ぶっちゃけ転生者は登場しません。本編の頃には既に死んでいます。
ちょっとしたタイトル詐欺です。申し訳ありません。
その辺をご了承の上ご覧に下さい。
前編
西暦2016年のある日、突然世界が書き換わった。
12月31日。
日本では年末というイベントをいつも通りにこなしながら、いつもの平和が日常を過ごしていた。
筈だった。
異変はその年越しの瞬間に起きた。
ソレは正に世界の異変だった。
空が魔力に染まり、膨大な真エーテルが世界を包み込む様に覆っていき、やがて世界のあらゆる法則すらも塗り替えて侵食していく。
それは神代の時代の再現だった。
それだけではない。ありとあらゆる人間にも変化が訪れる。
本来なら猛毒となる真エーテルを浴びても、死に至らずにその真エーテルに適応した生物へと進化する。
広がっていく真エーテルに触れた全ての人間が魔術回路を持ち、神秘が宿り、真エーテルに適応した人類となる。
人々がその急激な変化に驚愕し動揺し混乱する中で、生粋の魔術師達は魔術が自由に行使出来る神代の世界となった事を歓喜する。
そんな魔術師達を横目に世界各地にはテレビ・インターネット・ラジオなどの様々な国のメディアにとある情報が発信された。
「地球上に存在する全ての人類に告げる」
そのテレビやインターネットに映った映像にあったのは、1人の男だった。
銅色の混ざった銀髪を腰ほどの長さまで伸ばした黒いスーツの上に青いコートを着込む端正な顔をした男性が玉座に座りながら鋭い表情で話す。
「人間の世界は今生まれ変わった。これまでの常識が通じない世界となった」
険しい表情で無機質な声で話す男性は更に告げる。
「これより1時間後、テレビ・インターネット等の電子機器は一部を除いて全て使用不可能となる」
その宣告は現代に生きる者にとっては死刑宣告に等しいモノだった。
「これから世界は混乱を迎えるだろう。だがその混乱こそ俺の望みだ」
「今から始まるあらゆる犯罪・事故・殺戮・暴動といったありとあらゆる負の事象は全て俺の仕業だ」
「憎いと思うなら挑むがいい。覚悟があるなら来るがいい」
「俺の名はジーク」
「楽しみを、喜びを、自由と平和を取り返したければかかって来い」
「この世の全ての悪は俺が背負っている」
「挑む者を俺はこの彷徨海で待っている」
その映像を見た現代の人々は最初はタチの悪い悪戯だと思った。だが、魔術師達は彷徨海という言葉を聞いてこの男がこの異変の張本人だと確信する。
そして一時間後、世界から電気が消えた。
変化は電気だけに留まらず、突然喋る言語が一つに統一され、喋る当人達は喋る言語が分からないのに解るという奇妙な感覚に陥る。
機械を使おうにも起動せず使用不可能になる。
機械も動かない為、飛行機や車といった移動手段すらも停止する。
それによって先進国では数え切れないほどの事故が起こった。
電話も繋がらず、連絡手段も無い。
人々はその悲劇に打ちのめされるしかなかった。
そして人類は思い知る。
「世界が変わってしまった」と思い知った。
世界が変わったというのに「人が死ぬ」という人間の常識だけは律儀に変わらなかった。
人々の混乱はすぐにピークに達してしまい、その動揺と混乱は人々からモラルを奪い、平気で人を殺し殺される事が日常となる地獄の様な有り様が世界各地で頻繁する。
その混乱の中で、追い討ちをかける様に幻想の存在であるはずのワイバーンが世界各地で暴れ回る。
ワイバーン達の殺戮と蹂躙はあらゆる犯罪や悲劇を生んだ。
国の維持すらままならず、人々は間違いなく滅びに向かっていた。
そんな絶望が覆う中で立ち上がった者がいた。
それは魔術協会の魔術師と聖堂教会などのかつて世に潜んでいた魔術に関わる者達だった。
彼らは『魔術』という存在そのものが世界に認められた為、魔術が自由自在に扱える環境を存分に魔術や異能を使って人々を混乱から回復させる。
魔術回路を持つ魔術師達は、変化した世界に適応しており、魔術が本来よりも高い能力を発揮出来る様になった為に全ての魔術師が強大な力を手に入れていた。
それに合わせて聖堂教会または他の宗教団体が魔術協会に負けずに人々の混乱から救う事に一躍買っていた。
魔術の存在と世界に起こった異変の事もあり目の前に起こる奇跡を前に人々は神の存在を確信し、人々は神の信徒となる事で落ち着きを取り戻していく。
彼等の活躍により、人々は科学という既存の技術を魔術という技術に置き換える事で機能が回復し、更に魔術と科学を融合させた『魔科学』という新しい技術の確立に成功した。かつての現代とは全く違う物へと様変わりし、真エーテルという世界を包んだエネルギーが、宇宙へと渡る道を封鎖して人類は地球に閉じ込まれる事となった。
真エーテルそのものは皮肉にも人類のエネルギー問題を一気に解決し、あらゆる事を必要最低限のエネルギーで効率的に運用可能となった。
だが、電気に変わるエネルギーこそ生み出せたが、テレビやラジオが限界で、インターネットというかつての遺物を掘り起こす事は出来なかった。
その為、飛行機を使おうにも上空の真エーテルは非常に濃く、造り替えられた今の人体にも有害な為、人は空飛び立つ事が出来なくなってしまう。
その為、移動や交流は列車・自動車・船などが主流となり、やや文明水準の低下こそ招いたが、人々が生活出来る世界が出来上がっていった。
混乱からある程度は落ち着きを取り戻した人類は、混乱の元凶である『ジーク』を嫌悪し、憎悪し、恐怖した。
そして『ジーク』に挑む事を人類は決めた。
魔術を一つの当たり前の技術として人類は取り込み、魔術師達は全能の力を持って『ジーク』に挑む。
そして人類対ジークによる戦争が始まった。
ジークは待っていた。あらゆる悪を生んだ元凶を討たんとする人間を待っていた。
決してその人間に討たれようと思っている訳ではない。
ジークの目的は人類の抹殺でも人類への復讐でもない。
その目的は「全ての人間の憎悪を自分に集中させる事で、人類の更なる進化と発展を促す事」だ。
その世界で起こったあらゆる出来事が一つの存在の仕業だと人類が判断した場合、人類のその存在を打倒しようと結束する。
その結束の力はとても素晴らしく、尊いモノだ。正に人間賛歌だ。
だが、ジークはその人間賛歌を観る為に今回の出来事を起こしたのではない。
ジークはその後の事も考えていた。
人類は結束した時の団結力は凄まじいが、目的を達成した途端に団結力は何処かへ消え去り、欲望が増大し、組織は内部から崩壊が始まり腐り果てる。
そしてその後に待っているのは醜い欲望丸出しの戦争へと発展する。
例え戦争を止めたとしてもまた何処かで新しい戦争が始まる。
ジークはその負の連鎖を止める為に取った行動は、『全人類共通の敵』となる事だった。
あらゆる悪とあらゆる都合の悪い出来事の元凶となる事で人々の意志を結束させて、尚且つ挑む人々に勝ち続けると人々の希望を奪いかねない。
そこで彼は自らの能力である竜の生産能力を駆使する。
自身の分身であり子どもでもある竜に自らの生命力と魂を分け与える事で自分とほぼ同等の能力・思考・技量を持つ存在へと昇格させる事も出来る。
その世界各地の自分の分身をその地域の悪の象徴として配置する。
適度に人々の敵意を煽り、絶望を与えて、時には倒される事で人々の希望を示し、その希望は人類の発展を促す。
このサイクルこそがジークの考えた人類の救済だ。
「真の救済とは与えるのではなく、他ならぬ本人が行うモノ」とジークは信じている。
ジーク本人が負けなければ、このサイクルが終わる事は無い。
世界各地に『ジーク』を配置し終えたジークは、拠点としている彷徨海の最奥で座して遠見の魔術で世界を眺めて待っていた。
人類がジーク討伐の為に団結し始めた頃、1人の人間がジークの前に姿を現した。
「……ようこそ衛宮士郎、貴方の事はよく知っている」
赤い外套を纏った男性がジークの前に立つ。
その男の名は衛宮士郎。
この世界が新生する前からあらゆる戦いに関わりそれを鎮圧し、新生した世界でも起きた争いを片っ端から鎮圧させてきた傑物。
人々は彼を「英雄」と呼んだ。
そんな英雄が世界を混乱に陥れた魔王に挑むなど当たり前の事だ。
そんな2人が会えば行われるのは殺し合い以外存在しない。
だが、その殺し合いを始める前に衛宮士郎がジークに話しかける。
「何故…こんな異変を起こした?」
衛宮士郎はジークに問いかける。
なぜ世界を変えたと、なぜ人類に混乱を招く真似をしたと問いかける。
「それが必要だったからだ」
ジークは無表情で衛宮の質問に返答する。
そこからジークは語る。
自身の『この世全ての敵』という目的を事もあろうに敵である衛宮士郎に事細かに説明する。
「人間には絶対的な必要悪が必要だ。その為には多少の強引な手段はやむをえなかった」
「だがその犠牲すらも無駄にも無意味にはならない」
「何故ならそれこそが人類の持つ爆発力を発揮する燃料になる」
「俺という悪がいる事で、人々の意思が俺に向く事で人類は一つになる」
「俺はその一つとなった人類と戦い続ける事で、人類に発展と繁栄を促す」
「生きとし生けるもの、その全ての『敵』となる」
「俺は『この世全ての敵』に成りたいのだ」
「その為ならば、あらゆる人間に憎まれようとも、恐れられようとも、嫌われようとも、侮辱されようとも、受けてたとう」
「来い、人間の英雄」
「敵は此処にいる」
あまりにも恥知らずに威風堂々と宣言するその姿に衛宮士郎は嘆息する。
コイツはもうダメだ。
とても救えない。救いようの無い馬鹿だ。
たかが『この世全ての敵』などという下らない目的の為に全人類を巻き込んでおいて、巻き込まれた人達に抗う事を強要するなどどんな崇高な目的があろうとやっていい事じゃない。
そんな事をする輩は人々は何と呼んでいるか知っているだろう。
『魔王』と皆は呼んでいる。
良かったな、ジーク。お前の目的は叶ったよ。
お前の思惑通り人類はお前を嫌い憎み侮辱しながら前に進んでいる。
皆が一丸となって魔王を倒すべく結束している。
ついでに気になった事を衛宮士郎はジークに問いかける。
「この彷徨海にいた魔術師達はどうしたんだ?これほどの異変を起こすには彼らの協力があったんじゃないのか?」
「俺は此処に着いた頃には、誰一人として気配も感じないし、会ってもいない」
「しかも命の危機すら感じなかった」
本来ならそれはありえない事だ。
いくら衛宮士郎であろうとも彷徨海の魔術師は自分の研究を害する者を排除する筈だ。
彷徨海とはそれほどまでに閉鎖的な場所であり組織だ。
そこで誰にも会えないのはまだ理解できる。
だが、無許可で尚且つ土足で足を踏み入れた者を彷徨海の魔術師達は絶対にそれを許さない。
未だに傷一つ負っていない今の衛宮士郎の現状がその異常さを物語らせる。
その回答は至極単純だ。
「
その答えを聞いた衛宮士郎は唖然とする。
そしてよく見るとジークの周囲には多くの物が散らかっている。
その周囲に転がっている彷徨海の魔術師達の残した遺物がとんでもない魔術礼装の一部である事は予想できた。
実際は、衛宮士郎の予想を上回る存在なのだろう。
時計塔の最上位の魔術師達に匹敵もしくは上回る実力者達が、目の前のジークという存在に敗れたのだ。
衛宮士郎は改めてジークを強大な敵と認識して気を引き締める。
「なるほど、碌でも無い奴だな…お前は」
それを聞いた衛宮士郎は苦虫を噛み潰したような顔をしながら答えて、衛宮士郎が動き出す。
両手に愛用している干将・莫耶を投影しジークに斬りかかる。
ジークはそれに動揺する事なく冷静に自身の持つ魔剣『
バルムンクと干将・莫耶がぶつかり火花が飛び散りながら剣戟は続く。
「我ながら自覚あるよ。俺は碌でも無い奴だと」
ジークは苦笑いを浮かべて、衛宮の剣撃を受け流しながらも衛宮に語りかける。
「だが、そんな俺でも叶えたい願いがある」
「その為ならば」
すると防御の姿勢を一変させて、攻勢に回る。
大剣を武器とするジークは一撃一撃が重く素早い攻撃を繰り出し始める。
「
その剣筋には一切の才能が感じられなかった。
冴えも無く一見するとがむしゃらに振われるただの剣に見えるが奇妙に練達した術理が僅かに見れるという奇妙な剣をしていた。
だがその剣には「殺す」という明確な殺意が込められている。
大剣の攻撃はその一撃一撃が必殺の意思を乗せた凄まじい剣圧だった。
まともに喰らえば只では済まないだろう。
実際、少しでも大剣に傷をつけられるもしくは触れた物質が粉砕されるという現象が起きていた。
何らかの魔術を使っている事は容易に想像がついた。
壊された干将・莫耶はすぐに投影すれば問題は無いが、体に当たった場合は話が別だ。
当たったら最後その部分が破壊されてしまうだろう。
だが、そんな攻撃に臆する衛宮士郎ではない。
幾千の戦いを乗り越えた経験が、衛宮士郎の体を動かす。
干将・莫耶の二刀を壊されたら投影してを繰り返し、ジークの斬撃をいなし、受け流し、捌いていく。
そして、ジークが大剣を大きく振りかぶった隙を突いて、衛宮の干将がようやく一太刀入れた。
様に見えた。
「何っ⁉︎」
干将は魔力で出来た剣の様な物で防がれていた。
同時に理解する。
ジークの狙いはコレだったのだと。
「『
振り下ろされた大剣から膨大な量の魔力と拡散する黄昏の剣気が放たれる。
わざと隙の多い大剣で戦う事で、相手に隙を突かせて、攻撃という最も隙が生じる瞬間をジークは狙っていた。
しかも逃げ場がない様に黄昏の波を拡散させている。
そんな攻撃を至近距離にいる衛宮士郎には避けようが無い。
その黄昏の波は、衛宮士郎を呑み込んだ。
その黄昏の波は衛宮士郎の身体を吹き飛ばし部屋の壁にぶつかった。
それにジークは不思議に思う。
本来ならばバルムンクの黄昏の波は吹き飛ばされる程度で終わる威力ではない。
まともに喰らえば、良くて致命傷、最悪の場合は消滅という末路を辿るのが当たり前だ。
それを衛宮士郎は身体のどこも欠損もせずに五体満足で吹き飛ばされてはいるが無傷で収まっている。
そこでふと衛宮士郎の周囲に赤く光る円状の物体が砕け散っている事に気づく。
「なるほど、宝具を纏っていたか」
その絡繰は簡単だ。
衛宮士郎は皮膚の表面の上に宝具「
それも一枚ではなくちゃんと七枚展開してそれをずっと保持していたのだ。
本来ならそんな事は不可能だ。
かつての世界なら、その魔力を常に消費し続けて保持できない。
だが、今の世界は真エーテルが豊富で、膨大な魔力が溢れている。
神代の魔力は人類を変革させて、かつての人類とは桁違いのスペックに変えた。
極小規模での宝具の展開などの少し工夫すれば可能だろう。
衛宮士郎もまた例に漏れず神代の魔力の影響を受けている。
七枚の「
「安心した、人類はちゃんと進歩している。お前のお陰で確信出来た」
「感謝するぞ、衛宮士郎」
そう言って、ジークは立ち上がった衛宮に追撃を仕掛けるべく疾走する。
大剣を置いて、あろう事が無手で衛宮士郎に突進する。
その突進に驚きながらも衛宮は慌てて干将・莫耶を投影し迎撃する。
振り下ろされた二刀を止めたのは、魔力で出来た剣だった。
その剣は、普通の西洋剣の形状をしていた。
浅葱色の魔力で構成された投影魔術の出来損ないの様な代物だった。
その魔力の剣は一本だけでは無く何本もジークの周囲に出現し、ジークはそれを掴み、武器として使用する。
「『
ジークは両手に魔力剣を持って斬りかかりながら、衛宮の疑問に回答する。
魔力剣とはつまり投影魔術の出来損ないそのものだ。
素人の魔術師が投影魔術を使用して、失敗した時にできる魔力の塊。それが魔力剣の正体だ。
本来ならイメージが固まっておらず霧散する筈だが、あえて想像しやすい剣のイメージを魔力の状態で固める事で、容易に作り出し運用する事が可能な即席の武器とする。
頭でイメージして魔力を通すだけで使用出来る簡単な魔術故に、予備動作も必要無く、即座に使用出来る。
そして、そんな魔力剣を用いた剣術は、単純だ。
剣を作ってその剣で斬る。それだけだ。
剣が壊れたらまた作ればいい。そしてそのまま斬りかかればいい。
ジークの剣は、ただひたすらに攻撃に全振りした剣術とさえ呼べるかどうか怪しい代物だ。
それでも、その剣撃は正に嵐だった。
振われる剣は、魔力の塊故に脆く壊れやすいが、確かな切断力と威力を持っている。
投影魔術よりも扱い易い魔力剣は、替えが効いて作り易い。
壊れても魔力を流せばすぐに修復出来る。
故に怒涛の連続攻撃が衛宮を襲う。
衛宮は愛用している干将・莫耶でジークの攻撃を全て捌いていく。
だが、その猛攻を捌ききれずかすり傷こそ負ってしまうが、それ以上の傷は負わない様に立ち回る。
ジークの剣を躱しながら衛宮は高速で思考を巡らせる。
ジークの剣は衛宮士郎の防御に長けた剣とは違い、攻撃に特化した剣だ。
つまり、攻撃に全振りするあまり防御力はほぼ皆無に等しいという弱点がある。
故に次に衛宮の取る行動は決まっている。
(横から思い切り殴りつける…!)
すると、衛宮の周囲から衛宮の投影魔術により造られた百本程の青い魔力剣が、一気に展開され、ジークに向けて全方位から射出された。
ジークの魔力剣を衛宮士郎が使える理由は単純だ。
魔力剣は投影魔術の出来損ないだ。
そんな投影魔術の初歩の失敗作を造る事など、投影魔術を専門としている衛宮士郎には児戯にも等しい。
厳密には、衛宮士郎の投影魔術は、本来の投影魔術とは違うのだが、その分、本来の投影魔術より難易度が難しい。
魔力剣の使用難易度はその本来の投影魔術より遥かに簡単だ。
同時に確信する。
目の前のジークは、衛宮と同じく戦いの才能も魔術の才能が一切無いのだ。
今までジークはそれを全て努力で補っていたというのを容易に想像出来た。
衛宮士郎もまた才能も無く、それでも努力を重ねて今に至る事からジークへの理解を深める。
「おおおおおおおおおおおお!」
大量の魔力剣を前に一切怯む事無く、両手の魔力剣に更に魔力を込めて固定化し、硬質化した魔力剣を振るい、雄叫びを上げながら迫る剣を撃ち落とす。
そこから衛宮はすかさず魔力剣を更に数百本を周囲に展開し、ジークに向けて射出する。
降り注ぐ魔力剣の雨をジークは、避けもせずに真っ正面から受けて立つ。
「それがどうした!」
剣撃が加速する。
魔力で肉体を強化しながら、振われるジークの腕が加速する。
加速した彼の剣は超音速に至り、衝撃波を生み出しながら衛宮の魔力剣を叩き斬る。
その激しい姿を見て衛宮は、彼がどれほどの修練を積んできたのかを悟る。
強靭な意思で磨いた剣術を振るう姿は、彼のそれまでの苛烈な経歴を物語らせる。
衛宮士郎は先程ジークが言っていた事を思い出して違和感を感じる。
『人類共通の敵』という彼の目的。
彼の言い分にはおそらく嘘偽りはないだろう。
だが、それを実行するには実力が足りなさ過ぎる。
衛宮士郎という個人に苦戦する様では、到底『人類共通の敵』は務まらないだろう。
(……来るか!)
ジークには何か切り札があるのだろう。その証拠にジークの剣撃が更に加速して衛宮の魔力剣を後僅かにするほど撃ち落としていた。
全て撃ち落とした後はおそらくだが大技を仕掛けて来てもおかしくない。
どんな切り札かは予想がつかないが、その切り札を使わせるほど衛宮士郎は甘くない。
追い討ちをかける為に衛宮が投影したのは愛用している黒弓と螺旋状の剣を矢として改造した宝具『
弓に剣を番て衛宮は宝具の真名を解放する。
「『
放たれた螺旋剣は、空間すら穿つほどの破壊力を持つ。
まともに喰らえばジークの命は終わりを迎えるだろう。
だが。
「まだだ!」
それで終わるジークではない。
次にジークの取った行動は単純だ。
防げる武器である幻想大剣は離れた場所に置いてきてしまった。
取りに行く時間は無い。
故に。
魔力剣で螺旋剣の破壊を決行する。
それを即断即決したジークは両手の魔力剣を全力で螺旋剣に激突させる。
螺旋剣の貫通力に魔力剣が破壊と再生を繰り返しながら何とか踏み止まる。
そのままジークは魔力剣に魔術を纏わせる。
「おおおおおおおおおおおお!」
『
触れた物に魔力を通しその物質を理解する事で最適な破壊を行う錬金術の一種だ。
それを見た衛宮は理解する。
先程ジークが大剣に纏わせていた魔術はこの魔術だと。
理導・開通は使い様によっては一撃必殺になり得る魔術だ。
それの補助を行う魔術をジークはあの大剣に纏わせていたのだろう。
だからあの大剣に触れた干将・莫耶が瞬時に破壊されたのはそのせいだ。
だが今のジークは大剣を手放している。
故にジークは補助無しで宝具を破壊しなければならない。
本来なら贋作とはいえ宝具という規格外な物は理解出来ずに失敗するだろう。
ジークは衛宮士郎の様に物質の解析に特化した能力も持っていない。
だが、ジークはとある魔術師による大幅な改造によってあらゆる面に置いて強化されたホムンクルスだ。
贋作とはいえ宝具を理解し破壊する事は出来る筈だ。
ジークは脳細胞をフル活動させて、壊れ続ける魔力剣を再生させながら目の前の螺旋剣を理解を深めながら魔力による破壊を行い続ける。
数十秒の拮抗状態が続くが次第に変化が訪れる。
螺旋剣に罅が入る。
その罅はどんどん広がり遂に螺旋剣の破壊に成功する。
だが、ジークが螺旋剣の破壊に集中するあまり衛宮の警戒を怠ってしまった事で、隙を生じさせてしまった。
その隙を見逃さない衛宮士郎ではない。
ジークはすぐに構えるが全く追撃が来ない。
訝しむジークだったがその答えはすぐに理解出来た。
突然、炎が走る。
炎が走った後に景色が変わる。
その光景は、無数の剣が突き刺さる夕焼けの荒野だった。
「固有結界かッ!」
世界を塗り潰す異界現象に即座に正体に気づいたジークは、急いで離れた場所に置いた大剣を回収する。
大剣を構い直したジークの前には、燃える様な赤い空と無数の剣が突き刺さる荒野に立つ衛宮士郎がいる。
「
「最近になって完成したばかりの俺の最奥だ」
「見せたのはお前が初めてだ」
この世界の王はジークに改めて向かい合う。
その様子にジークの心の中で目の前の男への敬意を抱く。
これほどの魔術を展開するのにどれほどの修練と経験を重ねてきたのかを思うと敬意を表するあまり見惚れてしまいそうだ。
そして同時に納得する。
「先程の螺旋剣も二刀の中華剣も、全てお前の魔力で造られた贋作だったか」
「その精巧な造りや真に迫る再現度は素晴らしい。だが同時に解せない事もある」
「お前は一体何処でソレを見た?」
衛宮士郎の能力は今の世では有名だ。
あらゆる剣を造り出す能力は強力だ。
しかも造り出す剣は古今東西のあらゆる伝説の剣を投影するとなれば、その脅威は魔術師達や権力者を震え上げさせた。
そして誰もが思う。
「造る」にはその実物を「見る」必要がある。
衛宮士郎が一体どんな手段を使って、膨大な神秘を内包した剣を「見た」のかは誰にも分かっていない。
当然の事を問いかけるジークに衛宮は苦笑しながら答える。
「『世界』で見せてもらった」
普通の人が聞けばトンチンカンな回答に思えるだろう。
だが魔術師としての知識を持つ者が聞けば全く意味が理解できるだろう。
「貴様、抑止の契約者かッ!」
抑止の契約者とは、人類の集合的無意識である『アラヤの抑止力』もしくは星そのものの意識である『ガイアの抑止力』のどちらかと契約した者の事を指す。
本来、抑止力とは後押しを受ける者であり、契約するモノではない。
それを自身の死後を売り渡し、抑止の奴隷と成り果てる事で自身の願いを叶える権利を得る。
滅多にいる物ではなく前例すら確認されておらず、それらしい人物を時計塔の魔術師達が考察しピックアップして「それらしい前例」として講義で教える程の希少な存在だ。
「なるほど……それならば先程の盾や螺旋剣も合点がいく」
恐らく抑止の思念は衛宮士郎を使い潰す為にありとあらゆる時代の武器の情報を衛宮士郎に見せたのだろう。
抑止の守護者として相応しい存在へと改造するべく、身体能力や魔術回路まで強力な物へと鍛え直した筈だ。
抑止力には情など無い。それくらいの事は当然するだろう。
何故ジークがすぐにそれを察する事が出来たのかというと、
「まさか此処で未来の
「そうか…おまえもか……」
自嘲気味に苦笑するジークに衛宮はすぐにその意味を察する。
ジークもまた世界と契約していた。
ある戦いを勝ち抜く為に力と自らの願望を求めて契約を持ちかけた世界と契約してしまった。
「無駄だと思うがなぜ世界と契約などした?我ながら思うが世界を相手に自身の死後を売り渡すなど愚か者のやる事だ」
「まさか、かつての世界を今の世界に造り直すために契約したなどとは言わないだろうな?」
そう苦笑しながら衛宮はジークに問いかける。
ジークもまた苦笑しながら答える。
「当然違うとも」
「俺が契約したのはあくまでも個人的な願いだ」
「神代に回帰した今の世界は彷徨海の魔術師達との協力によるものだ」
神代回帰は彷徨海の全体目標の一つと時計塔では言われていた。
真実かどうかはさておき、今の世界が造り替えた張本人はジークだけではなく彷徨海という組織そのものが、それを実行したのだ。
「俺の使うこの剣は『
「不思議な事に幾ら使っても、
「どういう訳か探ってみた所、この宝石には魔法の如き技術を誇るニーベルング族が仕込んだある機能が分かった」
それを知れば彷徨海が動いたのも納得の事実をジークは淡々と語る。
「
「なん…だとっ⁉︎」
その事実に衛宮は驚愕する。
そんな機能が有れば、少し使い方を工夫して使えば真エーテルを無限に生み出すのと同義だ。
「まさかお前はッ!」
「そうだ、俺はこの剣を使って彷徨海に取り入った」
ジークは衛宮の疑問に答えるべく説明する。
その説明を聞いた衛宮は納得する。
その剣の機能を彷徨海が知れば、ジークに協力するのも納得だ。
流石に幻想大剣単体では無理だが、もし誰かの固有結界の機能に真エーテルを生産・消費を行う機能が有れば、幻想大剣を合わせる事で膨大な量の真エーテルを生み出す事が出来る。
彷徨海の魔術師達が協力すれば、その固有結界の持ち主を探す事など可能だろう。
その固有結界を『
本来ならば、世界に認められる固有結界など有りはしない。
だが何事にも例外は存在する。
抑止力という世界の機能そのものと契約し、未だに生存しているジークは、世界に認められた存在だ。
世界に認められた抑止の守護者を世界は認めない訳にはいかない。
その結果、その世界の元となった固有結界は世界そのものを書き換える『
その世界の盲点を突く事で生まれたのが今の神代回帰した世界だ。
「故に俺の最奥も分かるだろう?」
「お前の奥義を見せてもらって此方が何も無いのは失礼だろう」
「故に俺も『切り札』を使わせてもらおう」
「文句はあるまいな、衛宮士郎?」
ジークが大剣を構えると大剣から膨大な魔力が漏れ出し始める。
「大有りだ‼︎」
ソレを阻止するべく衛宮は結界内の大量の剣をジークに飛ばす。
「
ジークは呪文を詠唱する。だが、その詠唱が幻想大剣を真名解放して無数の剣を薙ぎ払う。
本来、魔術師は詠唱中は無防備の筈だ。魔術の詠唱を気長に待つほど戦場は甘くない。
故にジークは其処から潰す。
魔術の詠唱という最も隙を晒す状態を、詠唱そのものを真名解放に繋げる事で幻想大剣の黄昏の剣気を連続で出せる状態を作ったのだ。
ジークはそれをアトラス院の魔術師達が使っている錬金術の一種「高速思考」や「思考分割」を駆使する事で可能にした。
他にも幻想大剣の連射性能が高い事やジーク自身の魔力量が多かった事もまた可能にした要因の一つである。
「
また詠唱を謳うジークは幻想大剣を振るい、真名解放して衛宮に黄昏の波を解き放つ。
衛宮はアイアスを咄嗟に投影する事で何とか防ぐ事に成功する。
「
再度放たれる黄昏の波に、衛宮は抑止の契約者特有の『世界の支援』による膨大な魔力を生み出しながら『熾天覆う七つの円環』を投影する。
これからも来る黄昏の波を考えると七枚では足りない。
衛宮は結界内の剣をジークに飛ばしながら距離を取る。
そして十分な距離を確保したら、剣を飛ばしてすぐさま『熾天覆う七つの円環』を更に投影する。
「
また放たれる黄昏の波。
それは拡散される波な為、距離さえ取れば威力は多少は弱っている為、アイアスの花弁は二枚砕かれる程度で収まる。
その程度の損傷ならばすぐに修復は可能だ。
「
「
2連度と放たれる黄昏の波。
大量の剣を薙ぎ払いながら展開する黄昏の波は徐々に威力が減退し、衛宮に到達する頃には『熾天覆う七つの円環』の花弁を一枚も割る事なく防がれる。
「
次の黄昏の波は拡散させずに収束していた。
収束した黄昏の波は巨大な一本の剣として衛宮に振り下ろされる。
「おおおおおおおおおおおお!」
全力の『熾天覆う七つの円環』で何とか防ぎながら吹き飛ばされる。
『熾天覆う七つの円環』は完全に破壊され、衛宮は無防備となってしまう。
それをジークは追撃せずに幻想大剣を地面に突き刺す。
その行動が示す意味は一つ。
詠唱が完了したのだ。
「
地面に突き刺した大剣から黄昏色の魔力が溢れ出す。
そしてその魔力は大剣を起点に広がり始める。
その現象には見覚えがあった。
世界が造り替えられた時と同じだ。
あの時は黄昏の魔力に触れた者は、真エーテルに適応した存在へと改造させられたが、今回は違う。
ジークのあの行為は、固有結界の線引きだ。
衛宮士郎もまた、固有結界の展開には炎を走らせてそこを現実と固有結界との境界線としている。
部屋の半分を魔力が包み込み、次の瞬間にはジークの世界が現れた。
そこは真エーテルが満ちた夜空と広大な荒野だった。
その世界の空は綺麗な黄昏を描きながら、その下は何も無い寂れた荒野がジークの心象風景だった。
そして2人は向かい合う。
互いの固有結界を展開すると、二つの世界がぶつかり合った様な奇妙な景色が広がる。
衛宮士郎の『
二つの『無限』を持つ固有結界の戦争が始まろうとしていた。
魔力剣のイメージはデビルメイクライのバージルが使っている幻影剣で大体合ってます。
次回は説明回です。
ここからおまけ
本編で書けなかった人物の設定紹介
転生者:全ての元凶。眼鏡をかけてる。
転生して魔術師の優秀な家系に生まれ育ったけど美少女も原作への介入も根源すらもほっぽりだして、ジーク君を見つけて育てる為に全力を注いだジーク君ガチ勢。
その為ならゴルドさんの家も襲う。ぶっちゃけジーク君は拉致・誘拐して来た犯罪者。
本人はジーク君に教育という名の洗脳と肉体改造を施しながら過ごせて幸せそうだった模様。
ジーク君が光の奴隷っぽくした張本人。ジークに行った肉体改造などの行為は全て善意なのがタチが悪い。
最期はジークにジャンヌをサーヴァントとして与えて、満面の笑みを浮かべながら死亡。