転生者がジーク君に干渉した結果   作:クソ眼鏡3号

6 / 31
明けましておめでとうございます。


第三話

ヨハンが意識を失った後、ホムンクルスは困惑した。

本来なら短命な自分を命をかけて延命措置を施している目の前の男があまりにも理解不能だった。

だが、痛みに耐えながらも消耗品である自分達に微笑んでいた。

その在り方にホムンクルスはこの主人が悪い人の様には感じていなかった。

 

ヨハンが目を覚ますと、ホムンクルスがヨハンをホムンクルス特有の生まれた瞬間から持ち合わせた多様な知識を使ってヨハンを介抱していた。

拙い動きと拙い歩き方でヨハンに毛布をかけたり濡れたタオルをヨハンの頭に置いたりしていた。

目を覚ました事に気が付いたホムンクルスが話かけてきた。

 

「だい、じょう…ぶ?」

 

拙い言葉と赤ん坊が喋るようにホムンクルスがヨハンに話しかける。

Apocryphaでは、喋る事すら激痛が伴う行動だった筈だ。拙い喋り方をしているが、表情を見る限り痛みを感じている様子には見えず、心から安堵する。

声色ではヨハンの事を心配している事がヨハンには手に取るように分かった。

 

「ああ、こんなに気分の良い目覚めは久しぶりだ」

 

そう呟き、とても上機嫌にヨハンは返事をして、周囲を見てみる。

隠れ家の寝室のベッドで寝かされていたようだ。

ホムンクルスが介抱してくれた事を感じとり、ホムンクルスの心遣いにヨハンは感謝する。

 

「ありがとう。君のおかげで助かった」

 

感謝を言われたホムンクルスは初めてお礼を言われてどうすればいいか分からず困惑している様子だった。

その様子にヨハンは苦笑いしながら、ホムンクルスを落ち着かせる。

 

「介抱してくれたお礼と言ってはなんだが、君に名前をつけようと思う」

 

驚くホムンクルスを見て、ホムンクルスが何か言う前に指を指して告げた。

 

非常に端正な顔立ちと中性的な見た目をした銅色の混ざった銀髪をした少年のホムンクルスを指して。

 

「君はジークだ」

 

呆気に取られるホムンクルスを見て苦笑いしながらヨハンは言う。

 

「君とはこれから一緒に暮らしていくのだ。名前が無ければ不便だろう」

 

「これから君はホムンクルスではなく人間として暮らしてもらう。人と関わり、接し、どの様に過ごし、どの様に生きるのかを私は見てみたい」

 

「君はホムンクルスだが短命というデメリットを克服したホムンクルスだ。私が君に施した術式が正しければ、君は人並みの寿命を手に入れた筈だ」

 

「私の目的は、君がどの様に成長するのかを観察する事だ。だからどうか私を信じてくれないか?」

 

私は絶対に君を見捨てない

 

ヨハンは強い意志でホムンクルス・ジークにそう宣告する。

その潔い態度がジークに強い印象を残したのか、純粋なジークはヨハンをとりあえず信用して、共に暮らす事を決めた。

 

そしてホムンクルスと1人の魔術師の奇妙な日常が始まった。

 

その日常は奇妙ではあったが平和で、穏やかな日々だった。

最初は喋る事に慣れていないジークをヨハンは一言ずつ喋り方を教える。

次に歩き方を教える。何度も転んだが、その度にヨハンが介抱する。

魔術も当然教える。

魔術の基礎は知識として身につけていたので、ヨハンに教える事は全くと言っていいほど無かったが。

 

一般常識を身につけるべく、共に外に出向いて、都会の学校や会社の様子を遠見の魔術とその様子と使い魔による盗聴で共に人間の社会を観察する。

学校で授業を受ける子供達の風景を見る。

 

「なんで同じ質問を何度もする人が何人もいるんだ?」

「誰もが君の様に、すぐに覚えられる訳ではないのだよ、人間は基本的に忘れる性質をしているんだ」

 

学校で青春を満喫する人間達を見る。

 

「何故、2人は一緒に本を見ながらあんなに笑っているんだ?あそこの2人は小型のテレビみたいな物をケーブルに繋いで何をしているんだ?」

「漫画とゲームだね。今度君の分も買って一緒にやろう。何事も体験が一番だ」

 

会社で働く人間達を見る。

 

「疲れている人にコーヒーを差し出している人がいるが、あんな苦い物を差し出されても困るだけじゃないか?」

「そんな事は無い。コーヒーは昔から疲労回復に効くと言われているんだ。後で一緒に図書館に言ってそれを調べようか。それにコーヒーの苦さは慣れだよ。いずれその苦さが美味しさに変わる日が来る。こればかりは断言しよう」

 

ヨハンの人間教育は光だけを教えずに闇も教える。

 

学校という闇を見せる。

 

「ヨハン先生。人が人をいじめてる。物を盗ってぐちゃぐちゃにしてる」

「学校というコミュニティには必ずと言っていいほど発生する事例だ。意思の弱い存在を立場として確立される。我の強い者は暴れ回る事でまたは集団でイキリ散らす事で、満足感を得る。どちらでも無い者はひたすら無関心を貫くのだ。何故なら一度関わったら被害を受けるのは自分なのだからね」

 

会社という闇を見せる。

 

「ヨハン先生。あの人は頑張り過ぎだ。あの様子では2日も寝ていない。上司は更に仕事を追加しているぞ。しかも今日中にだと。自分は何もやっていないのに仕事を押し付けるのは普通なのか」

「ジーク。あれが社会の闇だ。頑張れば頑張るほど損をし、頑張らない人間が得をする。そんな不条理が社会では頻繁に起こっているのだよ」

 

人間という生物の生態を、都会という人間が多く生息する場所で、観察する。

学校や会社の他にも、接客をする飲食店、マッサージをする整体師などといった色々な職場をジークに見せる。

頑張る人達の様子を、光として紹介する。

 

詐欺、恐喝、暴行などの犯罪行為をしている人間の様子を闇として紹介する。

 

 

そうして暮らしていくと、次第に人間という生物の常識をジークは学習していく。

ヨハンは一通り『人間』を見せて、ジークに問う。

 

「ジーク。君は人間をどう思う?」

 

ジークは少し考えて言葉を紡いだ。

 

「…人間という生き物は、素晴らしい生き物とは言い切れないんだ。それは分かった」

 

「でも、それでも、1日1日を一生懸命に生きる姿は、なんだかとても綺麗だ…と…思った」

 

恥ずかしそうに答えるジークにヨハンは心からの笑顔を浮かべる。

 

(幸せだ…)

 

人間という生物への解答を聞いたからか、もしくはジークの成長が嬉しかったのか。

どれも違う、ヨハン・サトウという人間は今この瞬間がとても幸福だった。

 

ジークは、Apocryphaでの初期のジークの様に自己意識が薄く、流され易いが、一度決めた事は最後までやり遂げるまで挑戦し続ける頑固者だ。

そんなジークの成長を微笑ましく見守り、ジークの声を聞き、ジークの意見が聞ける事が幸せだった。

ジークと一緒にいれる時間が、初めて幸福を享受できた。

故にヨハンは笑う。心からの笑顔を浮かべてジークと接する。

 

一緒にマンガを読んだ。

一緒にゲームで遊んだ。

一緒にパソコンを使える様に勉強し、悪戦苦闘した。

一緒にコーヒーを飲んだ。コーヒーを苦手と言うジークの為に、飲みやすいコーヒーを開発するべく試行錯誤しながら徹夜した。

最終的に、紅茶を飲めば良い事に気づいて、己の馬鹿さ加減にジークと共に笑い合った。

ヨハンの熱意に負けて、ジークがコーヒーを飲み始めた時は嬉しかった。

ジークが紅茶を淹れてくれた。

懸命に本を見するながら紅茶を淹れるジークが微笑ましく、淹れてくれた紅茶はとても美味しかった。

その日常は、ヨハンにとって正に宝石の様に輝いたひと時だった。

 

 

 

 

 

ある時に珍しいホムンクルスである彼を狙う魔術師が現れるかもしれないという懸念の為に、ジークと共に魔術の練習をしていると、ジークは「土」の魔術属性の持ち主で、錬金術に対して非常に高い適性を持っていた。

彼が最初から知識として習得している魔術「理導/開通(シュトラセ・ゲーエン)」は問題無く扱える他、ジークフリートの血もしくは邪竜の血が関係しているのか現代の魔術師では感知出来ない大気中のマナを感知出来るらしく、マナの魔力結晶を小石サイズだが生成出来る事も判明した。成長すればもっと大きなサイズの魔力結晶を生成出来るだろう。

その魔力結晶を用いれば、錬金術で様々な物を錬成出来る。

だが、そんな物はただの副産物だ。

重要なのはその『マナ』を感じる程の感知能力だ。

神代の魔術師達は皆この感知能力を持っていたが時代が進むにつれて失ってしまった能力の一つだ。

 

ジークがもしその気になれば、その辺の土や石を魔力結晶を通す事で宝石や砂金に変えるなどの錬金術をほぼ対価無しで行える。

正に金を生成する能力と言ってもいい代物だった。

 

どこぞの日本の冬木にいる未来の赤い悪魔が効いたら飛びつきそうなものだ。

 

それを思った瞬間に長らく日本に戻っていなかった事をヨハンは思い出した。日本は何だかんだで前世や今世でも故郷なのだ。

それを思うとヨハンは日本が恋しく思う様になりホームシックになってしまった。

それを見ていたジークはヨハンを元気付ける為にヨハンに日本に行く事を提案した。

ヨハンは嬉しそうに笑顔を浮かべるが、すぐに残念そうに苦笑いをした。

 

「その提案は嬉しいが、戸籍も無い君を日本には連れて行けない」

 

「日本では戸籍には煩いんだ。戸籍の無い者にはとことん冷たい」

 

「戸籍が無ければ学校はおろか真っ当な就職すらも難しい」

 

そう言って、ヨハンは気が付いた。

ジークには戸籍無い。ホムンクルスは本来なら消耗品だ。戸籍を作る必要は余程な事がなければまずありえない。

だが、戸籍自体を手に入れる手段はある筈だ。

ヨハン達が住む場所は日本ではない。戸籍に対する法も日本と比べて緩かった筈だ。

それを考えれば戸籍を手に入れる方法は必ずある。

ジークを見る。

急に黙り込むヨハンを心配している様子だった。

彼は考える。彼が学校に通い、就職し、人と触れ合い成長していく様を妄想する。同時に悪意ある人に利用されたり虐げられるかもしれないという心配も湧き上がる。

そこまで考えて、本人が決めるのが一番だと思い、ヨハンは質問する。

 

「君は、人と関わりたいか?」

 

ジークは押し黙る。ホムンクルスは頭が良い。すぐにヨハンの質問の意図に気づき何と答えたモノかと考えを巡らせる。

ヨハンは他に何を言わず彼の返事を待った。

数分ほどたった頃にジークが最初に口を開いた。

 

「俺は人とはどんなモノなのか、見るだけじゃなく自分で感じてみたい」

 

「俺は人と話をしてみたい」

 

ジークの顔には決意の色があった。

ずっとこの家でのんびり暮らし遠くから眺めるよりも人と関わり様々な事を知りたいという意志を感じる事が出来た。

 

その結論を聞いてヨハンはジークの戸籍を手に入れる事を決めた。

 

 

数ヶ月後、ヨハンは執行者のアルバイト時代で稼いだ金と人脈を使い、ジークの戸籍を手に入れた。

ジークの戸籍上の名前は「ジーク・ワーグナー」。

ジークとどんな名前がいいかと話し合って決めた名字だ。

ジークは「先生の名字がいい」と言っていたが、ヨハンはそれを「似合わない」と言って良しとしなかった。

そして色々考えた結果、ドイツ圏内にある苗字であり、ジークフリートが登場するニーベルンゲンの指輪を書いたとされるリヒャルト・ワーグナーから取った苗字だ。

また、この際に日本に移住する事も決めた。

母国に帰る事とジークを学校に通わせたいという目的もあり、彼も移住には賛同してくれた。

ジークは移住先が気になりヨハンに移住先を聞いてみた。

ヨハンは誇らしげに、ジークに告げる。

 

「冬木市だ。あそこには外国人も多いし、君が暮らすにはピッタリの場所さ」

 

「とても素敵な所だよ」

 

そして彼等は日本の冬木市に向かった。

 

その先に彼らの困難が待っているとも知らずに。

いや、彼らではなくジークの困難と言った方がいいだろう。

 

何故ならもう2年程度でヨハン・サトウは死ぬのだから。

 

何故なら彼らが日本に移住が完了したのは、第四次聖杯戦争が終わった直後だったのだから。

 

 




次回はサーヴァント召喚回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。