転生者がジーク君に干渉した結果   作:クソ眼鏡3号

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やっと…書けた。
合間を縫ってちょっとずつ書いていると、全然進まない。自分の未熟さを痛感します。
定期的に投稿している人の凄さが改めて分かりました。


第六話

ヨハンが実家に向かったのは、別にセイバーの養子となる許可を取りに来た訳ではない。一応、それもついでにやっていこうと思っているので、ジークには嘘は言っていない。

ヨハンの本当の目的はジークと離れる事そのものにあった。

ジークが今からヨハンがセイバーにする事を決して許しはしないだろう。

 

だからこそヨハンは実家に向かうという建前が必要だったので、セイバーと共に実家に向かっているのだ。

 

「一体、()()()()()()()()ヨハンさん?」

 

「おや?()()()()()()

 

セイバーも馬鹿ではない。ヨハンの目的が自分を養子にする為ではない事くらい見抜いている。

そもそもセイバーがヨハンの実家の養子になった所で誰も得をしないだろう。

サーヴァントの戦闘力と気難しいセイバーの気質とを持て余すに決まっている。

それを最初から訝しんでいたが、ジークにわざわざそんな嘘をついてまで離れたんだ。きっと何かあると察して何も言わなかった。

 

「君はジークに何も言わずについて来てくれて助かったよ。これから私が行う事をジークは決して許しはしないだろうしね…」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()養子の話は君の読み通りただのでっち上げさ」

 

「私の目的は、君の()()だ」

 

「ッ⁉︎」

 

戯けた調子で話すヨハンだが、その内容はとんでもない物だとセイバーも理解している。

セイバーがヨハンの結論に反論しようとしたがヨハンは構わずに続ける。

 

「第五次聖杯戦争が始まれば、サーヴァントを所有しているジークは巻き込まれるだろう。サーヴァントを隠すには霊体化が一番だろうが、それでは他のサーヴァントに見つかるのも時間の問題だ」

 

「ならばどうする?例え遠くへ逃げた所で、()()()()()()()()()()()()()()その魔術師に君をサーヴァントだと認識されればその時点で、逃亡生活の始まりだ」

 

「私はジークが平穏に暮らすのも悪くないと思う。彼がどんな人生を送ろうと彼の自由だ。だが、聖杯戦争に巻き込まれて修羅の道を進むのは、私の望む所ではない」

 

「彼には彼の自由がある。それが聖杯戦争に邪魔されるのは我慢ならない」

 

「だから君には今を生きる人間として暮らしてもらう。人間ならばジークの側にいても怪しまれない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「その為には、君を受肉させるしかない。手段も用意してある。後は場所だけだ」

 

「頼む…何も言わずについて来てくれ。ジークを守る為だ」

 

ヨハンの鬼気迫る様子にセイバーは何も言えなかった。本当ならば止めるべきなのだろう。残りの寿命をジークと穏やかに過ごす事も出来ただろう。それを不意にしてでもジークの為に行動を起こすヨハンを尊重する事にしたセイバーは黙って、ヨハンの言葉に従う事にした。

 

そして、ヨハンとセイバーは、電車を乗り継いでヨハンの実家に訪問した。

 

ヨハンの実家は、とある町にひっそりと立つ大きな洋館だった。

魔術師には基本的に金持ちが多い。ヨハンの家系もその例に漏れず、金持ちの家系だ。

佐藤という平凡な苗字だが、外国人の血が混ざっており、ネーミングセンスがやや外人寄りで呼半(よはん)という名前も、その名残だ。

その為、佐藤家では外国人みたいな名前を持つ者が多い。

ヨハンの妹も、莉亜(リア)というやや外国人寄りの名前をしている。

 

そして実家の玄関にインターフォンを鳴らして、中から使用人が出迎える。

そして、その使用人は車椅子に座るヨハンを見て驚いた。

 

「呼半様っ⁉︎」

 

「やあ、ちょっと要があってね。莉亜に言って中に入れてもらえるかい?」

 

ヨハンは驚く使用人に柔かに話しかける。

驚いた使用人が、急いで騒ぎながら家の中に入っていった。

しばらくして、ヨハンとセイバーは実家の客間に通されて、そこに用意されたテーブルの上座に1人の成人女性が座っていた。

長いストレートの黒髪と紅い魔眼を所有する佐藤家の後継者。

そして、ヨハンの妹である佐藤莉亜がいた。

 

「久しぶりだね、莉亜。大きくなったな。もう結婚していたのだったか?」

 

「していません。やはり我が家の事はあなたにとってどうでも良い物なのですね。優秀な素質を持った方に種付けはしてもらったので双子を出産したので私の魔術刻印を継ぐ後継者は生まれています。今は向こうの子どもとしてある程度育った後、片方は私が引き取る手筈となっています」

 

「そうか…一度見てみたいモノだな。父さんと母さんは元気か?」

 

()()()()()()。貴方が好き勝手彷徨いている間にね」

 

「それは残念。少し話したかったのだがね」

 

「それは良かった。父さんと母さんが体調の悪い時に貴方と話したら死因が憤死に変わる所でした」

 

「傷つくなぁ。私は普通に話しているだけなのだが…」

 

「ならば結構。もっと傷ついてください。貴方が傷つけば両親も報われるというモノです」

 

リアに柔かに話しかけるヨハンだが、リアは冷たく皮肉混じりに対応する。

ヨハンは両親の死を聞かされても、ヨハンは少しも驚いた様子も無く、妹に皮肉を言われても苦笑いしているだけだった。

その様子は両者との微妙な家族関係を表している様だった。

その場に同行しているセイバーも先程の会話で両者の関係を察してしまい気まずそうにしている。

 

「『最高の存在を作る』と言って親の金で時計塔に渡っておきながら、時計塔で問題児として暴れ回った挙句、時計塔から追い出されても尚変わらないご様子ですね」

 

「その上、連絡など一切寄越さずに、いきなり帰って来て、一体何の御用ですか?」

 

リアはヨハンの事を良く思っていないのか不愉快な顔を隠さずどこまでも他人行儀にヨハンと接していた。

勿論リアの態度は当然だ。ヨハンにも非はある。というか全面的にジークに構うあまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その皮肉を受けても全く応えていない様子のヨハンは気にする様子も無く話を続ける。

 

「単刀直入に言おう。()()()()()()()()()()

 

「ッ⁉︎」

 

リアは一瞬驚くが、その驚きを噛み殺して何とか平静を保つ。

 

「駄目です」

 

「では()()()()を取る事になるが構わないかね?」

 

ヨハンの魔術回路が起動し、魔血の魔術師の能力を全開に使用とする。

その瞬間、客間の空気が変わった。

ヨハンの『水』の魔術と支配魔術の併用にゆり、空気中の水分そのものがヨハンに支配されたのだ。

空間のあらゆる『水』を支配したという事はヨハンに生殺与奪の権を握られたという証だ。

その対応にセイバーとリアは驚愕する。

 

「ちょっとヨハンさん⁉︎」

 

セイバーがヨハンの蛮行を止めようするが、よく見るとヨハンの身体が震えているのを認識した。

どうやらヨハンは相当な無理をして魔術を行使しているのを理解する。

一方、ヨハンに生殺与奪の権を握られて震えるだけの女ではないリアもまた上着を脱ぎ、下に来ていた魔術用のピッチリした全身タイツの様な戦闘服に着替えて魔術回路を起動させて臨戦態勢に入る。

佐藤莉亜の魔術系統は支配魔術だが、彼女の場合は他の物を支配するのではなく『肉体』を支配する事で人間の潜在能力を極限なまでに引き出す事が出来る。

体術も当然体得している。

その為なのか、莉亜の肉体は均整の取れた女性の黄金比の様なスタイルをしていた。全身タイツの様な戦闘服を着ている為かそれがよく分かる。

空手の様な構えをしながら、兄を拳で撲殺するべく、拳を振るった。

その速度は軽く音速を超えていた。

 

「速さが少し足りないよ」

 

振われた拳はヨハンの操る水の壁に衝撃波ごと防がれる。

同時に水の壁は莉亜の四肢を包み、水は莉亜の爪の間や毛穴を通って僅かとはいえ水が侵入し、その水が莉亜の体内の水分と融合し莉亜を拘束する。

 

「素晴らしい拳だ。だが、その全身タイツの服はどうかと思う」

 

「やかましい!先に仕掛けたのは貴様だろう⁉︎」

 

「だが、この状況だ。君の命は私が握っている。安心しろ、君は私の家族の1人だ。命を取るような事はしないさ」

 

どこまでも上から目線で尊大な態度で、莉亜を見て、家族を対して何の感情も抱いていない様子のヨハンは、そのまま車椅子を操り客間を出ようとする。

 

「おいっ⁉︎待て!」

 

「すまないセイバー、ドアを開けてくれ」

 

「……分かりました」

 

何も言わず見ていたセイバーは、ドアを開けてヨハンの車椅子を押す。

 

「待ちなさいッ!貴方は一体此処でなにをするつもりですかッ⁉︎」

 

「セイバーの受肉だよ。私の大切な人を守る為には彼女の受肉が必要なんでね。それに私の命を使うだけだ」

 

「大切…な…人…?」

 

「そうだ。他人にとっては無意味で無価値に見えても…私にとっては全存在を賭けても守る価値と意味がある人なんだ」

 

心からの笑顔を浮かべて、莉亜に告げるヨハン。

初めてヨハンの笑顔を見た莉亜はしばらく呆然とした。

 

「だから君は眠ってなさい。これで会うのも最後だろう」

 

呆然とする莉亜の隙を突いて、水魔術で彼女の水分を操り、出来るだけ傷つけずに彼女の意識を奪う。

 

「君は私には勿体ない優秀な妹だよ。私の事など忘れて、どうか『誰か』と幸せに暮らす事を願ってる」

 

気絶した莉亜をその場で放置して、使用人を呼んで、莉亜が気絶した事を伝えてから、家の地下に向かう。

 

佐藤家の地下室は、佐藤家が代々の魔術の研鑽の全てを記した魔術工房だ。

佐藤家にとって部外者であるヨハンが踏み入れて良い場所では決してない。

その為、敢えてヨハンは地下室の前に待機してセイバーを先行させる。

すると魔術工房に仕掛けてある魔術か起動し、一斉に襲いかかる。

 

「セイバー、頼む。」

 

「分かりました」

 

セイバーのジャンヌ・ダルクは規格外の対魔力スキルを持っている。だが、それは高い信仰心による物で、本来の対魔力とは違って無効化するのではなく()()()事に特化しているので本人であるセイバー以外には当たる可能性があるスキルだ。

だがそれは、逆に言えば彼女単騎ならあらゆる魔術工房の罠を突破できるという訳だ。

襲いかかる魔術の雨を全て逸らし突き進む。

そして彼女がそこにある魔術礼装を全て彼女が振るう旗で破壊していく。

魔術礼装さえ破壊してしまえば、後は概ね大丈夫だ。余程の卓越した魔術師でなければ概念的な効果を及ぼす罠を貼れないし、佐藤家の魔術師はそこまで上等な腕を持っておらずヨハンの親も腕前は平凡な魔術師の域を出ていなかったので、大丈夫だろうとヨハンは判断していた。

 

そして、セイバーが全ての破壊し終えたのを確認してから、セイバーはヨハンの車椅子を押して地下室に入る。

特に魔術が起動する様子も無くヨハンは安堵する。

 

そしてヨハンはセイバーを受肉させる為の儀式の下準備の為に地下室の中央に行く。

部屋の中央に車椅子のヨハンとセイバーが共に立つ。

 

「何か気になる事があるなら、質問するなら今しかないぞ。これからは口も聞けないからね」

 

「では、一つだけよろしいですか?」

 

ヨハンの得意とする水魔術で儀式の魔術術式を刻み込みながら、ヨハンとセイバーは最期の問答を始めた。

 

「貴方はどうして…そこまでジーク君に拘るのですか?」

 

「貴方のジーク君に対する執着は()()です。魔術師であろうと、最高の存在を作るとジーク君に言っている様ですが、それが嘘という事くらい貴方のジーク君との経歴と接し方を見聞きすれば嘘だという事くらいは分かります」

 

「教えて下さい。貴方のジーク君への執着は一体何処から来るのですか?」

 

ヨハンのジークに対する執着は彼女の言う通り異常だ。

普通の魔術師はいくらアインツベルンの技術を流用しているとはいえ、ただのホムンクルスにそこまで執着はしない。

ヨハンは生殖能力も失っている。

ヨハンの才能は魔術刻印として後世に伝える事もできない。

彼の開発した『魔血の魔術師(ブラッド・ウィザード)』も、ただの気狂いが書いた珍書として放置されて終わるだろう。

そしておそらく魔血の魔術師の論文を本気にして実行する者も現れないだろう。

佐藤呼半という人間は何も遺せずに、誰からも忘れ去られてこの世を去るだろう。

そんな人間がどうしてたかだか一体のホムンクルスに執着しているのかはセイバーどころかジークにもヨハンの家族にも分からない。

 

「…君は『前世』という概念を知っているか?」

 

「え?言葉と概念自体は聞いた事があります」

 

前世とは仏教などの様々宗教にも存在する概念だ。

古今東西で様々な解釈があるが、セイバーの信仰する宗教には馴染んでいない概念だ。

 

「私には所謂『前世の記憶』があってね。それお陰でジークの事にも気づけたのさ」

 

「それは…本当ですか?」

 

ヨハンはこの際だからと自分の真実を打ち明けた。

前世の記憶を所有する魔術師など魔術師の世界にはごまんといる。だが、その中でもヨハンの様な一例は無いだろう。ヨハンの魂が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

勿論、ヨハンはそこまでセイバーに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

言った所で無駄だし、言った所で気狂いの戯言として結論されるのがオチだ。

そんな気狂い染みた事を真面目に言う馬鹿はいない。言ったらそれはただのマヌケだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

自分の家族も、大切な人も、自分の意思も、人生すらも「誰かの妄想による産物」なんて言われたらその人はこれからどう生きていけばいい?見るモノ全てが人形にしか見えない世界に放り込まれて、現実感が欠如した世界に放り込まれて、魔術や異能が存在する世界に放り込まれて、原作がどうのとかと考えられる人間はいない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

少なくともヨハンはそうだった。現実感が欠如した世界でずっとやりたくもないVRゲームを強制的にさせられている様な感覚で生きていた佐藤呼半という男にとって、Fate/Apocryphaという作品の主人公である『ジーク』は謂わば希望だった。

自分の意思が、周りの人が、あらゆる物事が欺瞞に満ちていた。

自分の思考回路すらも『誰か』の想像が作り出した偽物だなんて耐えられない。

自分のいる世界が『誰か』の想像で成り立っているなんて怖くて仕方ない。

 

主人公(ジーク)と関わる事で、あらゆる事に波紋を広げられる。世界を僅かでも変えている気がする。

 

()()を生きている気がする。()()になれた気がする。

 

ジークと接している間だけが、彼を『人間』にしてくれた。現実を生きる事が出来た。

ジークを選んだのも単純に好きなキャラだったのと、もっとジークの事を知りたいという欲求もあったからだ。

ジークの新しい一面を知る度に、『生きている』という確かな実感があった。

ジークと接している間だけがヨハンに生きる実感を味わえた。

ジークは「自分は何もしていない」と言うがそれは大きな間違いだ。

 

『ジークが存在している』だけでヨハンは救われたのだ。

 

だからヨハンはどんな激痛であろうとも、体を欠損しようとも、耐えられた。

 

故にヨハンは彼らが創作の住人だと言わない。()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そんな低俗な真似は断じてしたくない。

だから真実の中に少しの嘘を混ぜて、ヨハンはセイバーに伝える。

 

「前世の記憶というのは厄介だな。周りの人間が人形にしか見えなくていつも現実感が無い。ゲームでもやらされている気分でいつも人に怯えてた」

 

「私の前世は今より少し()()の日本人でね」

 

「前世では『ジーク』という存在がやけに嫌われていた。世間の者は彼を侮辱し蔑んでいた。最も私の知る範囲だがね」

 

「その中で、私は彼が好きだった。ただ単純にカッコいいと思っていたんだが、私の周りの者は彼を好き放題に悪口を言っていた」

 

「勿論、反論したが…封殺された。向こうの方が数が多いからね。それが悔しくて、いつしか私はジークという存在を育てたくなったんだ」

 

「奇天烈な思考だと思うか?私もそう思う。だが人というのは育て方、もしくは環境次第で幾らでも変わるんだ」

 

「私は変わった『ジーク』を見て度肝を抜く『()()』の事を考えながら生きていたんだ」

 

「つまり、私は単にジークを馬鹿にしていた連中を見返したかっただけなんだよ。軽蔑するかい?」

 

セイバーにとって、ヨハンはジークの保護者として認識していたが、先程の話を聞いて、ヨハンの認識を改めた。

 

この男はただの子供だ。

 

肉体だけが成長して精神面が全く成長していない。

子供のような純粋な心を持っていて、優しさがあって、ただちょっと周りを気にせず生意気なだけの子供の大人がヨハンなのだ。

この世界にはいる筈のない人達に向けて、「ざまぁみろ」と言いたいだけの子供だ。

そして前世で見た『ジーク』を応援していただけのただのファンの1人に過ぎないのだ。

ジークへの悪口を少し許せなかっただけの子供が、人より精神力がちょっと強かった為にここまで来てしまった迷い子だ。

 

総合すると佐藤呼半という人間は、『ジーク』という存在を通してでしか現実を感じる事が出来ない破綻者であり、心の底では周りに怯え、現実感が無い故に他人にはどこまでも上から目線で話し、いつまでもジークを応援するファンの1人。

それがヨハンの正体だった。

要はタチの悪いジークのファンの1人に過ぎないのだ。

 

故にセイバーの言う事は一つだけだ。

 

「軽蔑はしませんが…貴方は少し張り切り過ぎですね。()()()()落ち着きを持って行動してください」

 

「ありがとう。()()そうするよ」

 

セイバーの言葉を聞いて、ヨハンは嬉しそうに笑った。

 

そして、ヨハンは刻んだ術式に魔力を流して魔術を起動させた。

 

「車椅子はもういらないな」

 

そう言ってヨハンは、魔力で全身を強化をさせて気力を振り絞って車椅子から立ち上がった。

ヨハンが車椅子に座っていたのは、足が不自由な訳ではなく、精一杯の気力と強化魔術を使わねば歩けないほどに肉体が貧弱になってしまったからだ。だから気力と強化魔術さえ使えればヨハンも歩く事ができる。

 

自分に残った最期の気力をヨハンは辿々しく歩いて魔術術式の中心に向かう。

中心に立ったヨハンはセイバーに向き合って、ある事を思い出した。

 

「そうだ。一つジークに伝え忘れた事があるんだ…伝えてくれるかい?」

 

セイバーが頷くと、ヨハンは最期の伝言をセイバーに伝える。

 

「魔法の言葉を教える事を忘れていた。魔法と言ってもただのおまじないの類いだがね」

 

「苦しい時、辛い時、悲しい時、痛い時、怖い時、とにかく自分が追い詰められた時にはこの言葉を口にするんだ」

 

まだだ

 

「そう言って、心を奮い立たせれば大丈夫さ。不可能も可能になるし、どんな事も切り抜けられる」

 

「ありふれた根性論だが、その意思そのものがとても大事な事なんだ」

 

言い終わったヨハンは「頼んだよ」とセイバーに言って自身の魔術回路を全開に起動させる。

ヨハンの周りの術式が本格起動し、ヨハンとセイバーを魔力が包み込む。

 

ヨハンの行った儀式は、錬金術の一種だ。

簡単に言えばホムンクルス技術を応用した人体製造魔術だ。

人間の肉体となる物の代わりを用意して、肉体を再生させる。主に魔術師の中では再生治療に含まれている技術だ。

だが、人間そのものを代償に人体を製造しても、そこにあるのは人の形をした魂を持たない肉塊だ。時計塔の歴史でも人間を作ろうとしてこの人体製造魔術を使用して失敗した記録もある。

 

だが、ヨハンの場合は違う。ヨハンは魔血の魔術師だ。身体中に術式細胞を持ち、その術式細胞を用いて代償となる肉体と魂を極限までに強化すれば、相応の代償としてうまく機能して、ジャンヌ・ダルクの肉体を再現し、健全かつ健康な肉体へと錬成出来るだろう。

そして肝心の魂は、セイバーというサーヴァントがいる事で解決する。

サーヴァントは()()だ。現界化するにはエーテル体という魔力で出来た体で現界する。

ヨハンが錬成するのはセイバーの肉体だ。その肉体の中にセイバーが入れば、ジャンヌ・ダルクという『人間』の完成だ。

 

そして、ヨハンは自分の肉体と魂を代償にジャンヌ・ダルクの肉体を精製する。

血も、肉も、魂すらも使ってセイバーの肉体を精製するヨハンはやはり異常と言わざるおえないだろう。

現に最初はセイバーにこの方法を伝えた後は猛反対された。だが、ヨハンは『ジーク』のために引かなかった。

寿命が少なくなり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それを受け入れた上で考えた、彼が出来る最善の策だった。

 

最終的にセイバーは根負けし人間の肉体を受け入れた。

ジークを守る為に。

純粋で頑固者な少年を守る為にジャンヌ・ダルクはヨハンの提案を呑んだ。

 

『ジークを守る』

その目的だけがヨハンとジャンヌ・ダルクを繋いでいた。

 

「やっと……本物になれた」

 

笑顔を浮かべて、見につけていた衣服を遺して消滅した佐藤呼半(サトウ・ヨハン)は、静かにその生涯に幕を下ろした。

 

 

 

 




転生者がどうして他の型月主人公と接触しなかったのかいうと、
両儀式:単純に絡みづらいしヤクザの方々とか怖い。
遠野志貴:刃物収集が趣味とか怖いし、SN世界では存在しているかどうかすらも曖昧だから探しにくい。
衛宮士郎:単純に周りの人達が怖い。というか士郎が頑固者過ぎて関わりにくい。絡んだとしても知り合いの関係で終わる。
沙条綾香・愛香:根源接続者とか怖すぎて近寄れない。綾香の方は近づこうと思ったけど、その前にジーク君を見つけたのでもう眼中に無い。
サビ男・ザビ子:存在しているかどうかも分からない人を探させない。
エリち:同上。
などと様々な理由で、一番普通でまともそうなジーク君くらいしか絡めなかったのです。
ちなみにジーク君を見つけたヨハンの好感度は、元から推しキャラという事もあって遂に天元突破して、ガチで「天使か⁉︎」と思った。だからジーク君に甘々なのです。

転生者は死にましたがもう少しだけ転生者編は続きます。
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