※ある意味バッドエンドルートです
※炭治郎が一線を超えます(人間を殺す的な意味で)
※炭しの、炭カナなのかは読者さんの想像にお任せします。
※映画における猗窩座との戦闘BGMを聴きながら書いていました。
今日、隠鬼殺隊内部で良からぬ噂が立っていた。婚姻や恋人になった男女がいずれも鋭利な刃物で斬られているというものだった。これに関しては警察が動き解決していたが、鬼殺隊内部でも隊員が襲われていたというものがあったのだから驚きだ。
そんな話題を蝶屋敷で流れている中、真次は異国語(英語)の本ばかり読んでいた。腕は動かせるが内部の回復が間に合っていないからだ。
炭治郎はしのぶとカナヲから手当てを受けており、彼の人望がそうさせるのだろうと真次自身も考えていた。だが、ある討伐の日、鬼の残党から心の内を暴く血鬼術を使われ更には心を追い込まれる事案が発生した。
「お前、好いているんだろう?その女を、なぜ物にしない?なぜ身を引く?」
「黙れよ・・!!」
「ハハハ、押し殺すなよ?お前が親友だと思っている奴に向けている愛情が羨ましいんだろう?妬ましいんだろう?更には恋慕の想いまで」
「黙れえええええええ!!」
真次は残党の鬼の首を切り落とし、呼吸を乱しながら刃を握ったままで鬼の最後を見ていた。
「あら?頚を落とされちまったか・・・・まぁ、良い。アンタはもう俺の血鬼術にハマってるからな?」
「何!?」
「お前はもう感情を抑えられない、せいぜい自分の中の感情に苦しんでもがくといいさ。今度は地獄で会おうぜ・・・ギャハハ」
真次は刀を収め、帰宅した。だが、自分の内から溢れ出てくるあらゆる感情が出てきて止まらなかった。
特に負へ偏る感情が強く、嫉妬、羨望、憎悪、憎しみ、怒りなど自分が押さえ込んでいたものが爆発し寸前になってしまっていた。更にその日以降、真次は荒れ続けた。鬼の残党と戦えば狂っているかのように真っ先に突撃し、命乞いをしていようが容赦なく殺した。
だが、その血鬼術が解けた後に真次は気づいてしまった。自分はどうしようもなく、激情するという事を。想い人に告白もしたが報われることはなく、終わらない負の連鎖の中で自分に味方する者は誰一人居ないと勝手に自己完結してしまった。
「もう・・・どうだっていい」
その一言を口にした瞬間、彼は繋がっていた絆の全てを自ら離してしまった。
◇
残党の活動が弱まって来た月、炭治郎のもとに手紙が置いてあった。それは宛先が無く、送ってきた相手の名前もない。書いてあるのは場所と時間、一人で来る条件だけである。
「お、おい炭治郎・・・これってまさか?」
「果たし状ってやつだな」
「間違いない・・・果たし状だ」
善逸と伊之助は炭治郎と一緒に果たし状を見ていた。文字からは無機質な印象しかない。
「行くのか?此処へ」
「行くしかない、俺に用があるみたいだし」
「待てよ、本気で殺し合いなんだぞ!?」
「それでも、行かなきゃ。二人は此処に居てくれ!蝶屋敷のみんなには黙っててくれ!」
そう言って、炭治郎は飛び出していった。時刻は夜、場所は誰も来る事もない草原、そこにひとりの男が向かってくる。月が雲に隠れ、顔は見えないが匂いで解る。信じたくないと思いながらも分かってしまう。
「何で・・・なんでお前がここ居るんだ!?真次!!」
「果たし状の通りだ」
「一体何をしようとしているんだ!?」
「俺はもう形振り構わなくなってきたんだよ・・・」
真次は手にした何かを投げてきた。それは鬼殺隊でも話題になった男女を斬りつける犯人の真似をした人間の首だった。だが、半ば鬼化しておりすぐに消えてしまった。
「っ・・・!?真次・・・!?」
「そして弱い奴ほど鬼に喰われ、それに対抗して強くなっていく程にソイツ等は優しさを忘れていく!この俺のようにな・・・」
「強くて優しい人達だっている!鬼殺隊がそうじゃないか!」
「そんな奴等からすぐに死んでいった!!優しさが仇になって、相手を倒しきれなかった!お前もそうだ、炭治郎!気付いたんだよ、俺は・・・。例え鬼であろうと人間であろうと悪事をした奴は必ず罰せられるべきだってな・・・!本当に弱い者を助けるにはそれしかないと!」
「だから殺し続けるとでも言うのか?鬼も人も関係なく・・!」
「そうだ・・・!!俺は全ての未練を断ち切る。好いた人も、全てを・・・!お前を倒す事で!」
真次の匂いに嘘はなかった。一体彼に何があったのか?今の真次は鬼以上に鬼だ。あの楽しく過ごしたあの日々はもう帰ってこない。真次の言葉に好いた人というのが聞こえた。それは間違いなく自分の恋人だ。おそらく告白を聞かれていたのかも知れない、そして自分に心底腹が立った。彼、真次は自分の鼻にも感知させない程、心の奥へと自分を押し殺すのが得意だというのを失念していた事に。
「もう・・・戻れないんだな。だけど、俺は今のお前にだけは負けない!俺が、俺が止める!お前を倒して!」
「それでいい・・・!お前が俺の道を決める相手に相応しいからな」
二人は鯉口を切り、刀の刀身を見せると同時に突撃し鍔競り合いを始める。
「ぐううう!!」
「ぬうううう!!」
互いに刃を弾き返し、真横へと走り出す。真次が飛び上がりその落下を利用した唐竹割りを繰り出してくる。炭治郎はそれを受け返し押し込もうとした瞬間、真次が鼻に向かって頭突きし、それをまともに受けてしまい、それを見逃さず真次は腹を蹴り飛ばした。
「がぁっ!?ゲホッ!」
「刀だけで勝負する訳がないだろうが!でぃあああ!」
「ぐっ!」
今の真次は本気で殺すつもりで刃を振るってくる。甘さを捨てなければ殺されるのは自分だ。甘さを捨てろ、今の相手は真次ではなく、真次の姿をした鬼だ。
「こんのおおお!!」
「ぐがぁあ!?」
お返しとばかりに炭治郎の頭突きが真次の額に炸裂する。鬼ですら怯ませる炭治郎の頭突きに一瞬だけ真次はフラつくがすぐに持ち直し、頭を振った後に刀を構えた。
「炭治郎ォ―――ッ!!」
「真次ゥ―――ッ!!」
名前を互いに呼び合いながら走り出し、二人の刃は再び交差する。道を踏み外してしまった親友を止める為、もう戻る事が出来ずに突き進む為。この剣戟が鳴り止むことはない。
◇
二人が戦っている中、善逸と伊之助は蝶屋敷の面々に詰め寄られていた。処分し忘れた果たし状を見られてしまい、炭治郎が居ない事から結び付きを看破されてしまったのだ。
「どうして炭治郎を止めなかったの!?」
「お、俺達だって止めようとしたよ~!」
「アイツがすぐに飛び出しちまって、追う暇が無かったんだよ!!」
「とにかく、書かれている場所に向かいましょう」
カナヲ、しのぶ、善逸、伊之助の四人は支度を済ませ、果たし状に書いてあった場所へと急いで向かう事にした。
◇
四人が向かっている中、二人だけの激闘は全く終わる様子を見せない。何度も何度も刃のぶつかり合う音が響き、剣戟が止むことはない。草の上で転がってしまったり、お互いに擦り傷などが出来ている。
「真次!絶望や悲しみしか心に残らなかったのか!?その怒りが全てだっていうのか!?」
「そうだ!所詮は持つ者と持たざる者に分かれる!俺が持てたのは怒りだけだ!この怒りで全てを滅する!!そして、お前を倒した先にそれが出来る!!」
「ぐうう!超えさせない!超えちゃいけない!その最後の一線だけは絶対に超えさせない!真次!それがお前にとっての俺なんだ!」
剣戟が激しくなり、鍔迫り合いを何度も起こす。お互いに呼吸を使わない、否、使う事が出来ない。使おうとすればその僅かな隙が致命的になりかねないからだ。
「うああああ!」
「でやあああ!!」
剣戟の中で最初に斬りつけられたのは炭治郎だった。袈裟斬りによって血は出ているが、大した傷ではなく返し技の逆風で真次の腹部に同じような傷を与えた。
「うぐっ!」
「ぐあっ!!」
二人は間合いを開き呼吸を整える。炭治郎も真次も互いに呼吸を整え、技を繰り出した。
二人の呼吸がぶつかり合った瞬間、軍配が上がったのは真次の方であった。炭治郎はその場に押されたように倒れたが、急いでその場を転がって離れた。
「(おかしい、呼吸法なのは変わらないはずなのに押し負けた!)」
「腑に落ちないって顔だな?なら教えてやる。俺に水の呼吸を使ってくれば、土の型で対抗するのは当たり前だろう?何度も見てたんじゃないのか?」
「っ!!」
「気付いたか?俺はお前の属性と相剋するように、呼吸を使っているだけだ」
そう、真次の扱う呼吸は『五行』。『木・火・土・金・水』の五つの型から成り立ち、その中で炭治郎が学んだ水の呼吸に相剋する型である土の型で対応していただけだったのだ。
「これなら、どうだ!」
「ならば!!」
五行の呼吸 木の型・三之巻・青龍牙とは竜巻を生じさせ、相手を高く巻き上げ自身も高く飛び上がり、斬りかかる技である。その渦に囚われた側は竜の牙に模された刃に斬られる事になる。
「くうう!」
竜巻にのまれ、炭治郎はその中でも刀を動かし、真次の一撃を受け止めながら両者は落下しつつも体制を持ち直し、お互いに刃を弾いて間合いを取った。
「俺の青龍牙を受け返すとはな!」
「負けない、絶対に!!」
刃を交えるたびに炭治郎の中に浮かんでくるのは真次との思い出だった。笑い合い、高め合い、悲しみ合い、衝突し合い、そして共に戦った大切な親友。何故、どうしてと思わずにはいられない、友情を誓い合った親友が道を外し、自分に凶刃を向けてくる。それならば自分が止めなかればならない、それが友情の証だから。
「鬼にしか見せたことはなかったが、これならどうだ!!カァァァ・・・!!」
真次は呼吸を整えた瞬間、刀を納刀し走り出した。同時に炭治郎の視界から消えその肩が斬られる。
「ぐあっ!?」
「どこを見てる?此処だ!!」
「がああっ!!」
これは移動しながらの居合抜き、これは善逸が使う雷の呼吸と似た技だ。雷の呼吸ほどの速度はにしても無いにしても真次は自身の身体能力と運動神経で速度を補っており、八連擊目でようやく受け返す事が出来た。
「く・・・はぁ、はぁ」
「・・・カァァァ」
またも納刀した時に響く鍔鳴りが響き、炭治郎は居合抜きの威力に舌を巻いていた。これ程までに早く鋭い斬撃を繰り出す事が出来るのかと。
「!!」
「え?うぐっ!?」
真次は納刀を済ませると同時に今度は拳で殴り飛ばしてきたのだ。かつて戦った鬼である猗窩座の技量には遠く及ばないが、それでも充分な威力を持っており、拳の一撃一撃が重い。
「刀を使うだけが、全てだと思ってたか!」
「うぐっ、このぉ!」
炭治郎も殴りかかるが避けられ、腕と襟を掴まれ背負い投げの形で叩きつけられた。そのまま顔面を踏み抜こうとする足が迫ってきたが、転がる事で避ける事が出来た。真次は武術の型のような構えを取り、呼吸を整えている。
「はぁ・・は・・強い!」
「ふううう・・・行くぞ!」
今度は抜刀の構えからの居合抜きだ。炭治郎も刀を右側に構える事でそれを受け止めた。お互いに考えていた事は同じだったらしく、両者の左拳が右頬に炸裂する。
「ぐぅ!!」
「ぐぐっ!!」
お互いに後退してしまうが、構えを取り呼吸を整え、またも技同士のぶつかり合いになっていく。
炭治郎の多重攻撃に対し、真次は玄武の甲羅を模した防御技で捌いていく。その堅牢な防御に炭治郎はさらに驚きを隠せない。
「これすらも捌くのか!?」
「その程度か?炭治郎!!」
今度は真次が走って刃を振り下ろしてくる。だが、炭治郎が見切りやすい唐竹割りだった為にそれを避けつつ、左薙ぎの斬撃で反撃する。これは確実に捉えたと確信した時だった。
「!?」
真次の姿が揺らめき、消えてしまったのだ。炭治郎は周りを見回すが真次を見つける事が出来ない。
「!そこか!!」
凄まじい金属のぶつかる音が響き合い、真次の頭上からの一撃を受け止める炭治郎。だが、真次のヤクザキックにも似た蹴りですぐに蹴り飛ばされてしまう。それでも刀から手を離さず、直ぐに起き上がり構えを取る
「ぐあああ!!ぐ・・・ぅ!!」
「ぬうああああ!!来いッ!!!」
「だったらァ!!」
「がああああっ!!」
真次の胸元が切り裂かれるが、彼は気にもとめない。炭治郎に迫ると斬撃をいくつも繰り出し、炭治郎は捌き続けるが、とうとう自身の日輪刀を弾き飛ばされてしまった。
「どうした?もう、後が無いぞ!!」
「このおおおお!」
炭治郎は体術で反撃を試みるが、容赦なく止められ斬撃を食らわされてしまう。追い込む事に躊躇いがない真次は容赦なく斬撃と蹴りを炭治郎にくわえていく。
「うあああっ!ぐがああああ!」
転がされ立ち上がる度に刀のの刃が迫り、蹴りと拳が飛んでくる。炭治郎が両膝を着いた瞬間に真次は容赦なく刀を振り下ろしたが炭治郎は真次が握っている刀の柄部分に腕を交差させて止めた。
「ぐ・・ううう!!うあああああ・・・っ!」
「ぬうううう!うおおっ!!」
真次は一度、強引に刃を押し込み上に弾く事で炭治郎を立ち上がらせ、正面から逆袈裟によって炭治郎を斬り付けた。
「うあああああああ!!!ぐ・・・ぅ・・うああっ・・・」
「これで、終わりだ・・!炭治郎!」
「それでも・・俺は・・・!」
真次の刃は炭治郎の首元に向けられ、炭治郎の出血は酷い物だ。誰もが二人の状態を見れば真次の勝利だと言えるだろう。
「うおあああああ!!」
真次は迷いを断ち切るかのように炭治郎へ刀を振り下ろした。
「うあああああっ!!!」
一瞬の刹那を見切り、炭治郎は真次の振り下ろした刀身を真剣白刃取りをした。これには真次自身も驚きを隠せなかった。
「何!?真剣白刃取りだと!!」
「うおおおお!!」
炭治郎は精神が肉体を超えたのか、真次の刀を横へ横へとゆっくりながら押し返しつつ立ち上がり始めた。それと同時に真次を蹴り飛ばし、真次の刀を己の手に握った。
「があああ!?」
「たあああああ!!」
炭治郎は真次が立ち上がると同時に刀を真次の腹に突き立てた。真次は刃を押し止めようと炭治郎の肩を掴むが押し返せない。
「ぐ・・あああっ・・・が・・ああっ!!」
「うわああああっ!!!!」
「ぐ・・ううう・・・ごぶっ!?」
炭治郎は刀を更に深く突き立て、致命傷を真次に負わせた。刀を引き抜くと同時に真次はその場に倒れた。
出血は炭治郎以上に酷く、内蔵も大きく損傷しており呼吸を使ったとしても止血は出来ないだろう。
「真次!!」
「何を・・・泣いてる?お前は・・・俺に勝ったんだ・・・胸を張れよ」
「だけど、俺は・・・!真次の命を・・・!」
「俺の命は・・・悪党の命だ・・・熊を殺したくらいに思っておけ、炭治郎・・・お前は本当に、強かった・・・ツを・・・幸せ・・に」
そう言い残すと真次は事切れ、それと同時に蝶屋敷の面々が到着した。刀傷だらけの炭治郎と横たわっている真次、何が起きたのかは明白であった。
「炭治郎・・・・」
「善次郎・・・」
善逸と伊之助の二人だけが声をかける事が出来た。炭治郎を手当しようとカナヲが近づくが善逸が視線を向け首を横に振っていた。今は近づくべきではないと・・・。
「なんで・・・なんで真次は・・・先走っちゃったのかな?」
「・・・・」
「俺・・・俺は・・・この手で真次を殺して止めた・・・他を殺させないためにも、だけど!」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇ!コイツが暴走したのは事実なんだぞ!!」
伊之助が受け入れられない事に対して声を上げた。彼も真次が止められなかったのを後悔していた。
「俺も止めればよかったんだ・・・コイツを止めなきゃいけなかったのに、死んでから止まるとかさ・・こんなのってないよ」
その後、真次の日輪刀だけが回収され、真次の肉体は無縁仏として葬られ鬼殺隊の中で極悪人として語れるようになった。
真実は炭治郎とその友人、そして彼の恋人だけが知るだけである。
大正コソコソ話。
極悪人とされたのは真実を隠すためです。ですが『柱』の何人かは真実に気づいています。
五行の日輪刀は回収され、刀鍛冶の里にて保管されました。
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