※痛めつけられた蝶と五行の逆鱗・婚姻編が軸です。
※飲酒できる年齢になっています。
結婚式を済ませてから真次は、蝶屋敷の面々に押されて蝶屋敷に住む事になった。
無論、しのぶと夫婦になったのだからという事もあるのだが夫婦としての経験はアオイが先輩だ。
最近になってしのぶは料理をアオイから習い始め、真次は異国語(英語)を学びつつ薬学に関して学び始めている。しのぶやアオイなどからも指導を受けつつ、特に傷に効く薬を調合できるようになりたいという目標ができたのだ。
「どうして、真次さんは傷薬に関して学ぼうとしているのですか?」
「いつでも各隊員がその場で傷を治せるとなれば、呼吸と併用して直ぐに行動できるだろ?」
「確かに、問題点はどう所持させるかですね」
「そうだなぁ・・・」
そんな風に生活しながら、早三ヶ月が過ぎた。真次はまな板の上に置かれた根菜類を包丁で切っている音が耳に入り目が覚めた。身体を起こし台所に向かうと其処には割烹着を身に纏い、アオイと共に料理しているしのぶの姿があった。
「あ、真次さん。おはようございます」
「おはようございます、あなた」
「っんん”!!」
不意打ちにも等しい、しのぶからの『あなた』発言に真次は一瞬で眠気が吹っ飛び自分の胸元を抑えて悶絶した。
「起きたなら顔を洗って、着替えて来て下さいね」
「わ、わかった!」
真次が出て行ったのを見計らって、しのぶは七輪を用意し、中に炭火を入れて金網を敷くと海苔を炙り始めた。
「しのぶ様、いたずらが過ぎると思いますよ?」
「ふふ、あれくらいしないとあの人には伝わりませんから」
「そうですね、一緒になった人はみんなそうです」
「本当ですね。それとアオイ、料理に関しては貴女が師匠ですから色々教えてくださいね?」
「!は、はい!」
それぞれの伴侶に関して会話しながら、アオイとしのぶは朝食の用意を続けるのだった。
◇
「し、心臓に悪い・・・あなたなんて呼ばれた事がなかったから、あれは反則すぎるだろう」
真っ先に洗顔を済ませた真次は着替えをしながら、未だに激しく鼓動している自分の心臓に手を添えていた。
結婚してからも二人の態度は変わっていなかった。無論、公私混同はしないという考えからなのだが、少しは積極的になれよと善逸にも言われてしまっている。
現実に二人だけの時間をつくるというのが非常に難しいのだ。蝶屋敷には二人だけではなく、カナヲやアオイ、三人娘などのしのぶの姉妹や慕う子が多いのも事実。それだけにしのぶに主導権を握られている。それでも構わないと真次は考えているのだが、やはり二人きりの時間は欲しいものだ。
「さて、軽く身体を解すか」
簡単な体操と素振りを済ませ、汗を井戸から汲んだ水を使い手拭いで身体を拭いていく。それを終わらせた後、ちょうど良い間で朝食の香りがしてくる。どうやら焼き魚のようだ。
「おはよう、しのぶ。それにみんなも」
「はい、おはようございます」
「おはようございます、真次さん」
「おはよう、真次」
「「「おはようございまーす」」」
今日の朝食は鯖の塩焼きに焼き海苔、ほうれん草の味噌汁に白米だ。それぞれが席に着くと皆で一斉に声を出す。
「「「頂きます」」」
味噌汁から手を付け、真次は作法に則った食べ方をしている。その綺麗な所作は男性として身に付けているのは少ないのでつい見てしまっている。
「あの・・・そんなに見られてると食べにくいんだが?」
「ふふ、どうしても見てしまうんですよ」
「そうですよ、食べ方が綺麗ですし」
「綺麗な食べ方と動きが羨ましい・・・」
「そーです!」
「一つの動きが綺麗ですから!」
「つい、見てしまうんです!」
やれやれと思いながらも箸を進める真次、嫌な訳ではないが妻であるしのぶの姉妹達なのだから自分にとっても義妹だ。蔑ろにする訳ではないが、気恥ずかしいものがある。
「じゃあ、食事の所作を教えるから」
そう約束をした後、朝食を済ませ頼まれている仕事をする。基本的には買い出しなどだが、炭治郎の実家などに行き山にある薬草などを取らせてもらっている。
薬草の採取を終えると一休みしていかないかと炭治郎に誘われ、お茶を頂くことにした。この家に来る時は薬の補充がないかを聞いてそれを持ってきている。
「いつもすまねえな」
「構わないよ、しのぶさんからの頼みでもあるからさ」
「しのぶは俺の妻だからな?」
「わ、分かってるさ」
「炭治郎が年上好きなのは周知の事実だしな」
「う・・・」
長男という立場の考えが強い炭治郎にとって年上の女性というのは憧れる対象だ。父親を幼い時に無くし、母親とも死別してしまった彼にとって甘えたかったという思いがあるのだろう。それに関しては真次自身も分からない事ではない。
「まぁ、それはそれとして。カナヲが待ちくたびれてるぞ?そろそろ、この家に迎えたらどうだ?」
「そ、そうなのか?でも・・・」
「カナヲも来る気が満々だし早く迎えてやれよ」
「だけど、此処は山だし・・」
「そこから先は、二人で相談してな?」
真次はお茶を飲み干すと立ち上がり、荷物を背負った。要件を済ませ更には蝶屋敷で所作を教える約束があったからだ。
「炭治郎、ごちそうさま。じゃあまた今度な?」
「うん」
真次は炭治郎達の居る家を後にし、今は自分の家である蝶屋敷へと帰宅する。しのぶが出迎えてくれ、一礼してくれた。
「お疲れ様でした」
「ありがとう。調合の方は大丈夫なのか?」
「はい、後は纏めるだけなのですがアオイに止められてしまって」
「そういえば、徹夜四日目だったな。無茶しすぎだぞ?料理も習ってるんだからよ」
「大丈夫です、うっかりしていただけ・・・あっ」
フラりと倒れそうになったしのぶを支えた。どれだけ寝てないんだと思いながら彼女をお姫様抱っこで運ぶ。まだまだ鍛錬を欠かしていないがそれを抜きにしても、しのぶは軽い。
「あ、あの・・・降ろして」
「ダメだ」
ピシャリと言い切り、しのぶを寝室に運んでいく。徹夜の身体で朝食を作っていたみたいだがアオイがほとんど作ってくれていたのあろうそれくらいは予想できる。寝室に入りベッドに寝かせ横にさせた
「しのぶ、しばらく休め」
「ですが・・・」
「いいから休め、倒れる寸前まで身体を酷使してる時点でダメだ!」
「っ・・・」
夫となった目の前の彼が此処まで怒るのは珍しい、討伐任務で無茶をするのはそちらも同じではないかと思ってしまう。だが、徹夜してしまっているのは事実であり横になった瞬間、眠気が襲ってきてしまい、しのぶは静かに寝入ってしまった。
「・・・さて、所作の教えもあるし色々やらないとな」
しのぶが睡眠をとっている事をアオイ、カナヲなどに伝え食事の所作の仕方を全員に教えつつ、夕食の仕込みなどを済ませ、空き時間を利用して鍛錬等をする。
「夜は休まなきゃならないからなぁ・・・軽くだけど」
懐から何かが入っている袋を取り出し、中を開けるとそこには龍笛が入っていた。この龍笛は鬼から救い出した夫婦から譲り受けたものだった。話によれば蔵の中にしまってあり、奉納しようとした時に鬼に襲われ謝礼代わりに渡されてしまい手入れを欠かさずに行っているが、吹く為の練習がコッソリできる場所は炭治郎の実家がある山ぐらいしか無く、時折吹いて練習していた。
「また後で練習するか・・・」
夕食の時刻前にしのぶを起こし、夕食の準備が進んでいることを伝え真次自身が台所に立っていた。アオイからは自分がやると遠慮がちにされたが「料亭では男が料理するだろ?」と言って手伝っていた。
無論、配膳などの簡単な作業だけだ。全ての作業を取ってしまったらアオイの全てを否定してしまう。
「かなり眠ってしまいましたね・・・」
「仕方ないだろ。四徹もしてればな」
「う・・・否定できないのが悔しいです」
夕食を囲みながら、会話をしているが二人の会話は妻を心配する夫そのものだ。そんな二人を見ながら既婚者であるアオイと事実的な既婚者であるカナヲは羨ましいと羨望を持っている。
「(良いなぁ・・・しのぶ様、すぐそばにお相手がいて。伊之助さんは炭治郎さんと一緒に住んでいるし)」
「(私も炭治郎の傍に居たいなぁ・・・)」
所作を教えながら夕食は終わり、食後の休憩を取った後に湯浴みをし真次は縁側で夜空を眺めていた。手元には酒があり、小さな御猪口でゆっくりと飲んでいる。軽く酔っているせいか龍笛を落としそうになり、それをキャッチしそのまま見つめていた。
「・・・・」
夜といっても此処は藤の花があり、鬼は近づけない。酔いに任せたと自分に言い訳をしながら龍笛を奏で始めた。
[演奏曲 『平調 想夫恋』]
舞い立ち昇る龍の鳴き声を表しているとされるその音は、夜空に響き渡る。名手とという訳ではないが酔いが回っているせいか緊張なく奏でられている。龍笛には鬼を泣かせ、更には退散させる力があると言い伝えられており、音が大きいはずが鬼の気配は一切ない。
演奏に集中している真次をしのぶ、アオイ、カナヲの三人が息を殺して見学していた。龍笛の生演奏は滅多に聞けるものではない。雅楽自体、神社か寺院などの神楽舞を行っている所でしか聞くことは叶わない。
更に言えば龍笛の独奏自体が非常に珍しいものなのだ。演奏を終えた真次は静かに龍笛を口元から離した。
「・・・・調子に乗りすぎたな」
酔いは弱いが酔いのせいにして龍笛をしまい、御猪口に酒を注いで再び煽る。その姿は迷って酔いに身を任せる雅楽師のようで三人は彼に声をかけられる雰囲気ではなかった。
◇
翌朝、深寝入りしてしまっていたが真次は目を覚ますと、布団の中に違和感を感じて軽く捲ってみた。そこには自分の愛しき妻であるしのぶが自分に抱き着いて安らかな寝顔をしながら、スゥスゥと寝息を立てて眠っている。
「・・・参ったな、起きられない」
「んぅ・・・」
軽く離れてくれたが寝間着が浴衣である為、真次の視界に着崩れた部分からしのぶの双丘が見えてしまった。無論、夫婦としての営みで彼女を抱いた事はあるのだが、無防備な姿を見せられると顔が赤くなってくるのを感じる。
「しのぶ、起きてくれ・・・しのぶ・・・!」
「んんっ・・?おはようございま・・・す?」
「ああ、おはよう。それと珍しいな?布団に潜り込むのは構わないが、しのぶ個人の時間帯だと寝坊してるぞ?」
「あ・・え!?わ、私、どうして!?」
「大方、寝ぼけて入り込んできたんだろう。ほら、起きようか」
普通なら抱き締めて二度寝する場面ではあるが、そういった事をあまりしないのが彼の性格だ。真次は布団から出ると障子を開き、太陽の光を部屋の中に入れる。その眩しさにしのぶは目を腕で覆うが、直ぐに慣れ、布団から出た。
そこからまた一日が始まる。朝食を終えて仕事の為に場所へ向かおうと歩いていた真次はしのぶとすれ違う。その合間にしのぶは小声で伝えた。
「今度は・・・笛を聴かせてくださいね」
「!?」
真次が振り返ると既に彼女の姿はない。廊下の曲がり角で悪戯っぽく笑みを浮かべていたしのぶに気づく事はなかった。
龍笛・・・良いですよね。
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