こちらIS学園“きらら”行き 作:きらきら星協奏曲
春うらら、天候に恵まれて快晴の空の下、きっと各地の学校では同じことをしているはずだろう。
4月8日の朝の一幕、心新たにする彼女らの目の前にいるのは、大変可愛らしい少女だった。
「わ、わわ……」
その少女の一挙一動がまるで小動物にしか見えない。
しかしそれを待っているのだから何とか挨拶しないといけない。
その小さな背丈の少女は何とか立ち上がって、怯える子犬のようにプルプルと体を震わせながら口ごもるが。
「え、えっと……」
だがそのちっぽけな体に、しっかりと勇気をもって──自己紹介に励む!
「こ、こんにちわ……わ、私の名前は、織斑
大きな瞳をキュっと閉じながらペコリと頭を下げると、小さな右側にまとめたおさげも一緒にお辞儀する、この時の他の女子生徒の印象は──。
(かわいい)
(かわいい)
(ああ^~)
(何あの天使)
(歩く癒しかな?)
(織斑って、え……ホントにあの人の妹?)
概ね好評で悪い印象は持たれていなかった────まあ得なかったのだから、別にそれでいいじゃないか。
それに困ったのならとても心強い、本当に心強い姉さんが彼女にはついている。
「ん˝ん˝っ……お前ら、少し自重してやったらどうだ」
そう言うと静かになった教室もにわかに色めき立つ。
それはそれで彼女はとってもやりにくいものだったが。
「は、はい。 千冬先生……!」
「……で、でも。 とっても可愛……これから一緒に学ぶのですから……」
「仲良くなりたいもんねー」
「そ、その通りです! それでもって願わくば……グヘヘ」
怪訝な顔を浮かばせるばかりの千冬と呼ばれた女性教師は、とにかく心配で仕方がなかったのだった。
勿論こういうところに来させる事自体は、特に自分が所属しているこの学園──IS学園に来させることは吝かではない。
寧ろ精神衛生上及び自身の妹の安全を守るという意味でも、ISに対する高い適性があることにとても安堵したのは、その点をつつかれればきっと彼女も苦い顔をしつつそうだがというだろう。
一方で環境面で配慮できなかったのは残念だが──主にこのクラスにおけるあまりにも濃い面子という形に対して。
「ふ、ふえぇっ……!」
「止めんかお前ら! クラスメイトを怯えさせてどうする……!」
「は、はいっ!」
顔が真っ赤になるほど照れてしまった夏海は、〆の言葉を言うために、また小さな体で思い切り頭を下げながら、更にすり減った勇気を出して何とかその挨拶を終えようとする。
「あ、あのう……これから、3年、よろしくお願い、致しますっ!」
結果として彼女らにどう映ったのかというと──。
(かわいい)
(ヤバイ)
(ヤバイわよ!)
(食べちゃいたい)
(うへへ……!)
(千冬を倒したい、という気持ちは他の同級生以上だと思う)
どうあがいても不埒な一面を曝け出したり発掘させたりしたが、そんなことはどうでもいい。
ホッと一息ついて乗り切ったことを確認すると、ふうと言ってまだ突き刺さる熱い視線を浴びながらも、ようやくその身を落ち付かせた。
だからかその視線の中に、さらに意味深な視線が二つ突き刺さっていることに、この瞬間だけ不幸にも気が付かなかったのだった。
◆
きっと各々にとっては待ち望んでいただろうが、間違いなく織斑夏海にとっては望んでいなかった時間がやってきて──。
「ねえねえ夏海ちゃんって言うんだよね? ラインやってる?」
「メアド交換しない!?」
「髪の毛さらっさら、シャンプー良いの使ってそー……!」
「何かわからないことがあったら教えてあげるよっ!」
「大丈夫……お姉さんがね、色々……じゅる」
LHRが終わって、カリキュラムの都合上二時間目が始まるその前の休み時間。
かなり僅かな時間を無駄にはすまいと、あっという間に人だかりができてしまって、夏海の周りを取り囲んでいく。
彼女が魔性の女だからというよりは、彼女らが子犬にたかる気分に近いが、ともかく柔く脆い精神を持つ夏海にとって、それはもう堪ったものでは無かった。
「あ、あうあうあう……!」
「大丈夫? 頭なでなでされる?」
「ぴいぃぃぃぃ!」
だが彼女はこういう風に囲まれて、まだそんな悲鳴を上げられるだけましだという事。
そして恐らくこうされて可愛がられている方が、落ち着いてくるのではないのか。
そう思わせられるのは、この後すぐの事だった。
「──────貴様ら」
正しく圧の効いた声が飛んでくれば、その方向を一斉に取り巻きとなった彼女らは目線を向けるが、その体を突き刺す視線にすら全員勝てなかった。
まさに蜘蛛の子を散らすよう、ゆっくりと歩いてくるその人は、ゆったりとポニーテールを揺らしていて。
剣術少女と言うべき立ち振る舞いをしていた少女は、そっと近寄って夏海の肩に手を置くと、ふと微笑みをたくわえた。
「……え?」
「久しぶりだな、夏海」
「……箒、ちゃん」
彼女の幼馴染である、篠ノ之箒がそこにいたのだった。
◆
「もう、6年もあってなかったんだね……」
「本当に久しいな。 寂しくは、なかったか」
こういって心優しい言葉を掛けてくれる彼女は、実は剣道大会を連覇してしまうくらいには強いとは信じがたい。
だが彼女は諸事情で住む場所を移していても、こうして心強さを感じるという事は、それを知っていたのだ。
「箒ちゃんの活躍、いっぱい聞いてたから……でもやっぱり、会いたかったかな」
彼女の前だけ見せる弱弱しい笑い方とデレっぷりは、きっと老若男女問わず心を射止めてしまうだろう。
天然物だというから本当に恐ろしい話だ、別パラメータに振った傾国と言われても仕方ないだろうから。
ともかくそんな優しい性格に感化されたか、箒はふと細い指をそっと伸ばしていく。
「全くお前は……昔から変わっていないんだな」
「ふわっ!」
突然柔らかい頬を突っつかれて、驚いて身を引いてしまう夏海。
間違いなくまた目をキュっと閉じて、栗みたいな口をしていた。
だがそれに思わず手を引いてしまった箒は、ついその顔をそむけてしまった。
「あ……」
それが罪悪感から来るものなのだろうと思って、夏海も片方にまとめた髪を揺らしながらもつい俯いてしまうのだった。
「ご、ごめんね! つい……もう、私ったら。 昔からこんなのだから……その……」
そうだと──すっかり
「箒ちゃんがいいなら、
「────本当か?」
だがそうでは無かったのだ。
「え……ど、どうし」
「本当なのか?」
「──あ、あぅえ?」
がっしりと体を掴まれてしまった夏海は、剣道を極める彼女の力から逃れる術はない。
肩を強張らせて、抵抗にも思えない抵抗をするも、結局その力も眼力と言葉によって収まっていってしまう。
そして一つ、気が付いてしまったこともある。
「箒、ちゃん?」
「本当にその、マシュマロのような柔らかいほっぺたを、そしてその柔肌を、
「え……」
残念なことに、今まで親しい仲だと思い込んでいた幼馴染も、すっかりこの6年という長い間で変わってしまっていた事。
そして元からあった僅かな火種が、こうして結びついてしまったことで、ついに実を生った事。
さて今やあの捕食者──それを通り越してプレデターと化していた幼馴染に、ようやく気が付いたころには、夏海の身柄はとっくに確保されていた。
「そうか、そうして、欲しいんだな? 夏海……」
「ち、ちが、あ、あわっ……!」
「なあ、夏海? こんな語録を知っているか──」
そしてゆっくりとそのしっとりとしたやや小麦の柔肌に細い指が通る、しかも体のラインに沿ってなぞっていくから、彼女の体は嫌でも感じてしまう。
つい内股になって、だが熱い視線から逃れられない夏海の目は涙目で、今はやめてと言えない有様になってしまっていて。
「吐いた唾は呑めぬ、とな」
青い空の下、校舎の屋上で──これ以上は何も言うまい。
ただ一つ言うならば────二限目が始まる前、二人して教室に帰ってきたとき、篠ノ之箒の肌はなぜか随分艶だって中々美しかったという。
◆
はてさてこれからどうなるか、ともかく頑張れ、織斑夏海ちゃん!
これから先も多分こんな目に遭うから、どういう選択肢を取るにしろ、今のうちに慣れておいた方がいいかも知れないぞ!
い き ぬ き(某少女雑誌のCMのごときリズム)
一言言わせていただけるなら――――俺の答えはこれや。
ただこんな作品でも、何か感想や評価いただけるなら幸いです。