召喚されたサーヴァントは、大きな旗と剣を携えた金髪の女性だった。
「サーヴァント・セイバー。召喚に応じ参上しました」
「あなたですか?私を呼んだのは」
サーヴァントというのはエーテル体によって
構成された魔力の塊だ。
英霊から格落ちしたサーヴァントだとしても、その存在感は凄まじく、独特のオーラを纏っている錯覚を味わった。
ジークは、初めて遭遇する大物に少し困惑している様子だった。
その様子を察したヨハンは、ジークとセイバーの割って入っる。
「そうだ、私が指示して彼に君を召喚させた」
「…あなたは…魔術師ですね?」
割って入ってきたヨハンに、警戒心を露わにするセイバー。
それを察してヨハンは出来るだけ温和な表情でセイバーに話しかける。
「当たらずとも遠からずだ、正確には魔術使いだ」
「そんなに警戒しなくても、私には彼をどうこうする気も無いし、危害加える事も出来やしないよ」
ホムンクルスとサーヴァントを契約させる魔術師など碌な奴がいない。
セイバーは、聖杯から送られた知識で、かつて行われた聖杯戦争の情報も断片的に所有している。
かつて行われた聖杯戦争ではホムンクルスにサーヴァントと契約させて自分は暗躍するという魔術師がよくいた。
セイバーがヨハンを警戒するのは無理もない事だろう。
「私はヨハン・サトウ。君を召喚したホムンクルスはジーク・ワーグナー」
「君を呼んだのは、別に聖杯戦争の為でもないし、ましてやその魂を用いた生贄の儀式をやる訳でもない」
「私達が君というサーヴァントを召喚したのは、君を呼んだジークを守ってもらいたいからだ」
「なんですって?」
ヨハンはセイバーに対して自分の目的を包み隠さずに打ち明ける。
嘘をつく様子もなく、正直に自分を目的を話すヨハンをセイバーは更に警戒を強めて旗を構える。魔力を練る気配を察知したヨハンは慌てて引き止める。
「待ってほしい。私は正直に話しているのに何故そんなに警戒を強める?」
「胡散臭いからだな」
「胡散臭いからですね」
「はっきり言わないでくれ、少し傷つく」
セイバーはともかく、ジークからも「胡散臭い」と言われたのが、ショックだったのか、少し俯くヨハンを見て、セイバーは気が緩んだのか武器を下げる。
どうやら話だけでも聞こうとするつもりだろう。
「まず私は、後1年以内に死ぬ。こればかりはどうしようもない。自分でやった事のツケが回って来ただけだ」
「だが、ジークは違う。彼は私の生涯の証であり全てだ」
「彼を残して逝くのは私の本意ではない。いずれ確固たる自我に目覚めたホムンクルスであり、彼の体に流れるジークフリートの血液と邪竜の因子に興味を持つ魔術師など幾らでもいる」
ヨハンは地に手をついて、その状態のまま頭を下げた姿勢をとる。その姿勢は日本でいう土下座だった。
ジークの為に、ヨハンはプライドを捨ててセイバーに頼み込む。
「頼む。ジークを守ってくれ」
「私は交友関係は少なく、友達も少ない。家族も頼れない。もう頼れるのは君しかいないんだ」
癌細胞に身体を侵されながらも、ヨハンはサーヴァント・セイバーに頼み込む。
その懸命に土下座をするヨハンの姿勢に誠意を感じたのか、セイバーはヨハンに近づく。
「顔を上げてください。貴方の誠意は伝わりました」
「サーヴァントはマスターを守る者です。よって貴方に言われなくとも守ります」
土下座するヨハンは、顔を上げてサーヴァントを見る。
ジークは土下座するヨハンに驚いたが、それ以上にヨハンが土下座するほどに自分を大事にしていた事の方が衝撃的だった。
少し呆然としてからすぐ正気に戻って、サーヴァントに問いかける。
「貴方の名前を聞かせてくれないか?」
「これから俺を守るというなら、俺は貴方の事を知らなきゃいけない」
マスターとなる少年の言葉を聞いたセイバーは、ジークに近づき令呪が刻まれた左手に手を添えて、ジークの顔をじっくり見ながら笑みを浮かべてよく聞こえる声で答えた。
「我が真名はジャンヌ・ダルク。契約に従い、貴方を守るサーヴァントです」
これで2人のマスターとサーヴァントの契約は完了した。
ヨハンは、2人が契約を結んだ事で安堵したのか、気が緩んでしまい、かつてない量の吐血と激痛が彼を襲った。
ヨハンの異変に気づいたジークは、慌てた様子で自分に駆け寄る姿を見て、ヨハンは気を失った。
この時、彼らは知る由もないが、この時ジークがサーヴァント・セイバーを召喚した事で、後に行われる第五次聖杯戦争に参加する魔術師達は余程の縁のある触媒がなければセイバークラスのサーヴァントを召喚する事が出来なくなるという不具合が生じてしまった。
その身に聖剣の鞘を宿す少年というたった一つの例外を除いて。
それからというものヨハンは病床に伏す事が多くなった。
だが、その状態でも出来る事はやろうとジークへの指導は欠かさず行っていた。
ジークとセイバーの関係はおよそ良好であり問題はなかった。
病床のヨハンを介護をしながら学校に通うジーク。
ヨハンの介護の手伝いをしながら、現代の知識をヨハンから学ぶセイバー。
男2人と女1人の奇妙な共同生活は、不思議と満ち足りていた。
ある日、ヨハンが「話がある」とジークとセイバーを呼び出した時の事。
ヨハンが2人の前に出したのは、ヨハンが投影で作った二つの拳銃だった。
『M1911』通称コルト・ガバメントと『S&W M19』通称コンバット・マグナムと呼ばれる有名な銃だった。
「君達には投影魔術で、この二つの銃を投影して実戦でも使える様になってもらう」
その銃の設計図を取り出して、ジークとセイバーの前に広げる。
その設計図は、外国にいた頃の隠れ家にあった銃の設計図をわざわざヨハンが手書きで複製した設計図だ。
「あの…絵が汚くて分かりにくいです」
「ちゃんと本物があるから安心したまえ」
と言って今度こそ本物の銃の設計図を2人の前に広げる。
「自信あったのになぁ」
「どうかしたのか、ヨハン先生?」
「いやなんでもない。それより、2人は投影魔術はもう使用できるかね?」
「出来る。魔術の基本の一つだ」
「出来ません」
とはっきり答える2人。それにヨハンは「おやっ?」となり、ヨハンはセイバーに詰め寄る。
「君はサーヴァントだろう。ならば魔力の使い方はわかるはずだ」
「そうですけど、はっきり言って生前の頃と同じように旗で殴る時に肉体を強化している時以外に使っていませんでしたね」
「よし分かった。君は魔術の基礎だけは出来る様になってもらおうと思うが構わないかね」
「それは構いません」
セイバーの返事に意外そうな顔をするヨハンとジーク。
「どうして、そんな意外そうなんですか?」
「いや、現代では聖堂教会は魔術を禁じていてね。魔術を扱う者もいるが、それは例外中の例外だけだ」
「とにかく、君の信仰している宗教的に魔術は禁止するだろうとつい心の中で思い込んでいてね。宗教上の理由で断られると思っていたので魔術を肯定するのが意外でね」
「てっきり説得に時間がかかると踏んでいたんだ」
それを聞いたセイバーは溜め息をついて、理由を語る。
「それは心外です。使える物は使うべきです。戦争というのは取り敢えず殺せればなんでも良いのです」
「宗教上の理由など個人の自由です。その禁止した物が使えない所為で負けたのでは本末転倒です」
ヨハンとジークは改めて思い出す。セイバーの真名、ジャンヌ・ダルクという英雄は、百年戦争のルールを無視して敵陣に乗り込んた過激な性質を待った人物である事を。
それはともかく、今は少しでも戦闘手段を増やす事が出来るチャンスだ。
セイバーが魔術の習得に対して抵抗が無いなら好都合だ。
銃の投影による戦闘能力の向上が見込める筈だ。
「君達が銃火器を扱える様になる事で、戦闘能力が向上する筈だ。本来の銃火器で必要な工程を投影魔術で簡略化すれば、かなりの成長が見込める筈だ」
「例えば、銃が無いなら投影魔術で造ってしまえばいい。弾薬が無いなら投影魔術で作ってしまえばいい」
「工程もそれを実践する知識も相応に必要だし面倒だ。だがいざという時は役に立つだろう」
「普通の魔術師が、まずやらない事をやっていれば裏をかける。これはこの為の技術だ」
投影魔術とは、本来ならその場限り代用品の品物を魔力で作り出す魔術だ。
大抵の場合は燃費の悪い魔術と認識するが、銃などの消耗品が武器の者にとっては相性が良いのだ。
銃は弾が尽きれば撃てない。銃が無ければ弾が撃てない。
そんな状況を投影魔術によって補う事が出来る筈だ。
ただ投影魔術はその性質上、術者の知識が何より大事だ。
本来の投影魔術は最低限の必要な情報だけを投影した品物は威力も弱く長持ちしない。
だが銃の場合は話が別だ。銃に対するイメージが本物に近いほどの正確なイメージが出来れば、より長持ちするし威力も発揮するだろう。
そして、その銃や弾を投影するためには、その構造を正確に知ってもらう必要がある。
銃の設計図は、銃の構造を理解してもらう為のものだ。
そして、魔術が扱える上に錬金術にも高い適性を持っているジークは、写真を見て、設計図の内容も理解出来た様で、早速、投影魔術を使って銃をまじまじと見つめていた。
「解析して投影してみた。どうだろうか?」
「素晴らしい。撃てるかどうか試したい所だが、それは山や洞窟などの人目のつかない所で練習してくれ」
日本では銃の所持は違法だ。見つかれば大騒ぎになる。証拠品の銃は消せても後で魔術協会に目をつけられかねない。
射撃訓練をしようにも今のヨハンでは、山に向かう体力も無い。
1人で危険なのでジークとセイバーのみで、訓練していく事になる。
そのためには、セイバーに魔術への指導も必要だ。
「セイバー。私では君を指導できないので、ジークに君の面倒を見てもらおう。ジーク、彼女に魔術の基礎を叩き込んでくれ」
「分かった。でもその間、ヨハン先生の面倒は誰が見るんだ?」
「ジーク、まずは彼女に基礎を身につけてさせてからだ。射撃訓練なら私が死んだ後にいつでも出来る」
「ヨハン先生…悪い冗談はやめてくれ」
笑いながらブラックジョークを言うヨハンにジークは冗談に思えず、ヨハンの死んだ後の事なんて考えてたくもない。
ジークにとってヨハンは『親』だ。
彼が初めて会った時に言った「私は君を絶対に見捨てない」という発言は嘘偽りは無いのだろう。
彼と過ごした日々は楽しかったし、彼の話をする時間は安心出来た。
イジメにあった時も彼は本気でジークを心配していた。
そんな本気で自分を心配し怒ってくれる存在が近くにいるからこそ、何度も思うのだ。
(ヨハン先生は…どうして俺を選んだのだろう?)
かつてはそんな疑問が何度も頭をよぎっていた。
それが気になって日本に移住する前に一度質問してみたら「それは君が特別だからだよ」と答えられた。
どう特別なのかを問うとヨハンはまるで当たり前の事を言うかの様に答えた。
「君が『意思』を持っているからだ」
「純粋な存在が、意思を持てば、大抵の者は『意思を与えるべきでは無い』と言う。機械やホムンクルスという人によって生み出された存在が意思を持つ事に酷く怯える」
「人間という種族が淘汰されるかもしれないという潜在的恐怖が彼らを怯えさせている」
「だが私はそうは思わない」
「純粋な存在だからこそ、見出せる物があるだろう。純粋だからこそ、人と関わりどんな答えを見出せるのかも興味深い」
「大抵の創作では『人類抹消』を結論する事が多い。だがどの機械も『個人』を見ていない」
「『個人』と接した純粋なホムンクルスが一体どんな結論を出して、どんな意思を胸に進んで行くのか」
「私はそれが見てみたいんだ」
「きっと悩む時もあるだろう。迷う時もあるだろう。苦難もあるだろう」
「だが君は意思を持っている。その意思であらゆる苦難を乗り越えて、どこまで進むのか知りたいんだ」
その言葉を聞いて、ジークは初めて目標を見つける事が出来た。そして、確固たる意思を持つ事が出来た。
あの時のヨハンの言葉があったから、イジメに耐える事が出来た。そして、これからも色んな苦難すらも乗り越えられる気がしたのだ。
そんな事を考えながら、日常が続き、今では自分のサーヴァントである『セイバー』という新しい家族と共に暮らしている。
そんな日常を少しでも長く続いて欲しいと願いながらジークは過ごしていた。
そしてしばらくして、「セイバーの戸籍を私の家の養子にしたい」とセイバーの戸籍に作る許可を貰う為に、セイバーに車椅子を押してもらいながらセイバーと共に、ヨハンの実家に向かって行った。
ジークは実家の魔術師に見つからないようにと留守番をする事になった。
それがジークがヨハンを見た最後の姿だった。
投影魔術と銃って相性良くない?と思うのは俺だけでしょうか。魔力さえ有れば弾数百万発のコスモガン化出来そう。