私はスクールアイドルになれない   作:ルイボス茶

2 / 3
ひとつ、ふたつ、みっつ

どれだけ数えても差は埋まらない。

よっつ、いつつ、むっつ

取り戻すこともできない。

ななつ、やっつ、ここのつ

それでもあきらめきれず、数え続ける。


私はなれない

夢の中の私が私の手を掴む。

それを力なく振りほどいて私は一日の始まりを受け入れた。

 

久しぶりに夜更かしをした。

わざとらしく目をこすり時計を見る。

いつもより遅い寝起きだなんてことはなく、自分の真面目さを実感する。

 

けれど、いつもと違うのは私を彩る音の塊。

昨晩必死に検索して観漁ったスクールアイドルのライブ、歌、ダンス。

それらが私から離れることなく、また私も離れようとしない。

「優木せつ菜ちゃん、かわいかったな」

せつ菜ちゃんだけではない。

せつ菜ちゃんが所属するスクールアイドル同好会にはもっとスクールアイドルがいるらしい。

秋葉原の近くにある学校にはμ'sというグループがいる。

沼津の学校のスクールアイドルAqoursが歌う曲もかっこよかった。

余韻に浸りながら視線を机の上に置かれたチラシへと移す。

「今週末か・・・」

久しぶりに、楽しみな予定ができた。

 

 

午前11時。

いつもと変わらないオフィスワーク。

私にとって給料しか生まないルーティーンを行っていると横に座る後輩が声をかけてきた。

「どうしたんですか先輩」

前触れもなく、質問の意図もわからない私はただ一言「何?」と返した。

「いや、なんというか」

「そんな遠慮するようなタイプでもないでしょう」

「そんなことないですよ!私だって言葉ぐらい選びます!」

「はいはい、それで何?」

後輩は大げさに私の目をのぞき込んで言った。

「先輩、なんかご機嫌だなって思いまして」

「・・・え?」

確信を掴めず、私はまた疑問で返す。

「昨日もあれだけチョッキにガミガミ言われていたのに、なんか今日表情が明るいっていうか。

私だって慣れはしましたけどそれでも次の日ぐらいまでは、なんだよ!って不機嫌になりますし。

少なくとも口角が上がるようなことはないです。」

チョッキとは昨日私にノイズを浴びせた上司のこと。

冬になると毎日もこもこのベストを着ているからそう呼んでいる。

「それなのに、今日の先輩はなんていうか、空気が軽い気がするんですよ」

自分ではそんなつもりなかったが、この子は変なところで勘が良い。

そう感じさせた理由は自分でもわかっている。

「そう?私だって空気ぐらい選ぶわよ」

「ちょっと、私の真似しないで下さい!っていうか空気を選ぶって何ですか」

「さぁ?」

そう受け流すと私はまたカタカタとキーボードを鳴らす。

「ねぇ、スクールアイドルって知ってる?」

再稼働させた手を休めて、今度は私から問いかける。

「どうしたんですかいきなり。でも知ってますよ。

私が通ってた高校でもかなり人気の部活になってるらしくて。

『ラブライブ』?っておっきな大会まであと一歩だったとかなんとか。」

「『ラブライブ』?なにそれ?」

「スポーツでいうところのインターハイですかね?全国のスクールアイドルはそれを目指して

練習とかライブとか頑張ってるらしいですよ」

知らなかった。

思えば昨日の夜はひたすら動画探していただけで、スクールアイドルそのものが何か調べてすらいなかった。

私がその言葉に引っかかったのが気になったのか、後輩は続けて問いかけてきた。

「いきなりどうしたんですか?スクールアイドルなんて言葉が先輩の口から出てくるなんて」

「別に特別な理由はないわ。知り合いが前に話していたから」

動画を観てた、なんて隠す必要もないのにと思いはしたものの、深く聞かれるのも面倒だと思い適当に返す。

「でも、いいですよね~」

「? 何が?」

「スクールアイドルですよ。青春というか、一瞬のきらめき?というか。

どんな部活にも言えることですけど、学生のうちしかできないことじゃないですか。

私たちがどれだけ願っても、もうスクールアイドルにはなれないんですよ」

私はそれにただ一言。

「それはそうね」

とだけ返して業務に戻った。

当たり前だと思って考えたことすらなかったこと。

それが少しだけ、胸の奥に引っかかった。

 

 

週末、私は一人でチラシに書かれた場所に来た。

お台場にあるショッピングモール。

目的がなければこんなところ来ることもない。

「今日は目的があるから・・・」

周りを見渡す。

決して大人数というわけではないが人が集まっている。

駅前でギターをかき鳴らすシンガーよりは集客力がありそうだ。

ステージとなる階段横の壁や柱には手元のチラシを拡大したポスターが貼ってある。

写っているのは5人の少女。

その中の1人にせつ菜ちゃんもいた。

ポスターを見ていると、いきなり歓声が上がった。

優木せつ菜が、ステージに現れる。

集まった人々はその少女の名前を叫ぶ。

ついに、この時が来た。

だけど、何かが足りない。

私だけでなく客の一部のざわつき始めた。

「せつ菜ちゃん一人?」

「新しいグループのお披露目だったよね?」

話し声が私の耳にも届き、再びポスターに目をやる。

そうだ、残りのメンバーがいない。

あとから登場するのだろうか?

そういった雰囲気も感じ取れない。

私たちのざわつきをよそに、彼女は歌い始めた。

 

――走り出した!思いは強くするよ

 

歌い始めたのは『CHASE!』

私が彼女に、スクールアイドルに出会ってから一番聴いた曲。

その歌声が私の耳に届いた瞬間、世界ががらりと変わった。

彼女の炎が包み込む。

それに負けない彼女の熱は辺りを染め上げ、やがて炎さえも焼き尽くした。

熱い、熱い、熱い!

胸の高鳴りが止まらない!

彼女の声が、思いが、私のすべてに響いてくる。

私の持つ感情もすべて飲み込むその炎は、勢いとともに感情を再構築する。

魅了、そんな言葉でしか表現できない自分を呪うほど夢中になっていた。

 

シャウトが会場に響き渡り、パフォーマンスは終わった。

歓声と拍手がステージを称える中、彼女は深々と頭を下げた。

私もありったけの感謝を込めて拍手を送る。

こんなに盛り上がったのはいつぶりだろう。

 

少し気持ちが落ち着いてきた。

「私も、あんな風になれたら・・・」

ステージをあとにする彼女を最後まで見届けながらそんなことを考えていると、ふと先日後輩が言っていた言葉を思い出す。

 

『私たちがどれだけ願っても、もうスクールアイドルにはなれないんですよ』

 

熱が急速に下がるような感覚。

あれだけの盛り上がりが嘘のように、何も聞こえない。

耳なりに感覚を奪われる。

そうだ、どれだけこの胸が高鳴ろうとも、あこがれを抱こうとも。

彼女のようにはなれない。

今からではもう遅い。

あの時後輩に言われた後の引っ掛かり、その意味がようやく分かった。

憧れにはもう手が届くことはない。

理解してしまった。

 

 

 

「私はスクールアイドルになれない。」




こんにちは、ルイボス茶です。

龍騎Aqoursのクロスオーバー以来です。
間にオリジナルを投げようとしましたが、この話に盛り込むこととします・・・

今回は「スクールアイドルになれない」人の話です。

夢や憧れを持ってスクールアイドルになって精いっぱい輝くために頑張る人がいるその裏には、いろいろな事情でスクールアイドルになりたいと思ってもなれない=憧れに手が届かない人たちがたくさんいると思います。
その中でも、既に学生生活を終えてしまった人「時間が過ぎ去ってしまった人」に焦点を当てたお話がこれです。
必ずしもスクールアイドルになりたいわけではなく、いろいろな憧れやなりたいと思う夢が生まれて、でもやっとみつけたそれになるにはもう手遅れだ、という人のお話です。
時系列的にはアニガサキと同じです。
侑ちゃんのお話のウラで、こういう人もいたかもよ?という感じで楽しんでいただけたらなと。
※タイトルもわかりやすく変えました
それではまた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。