こちらIS学園“きらら”行き   作:きらきら星協奏曲

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第7話 舞うぞ、夏海ちゃん!

「…………ダメかも」

 

 当日早々、弱音を吐いてしまう織斑夏海。

 

 目の前で、そんな彼女を慰め、励ましてやるのは篠ノ之箒である。

 

「何を言っている、頑張ってきただろう? 勿論ISを操縦したくないと言い出して、しかもそれが折れなかったのは驚いているが……」

「うぅ~っ、だって……」

「それは、確かに私たちも悪かった! だが、決して、はやし立てて馬鹿にしているわけでは無いという事、分かってくれ!」

 

 そう、結局あれから本当に──比喩でも何でもなく、ISを使った訓練を一切していないのだ。

 

 ──そう、ほんの一時間どころか、30分ほども! 

 

 ほぼぶっつけ本番のようなもの、自分で蒔いた種とは言っても、あの有様で衆目を集めてしまった彼女に、少しの同情は送れよう。

 

「……こんなことは言いたくはないのだが」

 

 小さな両肩にぽんっと置いたまあまあ大きな手が、彼女を驚かせる。

 

 勿論箒はそんなつもりなどなく、寧ろ励ましつつ、檄を飛ばすためにそうするのだ。

 

「夏海、これで終わるわけでは無いだろう。 それに負けたからと言って……」

「そんなことないもん……変な事、言ってるかもしれない、けど! 私だけの、問題じゃないもん……」

「うっ」

 

 元々は箒を立てようとした、その意地の無さを責めている事から、この決闘は起因している。

 

 勿論言い方は色々あろうが、結局そのようなものと言って構わないだろう。

 

 だから負けてしまうと──例えば彼女の逆恨みで、夏海一人で背負うような形になるならまだしも──ある程度の汚名を、箒も被ってしまう事になるのだ。

 

 だから負けられない戦いでもあるのだが、先程から言っている要因が重なって、ストレスになっているのだ。

 

「それに、ほんとうに、本当に! 大丈夫だから……!」

 

 そう言ってとっとと会場へと走り去っていった、彼女の小さな背中を見るしかない箒。

 

 止めようと口を開いて、手を伸ばした──だがそれは届かず。

 

「!」

 

 だが出来ることはあると思って、箒は大きく息を吸い込んだらば、大きな声で一言投げつけた。

 

 

 

 

 

「怪我には、気を付けるんだぞーっ!!」

 

 

 

 

 

 驚いた夏海は、点になったような目で振り返って、箒を見る視線はすぐにやめられて、すぐに大丈夫という思いを込めた笑顔を浮かばせて、手を振って去っていく。

 

 だがやはり心配であるというのは事実! 

 

(ああやはり私が出た方が良かったのではないのだろうか? そもそも夏海の装備など()()()()()()()()()()()()ではないか! ああ、何故あの時私は正気に戻れなかったんだ……!)

 

 だが後悔先に立たず、今はそう考えて無事を祈るだけが、今の彼女に出来る事なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろよろしいでしょうか?」

 

 存在感をドーンと出してくるセシリアの立ち振る舞い、しかもピッチピチのスーツを着ているのだ、もうここに男子がいたらとんでもないことになるぞ。

 

 ついでに夏海は死んだ目をしている。

 

「うん……」

「……貴方本当に大丈夫ですの?」

 

 まあ見た通りであるし、彼女がツッコミたい衝動に駆られているのも正しい。

 

 心配している余裕があるという証明でもあるが、あの頼りなさをみたら、どれだけ自分を下に見ていてもそう労わってしまいそうだ。

 

 セシリアなんかはその資格はある。

 

「……もうしばらく待ってあげてもよろしいですわよ? ああ、これは全然、皮肉などでも何でもありませんから!」

「うん。 でも……大丈夫」

 

 セシリアの、或いはこの勝負を見ている人々の、そんな顔に映る不安げを吹き飛ばしたいように、左手を前にゆっくりと上げると、勢いよく腕を横に振った。

 

 右側に纏めた髪が舞い上がり、アリーナに入ってくる風が、彼女らの体を叩きつけてくる。

 

 

 

 

 

「ここからおフザけなし……だから! 本気も、本気だから!」

 

 

 

 

 

 まるでカッコつけたかのように、彼女に向って高らかに宣言する。

 

 勿論そんな空気が好きなセシリアが、彼女の本気を見ることになるとは、思ってもいなかったから、自然と笑いがこみ上げてくる。

 

「よろしいですわ」

 

 セシリアも夏海に倣って、腕を前に突き出す構えをすると──不意に、耳元のイヤリングが一際輝いたような気がする。

 

 だが段々と彼女を覆っていく光が露わになっているのだ、まったく気のせいなどではない! 

 

「その自信に答えないわけにはいきませんから──」

 

 淡い光は段々と色濃く、そして水色から青色、青色から藍色に。

 

 展開していた装甲が、段々と彼女の肌に取り付いていくと、最後にカチューシャの様なヘッドパーツが吸い付くように取りついて、彼女の瞳を覆い隠すようにホログラムが出現した。

 

 

 

 

 

「真正面から、正々堂々と撃ち抜かせていただきましてよ!」

 

 

 

 

 

「ブルー、ティアーズ……だよね」

「そちらも、展開してくださらないので?」

 

 その一言が言い終わる前に、とっくに白い光が彼女の周りを段々覆っていく。

 

 レースのように見える光は、肌を包みつつもその体のラインを透かす。

 

「うん、行けるよ────『白銀』」

 

 キッと真面目に更に自信を持ったような顔の上、頭に冠を戴き、髪は解け、長い光のスカートの上に機械のパーツが留めていく。

 

 やがて──多くの人に全容が明らかになった時に、それを見る人全てを魅了する。

 

 

 

 

 

 そこにある物は、ギャップと言うのだろうか。

 

 だがそれに頼らない美しさもあったはずだし、その白い衣装は、まさに今の青空によく映える。

 

 セシリアもそれに関して感心しながら、だが挑発的な言動を止めることはしなかった。

 

「シロガネ、しろがね……なるほど、シロガネ。 プラチナの様な意匠とは、中々考えられたものでしょうが? それでは戦いに不向きでしょう?」

 

 だが夏海も負けない、彼女の三枚舌には、引っ掛からないように言い返す。

 

「そのシロガネではなく、白く銀。 すなわちシルバー。 或いは──」

「銀の弾丸」

 

 ニコリと落ち着いて微笑むセシリア、一歩も退くことは無い。

 

「確かに今私に対しての挑戦にぴったりですわね……尤もそれならば、自分を弾丸となさるので?」

「それはどうなんだろう」

「……と、言いますと?」

 

 一瞬右腕を首元に回したかと思うと、そこにはいつの間にか先端にかけて細くなっていく、指揮棒の様なものを握って、それを一振りしてからセシリアに突き出すように構える夏海。

 

 持ち手の部分の端に垂れている紐も、白くまた少し輝いている意匠が施されている。

 

「セシリアさんにとって、外見だけで判断することは、お勧めしないとだけ」

「それはそれは────」

 

 彼女も前に構えていた巨大なライフルを構えた瞬間、戦いの始まりを告げるブザー音が────。

 

 

 

 

 

「親切なお嬢さんですこと!」

 

 

 

 

 

 今、鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之箒は観客席よりもずっと近い、選手ピッチの柱の陰からそれを見た。

 

 一気にセシリアの背部から、例の自動操作で飛んでいく砲台が、一斉に4つ飛び出して夏海に向っていったのを。

 

 そして夏海が一瞬、それに怯えてしまった表情を見てしまったのを。

 

(まず────)

 

 だが、そうはならなかった。

 

 一斉に襲い掛かった、砲台の陰から放たれた一条の光は、同じく光の壁にしっかりと阻まれてしまった。

 

(はっ?)

 

 驚いているのは箒だけではない、あれは本来ISに搭載されているシールドとは、()()()()()()()()()だ。

 

 事実として、彼女はその閃光を、まともに受けたはずなのだ。

 

 だがその表情は全くもって歪んでいないし、少しもその場所から体は動いていない。

 

 本来あれくらいの火力をまともに食らったら、斥力が発生して、多少の距離は押し出されてしまうはずである。

 

(ち、違うのか? 夏海の、ISは一体……?)

 

 セシリアは何が起きているのか一瞬でわかって、その表情が一瞬焦ったように歪むと、一気に上空へとジャンプして逃れていく。

 

 それより遅れて、ようやく何が起きているのかわかった箒。

 

 セシリアも何が起きているかわからない、そういう予測を立てて、当てて見せる事で精一杯だった。

 

「あれは……?!」

 

 一体何が起きているのかも分からないうちに、次の一手を繰り出してくる夏海。

 

 上空に逃げたセシリアにその棒っきれを向けた。

 

 それだけならば、誰もそれを驚くことは無いだろう。

 

 

 

 

 

 だがその切っ先に、真っ赤な光が集まっていくのを見れば──間違いなく、魔法か何かの様な、不可思議な現象が起こっていると、そう思わざるを得ない。

 

 

 

 

 

(これはっ……!)

 

 劫火だ。

 

 確かに生み出されて、さらに渦巻いて作られていく、真っ赤に燃える巨大な火球。

 

 一体どうなっているのか、予測すら不可能だったから。

 

 セシリアはそれを討ち抜いていいのかすら、その引き金を引くのに戸惑っていた。

 

 ハイパーセンサーと呼ばれる、ISに組み込まれている特有の高性能なセンサーは、人を呑み込むには十分な大きさの炎の向こうに、確かに小さな彼女がいるのが見える。

 

 空気が燃焼する音と、確かな熱気の向こう側──夏海は唇を動かした。

 

「……私だって、何も考えていないわけでは無いですっ!」

 

 やがて大きなその火球が、急に一気に収縮していくと、杖の先に灯る光となり。

 

 杖を肩の方へと持っていく構えを見せれば、まさにファンタジーと言っても差し支えない格好だ。

 

 魔法を操り、美しく舞うお姫様。

 

 そのような姿が、アリーナにはあまりにも似つかわしくない。

 

 一歩踏み出せば白い燐光が舞い散り、髪をなびかせば煌めくのはエネルギーの光。

 

 

 

 ハイヒールが高らかに鳴った。

 

「戦いは、これからです……っ!」

 

 弱弱しくも、自身を持って高らかに言い放った。

 

 確かに、そこにいるのは、おびえ竦む彼女ではない。

 

 

 

 

 

 

 ──確かな実力と、不思議な力を持った、強者だ──。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 魅せてくれたぞ、織斑夏海ちゃん! 

 

 だがまだ油断は禁物だ、相手は忘れているかもしれないけど、確かに代表候補生だ。

 

 油断は禁物だぞ!




まあ女の子らしさを、こういうところで出していくのも多少はね。

はいそこメルヘンとかスイーツとか言わない。

ともかく、感想評価、もしよろしければお願いいたします。
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