伊之助が復活した事で反撃の狼煙が上がった。野生児である彼の体力は真次と炭治郎以上であり、加えて全集中・常中を会得しているため、基礎体力も上がっている。
「伊之助―――ッ!この汽車はもう安全な場所がない!眠っている人達を守るんだ!」
「この汽車全体が鬼だ!遠慮なく汽車をぶっ壊せ!お前なら出来るだろ!?」
「当然だっての!!だが、俺の読み通りだった訳だ。俺が親分として申し分無かったという訳だ!!」
「伊之助様が通るぞォ!どいつもこいつも俺が助けてやるぜ!」
別車両では禰豆子が必死になって取り込もうとする鬼の肉片を引き裂いている。だが、邪魔だと感じた肉片は禰豆子の四肢を拘束してしまった。
だが、次の瞬間、禰豆子を拘束していた肉片は切り裂かれた。まるで雷が落ちたかのような一瞬でだ。
その正体は善逸だった。「禰豆子ちゃんは俺が守る」と口にしているが、完全に寝ぼけ状態のようだ。
禰豆子も少し感激していたが、眠っているのだと気づき残念のような気持ちになるのだった。
しかし、此処で大きな炎の柱が目覚めているのを防衛している者達は知らなかった。
◇
「うーん、うたた寝している間にこんな事態になっていようとは!!よもやよもやだ!『柱』として不甲斐なし!!穴があったら入りたい!!」
煉獄杏寿郎が目覚めたのだ。その一撃は烈火の如く、動きの余韻には残火が残り、その速さは激しく燃える火のように。真次が守っていた車両に衝撃が走る。
「この鬼の首さえ切れればなんとか!うわっ!」
「神威少年!」
「煉獄さん!」
「済まなかったな!『柱』として情けない限りだ!此処まで守ってくれた事に感謝する!!」
「俺は大丈夫です!それよりも炭治郎のもとへ行ってあげてください!今、情報が無いのがアイツですから!!」
連続の居合い切り。これは善逸の攻撃の仕方と似ているが全集中・常中によって、最大20連撃まで繰り出す事が出来るようになっていた。鍛えられる前この技は3連撃までが限界であり『あの呼吸』をしても10連撃が限界。だが、鍛えられた今の方が遥かに強くなっており、その動きの違いを煉獄も気付いている。
「情報伝達の重要性の理解と他の者への優しさ、相変わらずだな!うむ、承知した!!竈門少年に命令を伝えた後、この車両も俺が引き受けよう!!君は竈門少年を援護しろ!!」
「了解です!それまでは持たせてみせますよ!!」
「それでこそ、男子だ!!」
◇
「真次が抑えてくれてるから、この二車両に専念出来るけど、このままじゃ埓があかない!わぁっ!?何だ、鬼の攻撃か?」
「竈門少年!」
「煉獄さん!」
「神威少年の援護もあって此処まで来たが、余裕はない手短に話す!この汽車は八両編成だ!俺は後方5両を守る!残りの3両は黄色い少年と竈門妹が守る!君と猪頭少年はその3両に注意しつつ鬼の頚を探せ!俺が後方へ向かうと同時に神威少年も向かわせる!!」
「頚を!?でもこの鬼は今!」
「どのような形になろうとも鬼である限り必ず頚はある!俺も探りながら戦う!君も気合を入れろ!」
命令を伝えた杏寿郎はすぐに後方へと向かってしまった。それと同時に真次も杏寿郎の命令を受けて前方車両に向かっている。
「伊之助どこだ!!」
「うるせえ!!ぶち殺すぞ!!」
「上か!」
「炭治郎!」
「真次!君も!」
「伊之助!この鬼の急所、わかってるんだろォ!!」
「あたりめえだ!!全力の漆ノ型で既に見つけてる!!」
「そうか!やっぱり、前方だな!!」
「そうだ前だ!とにかく前の方が気色悪いぜ!!」
今現在、頼りになるのが伊之助の『触覚』であり、炭治郎の『嗅覚』は汽車の速度で風が強く外では役には立たない。真次の『勘』は平時に使えるものであり、戦闘中には使えない。
「恐らくは車両を運ぶ先頭部分、石炭がある場所が頚だ!急ごう!!」
「うん!!」
◇
伊之助が一番槍で突撃し、車掌が混乱していた。だが、彼が止まる事などありえない。
「オオオッシャアア!!怪しいぜ怪しいぜ、この辺り特に!!鬼の頚、鬼の急所ォオオオ!!」
「何だ、お前は!!で、出て行け!!」
だが、鬼の肉片が伊之助を殺そうと襲い掛かってきた。迎撃するが手数が多く倒しきれない。
「しまっ!」
『五行の呼吸 土の型・一之巻・
「山の王が油断してどうすんだよ!」
「うるっせえええ!」
「二人共喧嘩してる場合・・!?この真下だ!この場の真下、鬼の匂いが強い!二人共、此処が頚だ!!」
「よぉし、やろう!王様!」
「よっしゃああ!やっと分かったようじゃねえか!」
『五行の呼吸 金の型・一之巻・
「ちっ!防がれた!ならばもう一撃!!」
「真次!危ない!!」
「え?ぐっ!!」
炭治郎が叫んだその瞬間、真次は車掌に脇腹を刺された。車掌の手には錐が握られており、真次が気絶させた人達が握っていたものと同じものだ。
「夢の邪魔をするな!」
「いつまで・・・夢に・・・甘ったれてんだ・・・・よぉ!!」
真次は車掌の延髄に一撃を入れると気絶させ、刺された脇腹を手で押さえながら大声で叫んだ。
「ぐっ・・・く、伊之助!炭治郎!俺の事はいい!鬼を、この鬼の頚を斬ってくれえええ!!」
「(父さん!守ってくれ!!この一撃で骨を断つ!!)」
炭治郎の一撃は確実に首を切り落とした。鬼自身の肉体となっていた汽車は断末魔とともに横転し、鬼の肉体となっていた事でその肉が皮肉にもクッションの役割を果たしていた。
投げ出された炭治郎は真次を助け、伊之助は放り出されたが肉体の強さは半端なく軽傷だった。
「ぐっ、ゲホッ!炭治郎?た、助かったのか・・・伊之助は?」
「伊之助も大丈夫、それよりも手当しないと!真次は脇腹刺されたんだから!」
「そっか・・・っ・・・ちょっと集中させてくれ」
「うむ!全集中の常中の練度はしっかり上げていたようだな!感心感心!!」
「煉獄さん?」
「炭治郎、よく見といてくれ。呼吸を集中させれば・・・スゥ・・・フゥ~」
「そう、そのまま集中」
杏寿郎に額を押され、真次は全身の血管のうち刺された部分に全神経を集中する。集中に集中を重ねていく、すると血管の収縮と筋肉の収縮によって止血されていく。
「すごい・・・!血が止まった」
「応急処置にしかならないけどな。これが出来ないと戦えない、以前の俺ならここまで止血できなかった」
「うむ、正しくその通りだな!常中は『柱』への第一歩だからな!『柱』までは一万歩あるかもしれないがな!!」
「頑張ります・・・」
「神威少年の呼吸を見ていたのなら理解できたはず、呼吸を極めれば様々なことが出来るようになる。何でも出来る訳ではないが、昨日の自分より確実に強い自分になれる」
「はい!」
◇
杏寿郎と炭治郎、真次の三人が話している最中、汽車と一体化していた鬼、魘夢の本体が動いていた。
「体が・・・崩壊する。再生できない・・・負けたのか?死ぬのか?俺が?馬鹿な・・・馬鹿な・・・」
何故だ、何故だと思い返す。『柱』がいた。『鬼の娘』がいた。『神速の雷』がいた。『野生の獣』がいた。『熱き日』がいた。『五行』があった。
全力をだせていない、人間を食えなかった。自分が負けるのか、死ぬのか。これは悪夢だ。何一つ出来なかった。やり直せるものならやり直したい。こんな惨めな最後・・・。
そう思いながら魘夢の肉体と意識は崩壊していった。自分のできごとは悪夢だったのだと言い聞かせながら・・・。
真次は軽く起き上がり隊服の上着を脱ぐと、それを腹に巻きつけ晒のようにし服の繊維が千切れるのでは言わんばかりに強く袖の部分を結んだ。
「っ・・これで呼吸も確保できるし、なんとか動ける。っ!?」
立ち上がった真次はゾクッとした悪寒が全身に走り抜けたのを感じた。何か、驚異的な何かが近づいて来る。その確信と共に杏寿郎に対する嫌な『勘』が働いてしまったが、次の瞬間、それは既に目の前にいた。
「あれは・・・!」
「炭治郎、自分の刀・・・探してこい」
「え?」
「素手で勝てる訳がない・・・相手は上弦の参だ・・・(それもコイツ・・・動きが洗礼されている。武術に精通しているんだ!)はっ!」
瞬間、上弦の鬼の拳が炭治郎へと向かう。反応できたのは杏寿郎と真次だが、杏寿郎の方が早い。
『五行の呼吸 水の型・三の巻・
「いい刀だ。その二本・・・」
杏寿郎は冷静だが、真次はケガの影響もあり、ほんの少し呼吸が荒い。真次は今まで上弦の鬼に出会った事はない。ましてや最上位ともなればその重圧は計り知れない。初見で更には仲間を守れた事すら賞賛されても問題がないレベルだ。
「何故、手負いの者から狙うのか理解できない」
「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の・・それとそこに居るお前もな」
「・・・・」
「君と俺達が何の話をする?初対面だが、俺は既に君の事が嫌いだ。俺の隣にいる者もな」
杏寿郎の催促に真次は黙って頷く。下手に言葉が喋れない、否、今この空気が喋らせてくれない。喋った瞬間に自分の命はない、それほどの重圧が渦巻いている。
「そうか、俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫酸が走る」
「俺と君とでは物事の価値観が違うようだな」
「そうか、では素晴らしい提案をしよう。お前達二人、鬼にならないか?」
「ならない」
「なら・・ない」
「見れば解る、お前の強さ。『柱』だな?その闘気、練り上げられ至高の領域に近い。そしてその隣に居るお前『柱』ではなくとも『柱』に匹敵する闘気があり、練り上げられつつも穏やかだ」
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ。そして、その隣にいるのが神威真次・・・『五行』の使い手だ」
「俺は猗窩座。それにしても『五行』とは・・・そんなもの使う人間は聞いた事がない」
猗窩座と名乗った鬼は純粋な誘いをしているのだろう。そんな中、真次は猗窩座の攻撃の動きが武術の型に沿って動いているのを見抜いていた。だが、その練度は人間が到達できるレベルを遥かに超えている。
「お前達、なぜ至高の領域に踏み入れないのか、教えてやろう。人間だからだ、老いるからだ、死ぬからだ」
「っ・・・」
真次は猗窩座が言葉を発する度に、背筋に冷たいものが走る感覚を味わい続けている。今の自分では防衛と援護で精一杯なのだと身体が警鐘する。
「鬼になろう杏寿郎、そして真次。そうすれば百年も二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる」
「老いることも、死ぬことも・・・人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく、尊いのだ。強さというものは、肉体に対してのみ使う言葉ではない」
「それに・・・」
「ん?」
「俺達はそちら側には行けない・・・こちら側に守るべきものや大切に思える人がいるからな」
「うむ!それにこの少年は弱くない侮辱するな。何度でも言おう。君と俺とでは価値基準が違う・・・俺は如何なる理由があろうとも鬼にならない」
「そうか・・・」
「鬼にならないなら、殺す!」
瞬間、炎柱と上弦の参の戦いが始まった。真次の『勘』は此処で何かを失う事を見せ続けているのであった。
次回が列車編最終です。
この後に、真次の戦いと討死に話に入ります。
※この更新後の昼にヒロインアンケートを締め切ります。
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