こちらIS学園“きらら”行き 作:きらきら星協奏曲
「…………ダメかも」
当日早々、弱音を吐いてしまう織斑夏海。
目の前で、そんな彼女を慰め、励ましてやるのは篠ノ之箒である。
「何を言っている、頑張ってきただろう? 勿論ISを操縦したくないと言い出して、しかもそれが折れなかったのは驚いているが……」
「うぅ~っ、だって……」
「それは、確かに私たちも悪かった! だが、決して、はやし立てて馬鹿にしているわけでは無いという事、分かってくれ!」
そう、結局あれから本当に──比喩でも何でもなく、ISを使った訓練を一切していないのだ。
──そう、ほんの一時間どころか、30分ほども!
ほぼぶっつけ本番のようなもの、自分で蒔いた種とは言っても、あの有様で衆目を集めてしまった彼女に、少しの同情は送れよう。
「……こんなことは言いたくはないのだが」
小さな両肩にぽんっと置いたまあまあ大きな手が、彼女を驚かせる。
勿論箒はそんなつもりなどなく、寧ろ励ましつつ、檄を飛ばすためにそうするのだ。
「夏海、これで終わるわけでは無いだろう。 それに負けたからと言って……」
「そんなことないもん……変な事、言ってるかもしれない、けど! 私だけの、問題じゃないもん……」
「うっ」
元々は箒を立てようとした、その意地の無さを責めている事から、この決闘は起因している。
勿論言い方は色々あろうが、結局そのようなものと言って構わないだろう。
だから負けてしまうと──例えば彼女の逆恨みで、夏海一人で背負うような形になるならまだしも──ある程度の汚名を、箒も被ってしまう事になるのだ。
だから負けられない戦いでもあるのだが、先程から言っている要因が重なって、ストレスになっているのだ。
「それに、ほんとうに、本当に! 大丈夫だから……!」
そう言ってとっとと会場へと走り去っていった、彼女の小さな背中を見るしかない箒。
止めようと口を開いて、手を伸ばした──だがそれは届かず。
「!」
だが出来ることはあると思って、箒は大きく息を吸い込んだらば、大きな声で一言投げつけた。
「怪我には、気を付けるんだぞーっ!!」
驚いた夏海は、点になったような目で振り返って、箒を見る視線はすぐにやめられて、すぐに大丈夫という思いを込めた笑顔を浮かばせて、手を振って去っていく。
だがやはり心配であるというのは事実!
(ああやはり私が出た方が良かったのではないのだろうか? そもそも夏海の装備など
だが後悔先に立たず、今はそう考えて無事を祈るだけが、今の彼女に出来る事なのだった。
◆
「さて、そろそろよろしいでしょうか?」
存在感をドーンと出してくるセシリアの立ち振る舞い、しかもピッチピチのスーツを着ているのだ、もうここに男子がいたらとんでもないことになるぞ。
ついでに夏海は死んだ目をしている。
「うん……」
「……貴方本当に大丈夫ですの?」
まあ見た通りであるし、彼女がツッコミたい衝動に駆られているのも正しい。
心配している余裕があるという証明でもあるが、あの頼りなさをみたら、どれだけ自分を下に見ていてもそう労わってしまいそうだ。
セシリアなんかはその資格はある。
「……もうしばらく待ってあげてもよろしいですわよ? ああ、これは全然、皮肉などでも何でもありませんから!」
「うん。 でも……大丈夫」
セシリアの、或いはこの勝負を見ている人々の、そんな顔に映る不安げを吹き飛ばしたいように、左手を前にゆっくりと上げると、勢いよく腕を横に振った。
右側に纏めた髪が舞い上がり、アリーナに入ってくる風が、彼女らの体を叩きつけてくる。
「ここからおフザけなし……だから! 本気も、本気だから!」
まるでカッコつけたかのように、彼女に向って高らかに宣言する。
勿論そんな空気が好きなセシリアが、彼女の本気を見ることになるとは、思ってもいなかったから、自然と笑いがこみ上げてくる。
「よろしいですわ」
セシリアも夏海に倣って、腕を前に突き出す構えをすると──不意に、耳元のイヤリングが一際輝いたような気がする。
だが段々と彼女を覆っていく光が露わになっているのだ、まったく気のせいなどではない!
「その自信に答えないわけにはいきませんから──」
淡い光は段々と色濃く、そして水色から青色、青色から藍色に。
展開していた装甲が、段々と彼女の肌に取り付いていくと、最後にカチューシャの様なヘッドパーツが吸い付くように取りついて、彼女の瞳を覆い隠すようにホログラムが出現した。
「真正面から、正々堂々と撃ち抜かせていただきましてよ!」
「ブルー、ティアーズ……だよね」
「そちらも、展開してくださらないので?」
その一言が言い終わる前に、とっくに白い光が彼女の周りを段々覆っていく。
レースのように見える光は、肌を包みつつもその体のラインを透かす。
「うん、行けるよ────『白銀』」
キッと真面目に更に自信を持ったような顔の上、頭に冠を戴き、髪は解け、長い光のスカートの上に機械のパーツが留めていく。
やがて──多くの人に全容が明らかになった時に、それを見る人全てを魅了する。
そこにある物は、ギャップと言うのだろうか。
だがそれに頼らない美しさもあったはずだし、その白い衣装は、まさに今の青空によく映える。
セシリアもそれに関して感心しながら、だが挑発的な言動を止めることはしなかった。
「シロガネ、しろがね……なるほど、シロガネ。 プラチナの様な意匠とは、中々考えられたものでしょうが? それでは戦いに不向きでしょう?」
だが夏海も負けない、彼女の三枚舌には、引っ掛からないように言い返す。
「そのシロガネではなく、白く銀。 すなわちシルバー。 或いは──」
「銀の弾丸」
ニコリと落ち着いて微笑むセシリア、一歩も退くことは無い。
「確かに今私に対しての挑戦にぴったりですわね……尤もそれならば、自分を弾丸となさるので?」
「それはどうなんだろう」
「……と、言いますと?」
一瞬右腕を首元に回したかと思うと、そこにはいつの間にか先端にかけて細くなっていく、指揮棒の様なものを握って、それを一振りしてからセシリアに突き出すように構える夏海。
持ち手の部分の端に垂れている紐も、白くまた少し輝いている意匠が施されている。
「セシリアさんにとって、外見だけで判断することは、お勧めしないとだけ」
「それはそれは────」
彼女も前に構えていた巨大なライフルを構えた瞬間、戦いの始まりを告げるブザー音が────。
「親切なお嬢さんですこと!」
今、鳴り響いた。
◆
篠ノ之箒は観客席よりもずっと近い、選手ピッチの柱の陰からそれを見た。
一気にセシリアの背部から、例の自動操作で飛んでいく砲台が、一斉に4つ飛び出して夏海に向っていったのを。
そして夏海が一瞬、それに怯えてしまった表情を見てしまったのを。
(まず────)
だが、そうはならなかった。
一斉に襲い掛かった、砲台の陰から放たれた一条の光は、同じく光の壁にしっかりと阻まれてしまった。
(はっ?)
驚いているのは箒だけではない、あれは本来ISに搭載されているシールドとは、
事実として、彼女はその閃光を、まともに受けたはずなのだ。
だがその表情は全くもって歪んでいないし、少しもその場所から体は動いていない。
本来あれくらいの火力をまともに食らったら、斥力が発生して、多少の距離は押し出されてしまうはずである。
(ち、違うのか? 夏海の、ISは一体……?)
セシリアは何が起きているのか一瞬でわかって、その表情が一瞬焦ったように歪むと、一気に上空へとジャンプして逃れていく。
それより遅れて、ようやく何が起きているのかわかった箒。
セシリアも何が起きているかわからない、そういう予測を立てて、当てて見せる事で精一杯だった。
「あれは……?!」
一体何が起きているのかも分からないうちに、次の一手を繰り出してくる夏海。
上空に逃げたセシリアにその棒っきれを向けた。
それだけならば、誰もそれを驚くことは無いだろう。
だがその切っ先に、真っ赤な光が集まっていくのを見れば──間違いなく、魔法か何かの様な、不可思議な現象が起こっていると、そう思わざるを得ない。
(これはっ……!)
劫火だ。
確かに生み出されて、さらに渦巻いて作られていく、真っ赤に燃える巨大な火球。
一体どうなっているのか、予測すら不可能だったから。
セシリアはそれを討ち抜いていいのかすら、その引き金を引くのに戸惑っていた。
ハイパーセンサーと呼ばれる、ISに組み込まれている特有の高性能なセンサーは、人を呑み込むには十分な大きさの炎の向こうに、確かに小さな彼女がいるのが見える。
空気が燃焼する音と、確かな熱気の向こう側──夏海は唇を動かした。
「……私だって、何も考えていないわけでは無いですっ!」
やがて大きなその火球が、急に一気に収縮していくと、杖の先に灯る光となり。
杖を肩の方へと持っていく構えを見せれば、まさにファンタジーと言っても差し支えない格好だ。
魔法を操り、美しく舞うお姫様。
そのような姿が、アリーナにはあまりにも似つかわしくない。
一歩踏み出せば白い燐光が舞い散り、髪をなびかせば煌めくのはエネルギーの光。
ハイヒールが高らかに鳴った。
「戦いは、これからです……っ!」
弱弱しくも、自身を持って高らかに言い放った。
確かに、そこにいるのは、おびえ竦む彼女ではない。
──確かな実力と、不思議な力を持った、強者だ──。
◆
魅せてくれたぞ、織斑夏海ちゃん!
だがまだ油断は禁物だ、相手は忘れているかもしれないけど、確かに代表候補生だ。
油断は禁物だぞ!
まあ女の子らしさを、こういうところで出していくのも多少はね。
はいそこメルヘンとかスイーツとか言わない。
ともかく、感想評価、もしよろしければお願いいたします。