さて、どうなるのか……
ハンターだけが残った部屋でサムは尻尾をコンセントへ挿して体内バッテリーの充電を行って居た。
ゴーグルの赤外線の光も消えて誰の声にも反応せず只の置物と化して居る。
「レイスが連れて来たこのロボットは何なんだ? まぁ、うるさくないなら良いが」
ピクリとも動かないサム。
充電する傍らで行われるもう1つの作業。
内蔵されたシステムが自律的により高度なプログラムを構築する。
誰も気が付かない所で、誰にも気が付かれないように、その作業は着々と進んで行く。
『Zoning and』
『Emotional』
『Range』
『Omitted』
『System』
プログラムの構築には時間が掛かる。
それが終わるまでサムが動く事はない。
ハンターは地元の新聞を片手にデジタル時計に目を移し、作戦がもうすぐ始まるのを確認した。
「2人はそろそろ現地に到着した頃ですな。頼みますよ」
ハンターは薄暗いマンションの一室から連絡が来るのを待つしか出来ない。
///
宗介とヒイロはソ連へと到着して居た。
レイスが用意した偽装パスポートで入国した2人は手頃な高層ビルを見つけるとその屋上まで足を運ぶ。
風が吹く中で双眼鏡を持ち、基地までの距離と外からでもわかる情報を見つけて居た。
「西に3キロの地点、当然ASも配備されて居る。武器もナシに真正面から突撃するのは無理だな。どうするつもりだ?」
双眼鏡を覗きながら宗介は隣に立つヒイロへ呼び掛ける。
援護も補給もない孤立無援状態で基地へ潜入するのは当然リスクを孕む。
バレないように忍び込むにも簡単な変装すら出来ず、崖っぷちに立たされた状況は変わらなかった。
それでも2人は逃げ出すつもりもなければ失敗するつもりもない。
この作戦を成功させてクダン・ミラを助けださなければ折角見つけた活路が閉ざされてしまう。
ヒイロは事もなく平然と潜入する為の作戦を言った。
「この厳戒態勢を見つからずに抜けるのは無理だ。手頃な車を見つけて正面から突撃する。入り込んだ後は自己の判断で行動しろ」
「結局、まともな作戦はナシか」
「決まりだ。行くぞ」
作戦と呼べるモノではないが、目的を共有する2人は高層ビルの屋上から動き始める。
扉を開けて階段を下り、エレベーターで1階まで行く。
外に出たヒイロは言って居た『手頃な車』を確保する為に周囲に目を配る。
だが乗用車では侵入を気取られた瞬間、砲撃で蜂の巣にされてしまう。
少なく見ても数秒間は敵からの砲撃に耐えられるモノでなければ正面突破すら出来ない。
宗介も周りを見渡して車を探すがどれも普通のばかりでとても攻撃に耐えられるモノではなかった。
「やはり最低限の物資は準備して来た方が良かったのではないか? こんな行き当たりばったりで上手く行くとは思えん」
宗介の言う事はもっともな意見だが、ヒイロはそんな風に考えては居ない。
ちらりと横目で表情を伺っただけでそこに焦りなどはなかった。
「お前には出来ない。俺には出来る」
「何っ!?」
挑発するかの様な発言に宗介は一瞬だけ頭に血が昇る。
今では一緒に行動してるが元々中が良い訳ではない。
やり方も考え方もバラバラ。
2人は目的を共有して居るに過ぎない。
そんな2人を繋ぎ止めて居るのがかなめの存在だ。
彼女を助け出す、それが宗介とヒイロの行動力でありこんな無謀とも言える任務に挑む原動力でもある。
「無駄話をする時間はない。アレで行くぞ」
「アレだと……」
ヒイロが示す先、そこには大量の燃料を積んだ白いタンクローリーが走って居た。
「アレがお前の言う『手頃な車』なのか?」
「いざとなれば爆発させて撹乱に使える」
「こちらにも被害が及ぶリスクの方が大きい。まともな選択肢とは思えん」
「ならお前は1人で行け。その方が動きやすい」
言うとヒイロは信号で停車して居るタンクローリーに向かって走った。
躊躇する宗介だが、悩んでる間にも距離は離れて行く。
「えぇい!!」
眉間にシワを寄せて、もうどうにでもなれと迷いを振りきって後を付いて行く。
少し前を走るヒイロは狭い歩道を駆け抜けるが、もう少しで手が届く所で信号が切り替わりタンクローリーがゆっくりと動き出してしまう。
みるみるうちに加速するタンクローリーにヒイロの走る速度では追い付けず、手を伸ばしても届かない所にまで距離が離れようとした。
だがそこに1発の銃声が響く。
音に反応して振り返るヒイロの先には銃を構えた宗介が居た。
「やはり準備は必要だ」
宗介が狙ったのはタンクローリーのドアミラー。
放たれた弾丸は正確に目標へ着弾し、ガラスが貫通して穴が開く。
「うわぁっ!?」
飛び散る火花とガラス片。
運転手は突然の事に驚き右足で思い切りブレーキを踏み込んだ。
巨大な車体の重心が前のめりになりながら減速し、ヒイロはすかさず左側の運転席のドアへ手を伸ばし車体に取り付く。
幸いにもロックは掛かってない。
運転席のドアを開けたヒイロは中へ身を入れると無造作に運転手の上着をガッチリと掴む。
「降りろ」
「誰だお前? うぉぉ!?」
一方的に告げたヒイロはそのまま強引に運転手を外へ放り出した。
投げ捨てられた男は満足に受け身も取れずに固いアスファルトへ体を打ち付ける。
そしてそのままシートに座るヒイロはドアを閉じてシフトレバーを握りアクセルに右足を置く。
男は鈍い痛みにもだえて眉間に深いシワを寄せて、それでも何とか起き上がろうとした所を後から駆け付けて来た宗介が通り過ぎて行った。
「すまない。少し借りるぞ」
男の返事も聞かずに宗介は反対側の助手席へ乗り込むと同時にヒイロはアクセルを踏んでタンクローリを発進させた。
「ま、待て!!」
強奪されたタンクローリーを追い掛けて来る運転手の男。
だが走り出した車両にもう追い付く事は出来ず、加速するタンクローリーと距離を離して行く。
諦めて膝に手を付く男は肩で息をしながら小さくなって行くテールを最後に見た。
「い……今どき強盗だなんて。しかも俺が……上に何て報告すれば良いんだ。あ、取り敢えず警察警察」
スピードを上げて行くタンクローリーの中でエンジン音が鳴り響く。
両手でハンドルを握るヒイロは横目でチラリと宗介の表情を覗く。
「このまま目標の基地へ突入する」
「1つだけ聞くが、何時もこんなやり方をして居るのか?」
「状況による。俺はお前達の様に集団で行動したりしない。常に1人、武器も現地調達。任務を失敗すれば機密保護の為に死ぬだけだ」
「厳しい世界を生き抜いて来たのは同じようだな。俺も物心が付いた頃には銃の使い方を教わった。名前も知らない相手を殺し、すぐ隣の奴が死んで行った。人を殺すのに感情など要らない。あの時、もしも俺が『普通』だったなら精神がおかしくなって居た」
自らの感情を押し殺さなければ人は殺せない。
戦場で戦う兵士は、そうしなければ生き残る事は出来ないからだ。
思春期を戦いの中に身を置き技術を身に付けて来た2人。
類稀なる技術を会得し戦果を上げたがそれが2人にとって幸せだったのかはわからない。
もっと他の生き方も出来た。
それでも戦場の中に居たのは他の生き方を知らないから。
「兵器に優しさなどと言う感情は必要ない。昔、そう言われた。だが今は違う。人間は感情で動く生き物だ。感情に従い行動するのが人間の正しい生き方。俺はそう学んだ」
「そうだな……俺もそう教えられた」
ヒイロと宗介。
似たような境遇を持つ2人の心の中に居る人物は同じだった。
何時も感情的で声を荒げる事も頻繁にある。
真逆の性格、でもだからこそ時間は掛かったが変わる事が出来たのかもしれない。
「もう少ししたら着く。本当に真正面から突っ込む気か?」
「何度も言わせるな」
「今までにも厳しい作戦は何度もあったがこんなのは初めてだ。正気とは思えん」
「お前の技術を当てにして居る」
「お前に言われた所で嬉しくないな。クルツの方がまだマシだ」
「俺がミスリルの残党と居るのも短い間だけだ。やるべき事が見えたのならお前達と一緒に居る理由もない」
「残党か、言ってくれるな。どうせ無茶な作戦なんだ。行くなら思い切り行ってくれ」
「了解した」
言うとヒイロはアクセルを踏み込んだ。
フルスロットルで回転するエンジンが唸りを上げて重たいタンクローリーを更に加速させる。
信号を無視して突切り、交差点を渡ろうとした乗用車のバンパーと接触した。
大きくて重たいタンクローリーに乗用車では相手にならず一方的に弾き返され頭からガードレールに突っ込んだ。
更に加速、更に前へ。
基地への侵入経路である門が見えて来た。
一切減速などしない。
門の警備に当たって居たソ連兵2人が装備してたライフルを向けフルオートでトリガーを引いて来る。
ボディーに穴が開きそこかしこから火花が飛び散るがこのくらいでは止める事など出来ない。
目前にせまるタンクローリーに兵士は堪らずその場から逃げ出した。
「HQ、HR!! トラックが1台突っ込んで来る!! こちらでは止められない!!」
「マズイ!! 来たぞぉ!!」
激しい衝撃。
耳を塞ぎたくなる程の破壊音。
鉄の門に正面衝突してもタンクローリーの勢いは殺しきれない。
邪魔なモノを吹き飛ばし、ソ連の軍事基地へと遂に侵入した。
フロントガラスにヒビが入り視界が悪くなる中でもヒイロはハンドルを握りアクセルを踏み込む。
「このまま突入する!!」
「右から来るぞ、2時の方角だ」
見ると40ミリライフルを構えたグレーの機体、赤い1つ目をしたシャドウが侵入者に狙いを定めて居る。
マズルフラッシュ。
高速で発射される銃弾にヒイロは避けようともせずに真っ直ぐ突き進む。
「基地内でコイツを爆破は出来ない筈だ」
「もう1つだけ言って置く事がある、ヒイロ・ユイ!!」
弾がボディーへ直撃し車体が大きく歪む。
タイヤからスキール音が鳴り響き白い煙が舞い上がる。
辛うじて見えるフロントガラスの先にはコンクリートの壁が。
「生きて帰ったとしても、貴様とはもう2度と組まん!!」
無数に放たれる弾丸。
その内の1発は右後輪を撃ち抜き、タンクローリーは完全にバランスを崩してしまう。
荷台部分がアスファルトに擦れ合い火花を飛ばす。
前方の車体も燃料を積んだタンクの重量には勝てず、ゆっくりとタイヤを地面から離して行ってしまう。
そして重力に引かれるがままに右側の助手席を下にして車体が倒れてしまった。
だが加速した慣性はまだ残っており、火花を飛ばし車体を引きずったままヒイロは基地の外壁へそのまま突っ込む。
「ぐっ!!」
分厚い外壁がバラバラに砕け散る。
あまりの衝撃にシートベルトが強く皮膚へ食い込む。
舞い上がる砂煙に1歩先さえも見えず、ヒビの入ったフロントガラスもいつの間にか失くなって居た。
歯を食いしばり車体を襲う衝撃から何とか耐えるしかない。
立ち塞がるモノを全てなぎ倒してようやく、ズタボロになったタンクローリーは動きを止めた。
基地内に鳴り響く警告音。
意識を手放しそうになりながらも何とか体を起こす宗介はシートベルトを外して、隣に座るヒイロを見てみる。
エアバッグが作動して白い布が膨らんで居た。
「大丈夫だな? 敵が来るぞ」
「くぅっ!! わかって居る。出るぞ」
「世話の焼ける奴だ」
苦しそうな表情をしながら動き始めるヒイロ。
ハンドルを支えにして同じくシートベルトを外す。
割れたフロントガラスを出口にして埃まみれになった車内から脱出した。
出た先の光景は酷いモノ。
ぶちまけられたコンクリート片に様々な資材。
元がどんなだったのかも今ではわからない。
そして目の前には逃げ遅れて巻き込まれた兵士の姿が3人。
生きては居るが満足に動ける状態ではなく気絶して倒れこんで居た。
ヒイロは彼らの元へ行くと装備してたサブマシンガンを奪い取り宗介に向かって投げる。
「これで武器は揃えたぞ」
「偶然だ。こんな事がいつまでも続く訳がない。行き当たりばったりでは――」
宗介が心配して居た武器は調達したがこのやり方に納得出来た訳ではない。
サブマシンガンを渡されると同時にマガジンの残弾確認をしてセーフティーを解除した。
歩を進めようとした時に奥の通路から駆け付けた兵士が大勢やって来るのが見える。
軍靴の足音が響き、ヒイロはサブマシンガンの銃口を敵へ向けた。
「無駄話をする暇はない。ターゲットを救出してすぐにここから脱出する」
「簡単に言う!!」
宗介も銃口を相手に向けて素早くトリガーを引いた。
床へ大量に散らばる空薬莢。
深緑の軍服を着た兵士の肩へ弾が当たり、くぐもった声を上げて倒れ込む。
連携を取るソ連兵達はヒイロと宗介に向かって容赦なくライフルの銃弾を浴びせる。
絶え間なく鳴り響く銃声。
視界が真っ白になる程のマズルフラッシュ。
通路を壁にして砲撃を取り敢えずやり過ごす。
「ここからどうするつもりだ? どうせ何も考えてないんだろ」
「お前に指図されるつもりはない。ここまで来たなら後は1人で出来る」
「1人で任せられるモノか」
ヒイロと宗介はソ連兵の迎撃を避けながら囚われの身のクダン・ミラを探す。
///
メリダ島から脱出したテッサのトゥアハー・デ・ダナン。
戦いに負傷した兵を連れて誰にも見つかる事なく深海で息を潜めて居た。
拠点を失い補給物資もなくミスリル本部も襲撃を受けたと情報が入り、今の状況でアマルガムに反旗を翻すのはあまりにも非現実的。
逃げ出すので精一杯でたくさんの兵士も戦場の中で命を落として行った。
生き延びた事で死者に報いる事が出来るのかは、まだ誰にもわからない。
艦長シートに座るテッサはもう3日もシャワーを浴びてない事を少し気にしながら、シワが付いてヨレヨレになったYシャツで隣に立つマデューカスと今後の事を話し合う。
「ASの状態はどうですか?」
「はい。M9が3機、修復の目処が立ちました。ですが消耗部品の事を考えると戦闘は3回が限度でしょう。それに損害が大きくなればもう直す事は出来ません」
「3回……ダナンのパラジウムリアクターの稼働時間を考えてもそれくらいが限界でしょうね。他の場所から生存者の報告は?」
「いいえ、全く。我々と同じ様に襲撃を受けたのでしょう。カリーニン少佐からも連絡はありません。覚悟を決めて進むしかないかと」
「そう……」
テッサの口から出た言葉はたったの一言だけ。
歴戦の兵士であるカリーニンもまた、戦いの中で行方がわからなくなってしまった。
捜索活動すら満足に出来ず、生き残って連絡が来るのを祈るぐらいしか出来ない。
それでも襲撃を受けてから1週間が経過しても一切音沙汰がなければ、もう生きてないと考えてしまう。
テッサは肘置きを爪が食い込むくらい強く握り締め、悲しみを抑え込み闘争心に変える。
「わかりました。それで、例の衛生画像はどうなりましたか?」
「分析は終わりました。メキシコ南部、ニケーロ近くの海岸帯です。今、座標位置と画像をモニターに回します」
マデューカスが言うと巨大ディスプレイに不鮮明な衛星画像とメキシコ南部の座標を表す地図が表示された。
プールも付いた真っ白な豪邸を真上から撮影した荒い画像をテッサは目にする。
「始めはマフィア等が立てた別荘地だと思って居たのですが、それにしては警備が厳重過ぎます。12時間前の画像を出します」
切り替わる画像は日も落ちかけた夕方。
そこには黒いトレンチコートを着た大男がそこかしこに配置されて居る。
「これは人間ではありません。恐らく、相良軍曹からも報告のあった小型の無人ASと推測出来ます。これから更に12時間後の画像を見ても、彼らは1歩たりともその場を動いてません。そして頭部から見える赤外線の光。無人機の情報とも一致しますので間違いないかと」
「ではあそこに何か手掛かりがあるかもしれませんね。ここでずっと隠れる事も出来ませんし、僅かな糸口を掴まなければ」
「はい。それともう1つ、気になる事が」
「何です?」
「ソ連です。軍事基地に襲撃があったと報告がありました。ニュースでも世界的に報道されてます。襲撃犯は未だにわかりませんが、もしかすると……」
「何故そんな所へ? 味方ではない可能性も充分あります。でも……もしも、もしも味方だとすれば、そんな事が出来る人は限られてます」
壊滅寸前まで追い込まれたミスリルだが、まだ同じ様に戦うモノは居る。
この戦いは世界の誰も知らない。
それでもテッサが戦い続けるのはレナードを止める為。
レナードを止める事が彼女の償いでもあった。
まぶたを閉じてゆっくり深呼吸したテッサは目を見開き力強くブリッジに響き渡る声を出す。
「行きましょう、メキシコへ!!」
「イエス・マム!!」
///
銃声が響き渡る基地内部。
通路を壁にしてサブマシンガンのトリガーを引く宗介は辛い戦いを強いられて居た。
「この先か!!」
「先に行け。後ろから敵が来られると邪魔になる」
言うとヒイロは宗介と場所を入れ替わりサブマシンガンのトリガーを引いた。
その場をヒイロに任せた宗介はクダン・ミラが囚われて居る部屋に向かって走る。
宗介の背中が離れて行くのを確認したヒイロは隠し持って居た手榴弾を手に持つ。
安全ピンを引き抜き砲撃が僅かに止んだ隙を付いて敵陣に向かって投げ付けた。
床に落ちて乾いた音が鳴ると手榴弾が爆発を起こし、舞い上がる白い煙に視界は利かなくなる。
「スモークか!?」
「ぐぅっ!! 足をやられた」
「これ以上敵の侵攻を許すな!!」
スモークのせいですぐには動けなくなるソ連兵。
ヒイロはサブマシンガンのマガジンに残った弾を撃ち尽くすとソレを投げ捨て、宗介が向かった方向へと走る。
扉の前では宗介が立ち往生して居た。
「どうした? ロックか」
目の前には電子制御で厳重に隔離された分厚い鉄の扉。
このままでは解除出来ないとわかるヒイロだが道具1つない状態では1ミリたりとも動かない。
「別の場所から解除するしかなさそうだな」
「その必要はない」
宗介は懐から粘土状の物体、プラスチック爆弾を取り出すと扉にベタリと取り付け信管を刺した。
「やはり最低限の準備は必要だ」
ヒイロの事を睨む宗介だがそんな事では意に介さない。
「少し離れろ。起爆させる」
宗介とヒイロは扉の前から離れプラスチック爆弾の起爆スイッチを押した。
そこまで大きなサイズではなかったので爆発の規模は大きくなく、ドアロックだけを破壊して扉は動くようになる。
両手を使って固い扉を無理やりスライドさせるヒイロ。
人1人入れるだけのスペースが出来るとそこへ宗介が入り込む。
天井も、壁も、何から何まで真っ白な部屋の中では1人の少女が手錠を掛けられたまま座り込んで居た。
「キミがクダン・ミラだな?」
「アナタは?」
「説明する時間はない。ここから逃げるぞ」
彼女を抱きかかえた宗介は脱出する為に走る。
突然の事で動揺するミラだが、ここから出る事が出来る安心感と体に伝わって来る微かな体温に頬を赤く染めた。
部屋を出た宗介は敵に追い付かれない為に更に走る。
その後ろからヒイロも付いて来た。
「レイスはここからどう脱出するつもりだ?」
「通信は送った。60秒以内にここへ来る」
「ここまでして捕まれば全てが無駄になる」
2人はレイスが来るまで兎に角走るしかない。
脱出の手筈はレイスが準備してくれて居るからだ。
けれどもそれを妨害するように、すぐ目の前の天井が突然崩れ落ちる。
「キャァァァ!!」
「ぐぅっ!! 何だ!!」
激しい音と共に崩れ落ちた天井の先には40ミリライフルを構えたシャドウの姿があった。
赤い1つ目が不気味に光り、侵入者である宗介に巨大な銃口を向けて来る。
けれどもトリガーは引かずにゆっくりとマニピュレーターを差し伸べて着た。
『生きてるな?』
「この声……レイスか!?」
『任務を遂行したのは認めるが、少し派手にやり過ぎだ。まぁ、そのお陰で仕事はやりやすかったがな』
「ヒイロに言え。俺ならこうはしない」
「お前のやり方では時間が掛かり過ぎる。俊敏に動かなければ相手にも猶予を与えてしまう」
「だが貴様の方法は極端過ぎる」
「暴走を止める為に他の何かを暴走させる。俺がよく使う手だ」
「それが――」
『口喧嘩は後だ。逃げるぞ』
シャドウのマニピュレーターに乗り込む3人。
レイスは左手を抱えるようにして機体を立ち上がらせ、側へ置いて居たコンテナの中へと運ぶ。
『その中へ入れ。後はアタシが進める』
「頼む」
宗介は最後にそう言うとミラと一緒に明かりが一切ないコンテナの中へ入り込む。
ヒイロも続けてその中へ入るのを確認したレイスは外側からマニピュレーターで強引に開閉レバーを動かす。
明らかにオーバートルクでレバーはひん曲がってしまうが、取り敢えず閉める事は出来た。
向かう先は輸送ヘリの場所。
鉄の音が響く足音を規則正しく鳴らしながら進むシャドウ。
抱えられたコンテナの中で宗介は、やっとの思いで救出したクダン・ミラと向き合う。
真っ暗なせいで互いの表情はわからないが宗介は話し掛けた。
「こんな強引な手段になってしまってスマナイ。だがこちらにも余裕がなかった」
「いえ、助けてくれただけでもありがたいです。どうしてこんな所にまで連れて来られたのかもわからなくて。とにかく不安で、怖くて……」
段々と小さくなる声。
それを聞くだけでも彼女が受けた恐怖が伝わる。
「詳しい話はまたレイスに聞く事になるだろう。今は拠点に戻る事が最優先だ。安全が確保出来るまでは俺がキミの事を守る」
「ありがとう……ございます。それと聞いてなかったのですが、お名前は?」
「あぁ、そうだったな。俺は――」
次の瞬間、コンテナが大きく揺れた。
「伏せろ!!」
咄嗟にミラへ飛び付いた宗介はコンテナが傾くのを察知して彼女の身を守る。
中に積まれていたモノがガタガタと音を鳴らし盛大にぶちまけられた。
闇の中をズルズルと滑る中、視界が全く見えないせいで足が何かにぶつかってしまう。
「っ!!」
痛みに耐えながらも何とか壁に手を付いた宗介。
そしてコンテナの傾きも水平になり静けさが戻る。
抱きかかえられたミラは小さく縮こまり震えながらも、守ってくれた宗介を心配して顔を見た。
「あの……大丈夫ですか?」
「右足の骨が折れたな、これは。だが、それ以外は問題ない」
痛みに耐えながら話す宗介。
すると真っ暗だったコンテナの中で光が灯る。
目を向けるとランタンを持ったヒイロが立って居た。
「ヒイロ……」
「足の骨か。見せてみろ」
「このくらいなら何ともない」
弱みを見せたくない宗介は拒否するがヒイロはランタンを床の置いて足の状態を見た。
ズボンをめくって手で触り腫れ具合等を見たヒイロは右手で足を強く握り締める。
「歯を食いしばれ」
「何をっ!? ぐぅっ!!」
聞く暇もなく、折れた足を力任せに動かし向きを変える。
折れた時よりも更に強い激痛が宗介を襲う。
くぐもった悲鳴を上げ、忍ばせてた銃を思わず手に握る。
だがギリギリの所で銃を抜くのは踏み留まり、ボロ布と当て木で骨折の治療をするヒイロを見た。
(コイツが敵なら……チームでないのなら、今すぐ頭をぶち抜いてやりたい気分だ!!)
でもそうはしない。
一時的ではあるが同じチームなのと、隣にはミラが居る。
そしてハッキリと気が付いてはないが、ヒイロが死ぬ事はかなめが悲しむ。
激痛に耐えながらも、理性が何とかそれを阻止した。
(やはり、コイツとはもう組まん!!)
心の中でそう宣言する宗介であった。
宗介とヒイロ、似たような境遇で過ごしてきた2人ではあるが考え方もやり方もまるで違う。
始まったばかりのこのチームだが前途多難である。
この話で宗介とヒイロの考え方や動き方に明確な差分化をさせました。
設定からも外れてないとは思うので問題ないはず。
宗介は長く組織に所属してチームとして動いて来ました。
対してヒイロは動く時はほぼ1人です。
故に考え方も違うし、少しギスギスした感じにして見ました。
この2人が仲良くなる日は……来るのかなぁ?