次回はFGO編を書くつもりです。
時間はかかると思いますが、どうか気長にお待ちください。
彼女…ジャンヌ・ダルクは摩耗していた。
あまりにも多くの人々を自らを焼く炎で焼却し続けた事でその精神を摩耗させていた。
彼女は生前から強靭な精神力を持っていたが、流石の彼女も何度も何度も自らの炎と人々を消し続ける日常に嫌気がさしたのだ。
自分が炎で焼けるのは良い。だが、その炎で無辜の民を殺し続けるのは心が苦しい。
そんな事がずっと続いている。
抑止の守護者の仕事は主に虐殺だ。
守護者の座は、英霊の座とは別の枠組みにある。
『ジャンヌ・ダルク』という英霊は、英霊の座と守護者の座にそれぞれに配置されている珍しい英霊だ。
守護者というのは『世界』との契約により、死後の安寧を売り渡した者を指す。
別に彼女が特別という訳ではない。
歴史を辿れば、彼女と同じ様な英霊も存在するだろう。
そんな存在が割り振られる仕事は碌なものではない。
どんな拒んでも自分の意思に反して行われる。
死後の安寧を売り渡したのだ。死後を売り渡した者に安寧など存在しない。
自由な事など無く、思い出を分かち合う事も、誰かと話す事すらも出来ない。
喋る事も禁じられてひたすら虐殺を続けた。
目を閉じたいのに閉じる事も出来ない。
文字通りの奴隷だ。
長い間、ずっと生前の行いによる罰として受け入れていた。
多くの人を扇動して、多くの人を間接的に殺した。
殺した人達の家族の事を思えば、この扱いは仕方ないと思う。
だけど、死んだ後も人を殺し続けて、罪を償う暇も与えずに罪を重ね続けるなど矛盾している。
せめて殺した命に償わせてほしい。
そんな願いすらも口にする事すら出来ず、延々と人を殺し続ける。
いっそ発狂して人を殺して笑い続ける狂人になれば楽だっただろう。
だが、なまじ普通の人より強い精神力をしていた所為なのか、発狂する事も出来ずに、良心の呵責で苦しみ続ける。
何一つ自由の無い彼女は、少しずつだが着実に崩壊の一途を辿っていた。
その虐殺地獄の中で、一筋の光があった。
それはただの思い出だ。
彼女がサーヴァントとして呼ばれ、そのマスターである1人のホムンクルスとの思い出だった。
ホムンクルスには主人である魔術師がいた。
魔術師は驚くべき事を宣った。
『君を呼んだのは、戦う為ではない。このホムンクルスを守る為だ』
サーヴァントを召喚する魔術師がする事など大抵は生贄か戦争の為と相場は決まっている。
しかし、サーヴァントという戦闘兵器をホムンクルスを守る為に使うなど聞いた事が無い。
それを聞いて、ジャンヌは魔術師が悪い人ではないと判断して、その願いを承諾しホムンクルスと契約をした。
それからはホムンクルスとその主人である魔術師と共に奇妙な共同生活が始まった。
共にテレビを見た。
共にゲームをした。
共に遊んだ。
共に料理をした。
共に掃除をした。
共に家事をした。
共に日常を過ごした。
楽しかった。嬉しかった。守りたいと心から思った。
血は繋がっていないが、家族として共に過ごす日常は尊いモノだった。
だが、その日常も突然終わりを迎える。
ある時、魔術師がジャンヌの戸籍を自分の養子にしたいと言い出して、共に魔術師の向かう出来事があった。
ジャンヌには魔術師が嘘をついている事を察して共に魔術師の実家に向かった。
そこで魔術師は自分の秘密をジャンヌに打ち明けた。
魔術師は異なる世界から転生してきた転生者である事。
魔術師の目的は、ジャンヌを受肉させて、ジークを守らせる事。
それらを打ち明けた魔術師は満足そうに自身の全てを代償にジャンヌを受肉させた。
そしてジャンヌは、『レティシア』として現代に再び生を受けた。
そこからの日々もまた楽しかった。
学園に通い、勉強に苦戦し、体を動かす。
現代では当たり前の事がとても新鮮だった。
友人も何人か出来た。
勉強を教えてもらえるのが有り難かった。
そして、ジークが共にいる事が何より嬉しく思った。
幸福を確かに感じる事が出来た。
そんな日常も、ある日突然終わりを告げた。
その終わりとは『最後の聖杯戦争』。
その聖杯戦争は、多くの魔術師が街にやってきて、混乱を極めた。
ジークと共に色んな魔術師と戦った。サーヴァントとも戦った。
人も殺す場面もあった。
彼女はそれでもジークを守りたかった。
いつの間にか彼女もジークとの日常を守る為に戦った。
だが、その願いは叶わなかった。
聖杯戦争の終盤に、強力なサーヴァントと遭遇し、彼女は切り札の『
膨大な熱量に焼かれながら、敵に突撃した。
そこから先は、彼女は知らない。
彼女が守ったジークがそこからどうなったかは彼女は知らない。
彼女を失ったジークが、どんな考えをしながら世界と契約したのかを彼女は知らなかった。
かつての思い出を思い返していると、目の前に現れた男性に気づかなかった。
「ジャンヌ・ダルク……だな」
男の問いかけに驚く。
守護者の座には、余程の例外がなければ人など現れない。
人が現れたという事はその例外が起きたという事だ。
ジャンヌは目の前の妙に見覚えがある男に問いかける。
「…………誰?」
目の前の男は黒いスーツの上に青いコートを羽織った銅色の混ざった銀髪を腰まで伸ばした中性的な容姿をした男性だった。
「そうか……俺の事は覚えていないか。ならば好都合だ」
「俺の事を覚えていた所で、何の得も無い」
ジャンヌの言葉に何処か悲しいような、安心した様な表情を浮かべる青年。
「今をもって、
「貴方の代わりは俺がやろう」
「貴方は輪廻の輪に戻り、再び生を謳歌するといい」
突然の宣告に唖然とする。
今この男はなんと言った?
ジャンヌはこの守護者の役割から解放される。
ジャンヌはそう聞こえて歓喜の前に疑問が押し寄せる。
本当に解放されるのか?
男が自分と変わって何の意味がある?
そして何よりも………
まるで死刑よりも辛い刑を告げられた様なそんな錯覚を覚えながら、ただただ訳の分からない恐怖に怯えてしまう。
見覚えのある彼を思い出せない事が何故か悔しくて、辛くて、怖かった。
情けないほど怯えるジャンヌに、男は心配そうに声をかける。
「心配するな。痛い事をする訳じゃない。俺がここに来たのはあくまでも連絡をしに来ただけだ」
「先程も言ったが、もうすぐ貴方が消えた後、その魂は輪廻の輪に戻る」
何を勘違いしたのか男はジャンヌを安心させる為に出来るだけ言葉を柔らかくして、事の次第を伝える。
「もしかして人となった後の事が心配なのか?だったら安心してくれ」
「俺が契約した内容により貴方の人生は『幸せ』になる」
「辛い事は出来るだけ起こさせない。危機が訪れたら俺が駆けつける。貴方限定だが俺も少しは
「貴方に似合う相手や身内、交友関係までならは干渉出来る。
「だからそんなに怯えた顔をしないでくれ。そんな顔は貴方には似合わない」
男は柔かな微笑みを浮かべながら、恐ろしい事をジャンヌに告げる。
つまりこれからのジャンヌの人生全てがこの男の監視下に置かれる様なものだ。
ジャンヌが愛する人も、家族も、友人も、おそらくありとあらゆる事に男が用意したレールの人生を歩む事になる。
自分のあらゆる事が監視され、用意されているなど常人では耐えられないだろう。
彼女が抱く恐怖は、これからの人生が徹底して干渉される事ではない。
目の前の男が微笑みを浮かべながら、自分に告げている事実が怖かった。
そして、彼女の恐怖に呼応する様に、彼女の体と彼女の心象風景を模した守護者の座が雪の様に消滅していく。
「…ッ⁉︎待って⁉︎待ってください⁉︎もっと…話を…ッ⁉︎」
座の消滅が始まり、彼女は何故か焦る。
自分の体が消える事ではなく、男の名前を思い出せない事の方に焦っていた。
名前。名前。なまえ。思い出せない。
怖い。彼の名前が言えない事が…。
怖い。彼の語った事が…。
怖い。
そんな謎の確信が彼女にはあった。
体と座がどんどん消えていく。
恐怖がどんどん湧いてくる。恐怖のあまり涙が出て来る。
涙を流しながら、必死に男の名前を思い出そうとするジャンヌを他所に、男は落ち着いてジャンヌに語りかける。
「今流している貴方の涙は忘れない」
そんな勝手な解釈をした男はその手でジャンヌの涙を拭う。
「
「貴方が…
男は、心からの笑顔を浮かべながら宣誓し、ジャンヌを見送る。
その誓いは、彼女にとって地獄すら生温い死の宣告に聞こえた。
待って 待って 待って 待って 待って
まって まって まって まって まって
今思い出すから!あなたの名前を呼ぶからまって⁉︎
(だから……もっと……話を……させて…………)
私を………おいて………いかないで………
ジーク君…光のストーカーとなるの巻。
ただし、後の転生したジャンヌことレティシアは、永遠にジークと会えなくなる『幸せ』という名の地獄に叩き落とされる模様。