コミュ障を治す為にも極振りで頑張ります! 作:Negima -{}@{}@{}-
イベントが終わって一週間。
楓の木では三週間後の第四層追加日までは各自が暇を持て余していた。
ただ、ランだけは違った。
ランはイベントの二日後から研究所に籠り、本の読解に力を注いでいる。
雷機関研究所の日本語で書かれていた大元の資料をまず読むと、「HP概念のない攻撃用オートマターを創り出し、人間に従属させて対モンスターへの永続的な兵器とする」ことが最終目標らしい。
そのために電気や磁力、機械と言ったものの研究と完全従属の研究がされていたそうだ。
(…永久機関の完成ってこと?)
外部からのエネルギー供給を行わずに外部への仕事を続ける機関を永久機関という。
ただしこれは18世紀の物理学者たちによって人間の力学的方法での実現が不可能と提唱され、19世紀の科学者たちによって熱量使用の方法でも不可能とされた。
それを完成させようと言うのだ。
ただ、こればゲームであり魔法が使える世界。
構造不明のモンスターもいるぐらいなので、ランは可能かもしれないと思った。
ランが手に取ったのは本棚の中で一冊だけ綺麗に保管され、表紙や紙の質からも重要なのが伝わってくる本。
本の半分以上が本棚から抜けない中で、綺麗で読める本というのはランの興味をそそる。
タイトルは『जगमगाता हुआ पक्षी और भगवान』。
…これは読めない。
ただ、中をめくっていくとभारतという単語を見つけた。
ランは昔読んだ世界の国の本に書いてあったな…と思い、必死に思い出す。
(あ、ヒンディー語でインド…)
思い出したことで、この本がヒンディー語で書かれていることを理解したランはカナデにヒンディー語を読めるか聞いてみた。
[カナデ、ヒンディー語読める?]
[いきなりだね。単語は読めるけど文章は無理。]
ランは少し考えたあとログアウトした。
その足で藍の家の近くにある図書館に行ってヒンディー語の辞書と文法講座と書かれた本を借りた。
その日はそれを読み耽っていた。
次の日。学校を終えて直ぐにNWOにログインし、研究所に入る。
昨日の勉強でタイトルのजगमगाता हुआ पक्षी और भगवानが炎鳥と神と訳すことがわかった。
中身を読んでいくと、一般的でない単語が多くてほとんど読めないのだが、एक ड्रैगन【訳:龍・蛇】तबाही【訳:退治する】पक्षी【訳:鳥】という文が何度もでてきた。
लौ【訳:炎】という言葉が1番多く出てくるのだが、その単語の直前に毎回ついているसोने का पंखが分からない。
他にはभगवान【訳:神】が多く出てくる。
ただ、今わかる範囲で何のことについて書かれているのかを考える。
(炎を使って龍や蛇を退治するインドの鳥…大鵬金翅鳥かな。あとは…鵬魔王とか?
となるとसोने का पंखは金翅。)
大鵬金翅鳥。またの名をヴィナマ・ガルダ。
インド神話で炎の様に光り輝き熱を発する神鳥で、ヴァーハナ(神の乗り物)として扱われていた鳥。
蛇や龍といった人々に害をもたらすものをや主以外の神を倒す聖鳥として、長い間崇拝されていたという。
鵬魔王はその主。
神の子供で同じく龍や神を倒す存在。
そこからの日々は忙しかった。
ログインして本を読んでは分からない単語が出てきてログアウトする。
そして、辞書を読んで単語がわかるとまた戻ったり、辞書を読み進めたりする。
その繰り返し。
たまに気分転換に『エレクトリックリザードの根城』に挑戦してはレベル上げをしていたが、それ以外はほとんどしていない。
この間のイベントでペインとのレベル差を感じることがなかったらダンジョン攻略すらしていなかっただろう。
それでも着実に読解は進み、あと二日で第四層が追加されるという日に完全に読み解くことが出来た。
「ヴィナマ・ガルダは最高位の神鳥である。
対神・対龍の恩恵を持ち、人々を苦しめんとする龍蛇を駆逐し、主以外の神と敵対していた。
しかしそれほどの力を持っているにも関わらず、混天大聖<天を混沌せし者>”…つまり七大妖王の第四席の側仕えに収まっている。
混天大聖、またの名を鵬魔王。彼女自身も対神・対龍の恩恵を持つ。
対神・対龍の恩恵を持つ神同士がぶつかる時、決め手になるのは己が霊格。
ヴィナマ・ガルダには人々からの信仰という大きな霊格があった。
それでも、彼女には勝てなかった。
彼女を象る霊格は大きくわけてふたつ。
ひとつは迦楼羅天の娘という神霊の霊格。
ひとつはインド神話群に置いて、帝釈天に比肩する姫でいて欲しいという人々の願いからなる存在意義そのもの。
ヴィナマ・ガルダはそんな霊格を持つ彼女に付き従うようになった。
しかしある時2人(2匹)に悲劇が訪れる。
雨が降らなくなった乾時期。
人々は少なくない太陽の加護を受けて金翅の炎を操る2人を良しとしなかった。
それどころか2人を完全な悪とみなすものさえ現れた。
彼女らは人々を傷つけることが出来なかった。
元々神霊と神が悪意を持って作り出した龍を倒す存在である。
そんな彼女らに、神が寵愛した人間を攻撃することなどできる道理がない。
そのために人々の数の暴力によって祠に封印されてしまった。
祠は2人を封印したまま月日がたち、今ではその出来事を悔やんだ後世の人々によって生前よりも多くの信仰を集めている。」
そんな内容の物語から始まり、その祠の特徴とヨーロッパ圏で半神霊を隷属させた話が書かれていた。
(ヴィナマ・ガルダと鵬魔王を隷属しようとしている?そんなことが出来るのかな?)
少し疑うランではあったが、早速特徴に会う祠がないか探し始める。
しかし、なかなか見つからない。
自分が知らないだけかと思い、情報ツウのサリーやクロムに聞いても知らないという。
ランは諦めかけたが、なにか思いついたのか研究所の本を読み直し始めた。
「赤く染まりし祠の広間。悪魔の像が象られたその中に…」
ランは気がついた。
〝赤い祠〟ではなく〝赤く染まりし祠〟と書かれている。
つまり、祠自体は赤くないが何かの拍子に赤くなる。
(赤だから炎…いや、夕日か。
夕日で広間が赤くなるなら西向きの祠で、地底祠や海底祠じゃない。そして悪魔の像。この条件に当てはまるのは一層の端、メイプルがクリアした毒竜のダンジョンの近くにある祠だけ。)
元々多くない祠からこれだけの条件が合致するところはそうなかった。
ランは時間を確認した。
現在の時刻は5時20分。
このゲーム内では夕日は毎日に数十分だけ現れる。
時間は毎日違うが今日は5時30分だった。
ランは急いで一層に行き、極夜で祠に向かう。
着いた時には5時30分まで残り1分だった。
ギリギリ間に合ったランは広間にある鎖で縛られた悪魔の像の横に立つ。
時刻が時間が5時30分になり、夕日が差し込んでくる。
夕日が正面から当たった悪魔の像は足下が輝いている。
ランは恐る恐る触ってみると、コンコンと台座の中で音が反響している。
ランは覚悟を決めてレールガンを構えた。
その銃口は輝く足元を向いている。
ランの指がトリガーを引き、台座がそれに呼応するように壊れる。
すると祠全体が光り出した。
ランは眩しさに目をつぶる。
しばらくして目を開けてみると、目の前に美しい女性と大きな一羽の鳥がいた。
「これが、鵬魔王とヴィナマ・ガルダの輝き。綺麗…」
ランはその神聖さと美しさについ言葉が漏れた。
2人は顔を見合わせると頭を垂れた。
「私たちを解放して下さりありがとうございます。私は混天大聖:鵬魔王。この子は大鵬金翅鳥:ヴィナマ・ガルダ。このご恩は一生忘れません。」
[自分たちは封印の影響で十全に力を発揮できませんが、願うことなら、自分たちを貴女様の末席に加えていただけませんか。]
ランは自分なんかの下でいいのかとも思ったが、彼女らが自らの意思で決めていることならと了承した。
「分かりました。私はラン。これから…よろしくお願いします。」
こうして、ランは対神対龍の恩恵を持つ神霊を仲間にした。
(…あれ?機械神と毒竜に勝てるようになった?)