こちらIS学園“きらら”行き   作:きらきら星協奏曲

12 / 12
第12話 日々是修練

「空を飛ぶ……といっても」

 

 そうだ、と険しい声が聞こえる。

 

 彼女らは授業のためにアリーナに出ていた、目の前にいるのは、より気を張り詰めた千冬先生である。

 

「何を言っているんだ。 結局のところ、お前たちでは空に浮かぶどころか、システムの補助なしでは安定して歩くことすら出来んだろう!」

「は、はいっ!」

 

 

 

 これらの千冬の態度は、仕方ないことであるし、彼女が言った言葉もまた事実。

 

 本体ならば、直立歩行の方法から教えなければならんというのは、そんな必要は全くない。

 

 システムをオフにしてまでも、教え込むというカリキュラムがあるのは、結局のところ彼女らはそれを使うということの意味を、喪ってはいないかどうかというのもあるのだ。

 

 そもそもISは宇宙を目指すための物である、と教わっているし、そのような仕様もきちんと組み込まれているのだ。

 

 だから未知なる領域で、彼女らが対処できない不具合が起こってしまえば、そのまま彼女の生命の存亡へと直結する。

 

 だからこうまでしての、実地訓練に似た授業が執り行われるのだ。

 

 尤も──それに加えて、ISのみに限らず全てのパワードスーツにおける仕様を、せっかくなのだ叩き込めと上からの指示があったのだ。

 

 しかもうってつけの教材が、実際にそこにあるではないか。

 

 そんなわけで、本来よりますます厳しいものになったのというのは、彼女らには教えられそうにはない。

 

 

 

「とはいっても、きちんとした飛び方を知っているのは、この中ではまだ……」

 

 ちらりと二人を見れば、妙に距離が接近している状況と、その横でやきもきしている篠ノ之箒を見て、千冬はただハアとため息をついた。

 

「……織斑、オルコット。 前へ」

 

 彼女たは気付くと、慌てたように走って前に出てきて、少し気まずい顔をしていた。

 

 ますます頭を抱えたくなるような話だが、ともかくそれをよそに置きつつ、彼女らに指示を出す千冬。

 

「ISを展開してくれ」

「はい」

「は、はい!」

 

 何とか冷静さを取り戻せていたセシリアは、きちんと1秒足らず、一瞬で装甲を身にまとったが──。

 

「……」

 

 いや彼女もその位のタイミングでそれは出来たのだ、出来たのだが。

 

「……相も変わらず綺麗、ですけれども」

 

 装甲がきちんと展開するのに、おおよそ5秒或いはそれ以上かかってしまっている。

 

 ただ彼女が悪いというのはおかしいだろう──だって、そもそもISを展開するときの、エフェクトの長さとド派手さと言ったら! 

 

 まるでおとぎ話を映画にされたとき、確かにそこに付け加えられた、きらびやかな魔法のエフェクト。

 

 そして魔法少女の変身バンクの如く。

 

 早ければ早い方がいいだろうに、しかもそこにシールド機能さえあるのだ。

 

 良いと思うか、堪ったものではない。

 

「ああああの! ちゃんと設定、して……これなんですぅ……」

「技術班には強く言い聞かせておく」

「難儀なものですわね……」

 

 飽きれたような同情するような声をセシリアは上げてくれて、ただ千冬はそれを遮るように咳ばらいを一つ。

 

 アリーナに建てているポール、丸い先端を視線で指しながら。

 

「……ともかく二人とも、あの上昇して、一周旋回して、その後急降下するだけだ」

「どのくらいまででしょうか?」

「地上30㎝まで、まずはセシリアから」

 

 分かりましたわと言い終わるまで、セシリアの間が持たなかったのか、地面を蹴って青い軌道を残していく。

 

 

 

 流石にあれだけ戦いのできる人間なのだ、悠々と『ブルー・ティアーズ』を駆ける様は大変見ごたえのあるものだ。

 

 ただ彼女がこうしてやる気になっているのは、やはりジッと視線を向けている、ただ一人の少女の為である。

 

「……フフ」

 

 艶やかだが幼さを忘れていない笑みを浮かべて、ウィンクを一つ返してから空中で何回か、だがしっかり見やすいような緩やかなロール。

 

 下ではおおと歓声が上がったが、そんな物を気にしてなどいない。

 

 ほとんど全くもって。

 

 大事なのは──。

 

(しっかりと、見ていてくださいな!)

 

 夏海が見ているかどうか。

 

 だが彼女とて何も邪なものを腹に蓄えているわけでは無い、というのも──。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

『ところで、私が言うのもなんですが』

 

 朝の嵐はまだ過ぎ去っていないころ、まだボロボロなセシリアからこのような言葉が発せられた。

 

『──なんとも、危なっかしい戦いをしてらっしゃいますわね』

 

 突然何を言い出したのかと、箒は一瞬思ったのだが、それに対して夏海の反応は──相当芳しくない反応だった。

 

『……やはり、自覚があるだけ、まだホッと一息つけると言えますか』

 

 どうやらアウェーなのは自分だけなのかと、箒は焦る表情を見せるが、ふざけている場合ではないのは確かだろうに。

 

『それは、一体』

『空中戦での彼女の光景、見ましたでしょう? 私は近くから見た者ですから、はっきりと言い切れますが──夏海さん……あなた全く、戦うための体の動かし方を、分かる分からない以前に──()()()()()と思えない!』

 

 つまるところ、運動音痴というか、いやもっと厳しく言ってやるのならば──戦うセンスがないという事だ。

 

 たしかにISの性能はぶっ飛んでいると言って差し支えない。

 

 それを使って出来ることは、彼女の()()未熟な観察眼でも、数多あるだろうことは分かる。

 

 だがそれ以上に──戦えないというのでは、いや好戦的になれという話ではなく、そもそもそのような事が出来ないのでは。

 

 それは夏海の動きから、いやもっとそれ以前から──。

 

 だからセシリアは指摘もしたし、驚きもしたし、何なら歪だとも思っていたのだ。

 

 

 

 だが勝ってしまった。

 

 

 

 そう()()()()()()()のだ。

 

 

 

『あー、それアタシも思うわ』

 

 横から突如顔を出してくるのは凰鈴音、彼女はまだ帰っていないどころか、夏海の背中にぴったりくっついて、顎を小さな頭に乗せてすらいる。

 

『……いつまでいるんだ、お前は』

『鈴音って言ってるでしょ? お前なんて名前じゃありませーんー』

『そう言う意味ではない! おおよそ部外者の……』

 

 箒は相も変わらず喧嘩腰であるが、そんな彼女の文句を咄嗟に手で制したセシリアは、とにかくと話しを進める。

 

『とにかく、これから先は貴方に、戦わなくてもいいという選択肢はあるかもしれませんわ。 それでいても……貴方は戦う力はあった方がいいと、私は考えるのですが』

『……』

『夏海……』

 

 

 

 夏海はあまりにも哀しい顔で、深く考える。

 

 戦ってはいけないという制限は、確かに自身の中に存在していた。

 

 だがそれが嫌がらせでも何でもない、ただ姉からの思いやりから来るものだというのはわかっていて。

 

 IS学園に入れさせてくれたのも、結局ISが上手く使えるなんてものでもない、単純に────友人が欲しかっただけ。

 

 この場にいる誰よりも、一番自分が薄汚いと感じる。

 

 また────前の自分みたいに、今度はセシリアを裏切る真似をするのかと。

 

『…………』

 

 彼女はふとその瞳が、弱々しい輝きから全く別の物へと移り変わって。

 

『私に、その……出来ない事は、いっぱいあると思うんです』

『!』

『それに……本当は、戦うのが、怖いんです……。 私は、それに、強いとか弱いとか、分からない、です』

 

 箸をパチリと置いた夏海は、真っすぐな瞳でセシリアの青い瞳を見つめ返す。

 

 答えは決まった、ただ二つばかり、絶対に約束しなければならないだろうから。

 

 

 

『それでも────』

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 夏海はあの軌道をじっと見つめている。

 

 流星のようにそして光のように、円を描いている軌跡を目で追っている。

 

 ああと千冬は心の中で嗚咽を漏らす。

 

 なぜだと哀しみを表したい。

 

 だけれども、先日の出来事は夢でない、その位の分別と冷静さはあるつもりだ。

 

「……よし、セシリア、まず手本としては上出来だ」

「滅相も」

「だが手を横に向ける癖だけは治しておけ」

「……」

 

 ガクリと崩れるセシリアを無視して、千冬はただ催促する、あるいはそうするしかない。

 

「……次は夏海だ、同じように、同じルートを通るだけだ」

「はいっ」

 

 小さくだが元気よく声を出して、彼女は地面を蹴るとふわりと飛んでいく。

 

 それは本当に緩やかに、優雅に。

 

(……ああ)

 

 ただ先ほどと変わらないような、その光景は千冬に強く刻み込まれていく。

 

 手を伸ばしていたかった、だがしなかった。

 

 外聞などではない、伸ばしても届くはずもないだろうと思ったから。

 

 自分の姉妹、自分の肉親、ただ一人の可愛い子供──今空へと昇っていく。

 

(……綺麗だ)

 

 

 

 

 

 ────ただ今だけは、お手本にしたい綺麗な円を描いて、内周を飛んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 がんばるのかい、織斑夏海ちゃん。

 

 だけどあの空は遠く、そして遥か彼方だ。




空を駆けてゆく。

子供たちはあんなにも自由だ。

こんなのでもよろしければ、感想評価、何卒お願いいたします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。