こちらIS学園“きらら”行き 作:きらきら星協奏曲
「──────まっ、たく!」
はきはきとよく通る声が聞こえてくる、或いは溌剌で良く跳ねる声とでも表現出来よう。
とにかく彼女がどんな人間であっても、特に目の前にいるはずなのに、何もアクションを起こせない箒にとっては、あまりにも今後の関係性を危惧するのに十分だった。
「離れ離れになったと思ったら、アンタね~!」
「ええ~……」
プリプリと怒っている。
見た目も何も可愛らしいと言わざるを得ない、ツインテールの彼女──しかも夏海と同じぐらいの背丈の少女だが、その人がぐいぐい迫っていくものだから、箒はやきもきしてしまう。
だがそれだけならまだかわいいもの、問題なのはやはり、夏海のこの態度。
「知ってるのよ? アンタらしくないこと、まさか仕出かすなんてね!」
「そ、それは……えへへ」
「えへへじゃないのよ! 何かあったら危ないでしょうが! 昔っから弱弱しい感じだったのに、いつの間にかあんなになって……挙句の果てに、こっちに来ているなんて、アタシもアンタも気が付かないなんて!」
「ご、ごめんなさいー!」
「まったくアンタわねー! 言ってくれなきゃ困るのよーっ!」
頬を突いたり揉んだりされているが、それを普通に受けいれている夏海に違和感を覚えつつも。
だが間違いなく自身より慣れ親しい気配を、彼女に対して持ち合わせているのだ。
少しだけ悲しくなると同時に、危機感をも覚えた箒は、驚愕と悲観が入り混じる強張った顔のまま、夏海とそして名も知らぬ少女に対して交互に視線を向ける。
そんな彼女らがようやく口を開いたのは、これよりさらに少し後だし、何なら箒ではなくセシリアからその言葉は発せられた。
「あの、どなたですの?」
気が付いた彼女は、机を挟んで対峙するセシリアに、キッと敵意も交じった視線を向ける。
「へぇ~、代表候補生が他の人間を知らないなんて、良い度胸してるのか、それともただのマヌケかと」
「はっ!?」
「だぅ、駄目だよ鈴ちゃん!」
しかしそれに突如そんな挑発的な言葉を放ったので、セシリアは驚いた顔をして、そしてまた彼女の名前を呼んだ夏海。
そんなやり取りの衝撃によって、ようやく正気に戻された箒は、何とかその名前を問いただそうという気持ちになる。
「……鈴? 鈴と……」
「そう呼んでほしくないんだけど!」
「な、ならばっ、誰だ!?」
その言葉を待っていた──まるでそんな気概を、大きく反り出した胸、そして腰に当てた手と、爛々と輝く大きな瞳で証明するような態度で、堂々とそして挑戦的な声音で自己紹介を始める。
「アタシの名前は
また不意にギュッと後ろから抱きしめられた夏海、顔を寄せられると、男らしくも少し色香を感じる鈴音にドキリとしつつも、全く変わっていないなあという意味という意味の苦笑いを浮かべた。
「コイツの、夏海の一番の親友よ」
◆
「ど、どうなっているのだぁっ!?」
涙目で夏海を思い切り抱き寄せた箒は、顎を全力で頭に擦りつけながら、泣き言を垂れる箒。
だがこれでも正気に戻っている方である、驚くべきことにである。
あの後、鈴音という少女から聞いた話では、転校先の学校で友情を深めたと。
しかも他ならぬ、夏海自身が肯定していたという光景は、箒にとって凄まじい衝撃であったのだ。
午後の授業は、本当に身に入らなかったと、箒は言わざるを得なかっただろうほどに。
夏海、何とかせい!
尤も彼女にとっては状況不明である。
「どう、なっている、って」
「凰鈴音の事なのだぁ! わた、私以外にも、幼馴染がいたなど……聞いていないだろうぅがぁ!」
語尾どころか発音からおかしくなっていった箒、流石にここまで取り乱したのは過去を遡っても、一度あったかどうかくらい。
剣道少女のこの対応は流石にビビる、誰でもビビる。
「ご、ごめんね本当に! でも……その、ね」
「なんだぁ……所詮お前は友達だよで終わらせる気なのだろう? どうせ、あーそうだね、そんなのいたな、うん友達などと、大分はぐらかす関係でしかないのだろう……」
「待って」
「同窓会ではハブられるのだろう、そしていつのまにか連絡すら忘れられて……」
「ねえ何かおかしいよ!?」
不逞の狂気にたどり着いた末に、遂にメンヘラ属性までついたのか、全く度し難いぞ。
ともかく箒を正気に戻す以外に方法などない、取り敢えずやめてほしいという、彼女にとっては強烈な意思を込めた視線を込めて────夏海は呟く。
「大丈夫、だから……っ。 箒の事、その……大好き、だから」
夏海の『なきおとし』!
正直『こうかはばつぐんだ!』と言い切れるだろう。
さらに彼女の──これは演技でも何でもなく──言うのが恥ずかしくて顔が真っ赤になっていたのも、夏海にとっては功を奏していたのだろう。
それがだ、それで大人しくなるなら話も出来るだろう。
実際箒は何も知らないままに、彼女を抱きしめつつ問いただしていたのだから。
だが想定以上の、というより想像の埒外にある反応は、流石にそれに反応しろというのはかわいそうと思うべきか。
ポタリと白い肌の膝の上に、何かが垂れる。
「……?」
だがそれが何なのかは、そしてそれがどこから出ているのか、すぐにわかって彼女は顔面蒼白の反応を見せる。
「……!?」
そしてゆっくりと何かが離れていく感覚に、すかさず彼女も振り向かざるを得なかったが。
「ちょ、ちょっと?」
「……」
ドサッと人工芝の上に倒れ込んだ箒は、顔を真っ赤にはらして、そして鼻から血が止まらない。
「ね、ねえ! ちょっと! 箒ちゃん大丈夫!? いや、ええ、と、ええっと! 人工呼吸じゃなくて、えっと……ね、熱中症? 日射病? ちがう、そうじゃなくて……まず、うんしょ!」
「ふふ、ふふふ! 夏海が、私の事、大好き……!」
「いやそんな事、言ってる、場合、じゃ、なくて! こ、木陰よし。 で、スポーツドリンク……」
変なことをのたまっている彼女に対して、献身な看病をしてやろうとするも、ふと水分補給を兼ねた彼女は、腰元のペットボトルに手を伸ばしかけて、それをいったん止まらせた。
理由は簡単だ。
「……く、口づけ……」
「え、く、口づけ? 間接キス? それが私は欲しい」
「何か、お、おかしくなってるよぉっ?!」
さらに症状が悪化して、鼻血が止まりそうにはなくなるどころか、それで大河さえ切り拓いていきそうなほどになる。
夏海はただ顔を俯かせ、手で表情を覆うしかない。
結局この後夏海は弱弱しい声で助けを求めると、何処からともなく現れた織斑千冬の手によって、箒は無理矢理保健室にぶち込まれたのは、誰もが予想できる光景だろう。
◆
「……全く何にも変わってないんだと思ったら、変な風になってるんだから」
部屋の中で一人呟く彼女は、既にカジュアルなパジャマに着替えて、ベッドの上に座ると貧乏ゆすりを始めている。
何とも渋い顔をしていると思うが、反面どこか嬉しそうな顔を浮かばせているのも確かだ。
だからルームメイトの少女は、何か良い事でもあったのかなと、問いかけてみる。
「どうかしまして?」
「……べ、別に何でもないわよ」
(……)
「そうなのですね?」
だがそれ以上深く問いただしてやるなどの無粋な真似は、絶対にその者はしなかった。
わざわざ藪をつついて蛇を出す真似など、したくは無かったわけで。
それに方向性は違っているとはいえど、鈴音もまた可愛らしい少女である。
安易に曇らせるべきではないとは、彼女も解っていた。
(うーん、ですけれども)
如何にもお嬢様学校で育ちましたよと言える、何とも自然で上品な振る舞いのルームメイト。
ソファーから立ち上がって。室内灯を少し暗くしてもいいかなと尋ねてから、その部屋の電気を薄暗くする。
読書には良い光度でもあったが、それ以上の意味として、こちらを気にする様子もなさそうな鈴音の姿を見れば。
彼女もまた満足そうに、文字を読み解くのに耽ていく。
(今は、これで良いでしょうね……)
何度も言うようだが、彼女は
お嬢様学校に通っていたと言っているのだから、こういった禁断の恋の一つや二つは見慣れているわけで。
それこそ彼女の反応と言い、やきもき具合と言い、非常にかわいらしいものだ。
だからこうして、遠目からではあるが、彼女の想いを慮る器はあったのだった。
◆
めんどくさいことになったぞ、織斑夏海ちゃん!
というより、どうにかこうにかしないと、結局待っているのは、本当に面倒くさい事なのだから!
嵐を呼ぶ!(某映画サブタイ並感)
本当に無事嵐を呼んだところでここまで。
こんなのでもよろしければ、感想評価、お願いいたします!