~駒王学園~
放課後の体育館裏では、前を全開にしたブレザーを着た茶髪の少年が、同じブレザーを着た十数人の学生に囲まれていた。
茶髪の少年を取り囲んでいる者の中には鉄パイプや木材を持っている者もいた。
「何の用だお前ら。」
「兵藤!お前また女子更衣室を除いたらしいな。」
「何の話だ。」
「とぼけんてんj―――」
一人の学生が叫びながら鉄パイプで殴りかかったが、標的である茶髪の少年、兵藤一誠は鉄パイプに当たる前にその学生の腕を掴んで防ぐと、更に強い力で捻りあげて鉄パイプを地面に落とさせると、その背中を蹴り飛ばした。
「ぐぁぁっ!?」
「またアイツの仕業か。」
一誠は呆れたように呟くと、ブレザーを脱ぎ捨て、ネクタイを緩めた。
「や、やっちまえ!」
一人の学生がそう叫ぶと、一誠を取り囲んでいた学生たちが一斉に殴り掛かった。
一誠は次々と迫り来る学生たちに真正面から迎え撃った。
夕暮れ時になると一誠に殴り掛かった学生たちは全滅していた。
「ふん...。」
一誠は脱ぎ捨てたブレザーを拾い上げ、その場を立ち去ろうと背を向けた。
すると、最初に一誠に蹴り飛ばされた学生が音を立て無いようにゆっくり立ち上がり、地面に転がった鉄パイプを拾い上げると、一誠の頭に目掛けて振り下ろした。
「おりゃぁ!」
一誠の頭に鉄パイプが当たる直前、鉄パイプを振り下ろしている学生は何者かが放った飛び蹴りを喰らい、顔面に靴跡がくっきり刻まれた状態で仰向けに倒れると気絶した。
一誠が振り向くとそこには赤いアンセクトカラーの黒いコートを着た黒髪の少年が立っていた。
「よぉ、イッセー!部活に来ないから心配したぜ。」
「ザックか、悪かったな。」
黒髪の少年―――ザックは朗らかな笑みを浮かべて手を挙げて挨拶すると、イッセーはザックに謝った。
イッセーはザック―――本名、神崎玄人(かんざきクロト)と、同じダンス部という部活に所属している。
ダンス部とは、イッセーとイッセーの幼馴染であるザックが中心となって1年生の時に新たに作った部活で、イッセーが部長、ザックが副部長を務めている。
イッセーは部長である自分が、顧問やザック、他の部員に何の連絡もせずに部活を休んだこと悪く思い、謝ったのだった。
「気にすんなよ。・・・どーせいつものだろ。」
ザックは笑いながら気にしていないことを告げると、笑みを消し冷たい眼差しで地面に転がった学生たちを見渡した。
「まぁな。」
イッセーは幼少の頃から謂れのない苛めを受けていた。
ある者は影で自分の悪口を言っていた、ある者は自分の持っていたおもちゃを壊しただのイッセー自身には全く身に覚えのない事で暴力を振るわれたり、物を隠されたりと肉体的・精神的ないじめを受けてきたのだ。
そして中学に入った頃、苛めに耐えかねたイッセーは力を求めて、近所に住む従軍経験のある男性に弟子入りして、苛烈な修業を終えた結果、中学3年になると暴行を加えてきた相手を返り討ちにできるようになった。
「はぁ、またですか。」
イッセーとザックがその場を立ち去ろうとすると、後ろから少女の声が聞こえてきた。
「む?」「ん?」
二人が振り返ると、そこには眼鏡をかけた少女がいた。
「支取か。」「会長さんかぁ、ども。」
「どうも、一誠君、神崎君。・・・一誠君、私は3年で貴方は2年な訳ですから先輩若しくは会長を付けるように言っていますよね。」
眼鏡をかけた少女、支取蒼那 生徒会長は腰に手を当てながらイッセーにそう言った。
「知らん。」
イッセーは如何でもいいとでも言うようにそっぽを向いた。
「はぁ、全くあなたという人は......。」
「まぁまぁ、今更だって会長さん。」
頭を抱えだした支取をザックは肩に手を置いて、励ました。
「事後処理は生徒会の方でやっておきますので、匙が来る前に下校した方がいいと思いますよ。」
「あいつか。」
イッセーは支取の言葉で一人の学生の事を思い出していた。
「あ~、匙、匙、ゲンゴロウ、だったけ?確かにあいつ何かとお前の事目の敵にして突っかかってくるよな。一回殴り掛かってきたことがあって返り討ちにしてなかったけ。」
「そんなこともあったな。弱い犬ほどよく吼えるというがあいつはその典型的な例だろうな。」
「えぇ、、だから早めに帰った方がいいかと。」
匙ゲンゴロウ――――2年生で生徒会の書記をしており、正確には匙元士郎というのだが、この場にいる3人の内、誰も訂正する者がいなかった。生徒会長である支取蒼那ですら、匙の行動に呆れ果て訂正する気が起きなかったのだ。
匙は支取に好意を寄せているのだが、覗き等の行為を繰り返している(と思われている)イッセーが支取に近づくことを好ましく思っておらず、何かしら突っかかっていたのだった。
「そうだザック、家に寄っていけ。」
「え?マジか?」
「あぁ、今日は助けられたからな、奢ってやる。」
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ。」
「じゃあな。支取。」
「じゃ、お先に失礼するんで会長さん、」
そう言うと、イッセーとザックは帰っていった。
~洋菓子店シャルモン~
「入れ。」
「お邪魔しまーす。」
イッセーはシャルモンの中に入ると、ザックを招き入れた。
シャルモンはイッセーの下宿先兼バイト先であり、中学に入ってしばらくした頃にシャルモンの店長と両親の話し合った結果、イッセーはシャルモンで暮らすようになったのだった。
「
フランス語交じりのあいさつでイッセーとザックを招き入れたのは、スキンヘッドに付けまつ毛と厚化粧で、鍛え抜かれた屈強な体を持つシャルモンの店長、凰蓮・ピエール・アルフォンゾだった。
「遅かったじゃな~い、な~にしてたのかしら。」
「別に。」
「ま、いいわ。アンタにお客さんよ。」
凰蓮はそう言うと店の奥にあるテーブル席を指さした。
「ん?」
イッセーがそのテーブル席をのぞき込むと、白衣を着ている黒髪に白メッシュの入った青年が座っていた。
「やあ、久しぶりだね、イッセー君。」
白衣の青年はコーヒー片手に手を挙げて、イッセーに挨拶をした。
「アンタか。」
「イッセー、あの人は?」
「そうか、ザックは知らなかったな。アイツは―――」
「やぁ、初めまして。僕の名前は戦極凌馬、兵藤一誠の従兄で、科学者をしているんだ。」
「ど、どうも。」
先程までテーブル席に座っていたはずの白衣の男、戦極凌馬はいきなりザックの背後に現れ、イッセーの言葉を遮ると自己紹介してザックを驚かした。
「で、何の用だ。」
イッセー達はテーブルを囲みながらケーキを食べていると、凌馬にそう切り出した。
「ん?あぁ、そうだった、君に渡したいものがあってね。」
そういうと、凌馬は黒いプレート状の物とバナナが描かれた錠前を机の上に置いた。
「これは?」
イッセーは机に置かれた2つを手に取ると凌馬にそう聞いた。
「黒いプレート状のものは戦極ドライバー、錠前ロックシードと言ってね。私の発明品だよ。」
「なぜ俺にこれを?」
「いや~、最近この町は物騒みたいだからね?自分の身に危険が迫った時に使ってくれたまえ。」
「そうか、まぁ一応貰っておく。」
そう言ってイッセーは戦極ドライバーとロックシードを懐にしまい込んだ。
「じゃ、僕の要件はこれで終わったからこれで帰るとするよ。」
「そうか。」
「じゃ、Mr.凰蓮。ここにお金置いとくよ。」
そう言って凌馬は帰っていった。
~シャルモン洋菓子店~
イッセーが科学者をしている従兄の戦極凌馬から戦極ドライバーとロックシードをプレゼントされた日から数日が経った平日の早朝、イッセーはシャルモンの厨房でランチセットに出すスープの仕込みをしていた。
「ふむ、仕込みはこれくらいでいいか。」
イッセーはスープの味見をすると、満足げにお玉を置いた。
「bonjour(おはよう)、イッセー!」
イッセーが仕込みの後片付けを済ませると、シャルモンの店長であり、イッセーの親代わりでもある凰蓮が厨房に姿を見せた。
「ハァァ、朝っぱらから騒がしい奴だ。」
イッセーは早朝からハイテンションな凰蓮の姿を見てため息をついた。
「つれないわねぇ。まっ、いいわ。それにしても、貴方が厨房に立ち始めてから、ランチセット目当ての客も増えたわね。」
「別に構わんだろ。」
「そうね、貴方の料理の腕はプロフェッショナル級、家の店に出すに値するわ。」
「それはそうだろう。アンタには戦いだけでなく、菓子作りなんかも仕込まれたからな。」
「そうね。パティシエとしてはワテクシには劣るけどプロ級だし、シェフとしての、特にイタリア料理は貴方の方が上よ。まっ、戦闘に関してはまだまだアマチュアだけどね。」
「いずれはアンタを超えてやる。」
「フフッ、楽しみにしてるわ。」
「朝飯は済ませた、行ってくる。」
イッセーはそう言うと着替えを済ませ店を出ていった。
「気を付けるのよ~!」
凰蓮は店先に出ると、登校するイッセーを見送った。
凰蓮は店内に戻ると、清掃のため、飲食スペースに足を踏み入れた。
「あら?」
ソファー席にラップがかけられたお皿にサンドウィッチが乗っていた。
「フフッ♪あの子ったら素直じゃないんだから。」
凰蓮は笑みを浮かべながら、イッセーが用意してくれた朝食を食べる始めるのだった。
~駒王学園~
普段通り登校したイッセーは教室に入りドア付近で雑談していたクラスメイトに挨拶を済ませると、席に着き、1限目の授業の用意をしていた。
「よぉイッセー!」
声をかけられたイッセーが横を向くと、鞄を持ったザックが立っていた。
「ザックか。」
ザックはイッセーの右隣の机の横に鞄を掛けると席に着くと横を向き、イッセーに改めて話しかけた。
「聞いたかよイッセー?」
「何をだ?」
「アイツに彼女ができたんだってよ。しかも今日の放課後にデートするんだと。」
「興味ないな。」
「そうか?俺は驚いたぜ。まさかアレに彼女ができるなんてよ。」
「フン。まぁ、外面だけはいいからな。」
「だな。お前の弟、中身と外面の差が激しいんだよな。」
アイツ―――イッセーの双子の弟、兵藤竜誠は、幼稚園の頃からイイッセーに関する有らぬ噂を流したり、イッセーに罪をなすりつけたりとあの手この手を使って、イッセーを孤立させて苛められるように仕向けてきたのである。
とはいえ、高校生にもなって噂を鵜呑みにするのような者が全員という訳もなく、イッセーの不器用な優しさを目の当たりにしたことのある、クラスメイトや生徒会長の支取を始めとする一部の先輩後輩、ダンス部の部員に教員達はイッセーの事を信用し、親しくしているものも沢山いる。
更に除き被害を受けていると言われている女子生徒に関しても、そのほとんどがイッセーの味方である。
何故なら、覗きの真犯人である元浜・松田という変態二人組が覗いている現場を偶然通りかかったイッセーに追っ払ってもらった事が多々あり、当初は半信半疑だった彼女たちもイッセーのクラスメイトからイッセーの人となりを聞き、イッセーに全幅の信頼を置くようになったのだった。
「は~い皆さん、席に着いて下さいね。」
しばらくしてチャイムが鳴ると、イッセーのクラスの担任の女教師、山田真耶が教室に入ってきて、授業が始まった。
一日の授業が終わり、下校時間になると、イッセーとザックは帰路につこうとしていた。
「今日は部活もないし、帰ろうぜイッセー。」
「そうだな。」
「一誠君、待ってくれませんか。」
「「ん?」」
そんな時、支取がイッセーを呼び止めた。
「なんだ?」
「実は生徒会の仕事を手伝って欲しいんです。男手が一人必要でして。」
「ザジの奴はどうしたんだよ?」
「それがですね神崎君、匙は風邪を引いて休んでまして。」
「へぇ、ナントカは風邪を引かないっていうのにな。」
「そう言うことなら俺は構わん。・・・ザック。」
「あぁ、んじゃ、俺は一人で買えるとするぜ。じゃあな。」
夜も更け、生徒会の仕事の手伝いを終えたイッセーはやっと帰路についた。
何時もの道を歩いてしばらくすると、イッセーの目に移ったのは、
カラスのような翼を生やして飛んでいる痴女と、光の槍で貫かれて死にかけ倒れている自分と瓜二つの顔の少年の姿だった。