こちらIS学園“きらら”行き 作:きらきら星協奏曲
「それじゃあ……」
その静かな音頭で始まって。
「クラス代表、おめでとーっ!!」
一気にワーッと盛り上がった、三十余名の方々。
大雑把で、大げさかって?
残念ながらそうとも言えるまい、レクリェーションも兼ねているのだから、特に問題も疑問も無いだろう。
強いて言うならば──。
「ど、どうして、こうなっちゃった、のでしょうね……?」
「……流されやすいからな、こっちが本当の夏海だと、知ってもらわんと……」
中心にいるべき人物、そして祝われているような形となっている彼女が、若干不本意にも思えるほど、態度が弱弱しかったことだ。
だが残念、こっちが本性なわけで。
こんなに弱弱しく震えている、その小さな右側にサイドテールを垂らした少女の姿。
相も変わらないように箒の傍に、寄り添ってというか寄りかかっている彼女。
若干忘れかけているかもしれないが、これが織斑夏海だ。
だからそんな態度の彼女が、どうしてあんな戦いや言動が出来たのだろうと、暫く付き合ってきた彼女らも、今になって改めて思うと、その合間から一人の影がゆっくり出てきた。
セシリアだ。
「……あっという間にかわいらしくなりましたわね」
負けてしまった彼女も、それくらいの事を言う権利はありそうだ。
それに納得の行く話だと思わないだろうか。
まさかこんな少女が、あんな凄まじく難解な仕掛けを操り、そしてそれを圧倒的に使いこなせていたなど。
「それはそれとして……この度は本当に、申し訳ありませんでしたわ」
さてこうして歩み寄ってきたセシリアは、素直に頭を下げて謝罪をする。
懸架を吹っかけてきたのは彼女、ならば負けた時、潔く筋を通すのは昔から染みついた礼儀である。
「私は……正直に言うと、その……どうにも、ここにいる理由が見当たらない人を見て、あんまりにもと思ってしまったのですわ」
所謂、一目見てという軽率な判断である。
いや正直な話ではあるが──勿論実力をさておいても、そのような要素は、それにそう思わさせられるのも間違いない、その上にそのほとんどが事実である。
弱弱しく、怯えがちで、かわいらしくもオドオドして陰のある少女。
だがその真意がまさか、どこぞの姉の過保護さからと──その他諸々によって入れさせられているとは、セシリアもまさか思うまい。
とにかく、だから彼女はあまりにも不可解だった、いっその事こうしてもらった方が良かった──そのはずだった。
だから今更自分は苦々しい顔を浮かべざるを得なあったが──。
「ですから、本当に貴方にとって、その私の態度は……邪険に思われたこと、本当に……」
「もう、過ぎた事ですから」
「それは……」
「本当に、全く気にしてませんから、それにっ……セシリアさんのいう事、全然おかしいわけ、ないんですから……」
そんな一言を聞いて、彼女は何かを含んでいるような思いを抱いていると、実際に彼女も裏にはそんな事情があるから、そう思うには十分な対応。
「! ──そうですわね」
彼女はまるで何かを肯定するような態度を示した。
勿論後者の自己非難ではなく、前者の赦しを得たことを、素直に喜ぶように大して。
だが夏海にはそう勘違いさせておいた方がいいと、彼女は判断した──本来はそんなことするような真似はしたくないのだが。
「分かりましたわ。 こういうのもなんでしょうが……」
「は……はいっ、水に流しておきましょう」
「……あんまりにも潔いではありませんか」
すると彼女は少し照れた、褒められたという意味では正しいだろうが。
そんなと呟いている彼女に、セシリアは少し心を許すかのような態度を取る。
そう、誰もが何より聞いておきたい事があるし、セシリアもおおよそ同じ物があるからであろう。
「ねえ、夏海さん?」
「はいっ」
「もし、その……よろしければ、あのISは一体何なのか、というのを教えていただけると助かるのですが」
おおっ、とどよめきが起こった。
それはそうだろう、各々が結局頭の片隅から離れられなかった、あの幻想的な光景の大元を知りたかったのだ。
しかしそんな疑問を、こんな場慣れしていない彼女に、無理やり問い詰めてやろうとは良心を痛めていた。
尚且つ幼馴染というには、それはもう余りある偉丈夫が突っ立って、ボディガードの有様を呈していた。
さらにあの“織斑”である、流石にあの姉に突き詰められたらと考えると、明日のわが身が可愛さに流石に気軽に言ってくる人もいない。
だから周囲にいる人間は遠くから眺めていたり、とりとめのない会話をしたり、それに謎めいている可愛らしい少女は何だろうと、女子同士でひそめき合っていたのだが。
「白銀、の事……ですよね?」
オドオドしくもはっきりとその名前を呼んだことに、やはりまた大きな反響が訪れる。
「少なくともあんなものは、少なくとも……現実で見たことはありませんわ。 例えば昔話で読んだような、その、ファンタジーと言いますか、何というか……」
「──────魔法?」
外野からそんな言葉が漏れ出す。
挽き皆静寂が生まれた物だから、驚いた彼女は一瞬気を取られたものの、すぐに立ち直って夏海にまた視線を戻す。
あっという間に件の人間は口を抑え込まれた物の、彼女の反応は芳しくはない──それが証左となった。
まさかこの時代に──魔法、まさか魔法、ファンタジー、マジック・スペル、そんなバカな。
だが──。
「確かに、そうだとは思います、です」
今度もまた、わぁっと盛り上がったような
本当に見てくれはさらに沈黙が固くなったかに思えたが、それは違う、本当は彼女らは目撃したのを言いふらしたかったのだ。
魔法少女か魔女か、とにかくそんな不思議でミステリアスな少女はいたんだと。
だから空気が盛り上がって、益々変な空気に覆いつくされたのだ。
ISというガワはあっても、その論調は全く崩されることは無いし、何なら一斉に女子たちの口やかましい反論が始まるだろう。
彼女は素晴らしい存在だと。
しかしその沈黙が破られなかったのは、古来から続くロマンという物を教わっていたのと──。
「……夏海さん?」
「あ、あんまり、話したくないかなって」
その顔はかなり真摯な物だったから、思わず彼女も少し引いてしまったし、あまり聞くものではないだろう。
「で、でも、話せる範囲だったら……皆、訊いて、です」
全員が間違いなく思った事だろう。
あんな顔をして、いいのかと。
本当にそうなのかと。
だが誘われたからには──。
「ねっ、ねえねえ! 本当に何なのあの魔法?!」
「私にもできるのですか?」
「その魔法にも名があると見た、単純そうだが……教えてくれないだろうか?」
「ていうかラインやってる?」
「ね、ね! その頬っぺた触らせてくれない?」
さあ姦しい乙女たちが一斉に向って行ったぞ、もうガードの箒などでは止められない。
セシリアはとっくに波に巻き込まれている、真っ青な顔は多分例のフーリガンの歴史を少しでも覚えていたのだろう。
わぁっと押し寄せたらばもう止まらない、いや押し倒すなんて悲劇は起こらなかったが、夏海にしてみれば堪ったものではないに決まっている。
「ひ、ぴえ」
ああ、これは駄目そうだ。
今まで頑張って目立たないようにしていたのが──ぶっちゃけ今更である──結局今や時の人、それもあのアリーナには関係者各位も来ていたのに気が付かなかった彼女、暫く平穏な生活とはおさらばになりそうではある。
「あ、ああああ~! あうあうあ~っ!」
まだまだ頑張れ、織斑夏海ちゃん!
学園生活は本当にまだ続くし、更に言うなら騒動もいっぱい起きちゃうぞ!
◆
「ここ一週間見ていたが。 本当に何にも、問題は無いんだな?」
「はあ、何もありませんけども……気になることがあるのですか? というか帰りた」
「何か言ったか?」
「何でもないです」
ホールの向こうの草むらから、ほほえましい様子を見ているのは大の大人二人。
織斑千冬と、巻き込まれた山田真耶である。
「自分の
「生徒じゃなくて
「は?」
「何でもないです」
夜もまだまだ更けこまない頃、時間はたっぷりあるのだ。
というかそこで何をしているのかと。警備員に問いただされる方が間違いなく早いだろう。
「じっと見守っているのは、あの子たちの輪に、教師たる自分たちが入るわけにはいかないだろう。 無粋ではないか、それに……こうしているのも、心配ではないのか?」
という立派な名目がある。
「そうですけども……でもここまでする必要」
「それに私の自慢の夏海がああまで言えるのは流石だな」
「ちょっと???」
前言撤回、このシスコンが。
「いや正直ここなら安全だからな、どんどんきな臭くなってきている情勢ではあまりにも外に出すのは困る、だがやはり教養は身に着けておきたい、だがIS適性が……」
「……まあ、付き合ってあげます」
「……すまんな」
そう言って困った顔をして、同情を誘っては見た千冬は少し悪い思いをしていたし、悪い顔もしているのだった。
だが──彼女は
なおかつ彼女を過保護に気に掛けるのも、もし誰かがそれを知ったのなら、もしかしたららば──。
(いいやっ、そんな甘い考えは止すんだ、織斑千冬……だが)
それを知った時の、彼女の思いは……とても、辛いものだったのは、間違いではない。
今でもあの夜の事は思い出す。
あのまとめ上げられた資料を何度も見返して、そして吐瀉物すら巻き散らかしてしまった、あの夜の事を──。
『織斑夏海という人物は、貴方をベースにして生み出された────いわば世界で唯一認められた、いや恐らくは……世界で一番最初に生み出された、何不完全の無いクローン人間です』
曇るのは良くない、だが闇はあるし、裏もある。
カタルシスも、ドラマも大事。
こんなのでもよければ、感想評価、よろしくお願いいたします。