こちらIS学園“きらら”行き 作:きらきら星協奏曲
「そう言えば……」
普通の教科の終わり際、その担当となる千冬はある一言を飛び出させてしまう。
「再来週、この学園で行われる、クラス代表戦の代表者を選ばなければならないのだが……」
教室は騒めく、どういう事だろうと。
「まぁ他校で言うクラス委員長の決め事と言っては間違いないだろうな。 一年間代表を務める者は自薦でも他薦でも構わないが……」
だがここから少し違うのがIS学園。
「──ちなみにクラス代表戦とは、各々のクラスの実力を測るものだ。 所謂代表者同士の模擬戦だな、勿論それを見ることも学びにつながる、一体どういう動きをしていたのかというのもしっかり見るべきところだ」
おお、と声が上がれば、その後ろで確かにと小さくうなずく少女の姿もある。
確かに代表者は十分な衆目の目に晒されるだろう、それもその技術すらも学んでしまおうと躍起になる人たちに。
しかし実際にやってみるのと見てみるのとでは、大きく違いを見せるのは、何処の世界でもそう。
だからこそ、そんなものがあるのだろうが──。
「誰かいないか?」
だが彼女には、実際に推しておきたい人がいた。
「は、はい……」
「! 織斑、どうした」
「あ、あの……それ、篠ノ之箒ちゃんを、推薦しますっ!」
「……えっ?」
「む?」
「……あ、あら?」
「えっ!?」
困惑し始める教室の中、信じられない顔を見せるセシリア、そして──突然選ばれてしまった箒は、何か悲しい目をして彼女を見ていたのだった。
彼女は視線だけ黙って向けているばかりであるが、何処か若干の怯えすら入っていたのは、先程の時間でマズイことをしてしまったのではないのか、本気で怒らせたのではと思ったからだ。
ぶっちゃけそれで推薦されても、別に大した仕返しでもないというのは置いておいて。
「い、いや、変な事考えてないですぅ……」
「本当、なのか?」
「だ、だって。 もう昔から実力を知っているのは、この中では箒ちゃんだけだし……しかも剣道の全国を取っちゃうんだから、私よりもずっと強いと思ったから……」
何処か子供らしい決めつけだが、事実としてあるのなら納得のできる回答だ、特に自分と見比べたら。
それこそどこぞに悔しそうな顔を浮かばせている代表がいなければ、そのまま通りそうなほどの説明だ。
因みに金髪ドリルはその隣席の子が、うげぇとした顔をしているのに気が付いておいた方がいいと思う。
だが自分は謝らなければならないだろうな、そんな不遜な事も、実は考えていないわけでは無いのだった。
「それに……」
「そ、それに……?」
「それに」
「それに──あっ」
「何だ……」
「箒ちゃんのカッコいい姿、見たいから……応援したいから……」
結局なところ、頑張る友人の姿を見たいだけの、純粋に憧れている姿が見たいのだという望みがあった。
だが、そこには彼女の弱みも実は覗いていたのだが──。
「やっ、やっぱりだめだよね! そんなの、変な言い訳っぽかったかなって……」
「────」
じっと見つめているその瞳を見てしまうと、箒は釘付けにさせられたまま、その綺麗な感情に触れて。
黒く丸いあの瞳を、純粋さを忘れなかった彼女の奥底にあるものは、嘘などついていないという証明に事足りる。
そこには彼女の影を追いかけてきたなつかしさが映っていた、ややセピアがかった素敵な思い出が箒の奥底にあって、それが突然湧き出してくると──。
「……いや」
「えっ?」
「夏海の頼みだ……仕方ないなぁ!!」
最後の最後で大声出してぶち壊したぞこのモップ、まあこんなこと口走るという事は、おおよそ考えていることも簡単だ。
(いやー参ったなー、まさかこの私が、私が!! そんな事頼まれてしまうとはなっ、まさかこんな所で
相変わらずの煩悩塗れであるが、その周囲ではやっかみがもう起きている。
(これマジ?)
(その手があったか……)
(ていうかあの子顔隠せてねーよ同類だよ!)
(ていうか夏海ちゃん気づいてないし! 鈍感か~?)
(それがい良いんだよ定期)
(てえてえかこれ、てえてえで良いんだよね?!)
(信頼独り占めとか、どうして……どうしてなんでしょうね……?)
そんな各々の思いは募りつつも、結局はそれで納得がいくかと思われた──その時だった。
「──納得いきませんわね? ええ、とっても、納得いきませんこと」
ああ忘れるわけが無い、特にこの二人にとっては。
誰だ誰だこんな空間に割り込んでくる男のような真似をするのはと、一斉に後ろの席に向って視線が集まるが、彼女の堂々とした面構えは崩れることは無い。
ドリルの様な髪を揺らして──セシリア・オルコット、ご出陣でございます。
「また貴様か!」
「ええ何度でも仰るくらいなら安い物、ですが早々認められないものを、手自ら勝手に折るわけにはいかない性分でしてよ」
イギリス出身にしては随分と口が回ると思われる。
そしてその裏腹にある確かな意思も感じて、だからこそ──夏海はほんの少しだけ弱った顔をしながらも、首を傾げてしまうのだった。
「こ、今度は、何でしょうか……?」
「代表候補生、ここにいるのですけど? 先ほど話したように相当の実力がなければなれない身分に、私がいるのですけれども?」
「……だ、だって、どのくらい強いのか、分かりませんでしたから……」
オドオドしくなっていく彼女の態度は、セシリアの気概だけで話しているようにしか思えない言葉に圧されてきている。
「それに加えてっ、確かに担任は……」
だが不幸かな、姉の千冬と目が合ってしまった。
彼女は敢えて学生の自主性に任せて、その位とっとと決めないかと辟易しつつ、勇気を出してきた妹に対してにこやかに頷いていたのに──これである。
散々なことにしてくれたセシリアの言い分は、彼女も大人だからそれは通してあげるだろう。
──だがちょっと、何舐めた態度をしているんだと言いたい視線を、彼女にちょっと投げるくらい、可愛いものではないか。
「……私は、何だ?」
にこやかに笑ってばかりいる担任に、先ほどまで千冬と同じ思いをしていた彼女らもそれに気が付いて、そんなことを考えている暇よりも身の安全を守り始める。
一直線に受けていない彼女らがこれである、セリアに大した肩書が付いていたとしても、最早無事では──。
「────ええっ、確かに千冬先生はっ。 自薦他薦構わない、とおっしゃっていましたね!」
耐えた!
耐えるどころか、確かに自分の言い分を通してきた!
これには周囲の人間の評価もぶっ壊れる、確かに変で我が強い人だけど、正しく一年岩をも通し抜くのかと。
あの髪型の通り、心に天を貫くドリルを持っているのかと。
そう言いたくなる様はあっぱれである。
「ならば、私は、私自身を立てますわ──このセシリア・オルコットを!」
「……正気か?」
「その上で、私は彼女──あなたを推薦してくださいました、織斑夏海に一つ、文句を言いたいのですが」
息をのんでそれは筋違いだろうと箒が言い放つ前に、セシリア・オルコットは──中々辛辣な一言を、夏海につきつけた。
「貴方、自分で勝負しないのです?」
「……えっ」
単純明快に事実論をぶち上げた。
「確かに貴方の可愛らしさは、何処に行っても通用する物でしょう。 実際貴方を推薦しますという声が聞こえない位には」
確かにそう捉えられてもおかしくは無かった。
夏海はようやく息をのんで、一緒にその言葉の意図も呑んでしまった。
「ですが──ここはIS学園、他人に任せて、さあ自分はのうのうと生ぬるい場所で生きていく。 そういう考え、果たして自分で許せるかどうか……」
何処かの誰かが気が付いた──この女、策士だと。
確かに彼女自身は──どう見ても──プライドは高いから、その感情は本物だという事はわかる。
だが言っていることは確かなのだ。
よくよく考えてみれば──勿論あの見た目で腹黒とか、それはそれでいいとその誰かは考えていたが──そうでない純粋な瞳をしている、だが第三者から見てそうはならないかもしれない。
それこそこんなふうに、誰かに任せてしまおうなどと。
だが結局このクラス代表戦の意味は何だ、そこを考えたときにそんな事いいのと言ってしまえば──。
(……)
夏海は悩んでいた。
確かに自分はこんな小さな体だ。
ついでに他の人みたいに育つはずの胸もない、本当に、悲しいことに。
だからいつも誰かに頼って生きているような、そんな思い出がないわけが無い。
今回箒を推薦したのも、結局そこから来るものだったのだろうかとも。
だけど自分がISに乗ったのは──お姉ちゃんにあこがれていたからだ、箒にあこがれていたからだ、そして──。
彼女の影に二つノイズが走る様、その影は入ってくると────自分は自分で立たなきゃという思いも湧き上がってきて。
「……ち、違いますっ!」
その小さな、袖にすっぽり収まってしまいそうな手は、固く拳を握って、表情は硬く決意を抱いたようだった──。
そう正に、勇気を出して、気合を入れた織斑夏海の表情だ。
因みに推薦された箒は超展開に追いついていけていない、宇宙猫の表情が人間でもできるとは思わなんだ。
「え、えー……夏海、ちゃん、あれー……?」
「あ、いや、確かに、自分が選んだのは箒ちゃんだから、なんか変……いやそう思いますけどっ!」
「うん何も夏海は間違ってはいないと思うぞ正直」
だけどそれ以上何かいう事は無かった、何故かって簡単だ。
こんなに頑張っている子を応援しなきゃ、あのセシリアという女性と同じになるのでは、心の何処かで箒は思ったからだ。
というより彼女が困惑した半分の理由はそれである。
昔は絶対に見なかった表情を見せてくれたのだから、何とも言い難い表情になったのだ。
「そうだもん、私……何変な事言ってるんだろ……そうだもん、私だって、IS乗りだから……!」
面倒ごとになるなと片付けなかった熱い思いの夏海は、すっくと立ってセシリアと向かい合う!
「……わかったよ。 そうだもんね。 何かよくわかんないけど!」
「よくわかんなくはありませんわ?」
「とにかく、私自身で決着付けなきゃ! 私は、セシリアさんの、勝負をっ────」
さあここで決めるんだ夏海女史──。
「受けて立ちましゅっ!」
「──」
「……」
噛んだ。
一世一代の大舞台で、噛んでしまった。
すぐにそれに気付いて、堂々と人差し指を向けた夏海は、一気に羞恥が襲い掛かって顔が茹っていく。
「~~~~~~~!!」
これはやらかしました、一世一代の大失態です。
それで周囲の反応はというと──。
「……ッ! ッ!!」
ああ、いけません、箒がどうしてこうなったのかという思考を吹き飛ばされてしまい、顔を机に突っ伏しています。
(きゃわわ)
(あぁ^~)
(ヤバイ思考回路が……なんかもうどうでもよくなってきて……)
(あれ、何でこんなことになったんだっけぇ?)
(やりましたわ)
(ああ、塵になる……)
周囲もおおよそこんなこと考えて、机に突っ伏してしまっています。
「……そう簡単に勝てるとは、思わない事ですわね」
しかも気にしているのに肝心かなめのセシリアは渾身のスルー!
「ぴぃぃぃぃぃ……!!」
「何ですの急に!? ──あ、そう言うわけで先生、この度決まりそうにありませんわ。 これは後々の勝負にて、しっかり決着付けるという事になりますが……よろしいでしょうか」
「…………」
一気に混乱状態に陥った教室、少なくとも授業終わりでなかったら頭を抱えているばかりの状況だった。
ふと彼女は、あまり気にすることは無い時間を確認して、もう一度セシリアに目を向けなおす。
「……ああ、それでいい……それで」
「おおよそ一週間、その位のハンデは与えませんとね? 夏海さん」
「は、はうはうはう~っ!」
「夏海さん?」
この混沌はおおよそ30秒くらい、授業を侵食してしまっていて。
教壇の電子黒板の前に立つ千冬は、頭を結局抱える羽目になるのだった。
◆
はてさてこれからどうなるか、ともかく頑張れ、夏海ちゃん!
──いや頑張ったんだけど、なんか違う方向に言って、結局『セシリア対夏海』の構図が出来てしまったけど。
それはおおよそイギリス特有の三枚舌が悪いという事に、しておいた方が多分幸せになれるぞ!
みえるだろう熱血スポコンの道、多分。
こんなんでいいのか……?
ともかく、感想評価、もしよろしければお願いいたします!