巡視船内
「だがそれは紛れもない真実だ。今や国際警察本部はプラズマ団の支配下にある。あれは数時間前の事だ。」
数時間前の国際警察長官室
「以上のことから、黒の二号は解任すべきであります長官。」
「しかし、今解任すればプラズマ団に対して利する行為でしかない。処分は後でも。」
「そうやって彼を優遇することが問題なのです長官。長官はク黒の二号を寵愛していらっしゃる。ですが二号はそれを傘に何でもやりたい放題ではないですか。現にゲノセクトは公安部の研究施設から不当に持ち出された。これは重大なことではないのですか?」
「しかし、参事官のナルセは。」
「部長のヴァイスは重大な問題であり、公安部では彼を捕縛するべきと言う意見が出ているそうですよ。」
「それは初耳だ。」
「そうでしょうね。ヴァイス部長は信用できる一部の職員にしか伝えておりませんからね。とにかく、国際警察は彼のせいで空中分解寸前なのです。長官の采配一つで変えられるのですよ?」
「・・・分かった。黒の二号を解任する。」
「私は長官室に設置していた盗聴器から長官と警視総監の会話を傍受していた。それがこの会話だった。途中で盗聴に気づいたのか、ここから先の記録はないがね。」
会話を記録したボイスレコーダーをハンサムに見せつけるナルセ。
「ま、まさか警視総監様は・・・。」
「彼はプラズマ団幹部の一人だ。彼が国際警察における反逆者の親玉と言うべき存在だ。」
「もしかしてであるが、ラクツの解任は。」
「無論、プラズマ団への捜査で実績を積み重ね、組織壊滅を実現しようとしている彼の妨害の為です。」
「まさか我々警察内部に敵が潜んでいようとは。」
悔しがるハンサムに対し、軽蔑の目を向けるナルセ。
「君はいつから敵が目の前の者だけだと思っていた? 敵と言うのは常にどこにいるのか分からないものだ。時にはこうして身内の中に潜んでいることもあるのだ。無論、我々公安部の中にも潜んでいた。」
「潜んでいた、ということは既にこの世にはいないということあるか?」
「流石はマジシャン殿。正解です。」
「しかし、長官室に盗聴器を仕掛けるとは流石公安部。」
(これもサガミの入れ知恵なんだけどな。正直私はやりたくなかった。長官への心証を悪くしかねないし。)
一方、こちらは数時間前の国際警察公安部棟地下室
「さ~て、いい加減真実を吐く気になったかしら?」
国際警察公安部は、重大な犯罪行為を起こした、あるいは起こすと推測された人物・団体並びに国際警察内部の監視を担う特別組織である。独自の特殊部隊を保有し、予算も別枠に請求され、何が行われているのか実態は警視総監でも把握出来ないように徹底した秘匿体制が敷かれた謎の組織である。そして、公安部内部にはこういう掟が存在する。
「疑わしきは罰せよ」
この言葉をそのまま捉えてしまうと、公安部の本質は絶対に掴めなくなる。疑わしき人物は例え身内の人間であったとしても徹底的に調べ上げ、最後は罰せよ。というものであり、なんかアイツ怪しいからな死刑な。とはならない。しかし、罰する対象となった人物はそこを地獄と思うだろう。むしろ、死んだ方がましかもしれない。
「とっとと吐いたら楽になれるかもよ?」
今尋問を行っている人物は公安部参事官のサガミ。歴代公安部職員唯一の女性参事官であり、数々の内通していた国際警察内部の人間を奈落の底に葬って来た歴戦の職員である。そしてある者は彼女をこう呼んだ。
「国際警察最恐の魔女」
と。彼女自身は魔女で結構と気にしていない様子である。
「・・・・魔女が・・・私を良くも・・・。」
イスに縛り付けられ、脚に鎖をはめられている人物は公安部部長のヴァイス。
「公安部で部長をやってるくせに内通してたんだもんね。拷問されても仕方ないんじゃない?」
以前から公安部の内部では、ヴァイスが内通しているのではないかと噂していた。そこで参事官で彼の補佐役だったサガミは、その地位を利用して調査を行っていたのだ。併せて特命で黒の二号には彼とプラズマ団の関わりについて可能であれば調査せよと、警視総監や長官には秘密に探らせていたのである。
「そしたらビンゴビンゴ。ここまで当たっちゃうとは思わなかったわねえ~。」
大げさに手を上げるサガミ。彼女の脇には手持ちのカイロスとルージュラが控え、ヴァイスを監視していた。
「おまけに私のことを信用してべらべらと機密を喋りだす有様。実に滑稽だったわ。」
ヴァイスはプラズマ団に内通した上でラクツを解任させる為に国際警察の反ラクツ派の職員を焚き付け、同じく内通していたウィスと協力して長官から彼の解任を勝ち取った。一方、公安部ではサガミがヴァイスに取り入るふりをしながら内通者の特定に努めていた。しかし、彼は彼女が裏切るとは微塵も思っておらず、夜を共にしたこともあったことから、完全に彼女を信用していた。しかし、サガミからすれば秩序を守る為に自分の体の全てを使って情報を集め、機会を窺っていただけだった。
「ふん! 見ていろ魔女、ここを出たら不当な拷問で自白させたと訴えてやるからな! 覚悟しやがれ!!」
「あら~? あんたに人権が適用されるとでも思ってたのかしら?」
邪悪な笑みを浮かべながらサガミはカバンから注射器を取り出す。
「あんたがまだ吐いていない情報、無理やりにでも吐かせてあげるからね~。」
注射器の中身は自白剤。国際警察公安部研究班が極秘裏に開発した代物である。
「貴様!! そのように強要された自白は裁判では!」
「だったら裁判をしなければ良いのよ。さあ! 全部明らかにしてもらおうかしらね!!」
サガミら公安部の職員達は裏切り者ヴァイスを裁判で裁く気など鼻からなかった。むしろ、ここで始末する予定だった。それは公安部全職員の総意であった。
「あんたは送り込まれた身だから知らないかもしれないけどね、何人もの犯罪者はここで奈落に落ちて行ったのよ。むしろあんたは幸運。苦しむ期間が短くてすむんだからさ!!」
サガミの手持ちのポケモンがヴァイスを完全に固定する。そして彼の右腕に自白剤の入った溶液を注射する。
「地獄に堕ちろ!! この裏切り者!!!」
「ぐああ、ああああああ!!」
「とにかく、我々はヴァイスから全てを把握した。今頃ラクツ警視も同様の情報を得たころだろう。」
海底遺跡
「これが事の全てよ。」
「そうですか。」
ふと後ろを見れば、ファイツが気絶していた。無理もない。急に国際警察の闇の全てを聞かされたのだ。混乱しないはずがない。
「それで、貴女は僕に何を命じるのですか?」
「貴方には、これまで通りプラズマ団七賢人の逮捕並びにメモリーカードの回収を命じます。手段は、問いません。存分に貴方の実力を発揮して頂戴。」
「了解しました。」
「また、以降の指示はサザナミタウンのポケモンセンターで待機している者に聞くように。既に此方の特命を伝えてあるから。こっちも、忙しいからね。では、健闘を祈ります。」
通信が切れ、再び静寂さを取り戻す海底遺跡。
「ファイツ、大丈夫か?」
気絶したファイツを姫抱っこするラクツ。
「ともあれ、早急にここを脱出し、サザナミタウンに向かわなくてはな。戻れ、ケルデマル、ゲノセマル。」
手持ちポケモンをボールに戻す。気が付けばコバルオン、ビリジオン、テラキオンは姿を消していた。
「おそらく、僕が通話している間に行ったのだろう。さて。」
ラクツはカバンから一個のピンク色のボールを取り出す。
「さて、このポケモンはいつの間にか僕のカバンに入っていた。」
ボールを睨むラクツ。
「僕が起きるまで見ていた夢の中に登場したポケモン。あれが噂に言うハイリンクの森というのだろうか。ともあれ、今の僕には水中から脱出可能なポケモンはこれしかない。何の意図があってかは分からないが、よろしく頼むぞ。」
「!!!」
揺れるボール。
「行くぞ! ダイビング!!」
ラクツとファイツは海底遺跡を脱出し、サザナミタウンへと向かっていった。
巡視船内
「ナルセ様、本船は間もなくヒウン港に到着致します。下船の用意をお願い致します。」
巡視船の乗組員がナルセらに下船を促した。
「ふむ。ご苦労。では、重要人物の収容まで絶対にこの船に敵を近づけるな。もし、近づく者があれば・・・分かっているな?」
「肝に銘じております。では、御武運を!」
そう言って船員はその場を離れた。
「ナルセ殿、重要人物の収容とは?」
「サガミ部長は私に三つのことを命じられた。まず一つは君たちと接触すること。二つ目は重要人物、七賢人のロッドと巻き込まれたトレーナーズスクールの生徒及び教員の救出。そして三つ目はメモリーカードの回収だ。」
「なんと!」
「さて、御託を並べている暇はない。直ぐにやるぞ。」
下船すべく行動を開始するナルセ。
「敵は待ってくれないのだ。緊張感を持って取り組むように。」
「・・・はっ!」
ヒウン港
「・・・という訳ですので我々と同行して頂きます。」
「ふむ、承知した。とは言っても、わしらに拒否権はないのだがな。」
ナルセとロッドが会話をしているよそでは、ハンサムや巡視船の手空き乗員による生徒らの収容作業が行われていた。大半の生徒は気絶していた為一人一人背負って船内に搬送した。
「てめえ!!プラズマ団め! 犯罪者が!!」
ロッドに向かって殴り掛かろうとするヒュウ。
「キノガッサ、彼を止めなさい。」
しかし、あえなくナルセのキノガッサに取り押さえられる。
「何しやがる!」
「君は確か、ヒュウ君だったかな? 過去に妹のチョロネコを奪われたという。」
「そうだ!」
「なら何故目の前のプラズマ団の幹部と悠長に話をしている、と言いたいのだろう。」
「・・・・・。」
「図星か。まあ、君にはあれを渡してくれればいいと私は思っているのですがね。」
「・・・ファイツの持っていたメモリーカードか?」
「そうです。あれこそがプラズマ団を壊滅させる鍵となるキー。それは一体どこにあるのか。君には、分かりますよね?」
笑顔で話しかけるナルセ。
「・・・・ほらよ。」
カバンから小さな箱を取り出し、ナルセに投げ渡す。
「どれどれ。」
手持ちのタブレットで中身を確認するナルセ。
「確認完了。さて。」
ヒュウに近づくナルセ。
「ご協力ありがとうございます。申し遅れましたが、我々は国際警察の者でして。これよりあなた方をヒオウギに搬送致します。」
「ナルセ殿! 全員の収容が完了しました!」
「ご苦労。さて、我々も行きましょう。」
ヒュウとロッドを連れて巡視船に乗り込むナルセ。彼らの乗船を確認した後、速やかにヒウンからタチワキに移動を開始した。この間、プラズマ団からの襲撃はなかった。
巡視船内
「さて、三つのミッションが達成されたことにより、いよいよこいつが発動する。」
封をされた茶封筒を掲げるナルセ。
「一体何が入っているのであるか?」
「では、これより特別作戦実行に向け、封を切る。」
特別作戦と書かれた茶封筒を切っていくナルセ。闘いはいよいよ、新たな局面を迎えようとしていた。
(続く)