華と日の刃を護る五行の刃   作:アマゾンズ

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四人が託された事を胸に泣きながらも強くなろうとする。

五行の一撃。



第六話 鋼の決意

杏寿郎と鬼の上弦の参である猗窩座の動きに真次は僅かに目で追えているはずが視線を逸らしており、炭治郎は目で追えていない。

 

「(嫌だ・・嫌だ!こんなのを見せるな!こんな時に『勘』が働くなよ!)」

 

真次は今、身体を立たせてはいるが動かせていない。戦いの重圧ではなく自分の『勘』によって、杏寿郎の確実な死を知ってしまったが故だ。

 

「(動け・・・動け!!動け俺の身体!援護くらいは出来るだろ!動け!!)」

 

『炎の呼吸 壱ノ型・不知火』

 

「今まで殺してきた『柱』たちに『五行』は当たり前として、『炎』はいなかったな!そして俺の誘いに頷く者もなかった!なぜだろうな?同じ武をの道を極める者として理解しかねる!選ばれた者にしか鬼にはなれないというのに!」

 

猗窩座の言葉は目の前の強者が衰えていく事を憂いている事から出てくるものであった。鬼であるからこそ戦い続けられる。鬼であるからこそ先へと進む事が出来ると。

 

「素晴らしき才能を持つ者が醜く衰えていく・・!俺はつらい!耐えられない!死んでくれ、杏寿郎!若く強いまま!」

 

『破壊殺・空式』

 

『炎の呼吸 肆ノ型・盛炎のうねり』

 

猗窩座の拳が杏寿郎へ向けて空を殴りつけると同時にその衝撃が杏寿郎を襲う。炎の呼吸 肆ノ型によって炎を壁とし防ぐが、攻撃は止まらない。

 

「(なるほど・・・虚空を打つと攻撃がこちらまで来る!一瞬にも満たない速度。このまま距離を取って戦われると頚を斬るのは厄介だ)」

 

猗窩座が地に足を付けた瞬間、地面から土煙を巻き上げながらの衝撃波が襲いかかる。その衝撃波の出処を左腕を負傷させられた猗窩座と杏寿郎が同時に見る。

 

『五行の呼吸 土の型・二之巻・黄竜爪(こうりゅうそう)!』

 

『五行の呼吸 土の型・二之巻・黄竜爪』とは呼吸と同時に地面や建物の床などに鋒を突き刺し、その衝撃を伝達させ攻撃する技である。弱点として伝達させるものがなくてはならず、空中へ放っても名の意味もなさない。

 

「ほう?」

 

「神威少年か?今の攻撃は」

 

「っ・・く・・はぁ(う・・・動いた!)」

 

「『五行』の使い手、お前も惜しいな。お前の力は眠りすぎている。なぜそれを開放しない?なぜそれを押し殺す?」

 

「うっ!」

 

猗窩座は真次の中にある己を押し殺し続ける心理を見抜いていた。それこそがお前の剣の成長を阻害しているのだと。

 

「ならば、お前の枷を外してやろう・・・ほんの少しであろうと枷を外したお前を・・」

 

猗窩座が視線を向けた先には炭治郎が居た。親友が殺される、親友が死ぬ、親友が殺される、真次の思考はそこで途切れた。まるで繋がれた鎖が断ち切られたかのように。真次は無言のまま、煉獄にも劣らぬ速さで猗窩座に迫り刀を振り下ろしたが、それを止められてしまう。

 

「・・・・!」

 

「くくく・・やはりな!お前は己自身の中に力を隠し続けていたか!!」

 

猗窩座の回し蹴りが真次の顔面に襲いかかる。それを受けた真次はまるで陽炎のように揺らめき、消えてしまう。

 

「な!?」

 

「なんと!!」

 

『五行の呼吸 火(炎)の型・三之巻・朱雀翼(すざくよく)!』

 

『火(炎)の型 三之巻・朱雀翼(すざくよく)』とは朱雀、すなわち火炎鳥の翼を『五行』による火の呼吸によって作り出し温度差による陽炎を生じさせ、相手に油断を生じさせる事で斬撃を繰り出す技である。

 

「そうか・・・!朱雀とは不死鳥とも言われる火炎鳥の別名。そして不死鳥は例え焼き尽くされようと、その身を砕かれようと死の淵から何度でも蘇るものであると聞く!」

 

杏寿郎が朱雀に関しての説明と同時に、猗窩座の頚を切り裂こうとしている刃を彼は自らの右肩に入れ、切り裂かせた。この人間も杏寿郎と並ぶ程に素晴らしい力を持っていると猗窩座は感じた。だが、人間が本来の力を隠してまで勝てる相手ではなかった。

 

「素晴らしい・・・!この闘気、この技・・・!だが、まだまだ練度が甘い!!」

 

「ぐぶっ!?」

 

真次は猗窩座の拳で脇腹付近を殴り飛ばされ、炭治郎の近くへと滑ってきた、彼の技は完璧だった。だが、猗窩座の武闘家としての眼と経験の差が勝敗を分けていたのだ。

 

「がっ・・かはぁ・・・!」

 

殴られた箇所は車掌に刺された部分であった。鬼であるがゆえに血の匂いで傷を負った部分を見抜いたのだろう。その衝撃で肋骨も何本か折られており、その影響でしばらく呼吸が上手く出来ない。

 

「僅かに邪魔が入ったが続きといこう、杏寿郎!!」

 

「よかろう!(距離を取られれば、頚を斬る事は出来ない。ならば近づくまで!!)」

 

「この素晴らしい反応速度も、この素晴らしい剣技も、失われていくのだ!杏寿郎!悲しくはないのか!」

 

「誰もがそうだ、人間ならば!当然の事だ!」

 

拳の乱打と剣撃の応酬が続く。真次は言葉を発すると生じる痛みに耐えながら炭治郎に声をかける。

 

「ぐ・・・か・・・た、炭・・・治・・郎」

 

「真次!?ダメだ、喋ったら・・・!」

 

「あ・・・の・・木の・・下・・・おま・・えの刀・・・ぐぐっ」

 

震えながら真次が指さす先には炭治郎の刀があった。それを取りに行こうとし、真次は『あの呼吸』を行おうとするが。

 

「動くな!傷が開いたら致命傷になるぞ!待機命令!!」

 

杏寿郎に待機命令を促されながされてしまう。だが、二人の壮絶な戦いは止まらない。

 

「弱者に構うな!杏寿郎!!全力を出せ!俺に集中しろ!!」

 

杏寿郎は思う。最も『柱』に近いとされている真次の先程の炎の呼吸を。炎とは熱きもの侵略するものと考えていた。だが、彼の先程の呼吸は違った。たとえ炎であろうと生命の息吹があった。同じ事をしようとしても彼と自分の呼吸は性質が違う。己を弱者と蔑む彼の炎は蝋燭の灯火のように誰かを暖かく照らし敵となるものを倒す、自分は全てを灰燼と成す猛火だ。

 

ならば己のこの命、燃え上がらせて戦うまでと。それが、命としての炎の輝きを知った炎に対する己の信念だ。

 

『炎の呼吸 伍ノ型・炎虎』

 

『破壊殺・乱式』

 

「煉獄さん・・・!」

 

「(すげえ・・・隙がねぇ。入れねえ、動きの速さについていけねぇ。あの二人の周囲は異次元だ。間合いに入れば『死』しか無いのを肌で感じる。助太刀に入った所で足手まといでしかないと分かるから動けねぇ・・・。何故、まかつぐ(真次)の奴はあの時、一瞬だけあの間合いに入れた・・?コイツは俺よりも強いって事か・・・・?)」

 

伊之助は隣で脇腹を押さえて戦いを見ている真次へ僅かに視線を向ける。彼が本当に一瞬だけ潜在能力を引き出し、杏寿郎と同じ境地・・すなわち『柱』と同等とも言える実力を垣間見せた。相手が上弦の鬼である事もあり、一瞬で返り討ちにされてしまったが、それでも伊之助は真次が自分以上の実力があるのではないか?という疑心を拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

二人の戦いはは激しさを増し続ける。だが、どんなに斬りつけようとも相手は鬼、瞬時に傷が癒えてしまう。逆に杏寿郎は左目を潰され、脇腹に一撃を受けてしまった。

 

「ハァ・・・ハァ」

 

「生身を削る思いで戦ったとしても全て無駄なんだよ杏寿郎。お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も既に完治してしまった。だが、お前はどうだ?潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓、もう取り返しがつかない」

 

猗窩座は実に残念だと言いたげに、そして、酷く憐れみを含んだ声で言葉を続ける。

 

「その程度の傷、鬼であるならば瞬きするまでの間に治る。そんなもの鬼ならばかすり傷だ。どう足掻いても人間では鬼に勝てない。だからだ、だからこそ惜しい、実に惜しい!それ程までに積み上げられた研鑽、力、闘気!それを失わせてしまう事を!!」

 

そんな中、炭治郎が立ち上がろうとするのだが、震えと筋肉の硬直によって動く事ができない。

 

「(手足に力が入らない・・・傷のせいでもあるだろうが『ヒノカミ神楽』を使うとこうなる!助けに入りたいのに・・!!)」

 

「煉・・獄・・さん!ぐっ・・うう!」

 

瞬間、杏寿郎の全身から燃え上がる闘気が膨れ上がるようにして立ち上った。そして杏寿郎は荒れていた呼吸を持ち直し、構えを取る。

 

「(神威少年、君に見せてもらった火炎鳥・朱雀の翼・・・俺の刃の力とさせてもらうぞ!)俺は俺の責務を全うする!ここにいる者は誰も死なせない!」

 

杏寿郎の炎を思わせる闘気が猛き虎へと変わり背中から咆哮し、その頭上には炎の鳥が翼を広げ猗窩座を見据えている。

 

「虎と鳥・・・だと?」

 

「あれは・・・朱雀・・?煉獄さんが・・・朱雀を・・纏って・・」

 

「(一瞬で多くの面積を根こそぎ、刔り斬る)」

 

「杏寿郎、お前・・・素晴らしい闘気だ・・!それほどの傷を負いながら、その気迫、その精神力、一部の隙もない構え!!やはり、お前は鬼になれ!杏寿郎!!俺と永遠に戦い続けよう!!」

 

『炎の呼吸 奥義!』

 

杏寿郎が構えを見せた瞬間、頭上の朱雀が気高い声を上げ、杏寿郎の背に炎の翼を与えるように一体化した。これは杏寿郎自身の闘気であり、翼の形を成しているように見えているのだ。

 

「(心を燃やせ!限界を超えろ!!)俺は炎柱!煉獄杏寿郎!!

 

『玖ノ型・煉獄!!』

 

『破壊殺・滅式!』

 

二つの力はぶつかり合い、凄まじい衝撃と共に周辺の土を巻き上げた。土煙によって周りが見えない、どちらが勝ったのか三人にはわからない。その土煙が晴れてきた瞬間、その結果が見えてくる。だが、それは残酷なものであった。猗窩座は左腕を落とされかかっており、頭部も抉られてはいたが彼の右腕の拳が杏寿郎の鳩尾に貫通している。それを見た炭治郎は叫び声をあげ、真次は目の前が真っ赤になって来る。

 

「ゲフッ!」

 

「煉獄さん!見えた・・煉・・獄・・・ああ・・・ああああああっ!」

 

「うああああああ!!!!!」

 

「死ぬ・・!!死んでしまうぞ!杏寿郎!鬼になれ!!鬼になると言え!!お前は選ばれし強き者なのだ!!」

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏寿郎は猗窩座の言葉で思い出した事があった。幼き頃、母である煉獄瑠火に呼ばれた日の事だ。

 

「杏寿郎」

 

「はい、母上!」

 

「よく考えるのです。母が今から聞く事を。なぜ自分が人よりも強く生まれたのか、わかりますか?」

 

「・・・・うっ、・・・・・分かりません!」

 

「弱き人を助けるためです」

 

瑠火は凛とした表情で幼き杏寿郎に教えを説く。これが母として最後の教えであるかのように。

 

「生まれついて人よりも多くの才に恵まれた者は、その力を世のため人のために使わねばなりません。天から賜りし力で人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません・・弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさなければならない使命なのです。決して忘れることなきように!」

 

「はい!!」

 

瑠火は腕を広げ、幼き杏寿郎は意図が分からず母に近づき、瑠火はその腕に息子を力強く抱きしめた。幼き杏寿郎は突然、抱きしめられ母の温もりを感じた事に僅かに驚く。

 

「私はもう長く生きられません。強く優しい子の母になれて幸せでした。あとは頼みます」

 

母の涙が自分の頭上に落ちているのが分かる。これが母である瑠火の最後の温もりになるかもしれない、幼き杏寿郎は母に託された事を強く噛み締めた。

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!!!!」

 

「ぐ・・かっ!(この男、まだ刀を振るのか!!)」

 

杏寿郎は叫び声と共に強く刀を握り込み、猗窩座の頚に刃を突き立てた。

 

「(母上、俺の方こそ、貴女のような人に産んでもらえて光栄だった!)」

 

「うおああああああああああああ!!!!」

 

刃が徐々に猗窩座の首に入り込んでくる。猗窩座はそれを振り払おうと左腕の拳で杏寿郎を殴り飛ばそうとするが、その拳を手首を掴んで止めてしまう。

 

「止めた!?信じられない力だ!!鳩尾に俺の右腕が貫通しているんだぞ!っ!?」

 

猗窩座はもう一つ気付いた事があった。それは夜明けが近くなっている事である。鬼にとって太陽光は焼け付いた鉄板を押し付けられる程の激痛と身体を塵に還されてしまう最大の弱点だ。

 

「(しまった!夜明けが近い!早く殺してこの場を去らなければ!)!腕が、抜けん!」

 

「逃がさない!!」

 

真次が見つけ出してくれた自分の刀を動けるようになった炭治郎は走って手にし、戻ってくる。

 

「煉獄さんになんと言われようと、ここでやらなきゃ!斬らなければ鬼の頚を!!」

 

「ぐ・・動け!精神が肉体を超えるように!相侮(そうぶ)で!」

 

真次が行おうとしている相侮(そうぶ)とは逆相剋の『五行の呼吸』であり。『侮』とは侮ることを意味し、相剋の反対で反剋する関係である。具体例として『水』が強すぎると『土』の克制を受け付けず、逆に『水』が『土』を侮る事がある。それと同じく『土』自身が弱いと『水』を克制することができず、逆に水が土を侮る。真次はこの性質を利用し、『肉体』という属性に対して『精神』が相侮を起こすように呼吸を行っている。これは『あの呼吸』とは違い、精神力で立ち上がるものだ。今一度、立ち上がるため痛みと戦い呼吸を続ける。

 

「(夜が明ける!此処は陽光が差す!!逃げなければ!逃げなければ!)オォオオオオオオ!!アアアア!」

 

「絶対に!!離さん!お前の頚を斬り落とすまでは!!うああああああああ!!」

 

「退けえええええええ!!」

 

「ぬぅああああああ!!」

 

少しずつ少しずつ、猗窩座に杏寿郎の刀の刃がめり込んでいく。戻ってきた炭治郎が伊之助と真次へと叫ぶ。

 

「伊之助―――ッ!!真次―――ッ!!動け―――ッ!!!煉獄さんの為に動け―――ッ!!」

 

「!うああああ!」

 

「ぐっ・・あ・・がああああああああああっ!!」

 

伊之助が炭治郎の発破を受けた瞬間、真次の呼吸も完了し二人は走って敵へ向かう。伊之助の狙いは鬼自身の頚、真次が狙っているのは頚にめり込んだ杏寿郎の刀身だ。

 

『獣の呼吸 壱ノ牙・穿ち抜き!!』

 

『五行の呼吸 土の型・三之巻・麒麟角(きりんかく)!!』

 

『五行の呼吸 土の型・三之巻・麒麟角(きりんかく)』とは聖獣の一体である麒麟が天上から突進していき、角による破壊を模したものだ。だが、この技は大振りの一撃となる為に隙が大きく、敵が弱って止まっていたり、一撃で倒せる時のみにしか使えない技だ。

 

だが、猗窩座は自らの腕を引きちぎり、杏寿郎から逃れた。大地を踏み抜き、その衝撃で伊之助と真次を吹き飛ばした。腕を再生させ、素早く日陰となる森の奥へと駆け込む。

 

「があああああ!」

 

「うあああああ!」

 

炭治郎は猗窩座の逃走した位置へ走りこみ、入口から猗窩座へ向かって己の日輪刀を投擲し、それが相手の体に突き刺さった。

 

「・・・っ!」

 

「逃げるなァ―――!卑怯者!!逃げるなァ―――!」

 

炭治郎の言葉に猗窩座は一気に怒りが沸騰する。自分が敵から逃げているのだと思われたのがしゃくに障ったのだ。だが、夜明けの太陽光が出ている以上、戦う事はできない。

 

「(何を言ってるんだ?あのガキは、脳味噌が頭に詰まっていないのか?俺は鬼殺隊(おまえたち)から逃げてるんじゃない。太陽から逃げてるんだ。それにもう勝負はついているだろうが!アイツは間もなく力尽きて死ぬ!!)」

 

どんなに叫んでも、もはや暗闇しかない。だが、それでも炭治郎は叫ばずにはいられなかった。

 

「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦っているんだ!!生身の人間がだ!傷だって簡単には塞がらない!!失った手足が戻る事もない!!」

 

炭治郎の叫びに伊之助は震えており、真次は刀を支えにして立ち上がった。その叫びは勝ったのは杏寿郎だと言わんばかりだ。

 

「逃げるなァ―――!馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!卑怯者!!お前なんかより煉獄さんの方がずっと強いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ―――!!ぅああああああ!!あああっ!!」

 

「炭治郎・・・」

 

「もうそんなに叫ぶんじゃない・・・戦いの傷が開く、君も軽傷じゃないんだ。竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ」

 

杏寿郎は優しく声をかけ、炭治郎を呼ぶ。傷の具合から見て素人目に見ても助からないだろう。

 

「こっちにおいで、最後に少し話をしよう。思い出した事があるんだ。昔の夢を見た時に・・俺の生家、煉獄家に行ってみるといい。歴代の『炎柱』が残した手記があるはずだ。父はよくそれを読んでいたが・・・俺は読まなかったから内容が分からない。君が言っていた『ヒノカミ神楽』について何か・・・記されているかもしれない」

 

杏寿郎の腹部を貫通していた腕が太陽光によって消滅していく。皮肉にもその腕が止血していたため、杏寿郎の腹から血が多く流れてくる。

 

「煉・・・獄さん・・・もういいですから、呼吸で止血してください・・。傷を塞ぐ方法はないですか?」

 

「無い。俺はもう直ぐに死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。弟の千寿郎には、自分の心のまま正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。父には体を大切にして欲しいと・・・それから」

 

杏寿郎は優しくも力強く笑みを浮かべ、炭治郎を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「竈門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。胸を張って生きろ」

 

それは禰豆子を認めたという言葉であった。杏寿郎自身も鬼である禰豆子を信じ切れる部分がなかったのだろう。今の彼は本心から彼女の事を認めている。

 

「己の弱さや、不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け。君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない」

 

「俺がここで死ぬことは気にするな。『柱』ならば、後輩の盾となるのは当然だ。『柱』ならば誰であっても同じ事をする。若い芽は摘ませない」

 

少しずつ杏寿郎の時間が失われていく。血の量が彼の時間を示しているかのように地面を濡らしていく。

 

「竈門少年、猪頭少年、黄色い少年。もっともっと成長しろ、そして今度は君達が鬼殺隊を支える『柱』となるのだ。俺は信じる、君達を信じる。最後に神威少年・・・・」

 

「!!」

 

「君も自分の心に従って、生きろ・・・もう己を縛り続ける必要はない。君の鎖の一部を・・俺が持っていこう」

 

「煉・・・獄・・・さんっ!!」

 

「君の火炎鳥で・・・見送ってくれ。っ・・・!母上・・・」

 

朱雀が見せた幻影か、それとも杏寿郎自身が見ている走馬灯なのか?母である煉獄瑠火が凛とした佇まいで彼を見ていた。

 

「俺はちゃんとやれただろうか、やるべき事、果たすべき事を全う出来ましたか?」

 

『立派にできましたよ』

 

瑠火は優しい笑顔で杏寿郎を労うと同時に杏寿郎は笑顔になり、そのままゆっくりとこと切れて逝った。

 

 

 

 

 

善逸が目を覚まし、状況を真次に聞いた。いつもは隠し事の音がしている彼も悲しみの音が響いている。

 

「汽車が脱線する時・・・煉獄さんがいっぱい技を出しててさ・・・車両の被害を最小限にとどめてくれたんだよな」

 

「そうだろうな・・・」

 

「死んじゃうなんてそんな・・・ほんとに上弦の鬼、来たのか?」

 

「うん」

 

「なんで来んだよ、上弦なんか・・・そんな強いの?そんなさぁ・・」

 

「うん・・・」

 

「悔しいなぁ・・何か一つ出来るようになっても・・・またすぐ目の前に分厚い壁があるんだ」

 

炭治郎は泣いていた。悔しくて悲しくて、同時に強い人間の死を見てしまったからだろう。それは真次も一緒だった。彼にとっては尊敬していた人間の死が重くのしかかる。

 

「く・・・ううう」

 

「凄い人はもっとずっと先の所で戦っているのに、俺はまだそこに行けない。こんな所で躓いてるような俺は・・・俺は・・煉獄さんみたいになれるのかな・・・」

 

「うっ・・うっ・・ううっ!」

 

「弱気なこと言ってんじゃねぇ!なれるか、なれねぇかなんて、くだらねえ事、言うんじゃねぇ!」

 

伊之助は思い切り叫んでいた。悔しさは彼が最も一番強かった。自分よりも強い存在がいた事を知らずに居たのが恥ずかしく、それが堪らなく悔しかった。

 

「信じると言われたなら、それに応えること以外考えんじゃねえ!!死んだ生き物は土に還るだけなんだよ!べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ!!悔しくても泣くんじゃねえ!!どんなに惨めでも恥ずかしくても、生きてかなきゃならねえんだぞ!!」

 

「伊之助の言う通りだけど・・・だけど!なんで俺は言葉に出来なかったんだ!!」

 

伊之助も猪の被り物の瞳から涙が溢れ出ている。それを見ていた真次も抑えていたものが決壊し何度も何度も地面を殴りつけた。

 

「お前も泣いてるじゃん・・・被り物から溢れるくらい涙出てるし・・んがっ!?」

 

「俺は泣いてねぇ!うああああああ!!」

 

善逸の指摘を否定するかのように伊之助は思いっきり頭突きした。それを受けた善逸は気絶してしまい、伊之助は刀を置くと炭治郎の着物の袖を引っ張った。

 

「こっち来い!修行だ!お前もだ!!」

 

「ちくしょう!くそっ!くそおおおお!うああああああああああっっ!」

 

四人は泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。伊之助は炭治郎の頭を軽くポカポカ殴り続け、真次は空に向かって大声で叫び続けた。情けないと言われようが、泣き虫だとも言われようが四人は泣き疲れるまで泣き止むことはなかった。




次回は時間を早送りして、オリ主の真次が最後となる場面になります。この煉獄の戦いがあったからこそ、彼は未来を守る決意をしました。



※前回のヒロインアンケートでヒロインは「胡蝶しのぶ」になりました。

異聞外伝として書こうと思いますので、二人の関係のアンケートをとります。

しのぶさんで見たいネタ

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  • 夫婦
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