FGOではバレンタインイベントが来ました。
もしかしたらイベントシナリオでは、ジーク君と天草四郎が仲良くしている光景があるんじゃないかと妄想する今日この頃。
混濁する意識の中でジークは夢を見ていた。
己の精神世界で、『誰か』の夢を見ていた。
その夢は英雄の人生だった。
王子として生まれ、冒険をして、恋をして、戦って、背中から刺されて殺された。
英雄としては生き、誰かの願いを叶え続けた彼の生涯は何処か物悲しかった。
だが、当の本人は満足そうだった。
その生き様を見てジークは思った。
(まるで願望機みたいだ…)
人から請われた事を叶えて、叶え続けた男の人生は人の願いを叶える聖杯の様だった。
勿論、人としての感情も願いも確かに彼にはあった。
だが、それを抑えて人の願いを叶え続けた男がジークには理解出来なかった。
「そうだ。俺は正に願望機だった」
その声にジークはハッとする。
するとジークの隣には先程の夢で体験した人生を送った者がいた。
英雄・ジークフリートがジークの前に現れていた。
「驚かせてすまない。ずっと君が混乱しているのもこちらも申し訳ないので此方から話しかけさせてもらった」
「君がこの世界にいるのは、単純に君の身体の防衛本能だ。分かりやすく言えば、身体がビックリした拍子に君の精神が己の精神世界にダイブしてしまったんだ。要はただの事故だ」
突然の事に混乱するジークを諭す様にジークフリートは状況を説明する。
「貴方は?」
状況を一通り理解したジークが絞り出した言葉はそれだけだった。
「俺の事か?俺は君の体に流れる俺の血が再現した
本来なら己の精神世界に英霊を再現するなどどんな魔術師でも不可能だろう。
だが、不可能を可能にするのもまた魔術なのだ。
ジークにはその魔術に思い当たる節があった。
「まさか
ジークの体内には魔術をブーストさせる術式が刻まれた術式細胞が存在する。
術式細胞は、術者の魔術回路と同化し、術式のあらゆる肉体機能を補助する機能もある。
その影響は精神世界にも及んでいたのだ。
ジークフリートの血液に刻まれた術式細胞は、その血液に眠る記録を解析し、精神世界という限定ではあるがジークフリートの再現という奇跡を成し遂げた。
「そうだ。概ね君の想像通りだ。だが、俺が再現されたとはいえ大した意味は無い。俺という再現体が生まれた所で、君に干渉する術を持たない俺はただ意味も無く存在するだけだった」
「だが、君がこの精神世界に来た事で、ようやく俺に
「ありがとう。俺はただの再現体に過ぎないが、君の役に立てて嬉しく思う」
ジークは瞠目する。
先程の夢で見た英雄とは思えない程の腰の低さに驚く。
その姿勢に改めてジークは目の前の男を『英雄』と認識した。
「一体貴方は何をするつもりだ?」
ジークの問いに、ジークフリートは微笑みを浮かべて応えた。
「君には俺と融合してもらおうと思っている」
「ジークフリートのあらゆる経験と技術を
「勿論断ってくれても構わない。すまないがこれは俺の勝手な申し出だ。その我儘に君が無理に付き合う必要は無い」
「ただ…俺の力が無ければ外にいる彼女を助けるのは難しいと思うんだ」
ジークフリートがそういうと、彼の視線を向けた先には映画のスクリーンの様に外の様子を映した映像が浮かんでいた。
その映像の先には、ジークのサーヴァントであるジャンヌ・ダルク…今はレティシアという名前を持った少女が成人女性に拳のラッシュを喰らわされている様子だった。
「ッ⁉︎」
ジークは驚く。
レティシアが戦闘で一方的にやられている光景を初めて見て、動揺する。
何度か彼女と訓練でとはいえ手合わせをした事があったが、一度もジークが彼女に勝てた事は一度も無かった。
魔術では流石にジークの方が上を行ったが、それでも彼女に勝てた試しは無かった。
強い筈のレティシアが、こうも一方的にやられるなど、ジークには想像もつかなかった。
「怖いか?」
ジークフリートはジークに問いかける。
ジークは俯いて、少し考えて答えた。
「怖い。でも彼女を死なせる訳にはいかない」
「ヨハン先生が死んだ今、俺に残っている家族は彼女だけだ」
「彼女だけは守らないといけない。
ジークフリートの言う通り、恐怖へある。だが、恐怖に屈して心が折れるほどジークの心は弱くない。何故ならそういう風にヨハンに鍛えられたのだから。
ただ1人の残ってくれた家族の為に、ジークは戦う事を決めた。
そのジークの決断を嬉しそうに笑みを浮かべてジークフリートは満足する。
(この少年でよかった)
ジークフリートは嬉しかった。
ジークフリートもまた、ジークの辿ってきた記録を見ていた。
そもそもこのジークフリートはジークの魔術回路が生んだ再現体なので、ジークのこれまでの経験をジークフリートも知っているのだ。
それらを見た上でジークフリートは思うのだ。
純粋無垢で、無愛想だが、優しい精神を持つジークが存在する事がジークフリートはとても嬉しかった。
ジークに自分の血が流れている事が何故かとても誇らしかった。
まるで出来の良い息子を持った心持ちだった。
「ならば、俺の手を取れ」
「その後は…好きに生きてくれ」
ジークフリートの言葉に頷き、ジークは英雄の手を握った。
すると、目の前のジークフリートが消滅し、先程の追体験の比ではないほどの情報がジークの中に流れ込んで来た。
文字通り『ジークフリート』の全てがジークの頭に膨大な情報量を叩き込まれる。
当然、その影響で脳そのものが振動される様な錯覚と共に割れんばかりの頭痛が襲う。
それをジークは、『魔法の言葉』で乗り越える。
「
その激痛を耐えて、情報をジークはありのまま受け止める。
常人ならば、まず耐えられないほどの情報をありのまま受け止める。
ジークはホムンクルスだ。ヨハンの干渉により純粋な存在とはやや言いづらくなっているが、それでもジークの在り方は変わらず無垢で純粋なホムンクルスだった。
だがホムンクルス故にジークの魂には『色』が無い。
魂の色とはその者の性格・思考などの精神面のあらゆる事に密接に関わる重要な要素だ。
人にはそれぞれに様々な経験を経て、魂の色が決まる。
ある者は赤。ある者は黄金。
人の数だけの『魂の色』がある。
ジークにはそれが無い。
ホムンクルスの魂は無色だ。
人間の赤ん坊の頃と変わらないのだ。
通常のホムンクルスより多少の長い時間を過ごしても、余程の刺激がなければ、『色』が現れる事は無い。
ヨハンと共に過ごし、長い時間を共にし様々な物に触れたとはいえジークに『色』を与えるまでの影響は与えられなかった。
だが、それでも土台は出来上がっていた。
後は、魂に届くほどの強烈な刺激を与えれば、ジークの魂に色が現れるだろう。
そう、それこそがヨハンの目的だった。
無色のジークに『色』を与えて、その色を持ったジークが何を成すのか。
それを見届ける事こそがヨハンの目的だった。
彼は生前の目的を果たす事は無かったが、彼は最期に遺した『
そして、ジークフリートとの接触、レティシアの危機、ヨハンから遺された『
「好きに生きろか……難しいな」
体を与えられ、生を与えられ、名前を与えられ、日常を与えられ、家族を与えられた。
ジークのこれまでの人生は与えられてばかりだった。
周りの人達はジークに与えるばかりで、ジーク自身は何も掴もうとしてこなかった。
ジークは改めて自分がどれだけ恵まれた存在である事を自覚する。
だが、
与えられ恵まれたからには、自分もまた与えるべきだ。
彼らと同じ様に自分も何かを与えてみたい。
『誰か』の為に、生きてみたい。
『誰か』の為に生きたジークフリートの様に自分もまた『誰か』の為に生きてみたい。
ジークフリートの生き様は、ジークの魂を揺さぶり、『憧れ』を生んだ。
初めて憧れた英雄に近づく為に、彼の生き様を『カッコイイ』と思えたからこそ。
「生きたい。俺は…生きたい!」
ここに始めて、ジークの『
初めて力の限り叫んだ。初めて涙を流した。
みっともなく泣き叫び、走り出した。
本作のジーク君はApocryphaのジーク君と違ってジャンヌ・ダルクというサーヴァントを家族の1人として認識しています。
血は繋がってなくとも、この世界ではヨハンとジャンヌはジークにとって家族であり替えの利かない人間なのです。
Apocryphaでは多くの同胞という名の家族がいましたが、この世界ではヨハンが何処ぞの鉈女の如くお持ち帰りしたせいでその同胞達が周りにいません。
その為、その家族にやや依存気味な所があります。