今回の話は、FGO編が思いついてからずっと書きたかった話です。
第四の『獣』が救世主によって倒された。
本来なら喜ぶべき事なのだろう。
人類に課せられた原罪をまた一つ乗り越えられたのだ。
だが、今回は違う。
まだ『
第二の根源となった救世主は、世界に向けて自身の創り出した法則と概念を拡散を開始する。
そして救世主は固有結界と共に光と同じ速度で展開されていく。
相対しているカルデアのサーヴァント達は全員が消滅していた。
英雄も神も、人間も
別に倒された訳ではない。心が折れて自主退去した訳でもない。
ただ『救われた』だけだ。
天草四郎時貞が広げた第二根源。
そこから新たに創造された法則と概念がカルデアのサーヴァント達を呑み込んだ。
その救済という『救いの光』に呑まれたサーヴァント達は、向こう側の根源に引き摺り込まれ、『全て』を知る事となる。
この世の全てだけでなく、あの世や別の世界まで、ありとあらゆる可能性の世界すら観測できる。
光に呑まれたら最後、その人の本人の意思に関係無く大量の情報を与えられる。
本来なら人間はその情報量に耐えられないが、天草四郎時貞がそれに耐えられる様に人類そのものを改造していく。
ありとあらゆる人々が、世界すら生み出す全知全能へなっていく。
そこには例外は無く、差別も無い。
世界すらも超えて広がっていく救済の光は、そこに住む人々を本当に1人残らず救っていく。
そして、急に全知全能を与えられた側からすれば、あまりにも突然の事態過ぎる。
そこも当然想定内だ。
ならば、ゆっくりと、ゆっくりと時間をかけて受け止めてもらえれば良い。
突然の全知全能に動揺する者には、呑まれた本人の魂を読み取って知りたい事を天草四郎時貞の創った法則は勝手に本人に教えてくれる。
例え本人がその情報を拒んでも、情報という絶対の概念には拒む事は出来ない。
勝手に情報を叩き込まれた者に訪れるのは、ただ呆然だけだ。
だが、その呆然も時間が経てば解決する。
次第にそれぞれが自分の意思に目覚める。
そして、その意思こそが真の自由の発芽であり、天草四郎時貞の望む人間賛歌の始まりであった。
天草四郎時貞はその意思を尊重する。
幸せな世界を創造して幸せを享受するも良し。
天草四郎時貞に反乱するも良し。
ただひたすらに戦いに興じるのも良し。
自分に優しい世界を創造して、そこに引き篭もるも良し。
誰かと共存するも良し。
数多の世界を創造して、そこの創造主として君臨するも良し。
完全にそれぞれの人間が自己完結した世界で、それぞれの全知全能の元で活動する。
それはもはや何でもありの無法地帯だ。
現実世界と違うのは、他人に迷惑がかかる事が無いという事だ。
誰もかもが自己完結した世界に閉じこもり、誰にも迷惑をかける事なく、幸福に過ごしている。
正に幸福な宇宙だった。
勿論、その状況を打破する者も現れるだろう。
だが、
自分の世界に満足しきれず出会いを求め、理解者を求め、未知を求め、行動する者が存在してこそ真の人間賛歌だ。
いずれ誰かと邂逅し、衝突し、話し合い、和解する事で、より世界の輪を広げ循環させていくだろう。
正にこの世界こそ無限の救世主を生む世界。
天草四郎時貞の理想郷だった。
天草四郎時貞の放った『救いの光』を浴びて、全知全能となった藤丸立香が目を醒めるとその幸福な世界にいた。
光に呑まれたサーヴァント達がそれぞれが死に別れた恋人、友人、家族と再会し、そして生前から願った世界を想像し創造し観測して満足する。満足してしまう。
とても幸福だ。正に救済だった。
だから、この幸福に入り浸っていたくなる。
その幸福の中には藤丸立香もいた。
カルデアの仲間達、家族、学校の友人、それらの大切な人と一緒に幸福を噛み締める。
その幸福の中には、自分が失った人達もいたから。
オルガマリー所長。
Dr.ロマン。成人女性のダ・ヴィンチ。
自分にとって大切な人達がそこにいた。
カルデアのサーヴァント達もそこにいた。
藤丸立香の他にも幸福を味わった者も勿論いる。
サーヴァント達も、マシュやカルデアの職員すらも等しく第二根源に呑まれて幸福を感受する。
だが、中には幸福を望まない者もいる。
そんな者には要求通りの絶望や苦難を与えられた。
その与えられた苦難と絶望を乗り越えて、己の世界に浸る者もいる。
他のサーヴァント達も似たり寄ったりだ。
自身の願った世界そのものが剪定された事を知る者がいた。
自身の願いは世界そのものから拒絶されている事を知る者もいた。
満足した者。
力の差に絶望し足を止めて幸福を受け入れた者。
戦い続ける者。
それらの情報を「くだらん!」と吐き捨てて進もうと前進する者もいた。
例え
呑まれたサーヴァント達は、より第二根源に深く潜っていき、最終的に自覚も無く己の世界で完結し、現実世界には帰ってこれない。
前進したとしても、ちゃんと救世主が倒された世界を創造して、そこに移動すれば満足してしまう。
足掻けば足掻くほど呑み込まれる。故に全て無駄でしかない。
光に呑まれた時点で既に終わっている。
故にもう終わりだ。
本来の根源から生まれた現実世界に戻って来れるサーヴァント達はいない。
この『全知全能の光』から戻って来れた者は、カルデアの英雄や神の中には1人もいなかった。
光は世界を超えて、太陽系や宇宙に広まる。
時空すらも超えて並行世界にすら光は広がっていく。
救済の光は、文字通り
抵抗も反撃は無意味だった。
天草四郎時貞に挑もうにも、そもそも挑戦権すら与えて貰えない。否、その
よって、再起しようと無意味。覚醒しようと無意味。
全てが救世主の手の上だ。
全能の力を持って時空を砕いても無意味。
宇宙すらも消滅させても「そういう世界もある」の一言で片付いてしまう。
反撃や抵抗の種は一つ残らず潰された。後は各々の世界で勝手に満足すれば良い。
そして全知全能である事を受け入れて、幸福も絶望すらも踏み越えて進み出せば良い。
あらゆる希望と絶望を与えられた上で、前へと進む姿を見せてほしい。
誰かと手を結び、抗い、幸福を感受しながら進む事。
それこそが天草四郎時貞の描く人間賛歌。
全能と満足感のある理想郷そのものだった。
その中で藤丸立香は、与えられた全能の力で世界を見ていると、ふと思い至る。
「あれ?」
この根源から脱出出来る者は、齎された情報そのものに『違和感』を覚えるしかない。
世界を世界と受け取らず、宇宙を宇宙と受け取らず、全てに疑問を抱く事。
たった一つのかつての世界との違いに気づく事。
勿論、それに気づく者はいない筈だった。
ソレは微々たるモノだった。
立香が観測し体感した世界の僅かな違和感。
なんだかやけに『ジーク』が第二根源から創造された世界のどこにも見かける。
まるで「どうだ、コイツは凄いだろう」と自慢している様に。
そう、
第五次聖杯戦争に挑む事になったジークがいた。
聖杯大戦に呼ばれた英霊として挑むジークがいた。
月の聖杯戦争に呼ばれたジークがいた。
人理修復の旅に付き合うジークがいた。
どの世界でもジークが存在し、天草四郎時貞はその"宿敵"として立ちはだかっていた。
勿論、彼がいない世界もある。
彼の情報が無い世界もある。
そういう世界には天草四郎時貞は存在すらしていなかった。
なんだがおかしい。何だこれは?
全知全能の情報に呑まれながら違和感に襲われる。
天草四郎時貞の第二根源の影響で全能となった藤丸立香だが、それに違和感を感じずにはいられなかった。
何故なら立香は、
ジークとの初の邂逅の時に偶然目にしたから。
そして立香は思い至る。
この第二根源は本当に少しだけだが、『ジーク』という存在を
それは本当に偶然だった。
探偵や真実を見抜く王すら気づく事が出来ないどうでもいい筈の真実に気づいた。
誰もがそれに気づいて、普通に流してしまって気づかなかった。
どうでもいい事だと、誰もが思ってしまった。
それは誰にでも当てはまる事だから。
誰でも"宿敵"を優遇するのは仕方ないのだ。
そう誰もが納得して誰も気づかない。
だが、藤丸立香は気づく。
「なんで、ここまで
ただの疑問だ。
"宿敵"というのは理解できる。
嫌いというのも理解出来る。
憧れてるのも理解出来る。
"
明らかに矛盾している。
何故、天草四郎時貞は毎回自分を"宿敵"として配置させているのだろう?
その僅かな違和感と真実に、しばらく考えて立香は気づいた。
この第二根源を脱出出来る唯一の条件は、天草四郎時貞自身が気づいていない事もしくは気付こうとしていない事に気づく事だ。
第二根源が気づいていない事があれば、それは間違いなく突破口に繋がる。
その真実はとても簡単だった。
誰だって気づく事だ。
要は『ジーク』という存在を自慢したいのだ。
その存在の大きさを天草四郎時貞は根源を通して自慢している。
そして、そこから導き出される答えがある。
天草四郎時貞はジークと"宿敵"で在り続けたいのだ。
殺し合い、憎み合い、その殺意はいつしか渇望に変わっていた。
そういう形の絆へと姿を変えていた。
救済の光に呑み込まれた誰もが知っているからこそ気づかない。
矛盾しているがそういう事だ。
その因果を考えれば、この第二根源そのものである『救世主』を唯一倒す事が出来るのが『ジーク』という存在なのだ。
それに気づいた者も勿論いる。だが、下手に全知全能であるが故に『ジーク』に頼る事はせずに自分で倒してしまう。
仮に頼る事が出来て天草四郎時貞を倒す事が出来ても、そこは第二根源の世界だ。
根源そのものから脱出など出来る筈も無い。
だが、
藤丸立香には一つだけ
その武器は天草四郎時貞は知ってはいたが特に重視する事ではないと流していた事実で、カルデアのスタッフもサーヴァント達も誰もが知ってはいたが特に気にしていなかった武器。
その武器の名は
ジークがカルデアと戦う前に立香と話し合う為に渡した武器。
その銃は、ジークの固有結界から生まれた産物。
即ち本来の『根源』から生まれた物質だ。
そして何よりもその銃には
この銃と上手く接続出来れば、ジークの本体が居る守護者の『座』にレイシフト出来る。
本来なら不可能だろう。だが、今は状況が違う。
全能となった今の藤丸立香なら分かる。
これこそが逆転の一手だと。
幸い
そのレイシフト適正があれば第二根源からの脱出は可能だ。
「……でも……ッ!」
此処に居たい。この幸福な世界に居たい。
もっとこの幸福を味わっていたい。
そんな欲求が生まれてしまう。
立香は何処まで普通の只人だった。そんな欲求が生まれても仕方ないだろう。
この世界にはDr.ロマンがいる。ダ・ヴィンチちゃんもいる。オルガマリー所長もそれにゴルドルフ所長も存在している。
パツシィやゲルダ、アーシャ、アジャイなどの異聞帯の人達もいる。
そして何よりマシュもいる。
彼女達と共に過ごす日常が尊かった。
失いたくないと心から思う。
仮に全てが上手くいって、現実に戻ったとしても、そこにあるのは辛いばかりの現実だ。
此処に居た方が、ずっと良いに決まっている。
その事実に立香は
そんな思いを巡らせながら、藤丸立香は立ち止まってしまう。
藤丸立香は立ち止まり幸福な世界を享受しかけた時だった。
「ようやく見つけたぞ⁉︎探させおって!」
幸福な日常を送る立香の前にカルデアの新所長『ゴルドルフ・ムジーク』が現れた。
「どの世界でもトゥールⅣはいるし、逃げながら世界を移動し続けて正解だった。こんな所にいたのか」
立香は一目見て確信する。彼は第二根源のゴルドルフではなく本来の根源のゴルドルフだと。
立香は打ち明ける。
自分が唯一この第二根源から脱出出来る事を。
そして、今の世界が幸福で決心がつかない事を。
「カルデアの所長として命令する。ジークの座にレイシフトし、『
その立香の悩みを聞いたゴルドルフは冷たく言い放つ。
その言葉を聞いて少しショックを受けてしまう。
だが、ゴルドルフは続けて言う。
「……と、私の立場ならこう言わなければならないだろうな…」
「酷い事を言っている自覚はある。君の気持ちも分かる。此処はとても幸せだ」
「私も…
ゴルドルフはこの世界で、死別したホムンクルス達と会えた。そこで騒がしい日常を送ったりした。
だが、そのホムンクルス達は決して
「私はこの世界は間違っているとは言わん。
「だがな…だがな…」
数巡してゴルドルフは言う。
「この世界には、私がカルデアでこっそり作っておいたカルボナーラが無い。後で食べようと作り置きして冷蔵庫に置いといたケーキがない」
「この世界には唯一無二の幸せがあるが、
「一日中働いた後に食べるデザートや、休暇に遊ぶゲーム。そんな小さな幸せが無い」
「この世界は全能であるが故に、唯一無二の幸せ
全知全能であるが故に、どんな食べ物を食べても美味しくない。どんな遊びに興じようとと先が分かってしまう。
飽きてしまう。
勿論、先が分からない様に自分を調整すれば良いのだろうが、それはなんだか違う。
今度はそれにも飽きてしまう。
故に他人とのコミュニティが大事になってくる。
誰かと接して自分を確立していくのが天草四郎時貞の目論見だろう。
「それに何よりだ。この世界には異聞帯でいなくなった者達が幸せそうに暮らしている」
「だが、我々が犠牲にしてしまった彼等が、
「小さな幸せという確かな幸せを感受出来ないこの世界を、私は認めたくない」
この世界はとても幸せだ。
死んだ者すらも残らず幸せにする。
異聞帯という零れ落ちた者達すらも幸福にする。
だが、彼等がこの結末に納得出来るのか?
この大団円の世界で、納得出来るのか?
全能の力を行使すれば分かるだろう。だが、分かりたくない。そう思えた。
納得する者もいるだろう。だが、他ならぬ自分自身が納得出来ない。
所長の言葉を聞いた立香はふと思い出す。
最初の異聞帯で
「俺は、テメェを、絶対に許さない」
「俺に幸福な世界があることを教えてしまった失敗を、絶対に許さない。」
「だから立て、立って戦え」
「おまえが笑って生きられる世界が上等だと、生き残るべきだと傲岸に主張しろ」
「胸を張れ。胸を張って、弱っちろい世界のために戦え。」
「……負けるな。こんな、強いだけの世界に負けるな。」
その言葉を思い返して、口にする。
まだまだ自分は許されていない。
この世界では自分が心から笑えない。
この
自分にはまだやりたい事があった事を立香は思い出した。
そして、人理を修復し、今もまだかつての世界を取り戻そうと足掻いている立香自身の真の
そこまで考えると立香の目に涙が流れた。
自分でもよく分からない。全知全能になった筈なのに正体不明の感情に翻弄されて涙を流す。
けど、猛烈に泣きたくなった。
我慢出来ずに嗚咽を漏らして泣いてしまう。
此処にはいないマシュやロマンに謝る。
立香の号泣と絶叫をゴルドルフは黙って見守る。
「……
立香の返事に、ゴルドルフは笑みを浮かべる。
「行ってこい。簡単だ。助けてくれと言えばヤツも助けてくれる」
「そういうヤツだと私は思う」
ゴルドルフから見た『ジーク』という人物評に、立香は思わず笑ってしまう。
その言葉が何故かとても気楽にして、心から共感した。
助けて
それはどんな人間も、無敵の英雄に変える『魔法の言葉』だ。
覚醒を促す言葉ではなく、『誰か』の為に存在する確かな魔法の言葉。
それに応えない者もいるが、ジークはどうだろうか。
立香から見れば、彼はそんな薄情な性格ではない。
助けを求める人間を見捨てるほど、彼の人間性は堕ちていない。
そう確信出来る。何故なら彼はいつも『
誰かの為に頑張れる人が、誰かの助けを聞き逃したりしない。
その魔法の言葉を胸に藤丸立香は、銃竜を額に当ててジークの居る座に向けて接続を開始し、レイシフトを敢行した。
◇
立香がレイシフトした先は、ジークが守護者として存在する守護者の座。
黄昏の夜空と荒野が広がる世界で、英霊ジークは一人で立っていた。
「なぜ此処に来た?」
そこに立っているのは、サーヴァントの様な写身ではなく、正真正銘の本体だ。
「助けてくれ」
立香は開口一番で本題に入る。
このままでは天草四郎時貞の第二根源に世界が呑み込まれる事を早々に伝えてジークに協力を仰ぐ。
「理解している。『ビースト』としての俺が現場にいたんだ」
「だが、俺が挑んだ所で何になる?ヤツの強さは俺の意思を超えた。ヤツに意思で負けてしまった俺にどうしろと言うのだ?」
立香は驚愕する。
目の前のジークは、
単純に『負けた』からという事もある。
何よりも『意思』で負けた事が本人に堪えた様だ。
他の者ならここまで堪えないだろうが、本人にとって"宿敵"としている天草四郎時貞に負けた事実がここまでジークの戦意を削ぎ落としたのだろう。
その落ち込む姿が新鮮で立香はつい笑ってしまう。
「なぜ笑う?」
「ごめん、なんか新鮮でさ」
ジークの非難する様な眼差しに立香はつい反射的に謝ってしまう。
「落ち込んでるんだ?」
「…………うん」
立香の指摘にジークは少しの沈黙を置いてから頷く。
「ヤツの『光』が俺にも届いたよ。そのおかげか全能にはならなかったが
他の世界を観測出来る様になった」
「ヤツの創った世界を観たよ。あの世界では『彼女』は幸せそうにしていた」
「完敗というだろうな。こういう時は、まだだまだだと気力を振り絞って頑張っていたが、ここまで綺麗に負けては中々気力が湧いてこない」
「こんな事は初めてでな。どうすればいいか困っていた所だ」
「負けた事はないと言えば嘘になるが、完敗というのは経験した事が無いんだ」
「教えてくれ、藤丸立香。俺はどうすれば良いのだろう?」
このジークは宿敵との戦いに負けたショックで気力を挫かれた様だ。
おそらく負けた事実より、自分ではなく天草四郎時貞の手によって幸せになったジャンヌ・ダルクを観た事が彼に深い敗北感を与えたのだろう。
自分の今までしてきた事が間違っているかもしれないと。
自分は負けて正解なのかもしれないと。
自分の意思が全て無意味なモノだったと思ってしまった。
そんな事を考えているのだろう。
全能となった立香には手に取る様に分かる。
だからこそ、今はあえて提案をする。
「せっかくだから、ゲームでもしない?」
彼の気晴らしになればと思うから。
これが最適解だと思うから。
立香の提案を聞いたジークは、驚きながらも頷いた。
そこから2人はテレビゲームからボードゲームまで、果てはマンガや小説などを読んでしばらくの『遊び』を堪能していた。
この座では時間は関係ない。
全能となった立香には、ゲームや小説など用意するなど簡単だった。
「おい、なぜ俺のト○が負けるんだ?○キはこの格ゲーで最強と聞いていたぞ?」
「テクニックによるけど、割とこのゲームって全員永久使えるから一周回ってバランス取れてるらしいよ」
「意味不明なんだが?」
ある時は、格ゲーで遊び。
「最初はなんだこのアフロと思っていたが、いつの間にか桐○より好きなキャラになってしまった」
「完璧な主人公交代のゲームだったね。終盤のムービーとか滅茶苦茶泣いたもん」
ある時は、RPGゲームを遊び。
「苦痛なんだが?」
「分かるけど我慢してよ。アゴい彗星を見てみたいって言い出したのジークじゃん」
「俺はあと何回ザ○に殺されなければいけないんだ……」
ある時はクソゲーと呼ばれるゲームを遊び。
「待った」
「駄目だよ」
「ここで俺の飛車を取られたら、後はお前のワンサイドゲームとなるぞ。いいのか?」
「そこから逆転出来るのも将棋の醍醐味でしょ?」
ある時はボードゲームをして遊んだ。
2人は時間を忘れて遊んでいた。
立香は全能の力を使ってゲーム一式をその場に召喚して遊ぶ。
ジークは全能にはならなかった為、それらのゲームに一喜一憂しながら楽しんでいた。
そんな事を繰り返して2人は遊ぶ。
「ありがとう」
ひたすら遊んだ後、ジークは立香に礼を言った。
「なんだか、スッキリした」
その表情はとても緩みきっていた。笑みを浮かべて上機嫌なのが伝わってくる。
「よかった。落ち込んだ時は、他の事をして気分転換が一番なんだ。下手に考え過ぎて疑心暗鬼になるより、ゲームでもしてリフレッシュした方が良いに決まってる」
誰でも考え過ぎてしまう事はある。考え過ぎて不安に陥り、次第に何も信じられなくなり、疑心暗鬼に陥って暴走してしまう事もある。
だからそんな時こそ、気分転換が大切だ。
「そうだな。どうやら俺は考え過ぎていたらしい」
「天草四郎時貞の創った世界が正しいと思ってしまったが故に、いつの間にか自分を否定してしまった」
「俺は『人類の敵』に拘るあまり、『彼女』の事を疎かにしていたのは事実だ。我ながら酷いモノだ」
「結局の所、全ては俺の我儘だ。『誰か』の為に『彼女』の為に言いながら俺は俺の為に行動し続けていたし、これからもやめるつもりも毛頭無い」
「だが」
ジークは立香に向き直る。
「お前はどうして抗うんだ?救済された世界を観てどうして抗おうと思えるんだ?」
ジークは立香の動機が知りたかった。
何の為に立香は人理を修復し、世界を元に戻そうと行動し続けているのかが不思議でしょうがなかった。
一体どんな動機で、立香が行動しているのかをジークは知りたかった。
「続きが見たいからだよ」
立香ははっきりとその答えを返した。
今まで、カルデアでも同じ様な質問を何度かされた。
その度に立香は「自分しかいないから」と答えていたが、立香自身の本音は少し違う。
自分しかいない状況なのは確かでも、それでも人理を取り戻したいと思うのは、全く別の理由だ。
「アニメの続きが見たい。よく読んでた小説の続きが見たい。ゲームの続きが見てみたい」
「俺の時間は西暦2017年に止まっているんだ。全能になって知ったけど、本来の歴史ならこの先の日本は2019年に『令和』になっている筈なんだ」
「俺も『令和』を体感してみたい。世界の続きを見てみたい」
「ありふれてるけど、それが俺の真実で動機だよ」
本音の所はそんな所だ。
ただ単に日常の続きを見たいのだ。
人理修復ではなく、ありふれた日常を続けたいのだ。
何処までも普通な、ありふれた願いこそが藤丸立香の動機だった。
「なるほど」
立香の答えを聞いて、ジークは嬉しそうに微笑みを浮かべた。
いいじゃないか。ありふれてた動機でも立派な動機だ。誰も笑わないさ。
だから思う。
「今までは『誰か』の安心や幸福ばかりを考えていたけど」
「スッキリして余裕が生まれた所為か、初めて心から『誰か』を助けてみたいと思えたよ」
「『誰か』を助ける為に行動するのも、今なら悪くないと思えるんだ」
「助けてくれと言っていたな?」
「俺に貴方を
「『人類の敵』ではなく、お前の『友達』として一緒に戦わさせてくれ」
立香は笑ってその答えを返す。
「うん。助かるよ」
「全部終わったら…」
「「またゲームでもして遊ぼう」」
2人は笑い合い、手を取り合い、契約を結ぶ。
『邪竜』は人という仲間を得て、『英雄』へと転身する。
ありふれた確かな約束をして、1人の『英雄』と1人の『只人』は救世主へ向けて反撃の狼煙を上げた。
『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ』
現実世界へと一足先に帰還した立香は詠唱を紡ぐ。
立香の詠唱するのは、サーヴァント召喚の詠唱。
つまり、立香はここでジークを召喚するつもりなのだ。
『閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する』
サーヴァントを召喚するプロセスを一から組み立てて実行するなど、以前は到底無理な話だったが、今は違う。
天草四郎時貞の影響で全能となった立香には可能だ。
『―――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』
魔法陣を大地に刻み、起動させる。
組み立てられた式は、サーヴァント召喚ではなかった。
『誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』
聖杯戦争に用いられるサーヴァント召喚ではなかった。
サーヴァントなどの
英霊本体そのものを召喚しなければ救世主には勝てない。
故に呼ぶのは写身ではなくその
故に全能となった立香は
『汝、三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』
立香の左手に令呪が刻まれる。その令呪は、かつて聖杯大戦を経験したジークが発現した竜告令呪に酷似していた。
勿論、似ているだけだ。使用してジークフリートになる訳でも竜になる訳でもない。
特別な効果も無い、ただの令呪だ。
ただの令呪だが、それこそ彼等の絆の証だった。
「来い、セイバァァァァアアアア!!!!」
黄昏の光と共に、『
藤丸立香の魂で結ばれた唯一無二の相棒として。
『
友達と交わしたありふれた願いを叶える為に。
『
カルデアのサーヴァントの皆様「なんかマスターを寝取られた…」
このマスターNTR展開は2月に思いついてから、やっと書く事が出来ました。
救世主の天草が創った世界は簡単に言うと万仙陣みたいな感じです。世界の抜け穴を突かないと、時空を砕こうが宇宙を滅ぼそうが健在な強固な世界だと解釈していただければ。
全知全能の世界の描写が滅茶苦茶難しくてこんな感じになりました。
私の技量不足です。改めて自分の文才の無さを自覚しました。
それと、一つご報告があります。
しばらく投稿はお休みします。
理由はリアルの方が本格的に忙しくなったので執筆の時間がマジで取れなくなった事です。
ですが、何とか時間を見つけて執筆して投稿するつもりです。
次回からの話は、エピローグまで一気に投稿しようと思いますので、どうか暫しのお休みを頂ければと思います。
何度もお待たせして申し訳ありません。