これでほんとに今年最後の投稿です。
ゴルド・ムジークの脳は驚きと恐怖に支配された。
自分の造り出したホムンクルス達をまるで赤子の手を捻る様にアッサリと無力化させた目の前の男の戦闘力は正に超人だった。
何よりも恐ろしいのは男が満面の笑みを浮かべている事だ。当たり前だ。突然屋敷に忍び込んだ挙句高笑いしながらホムンクルス達を蹴散らしていく光景はシュール以外の何物でもない。
「お久しぶりですゴルド・ムジーク。私の名はヨハン・サトウ。覚えておいでですか?」
不気味な男『ヨハン』は笑いを噛み殺しながらゴルドに挨拶をした。
ゴルドはヨハンの第一印象が最悪以外の印象は抱いておらずヨハンの挙動一つ一つが恐怖を感じて仕方がなかった。
ヨハンはゴルドのその様子見て申し訳なさそうに苦笑いする。
「いや申し訳ない。勝手に忍び込んだ挙句この様な奇行は確かに不気味だった事だろう。だが安心して欲しい。私は貴方に危害を加えるつもりは無い」
「貴様さっきまで散々暴れておいてよくその様な戯言を吐けたな⁉︎」
ゴルドはヨハンの言動に不快感を露わにした。
ゴルドの憤りはもっともだ。
ヨハンの行動を考えれば、どう考えてもヨハンが全面的に悪い。
ヨハンの傲岸不遜な態度にゴルドは憤る。
「戯言ではなく本心です。私の目的はあなたのホムンクルスの技術ですからね」
「何だと⁉︎」
ゴルドは驚きのあまり尻もちをついてしまう。
ヨハンの目的はホムンクルスの技術。
それはつまりムジーク家が誇る高いホムンクルス技術を盗みだす事だ。
魔術師にとって技術を盗まれるというのは心臓を握られる様なモノだ。
ヨハンの能力を持ってすれば工房を壊滅させる事は容易だ。
「心配しなくとも危害を加えない保証の為に『自己強制証明』を使っても良いですよ。それでも信じられないなら私の魔術の全てを貴方に教えても構いませんよ」
「な、何なんだ。お前は・・・」
困惑するゴルドにヨハンは語る。
時計塔で見せたホムンクルスを見て、その完成度の高さに感銘を受けた事。
ヨハンの目的は
「自分の理想とする存在を創り出したいだけ」
ムジーク家の屋敷に忍び込んだのは
「ムジーク家にいるホムンクルス達を観察する事でホムンクルス技術を見て盗む目論見だった」
魔術工房にいるのは
「興が乗ってしまってつい忍び込んでしまっただけ」
と言ってのけた。
そして『自己強制証明』を差し出して
「どうか、私にホムンクルスを一体恵んでくれませんか?」
ゴルドに頭を下げていた。
潔すぎる態度にゴルドは心底不審に思いつつもヨハンが差し出した『自己強制証明』の紙を確認した。
『自己強制証明』の内容は、一つはゴルド・ムジーク家の者に一切の危害を加えない事とムジーク家に関する情報を一切口にしない事を自身の制約とし、その条件としてムジーク家のホムンクルスを一体譲渡してほしいというヨハンの要求が書かれていた。
その制約の条件を見てゴルドは心底不愉快に思いながらもヨハンにはゴルド達を壊滅させる能力を持っている事を考慮した結果、穏便に済ませる為に一体のホムンクルスくらいいいかと考えてその契約を承諾した。
「ありがとうございます。ゴルド・ムジーク氏。ついでにホムンクルスの詳細な資料を見せて貰えないだろうか。連れていったホムンクルスのメンテナンスも可能になりたいので」
余りの図々しさにゴルドはもうヨハンの事をもうそういう生き物として認識して諦めた。
ホムンクルスの詳細な資料をヨハンに渡した後、ヨハンが『ジーク』こと少年体のホムンクルスを貰っていく事をゴルドに伝えて、その培養カプセルごと背負って目にも止まらないダッシュで去っていった。
ゴルドはその様子を見て、もうヨハン・サトウの事は宇宙人だと思う事にした。余談だがヨハンの魂は転生者なのであながち間違っていない。
ヨハンは魔血の魔術師の能力をフル活用して培養カプセルを運んでいた。
ヨハンは隠れ家として執行者のアルバイトで荒稼ぎした金を使って購入していた田舎の空き家へ直行した。事前に家の中を改装し、作り上げた魔術工房で貰ったホムンクルスを調整する中で、ヨハンはある事を思いつく。
「どうせなら彼をジークフリートの血族にしてみよう」
Apocryphaではジークはジークフリートの心臓を移植された影響でジークフリートそのものに変身するという特異な現象を起こした。
それによってジークとなるホムンクルスをジークフリートと縁がある存在にしたいと思ったのだ。
ならばジークフリートの心臓は無理でも血液ならば魔術を駆使すれば再現は可能だ。ジークフリートの血液をジークに与えればジークフリートには変身出来ずとも近づく事は可能な筈だ。
そうと決まればヨハンはホムンクルスを一年ほど昏睡状態を維持する事を決めた。
自分がジークフリートの血液を入手もしくは再現するには1年ほどの月日がかかると踏んだので、血液の再現に成功するまでジークには眠ってもらう事にしたのだ。
その後のヨハンはまず時計塔に戻って、ジークフリートに関する資料を読み漁った。
ヨハンが戻っている事を時計塔の講師が聞いて、予約していた特別講義を無断欠席していた事を咎められてしまったが、ヨハンはその講師に目を付けられてしまった。
ヨハンに徹底的に嫌がらせを行い、更にヨハンの悪い噂を流し孤立させた。
曰く「とある魔術師の魔術工房を襲撃し、技術を盗んだ」
曰く「魔術刻印を無理矢理剥がした挙句、魔術の実験体にして魔術回路すらも奪った」
などの事実を織り交ぜた噂だった為、否定し難く。噂を否定しない態度のヨハンは完全に時計塔から孤立し、ヨハンは必要な資料は既に目を通していたのでもう時計塔にいる必要は無いと判断して時計塔を去った。
ヨハンは隠れ家に向かい、ジークフリートの血液の再現に取り掛かる。
まず投影魔術で資料で見た「菩提樹の葉」を投影し、並列思考で投影したイメージを維持しながら菩提樹の葉に付着している竜血を採取する。
ジークフリートの血液は邪竜の血液を浴びた際に
過去に時計塔の魔術師はジークフリートのホムンクルスを作り出そうとしていたが、単純に投影魔術で再現したモノでは不完全なモノしか出来ず失敗が続いて、最終的に諦めたようだ。
ヨハンはその資料を見て、一つの確信を得た。
ヨハンには他の魔術師には無い「魔血の魔術師」という新しい魔術がある。
自分の魔術属性である「水」を利用すれば体内の全細胞に刻まれた術式のブーストがあればナノサイズでの水の操作が可能になる。
僅かな血とDNA情報さえ有れば、そこからDNA情報を読み取り、正確に血液の複製を開始させる。
邪龍の血液から読み取ったジークフリートのDNA情報を一気に血液として再現しそこから水魔術で試験管程度まで増殖させる。
そして、再現されたジークフリートの血液は投影魔術のイメージを解いても量が少し減っただけで存在し続けている試験管の血液を見てヨハンは笑みを深めた。
その血液に魔術で魔血の魔術師の術式を刻み込む。
ここまでは大方の予定通りだが、代償として脳細胞のと内臓の幾つかが死滅したが、問題は無い。本題はここからである。
ヨハンは眠らせたホムンクルスを見つめる。
ヨハンはジークに魔血の魔術師の術式を刻むつもりでいた。
実験のつもりでもなく、ただ「ジークには魔血の魔術師になって健康な肉体を持てば、普通の生活を送れるだろう」という心からの善意からだった。
だが、魔血の魔術師になる際の壮絶な痛みは自身が良く知っている。
生まれて間もないホムンクルスには耐えられないだろうという考えが当然だ。
そこでヨハンはしばらく考えてある事を思いついた。
魔血の魔術師のなる際の壮絶な痛みは体内の細胞に術式を刻む時に起こるモノで、肉体は改造こそされているものの拒絶反応自体は無いのだ。よって痛みさえ何とか除去する事さえ出来れば死ぬ事は無いという事だ。だが、あまりの激痛と術式細胞が他の細胞を侵食しているから、脳が細胞に刻まれる術式の事を「悪いモノ」と認識してしまう事で拒絶反応が起きるのだ。
視力の低下や骨の劣化から内臓の破裂は、その拒絶反応により術式細胞の暴走によるモノだ。
魔術には呪術という一種がある。魔術協会は呪術を魔術とは見なしていないが、立派な魔術である。
時計塔にも僅かではあるが資料自体は存在していた。
その資料に「呪い返し」というモノがある。
自分の受ける仕打ちを呪いをかけた術者に返すというモノだ。
ヨハンはその呪い返しを応用することでジークが味わう痛みを自分が請け負う事を決めた。
眠っているジークに呪い返しの呪術術式を刻んだ。
そしてすぐ魔血の魔術師の術式が刻まれたジークフリートの血液を注入する。
血液を注入してしばらく経つとジークの体内で術式が刻まれ始める。
その痛みは呪い返しの発動によりヨハン本人に向かう。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
激痛が走る。
痛みが全身を疾走する。
頭が、首が、胴体が、腕が、腰が、足が、指が、全身が悲鳴を上げる。肉体には異常こそ起きたないが、常人どころか魔術師でもショック死もしくは発狂死してしまう激痛に悶え苦しみながらもヨハンはこの痛みを超えた先に生きるであろうジークの人生を考える。
魔血の魔術師になればホムンクルスの脆弱な肉体は強靭な肉体になる。短命な寿命や活動時間という欠点を克服して人並みの寿命を手に入れる事が出来る。
夢想する。もしかしたら普通の一般人として生きるかもしれない。
職を見つけ、伴侶を見つけ、子供を作り、子供を育てたりと普通の生き方をするのも悪くはない。
ホムンクルスには生殖機能はあるかどうかすらも危ういが、生殖機さえあればジークフリートの血液が人間としての機能をホムンクルスに呼び起こす事が出来る可能性がある。
普通の生き方は「つまらない」と言う者もいるが、普通の人生というのは充分に幸せなモノなのだ。
そういう人生をApocryphaでロクに自由が無かったジークが送るのであればそれはとても素晴らしい事だ。
妄想する。もしかしたら英雄としての人生を歩むかもしれない。
ジークフリートの血液は現代では絶大な力をジークに与えるだろう。その力を誰かの為に使うのであればそれはとても素晴らしい事だと思う。
その功績によって賛否両論あろうとも誰かにその人生を認めてもらえたならばそれだけで満足だ。
改めて自分を振り返る。ヨハンの魂である転生者は現実では型月作品のファンだった。
最初に入った作品がApocryphaであった為にその主人公であったジークにはとても思入れがあった。
だが当時のネットでのジークの評価はとても辛口でジークの事を嫌いだと叫ぶ者が多く、挙句の果てにはApocryphaという作品そのものを貶める者もいた。
男はその恥知らず達に軽蔑と嫌悪の感情を抱いて反論したが所詮は1人の人間だ。
ネットの世界では何も変える事が出来ず憤りを抱えて生きる日々が続いた。後のFGOのコラボイベントでジークの評価はひとまずの落ち着いて多少は評価が良くなって嬉しかったが、当時のあまりの評価に抱いた嫌悪と軽蔑の感覚は消える事はなかった。
ヨハンは思う「ジークの魅力はこんなモノじゃない」と。彼は純粋だ。環境さえ整えればどんな存在にも変わる。
ジークには無限の可能性があると男は信じていた。
そうして考えを巡らせているといつの間にか激痛は終わっていた。ヨハンは意識ぐ朦朧としながらもホムンクルス・ジークを見る。
彼は目を覚ましていた。
目覚めた彼は混乱している様子でとても不思議そうにヨハンを見ていた。
ヨハンはその様子を見て、心から安堵して意識を失った。
この転生者に共感出来る読者は、多分1人もいないでしょうね。私ですら彼のキャラクターは理解はしていても共感は全くできません。