私はスクールアイドルになれない   作:ルイボス茶

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人は、いつ夢を持ったと自覚するんだろう?


再会

ライブから1週間が過ぎた。

階段の踊り場で呆けながら缶コーヒーを口に運ぶ。

この一週間、私を取り巻く世界は何も変わらない。

デスクに山積みの書類は減る気配がないし、上司の説教もなくならない。

ただひとつ、自分の中にある意識だけは確実に変わっていた。

 

『私たちがどれだけ願っても、もうスクールアイドルにはなれないんですよ』

 

スクールアイドルになりたいと思ったわけじゃない。

アイドルなんて柄じゃないし、人前で歌うなんてとてもできることではない。

私に突き付けられたのは、何かを始めたいと思ったときにもう手遅れなのかもしれないという事実。

高校をとうに卒業した私はどれだけ願っても部活動には入れない。

これから先、こうした「手遅れ」がどんどん押し寄せてくるのだろう。

これまでのなぁなぁな人生を呪う。

 

休憩を終え職場に戻ると、社員があわただしくしていた。

後輩にどうしたのかと尋ねる。

「私もよくわからないんですけど、重大なミスが発覚したらしくて。

それが結構な数の取引先との関係に影響しそうな感じらしいんですよ」

なぜこの子は他人事のように言えるのか、という疑問を抱いたがそれは私も同じことなので言わないでおこう。

騒然とした中、これから降ってくるであろう「火消し」のためパソコンへと顔を向ける。

すると、今度は後輩から話しかけてきた。

「そういえば先輩、どうでした?この間のライブ」

「周りがこんななのによくそんなこと聞けるわね」

「でも先輩は話にのってくれますよね」

笑顔に悪意がない。

けれど耳を傾けた私も私なので話を続ける

「優木さんひとりだけだったわ。でも盛り上がってた」

その言葉に後輩はやっぱりといった顔で返す。

「先輩の話聞いて私もネット見てみたんです、スクールアイドルの。

そしたら、虹ヶ咲のスクールアイドル同好会が活動をやめるって話があがってて。

あれ、ここって先輩が言ってた学校だなーって」

「え・・・?」

少し、動悸がした。

同好会が活動をやめる?

あんなにすごいライブをしていたのに?

だからひとりでステージに上がっていた?

頭の中で正解のわからない思考が巡る。

「びっくりですよね、でも学校の部活動だから難しいこととかあるんですかね?」

「・・・どうだろうね」

気の入ってない返事してすぐ、私たちのもとへ仕事が降ってきて「火消し」を始めた。

 

 

 

帰り道、私はあの公園に向かった。

もちろん少女はいるはずもない。

あの日出会った場所で、あの時聞いた曲を口ずさんだ。

「~♪」

・・・私はやっぱりアイドルに向いてないな。

そう自分を笑い、立ち去ろうと振り返ると視線の先に少女が一人立っていた。

「それ、わたしの・・・」

「え?・・・あっ!」

目の前にいたのは優木せつ菜ちゃんだった。

「どうしてその曲を・・・あ、お姉さんもしかしてこの間の!」

まさか覚えられているとは思わず、動揺が顔に出る。

「えっと、その・・・」

「驚かせてしまってすいません。私、顔を覚えるのが得意で。

そういえばこの間のライブにも来てくれましたよね。ありがとうございました!」

「いえ、こちらこそ。すごく楽しませてもらって・・・」

それから現実を目の当たりにして、なんて言えなかった。

「ほんとですか!うれしいです!・・・でも」

少女の顔が曇る。

次に出る言葉はなんとなく予想できた。

「でも、もうお終いにしたんです」

「どうしてですか?」

私はすぐに聞き返した。

「えっ?」

「あなたの歌にはきっといろんな人が勇気をもらっていると思う。私だってそう。

あの日だってすごく熱くなった。それなのに・・・」

最後まで言いかけたところで少女の顔を見て言葉が途切れる。

とても、複雑な笑みを浮かべていた。

「そう言ってもらえてうれしいです。でも、もう決めたんです」

「・・・すいません、事情も知らないのに。」

「そんなこと!楽しんでもらえたのは本当にうれしかったです。

ついこの間も、別の人に言われちゃいましたし」

私には笑みをくれるが、それがとてもつらかった。

「それじゃあ、私行きますね!呼び止めてしまってごめんなさい!」

「私こそ。帰り道気を付けてください」

少女は振り返り、去っていく。

私はそれを見届けたあと、自分の帰路へ戻った。

「あの!」

ふと、去ったはずの少女が私を大きな声で呼び止めた。

振り返ると、私に向かって少女が言った。

「正直つらいこともありましたけど、あなたにそう言ってもらえて、やってよかったなって思いました!

私にもあなたのような人がいてくれたんだってことが、とてもうれしいです!」

遠くからも、精いっぱい伝えてくれていることがわかる。

私は気づけば、同じように大きな声で返していた。

「きっと!あなたの周りにはもっとたくさんわかってくれる人がいます!

いつかまた、その歌声を聞かせてください!」

少女は今日一番の笑顔を見せた後、走っていった。

 

叶わないことかもしれないけれど、楽しみがまたできた。

それから、脳内をぐるぐるしていたあの言葉が、少し形を変えた気がした。




こんにちは

3話更新です。
そんなに長編にはならないと思います。

1話読み返していて、時系列がアレなことに気付きました。
加筆修正をしています。(具体的には冬→春へ)

ちなみに登場している後輩ちゃんも会社があまりよくないと気づいていて、
同じくそれに疑問を抱いている「私」のことを貴重だと思っています。

それではまた。
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