こちらIS学園“きらら”行き 作:きらきら星協奏曲
月が昇る。
霞みがかった雲も燻る煙も登ることは無い。
星の灯りが点ることもない優しい灯りは、やがて夜も更けてきたという証明である。
その空の下で、学園の生徒たちはすっかり初めての興奮を、これから3年間過ごす部屋に入って、各々の時間を楽しんでおります。
勉強に励んだり、ゲームをしたり、ルームメイトと話しをしたり。
ちょっと変わったところだと、部屋に色々と持ち込んでいる物を、まだ並べているようで。
さてそんな彼女らの、特にその一室に焦点を当ててみよう────。
◆
「も、もう小さくないから! 自分で洗えるから!」
「いいや、背中位洗わせてもらわなければ、いかんだろう? これから二人世話になるのだから……」
恐れていたことが起きた。
と言っても、それは彼女だけの問題であって、もう一方の彼女にとっては大した問題──どころか、寧ろ降ってわいてきたような金塊にも等しい事だった。
それは──。
「もう……変なところだけは、絶対に触らないでね、箒ちゃん」
「問題ない問題ない、大丈夫だ。 ぶっちゃけこうやって眺めているだけで満足だから」
「何か言った?」
「なんでもないぞ夏海」
織斑夏海と篠ノ之箒、同室が確定した瞬間であった。
もうその時の箒の喜びようと言ったら、面には出さなかったら、もし彼女が多少堪えることが出来る人間でなかったら、一階の一部フロアはある意味阿鼻叫喚にあふれていただろうくらいだ。
なにせ自分の親しむ人が暫くの間、傍にいてくれると感じるだけで、しかも6年越しでの再会だ。
積もり積もる話もあるだろう──だろうが。
彼女はというと、同性なのに付け込んで、その柔肌を堪能しようというやましい考えばかりが頭に渦巻いていた。
馬鹿正直に言い放ってやろう、この変態。
「ひゃあぁ! なんてとこ触ってるのお!」
「昔はこうしてやったのに、今ではなあ……」
「そこはしてなかったでしょ!? ら、らめ……!」
結果として、このまま好き放題にされるが、メタ的な意味でここまでだし、ご想像にお任せしてくださいという事で、お茶を濁しておこう。
ただ言うならば。
ちょっとお姉さん、仕事しなさい仕事、彼女の貞操が危ないでしょうが。
とは言ったもののやはりそこに対しても箒は用意周到、何とかばれないようにこうしていちゃついていたのだから、この女、全くもって侮れない。
◆
「むー!」
「悪かった、悪かったから一緒に寝よう……」
「あんなエッチな目に合わせてくる人と、寝ません!」
さて色んな意味で温まってしまった二人、或いは不機嫌になった夏海は既にふて寝の状態に入っていた。
ピンク色のフワフワなパジャマを着て、髪をナイトキャップにまとめて。
クリクリの目には、涙を浮かばせて。
(はあかわいい)
「すぐそう言うことする……だめです。 我慢してください」
「いやだいやだい!」
「キャラブレてますし、って、うひゃ!?」
飛び掛かって来た箒に驚く夏海は、その間に逃れようとしてもそれは出来なかった。
すでにその身柄は両腕に抱かれて、しっかりと確保されてしまったから。
そしてしっかりと布団の中に入ってくると、彼女で暖を取ってしっかりと匂いを堪能している。
同じ女性で幼馴染じゃなかったら、ただただ恐怖映像だぞ。
「もー……」
「昔はこうして一緒に寝ていただろう! だからいいのだ」
「良いわけない、筈なんだけどー」
こんな変な空気が流れ始めるが、確かに彼女にとっては久しぶりの事だったのだ。
だから少しくらい、良いのではないだろうかとも、考えていないわけでは無かったのであった夏海である。
「昔は、こうしてたね」
こうして後ろから、抱き枕みたいに抱きしめて。
「お泊り会なんかしてて、束お姉ちゃんがいた」
それに返ってくる声は、全く聞こえてこず、ただ衣擦れの音が部屋に流れる。
「でも皆、離れ離れになっちゃった」
そうだった。
こうしてお泊り会などをしては、まず篠ノ之束が恍惚な顔をしながら彼女を抱きしめて、その後ろから対抗心を見せて抱きしめて。
その間で胸囲の格差社会を様々と見せつけられた彼女が、死んだ目でその胸の中でうずくまるだけで。
悪戯したり、お菓子を食べたり、おしゃべりしたり────色々あったけれども、あの時は確かに、楽しかった日々だった。
「……本当は、寂しかったのだろう」
「そんなことない────」
「嘘は良くない」
夏海は、本当はあんな日が何時か、また来るのではないのかと思っていた。
或いは心のどこかで、望んでいたのかもしれない。
「私だって、あの束のしてきたことは、素直にほめることは無いだろうよ」
「……中々、厳しいね」
「だが、ただ一人の姉さんだ。 それを、無碍にするなど……私には出来ない」
布団の中でもぞもぞと動いている。
二つしっかりと用意されているのだが、その片方には誰も入っていないから、すこしだけ寒そうだ。
「寂しいんだ」
夏海は背中を向けていたが、しばらくしてまた彼女が腕の中で動くと、背中を向けていたのが箒に向き直る。
「それは、お前だろう」
さらに彼女を抱きしめる力が、ほんの少しだが、強くなっていく。
「そっちだもん」
「そんなわけないだろう」
そんなやり取りが行われる。
尤も会話というわけには、取り止めもなくただ言い合っているだけの、ドッチボールのような会話だ。
だが──先にほんの少しだけ、夏海からコンプレックスの溢れた台詞が出てきてしまい──。
「私、大人だもん」
それきり黙り込んでしまった。
二人はすっかり黙り込んで、部屋の灯りも消さないで、ただただじっとお互いを見つめている。
箒は抱きしめながら、夏海は抱きしめられながら。
やがて二人の時間もゆっくりと流れていく中で、やがて夜もだんだん更けてきて。
結局誰も何も言うことは無く、学園に来て、始めての過ごす夜は、中々早くに眠って終わりを見せたのだった。
◆
朝はまだ陽が昇ったばかり、空もまだ白んできたばかりの時間。
なぜだか起きてきたその少女は、まるで誰にも配慮をしないような、急に身体を起こした形で、目覚めたのだが。
「………………??」
寝ぼけているから、夏海は朝になったのには気がついても、寝ているベッドの隣に誰がいたのかわからない。
彼女は誰がいるのかも忘れて、その柔らかな布団を剥ぎ取り、少し短い悲鳴を上げた。
いや無理も無いのかもしれない。
まるで吸盤のように、唇を腹の中に吸いつかせている、篠ノ之箒の姿だけは、特に朝っぱらから見たくないだろう。
一体どういう腹積もりか。
多分相当な言い訳など聞かない姿が、ここにあった。
(…………あ、あのまま、一緒に寝ちゃってた……!)
だが、夏海は特にそこに思い至る、不快感などなく。
途端に恥ずかしい思いが、込み上げてきてしまったので、彼女の顔は否応なく真っ赤に染まり。
だがその考えが──本当に唐突に思い出した記憶から、だんだんと顔が青ざめていく。
だから、彼女は箒をそーっと起こさないように、自分だけこのあと来る
「……おはよ」
「………………おはようございます、箒ちゃん」
直ぐに身体をムクリと起こした箒が、何処かへ赴こうとする彼女の身体を無理やり掴んだ。
また短い悲鳴が上がるが、今の彼女に、そんな事お構い無しだ。
「夏海」
「はい」
「キスしよ」
これだけは、彼女としても許しがたいスキンシップだった。
巫山戯た話だとは思うが、箒がやめられそうにない、まるでそれだけに関しては、無自覚なのではと思われるほどなのだ。
実際なぜそんな事するかを聞いても、覚えていないなどとはぐらかされる。
止めてといっても、分からない。
本当に許しがたいものだった。
「や! や……!」
しかもこうもなってしまえばおしまいだ。
あっという間に箒に唇を奪われ、その身体がおっ被さって、その瞬間嫌嫌言っていた声が色めき立つ。
二人は朝っぱらから、熱いものを見せつけているが、とりあえずこれ以上描写すると怒られるので────。
◆
「あれー、どうしたのー?」
「さあな、だがどうも不機嫌なようで、割と本気で怒られてしまったのだ……」
「変なことーしたんじゃない?」
「……一緒に寝るくらいには、仲いいはず、はずなのだかなぁ……」
こうして同級生にぼやいている、困った顔の箒の前の席。
頬を膨らませて、暫くしかめっ面を教室で見せている夏海は、どこか疚しい目線を送られても、暫く止める事は無いのだった。
◆
────とりあえず頑張れ、織斑夏海ちゃん!
ちゃんと嫌だって思ったときは、嫌だって言わないと、これから先大変なことになるかもしれないぞ!
ナニモイウコトハナイ。
大体こんな感じだからな、もう女の子同士で行くとこまで行きますんで。
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