者に訊ねる。

 

「――あぁ、悠仁に持たせておこうと」

 

「あー、それダメ」

 

「は?」

審神者の言葉には明らかに怒気が籠っていた。

 

 

「霊力こめてるでしょ?」

 

「当たり前ではないですか」

何でもないという風に審神者が答える。

 

「そんなの持ってたら、呪霊こないし、勝手に消滅しちゃうし、悠仁に渡すのはダメ」

 

「……お守りだけでも」

 

「だーめ」

 

「こんなに作ったというのに…」

 

「高専で買い取ろうか?霊力しこたま入れたみたいだね。もしかしてちょっと神気も交じってる? 審神者が霊力を籠めたものなんてめったに出回らないからかなりいい値段になるよ?」

 

「売りません」

虎杖のために丹精込めたものを他人に使われるのは癪だった。

 

 

「……なら、ビデオ撮影だけでも」

 

虎杖の運動会は必ずビデオを撮って記録に残している。交流会もある意味運動会のようなものだからいけるはずだ。

 

「それもだめ」

五条は非情だった。

 

 

 

事前に夜蛾から楽巌寺には宮内庁から視察がくると伝えてあったようだったが、五条と夏油が予想した通り、審神者と虎杖の関係を知った楽巌寺の反応は見ものだった。

 

「宮内庁 時間遡行軍特別対策班 陸奥国筆頭 審神者名 蘇芳と申します。私の、親類の、虎杖悠仁が楽巌寺学長に大変御世話になったと五条さんにお伺い致しました。その節は、誠に、ありがとうございました」

 

楽巌寺に向かって、声はにこやかだが嫌味十分に自己紹介をする審神者の背後で五条は楽巌寺の方を指差し、腹を抱えて笑うジェスチャーをしていた。

楽巌寺は数十年間漬け込んだしょっぱい梅干を食べたときのようなキュッとした顔になっていた。

 

 

 

 

お守りもお札も独鈷杵さえも従弟に渡せず、審神者は心配であった。

始まってみると、虎杖は集中攻撃を受けているし、殴られたり蹴られたり、矢で射ぬかれかけたりと、五条の嫌がらせで審神者の横に座らされた楽巌寺はだんだんと審神者が苛立ってきているのを肌で感じた。

悠仁周りの映像が途切れる度、審神者は目を細める。

 

それは時が経つにつれて少し離れて座っている夏油や冥冥たちにも感じ取れるほどになった。

呪力とはまた異なる、自然と指先がびりびりとするような霊力が審神者から漏れて出しており、 床に敷かれている絨毯の毛足が審神者の周辺だけ剣山のよう逆立つ。

 

染み出る霊力と審神者のモニターを見つめる殺気立った視線に誰も文句を言えるものはいなかった。

五条と夏油は互いに目配せし、どちらが審神者に言うかを押し付けてあっていたが、最後まで決まることはなかった。

 

審神者は短気というわけではない。むしろ比較的強靭な精神を持っている。鶴丸が庭に掘った穴に落ちたせいで洗ったばかりの洗濯物が汚れても、鶴丸に渡した1週間分の食費がすべてねるねるねるねに変わっても、ここまで怒りを露わにすることはない。

 

そもそもが交流会を演練と認識していることが大きな原因であったといってもいい。

演練ではステータスを確認し刀装でカバーしたり布陣を決めたりと、審神者にできることがいくつもある。しかし今回はかわいい従弟がやられているのをただ見ているしかできないことに苛立ちが隠せなかった。

ここ数日、虎杖に渡す道具の作成とスケジュールの確保のために、睡眠時間を削っており、まともな思考ができていないことも一因であっ

 

 

 

突然壁に貼られている札がすべて燃える。

 

異常事態に審神者はその部屋の誰よりも早く指示を出した。

 

「第一部隊、顕現」

 

季節外れの桜が部屋に舞う。目を開けると付喪神が5体立っている。

 

「学生及び職員の安全を最優先、敵は見つけ次第、破壊。歌仙と小夜は東から、長義と鶴丸は西から探せ。―――散れ」

 

その審神者は抑揚の無い声で指示を出し、付喪神は消えるように部屋を去った。

 

「――、部外者が何を…」

楽巌寺は言い淀む。

 

「虎杖の保護者ですけれど、なにか?」

一切の表情を消した審神者がゆらりと立ち上がり告げた。

 

五条と夏油は触らぬ神に祟りなしとばかりに、なにも口出ししなかった。

 

審神者は帳の中心部に行くと言い、1体残した付喪神とともに五条たちを置いて先に行ってしまったが、審神者の狙いはすぐにわかった。

審神者は襲撃者が張った帳を、霊力を込めた結界を内から展開・膨張させぶつけ合うことで摩耗させた。おかげで五条は早く帳を解くことができそうだ。

五条のみの拒む帳であったためなんなく夏油は中に入れた。手持ちの呪霊を出し警戒しながら進む。

 

審神者が出した付喪神によってだろうか、呪詛師は気絶し倒れている。何人かの生徒は一ヶ所に集められており、生徒が呼吸していることを確認して夏油は安堵した。

 

 

 

空が見え、帳が完全に解かれる。

 

その後、土砂崩れを起こしたような派手な音があたり一面に響いた。おそらく五条がやったのだろう。

夏油は一瞬後始末のことを考えたが、五条がしたことなのでまぁいいかとすぐに考えることを放棄した。

 

生徒が避難できているか見落としがないよう慎重に確認しつつであったが、足早に進んでいたため区画の真ん中辺りまで来ただろうか。

 

 

審神者がいるであろう方向から、昔、耳にした何かがひび割れる音が聞こえ、夏油は急いで足をそちらに向けた。

 

 

鬱蒼と木々が生い茂るエリアを抜けたところで審神者は誰かと対峙していた。

 

既に一戦交えた後のようで、審神者と付喪神の足元には呪霊ではない、昔に見た甲冑を纏った敵の残骸がいくつも転がっていた。

 

「――どこかで見た顔だと思ったら、審神者を辞めさせられた挙句、遡行軍に寝返った指名手配犯ではないですか。遡行軍の次は呪詛師に転身とは精が出ますね」

五条や夏油は審神者に嫌味を言われることはしょっちゅうではあるが、ここまで殺伐とした声色で言われたことはなかった。

 

審神者の助けに入ろうとした夏油の足が思わず止まる。

 

 

「お前は…陸奥国の筆頭女か」

目の粗い紙やすりで研いだようなざらりとした声が響く。

 

「えぇ、こんなところでお会いするなんて、世間は狭いですね」

たまたま知り合いにあったような会話だが、男を見つめる審神者の目は剣呑としていた。

 

 

「邪魔をするなら殺す」

 

「随分と物騒ですね。何が目的ですか?」

 

「俺はこの世界を正す」

男は興奮してきているようで声高に言った。

 

 

「正す?」

 

「俺は!お前らよりずっと優れている。レアな刀剣は全部手に入れていた。そんな俺が審神者として失格だと!?この俺が認められないなんて間違っているだろ?」

ひとしきり叫んだ男は一旦息を切り、とっておきの秘密を打ち明けるように勿体ぶって話し始める。

 

 

「ーーーお前の元見習いの本丸を襲撃したときは最高だった。折れた刀剣どもの破片を握りしめて最後までお前の名前を呼んで、助けを求める様は感動的で嗤えたよ。あの見習いがどんなふうに死んだかもっと詳しく教えてやろうか?」

男は滔々と、まるで演説するように語った。

 

 

「……あぁ、その自分に酔った言い方ではっきり思い出しました。確か会議の際に私だけでなく他の審神者もからんで出禁になった、それはそれは恥ずかしい方でしたよね?」

態とらしく小馬鹿にした口調で審神者は言葉を吐き捨てた。

 

 

「っ、この!!クソ女!!!」

男が審神者に向かって手に持った刃を振り上げる。

夏油は呪霊を出し、審神者を庇おうとしたが、いつの間にかそばにいた付喪神に止められる。

 

 

タガーナイフを握る男の手元を審神者は蹴り上げた。

男の体勢を崩すと男の鳩尾に霊力を込めた鋭い掌底を入れる。

吐瀉物をはきながら男は身体をくの字に曲げ、うつ伏せに倒れ込んだ。

審神者は地面に落ちたナイフを男の手が届かないよう遠くに蹴り飛ばすと男の背の中心を片足で踏みつけ、体重をかけながら屈み込む。

 

男の前髪を掴み顔を上に向けさせ、静かに言う。

 

 

 

「―――おい、糞野郎。よく聞け。

お前に聞くことなど何もない。

お前のやったことは、全て、知っている」

空いている片足で男の右肩を踏み付けると、地面に放り出された男の腕をとり、本来の可動域とは逆の方向に勢いをつけて折り曲げた。

 

男の絶叫が木霊する。

 

男の右肩を押さえていた足を移動させ、痛みに喚く男の頭を踏みつけ、審神者はさらに続けた。

 

 

「黙れ。お前の声はひどく癇に障る」

 

 

 

 

 





夏油はタマヒュンした。
上空から様子を見ていた五条もちょっとヒュンとした。
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