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「皆さん、ボンヌ・レクチュ~ル! 僕はタッセル。いきなりだけど、今凄いことが起きてるんだ」
「この世界には、様々な聖剣を持った剣士が居て、日夜人知れず世界を守るべく戦っているんだけど、実は全ての剣士がそのために剣を振るっているわけじゃないんだよ」
「中には世界を危機に陥れるようなことをしたことで、封印された凶悪な剣士も居るんです」
「そしてどうやら、その剣士の一人の封印が解け、復活してしまったようなんだ」
「その剣士の名はエドナ。今、彼女が何をしているのか、少しだけ覗いてみよう……」
ある日の夕方。季節は夏で、日が傾いたにも拘らず、じめじめとした暑さが周囲を包む。
そんな中、私は商店街の一角にある屋台で麺を啜っていた。
濃厚な茶色いスープに肉や卵が入った麺料理。初めて見るこの料理の名は「しょうゆらーめん」と言うらしい。
中々面白い味で、既に八杯も食べてしまった。
「お代わり頂戴」
でも、私の飢えは未だに満たされない。ずっと眠り続けていたせいか、いくら食べても満腹にならないのだ。
それにしても、私が解放されたのに、他の二人はどうしているのだろうか。気配は感じられないため、多分まだ封印されているのだろうけど……。もし気が向いたら、解放しても良いかもしれない。そもそも私の目的のためには、あの本が必要だし……。そう考えながら、私は丼に浮いた茹で卵を齧る。
やはり、このスープの味が染みた卵は絶品だ。どんどん箸が進んでしまう。
「お代わり頂戴」
そして私はまた店主に丼を差し出し、少しでもお腹を満たすため次の麺を強請る。
店主も私がここまで食べるとは思っていなかったのか、どこか渋い表情を見せるが、黙って注文を受け取る姿は好感が持てる。
やはり自分のことに口出しされると、腹が立つものだ。どこぞの連中にも見習ってもらいたい。
そんなことを考えながら静かに食事を続けていたが、突如として異変が起きる。
商店街を取り囲むように光が溢れ、気付くと周囲の風景は街では無く鬱蒼と木々が生い茂る森へと変わっていたのだ。一迅の風が吹くと同時に、無数のシャボン玉が舞い、辺りを埋め尽くす。その光景はまさに幻想的だろう。
私はこの現象を知ってる。この世界は「ワンダーワールド」。メギドと呼ばれる怪人によって繋がった異世界で、時間経過と共に現実世界を侵食するという性質がある。
「ふっふっふっ、大量大量……これだけの人間が居れば、素晴らしい軍勢になるだろう!」
響き渡る不気味な声と共に、私の視界の端で何かが空中から降りて来た。恐らくあれが、ワンダーワールドを生み出したメギドだろう。両腕に黒い皮膜を持つということは、コウモリがモチーフだろうか?
メギドの姿を捉えた人々は悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、そんな彼らを囲むように何かが姿を現す。
「あ゛あ゛~……」
「なっ、何だ!?」
突然現れたそれに、人々は恐怖の表情を見せた。
それは生気の無い顔で呻き声を上げながら、さながらゾンビのように迫りくる人間だった。様子を見る限り、どうやらメギドに操られているらしい。
「貴様達も、こいつらのような私の忠実な兵士となるのだ!!」
そしてコウモリのメギドは人間を襲う。何の力も持たない一般人にとって、メギドは恐怖の対象だ。ただ怯え、逃げ惑うことしか出来ない。
「……」
そんな光景を横目で見やりながら、私は食事を続けていた。
逃げたり、助けたりしないのかと問われれば、何故そんなことをしなければならないのかと返答しよう。あの程度の雑魚に逃げる意味が分からないし、襲われてる人間を助けて何の得があるのだろうか。
「お代わり……あれ?」
またらーめんのお代わりをしようと丼を差し出すが、その先に店主の姿は無かった。どうやらメギドを恐れて逃げ出したらしい。
仕方ないため、カウンターから身を乗り出して麺を取ると、沸騰するお湯で茹でる。食べながら観察していたため、ある程度は工程は覚えた。適度に茹でたらお湯を切って、スープの中に投入すれば良いはず。具材も残っているだろうし、適当にトッピングしよう。
「~♪」
鼻歌を歌いながら、麺が茹で上がるのを待つ。どうせだから、残った麺は全部私が貰おう。店主も居ないんだし、お金も払わなくて良い。
「おい……」
あ、卵がこんなに残ってた。いっそのこと、卵だけを山盛りに乗せてみようか。でもネギや肉も捨てがたい。こんな所にはトウモロコシもある。これも盛り付けてみようか。
「おい、聞いてるか?」
全部乗せようにも、限りが有る。もっと大きな丼なら良かったんだけど、それは見当たらない。残念に思いながら、何をトッピングするか迷いながら視線を動かす。
どんならーめんが出来上がるだろうか。楽しみで胸が震えた。
だけどそんな私の感情を逆撫ですることをしでかした奴が居た。
「聞けって……言ってるだろうがっ!!」
突然の怒号と共に、私の目の前に有った寸胴鍋が吹き飛び、茹でていた麺がお湯と共に宙に投げ出されていく。あまりのことに、私は跳ねたお湯で手の甲に火傷が出来るのにも気付かず、その光景をただ見ることしか出来なかった。
「ふん、平和ボケしてるようだが、これは冗談ではない。貴様も私の兵士として働いてもらうぞ!」
メギドが何か言っているようだが、私の耳には何も入らなかった。地面に無惨に落ちた鍋と麺。折角茹でていた麺が……。
「……」
次第に湧きあがるのは、怒りと憎悪。私の食事を邪魔したこのメギドを許すわけにはいかない。
「……あんた、覚悟は出来てるんだろうね」
「は、何を言っている?」
私の言葉の意味が分からないとでも言いたげに首を傾げるメギド。その態度が余計に腹立たしい。
「貴様は大人しく、私の道具となっていれば良いのだ!!」
そう言い放ったメギドは私の首元へ牙を突き立てようと、口を大きく開く。だけど、その瞬間を狙って私は懐からあるものを取り出して、こいつの開いた大口に突き込んだ。
「げへっ!?」
無防備な口に異物を突っ込まれたせいで、間抜けな声を出しながらメギドは後退する。そして私が手にしたものを見て、目を白黒させた。
「おい、それは一体!?」
メギドが問い掛けてくるものの、それを答えてやる義理は無い。その代わりに私は黙ってそれを腰に装着した。
『覇剣ブレードライバー』
私の腰に巻かれるベルト。その正面には紫色の鍔を持つ剣が収められている。
「私の食事の邪魔をしたんだから、その代わりに少しは楽しませてよ?」
そう言いながら私は、手のひらに収まる程度の大きさの本を取り出す。表紙には毒々しい色をした蛇が描かれたそれを開く。
『ムゲンウロボロス』
『かつて全てを貪り喰らった蛇の王が今、蘇る!』
この本の名はワンダーライドブック。かつて世界を創ったとされる大いなる本の一部。その本を私は腰に巻かれたベルトに装填し、収められた剣を引き抜く。
『抜刀!』
ベルトに装填された本から巨大な蛇が姿を現し、私を中心としてその身をうねらせる。
そして私は頭上へと剣を掲げると、勢いよくそれを地面に突き刺した。
「変身」
呟きと同時に蛇が私の体に絡みつき、その身を変化させ鎧を形成する。その色は剣と同じ紫色。見る人によっては悍ましさを感じさせるかもしれないけど、私は気に入っていた。
『ムゲンウロボロス』
『餓欲! 飢え渇く剣が喰らい尽くす!』
私は手にした剣「欲望剣餓欲」をメギドへと向ける。
「貴様……剣士だったのか!?」
この世界にはワンダーライドブックの力を引き出す聖剣が幾つも存在する。その聖剣を手にして戦う剣士。その一人が私だ。
ただし私は他の連中と違って、世界のためなんて殊勝な考えは持っていないけど。
「それじゃ、行くよ」
私は一言だけ口にして、メギドに向かって剣を振るう。
「その程度、当たるかっ!!」
どうやらこのメギドは見た目通りスピード型らしく、私の剣戟をいとも容易く避けて見せる。
「これでも食らえっ!!」
今度はお返しと言わんばかりにメギドが音波攻撃を放つ。音は実体が無いため、普通の剣では防ぐことは出来ない。剣士にとっては厄介な能力だ。
しかし私はそれを餓欲の刃で難なく受け止めた。いや、それは正確な表現では無い。正しくは、その音波のエネルギーを餓欲が吸収した。
「なっ、何なんだそれは!?」
目の前の光景が理解出来ず混乱するメギド。
それはそうだろう。私の聖剣は他の聖剣と比べると、異質とも言える能力を有している。
私の聖剣の力は、他の聖剣やメギドの力を吸収するというもの。「欲」の属性を有している餓欲に相応しい能力だ。
ただしこの力を恐れた他の剣士達に封印されたのは嫌な思い出としか言いようがない。次はあんなヘマを犯さないように気をつけないと……。
「くっ、それなら!!」
そんなことを考えていると、メギドは接近戦を仕掛けてきた。遠距離攻撃が通じないと分かった以上、今度はスピードで勝負しようという腹積もりなのか。
「舐められたものだね……」
まさか最初の剣戟が私の全力とでも思っていたのだろうか。
羽を広げて周囲を滑空するメギドを私の剣が捉え、地面へと叩き落とした。
「どうしたの。私はまだ本気を出してないんだけど?」
「貴様あああっ!!」
事実を言っただけにも関わらず、メギドは怒りを露にしてこちらに飛び掛かってきた。そんな粗雑な特攻が当たるわけも無く、それを躱しながら擦れ違いざまに一撃を叩きこむ。
顔から地面に落ちたメギドは慌てて立ち上がると、私から距離を取った。
「ちぃっ、それなら!!」
メギドは指を鳴らす。すると先程人々を囲んだ時と同じように、操られた人間が私とメギドの間に壁になるように現れた。よく見ると、さっきよりも数が増えている。恐らく私が放っておいた間に、囲まれていた人々がメギドの能力を受け操られたのだろう。
「どうだ。お前が剣士だというなら、こいつらを傷つけることは出来ないだろう?」
勝ち誇ったように笑うメギド。
その姿はただ滑稽を通り越して呆れるしかない。一体、何を勘違いしているというのだろうか。
「この程度で何がしたいのか……」
溜息を吐いていると、一人が私に向かって襲い掛かる。彼らが攻撃するのなら私は手を出せない。本当にそう思っているのだろうか。
「邪魔」
私は軽く右足でその人間を蹴り飛ばす。いくら軽くと言っても、この姿では脚力は何倍にも増加しているため、当たればただでは済まない。事実、骨が折れる感覚が有ったが、大した問題では無い。操られる奴が悪いのだ。
「な、お前……こいつらがどうなっても良いのか!?」
「別に。私、関係無いし」
私の答えに対し、メギドは絶句する。確かに他の連中なら必死に助けようとするかもしれないが、私にはどうでも良い。私はただ私のためだけに生きると決めているのだ。他人など知ったことじゃない。一銭にもならない人助けなどする必要を感じない。
しかし、さすがに操られた人間全員を倒すのは面倒だ。さっさと斬るのも良いかもしれないが、それではあの連中に見つかる可能性が有る。
「そう言えば……」
私はふと思い出す。封印が解けた際に回収したワンダーライドブックがあることを。私はそれを腰から取り出すと、餓欲の刀身に翳す。
『銀河エクスプレス』
『強欲な列車!』
ワンダーライドブックのエネルギーが餓欲へと流れ込み、更なる力を引き出す。そして私はそのまま剣を振るった。
『欲求一突!』
すると剣先から紫色の光の線路が現れ、まるで鞭のように撓ると、操られた人々を縛り上げる。やはりこれは使い勝手が良い。
これでメギドは操ることが出来る人間も居ない。最早まな板の上の鯉だ。
「ぐ……」
「さて、もう飽きたし、終わらせようか」
私はベルトに餓欲を収めトリガーを引く。
『必殺黙読!』
「ぐっ、グオオオオオっ!!」
破れかぶれとなったのか、メギドは羽を広げこちらへと突進する。だけどもう勝負は付いている。
『抜刀! 大蛇欲心斬り!』
再び剣を抜き横一線に薙ぐ。すると溜め込まれたエネルギーは巨大な蛇の形状を為し、メギドへと襲い掛かった。
「がっ!?」
滑空するメギドはそのスピードを抑えることが出来ず、自ら蛇の口に吸い込まれていく。そして荒ぶるエネルギーの奔流に巻き込まれたその身体は、文字通り肉片を一切残すことなく破壊された。
「ふぅ……」
メギドが倒されると同時に、ワンダーワールドの浸蝕も止まり、商店街は元の姿に戻っていく。残されたのは私と、倒れ伏す人々のみ。
私はすぐさまこの場を後にする。ゆっくりしていたら、連中が来るかもしれない。
「……さて、どこに行こうかな」
変身を解いた私は、また新たな場所へと向かう。気の向くままに、自分の欲を満たすべく。
次は何をしようか。抑えきれない欲を秘めながら、私は餓欲と共に歩き始めた。
【キャラ設定】
エドナ/仮面ライダーシャムシール
●バハト同様にソードオブロゴスによって封印された剣士。バハト同様に不死身であり、その実力はかなり高い。
●戦う理由は自身の欲を満たすためだけであり、世界の平和を目指す他の剣士とは一線を隔す。しかし自ら争うことは基本避けており、バハトともそれなりに親交は有った。
●性格はいたってマイペースであり、自分の気が向いたときにしか戦うことは無い。しかし自身の欲を邪魔された際には、容赦なく剣を振るう。
●名前の由来はギリシャ神話に登場する怪物「エキドナ」。
仮面ライダーシャムシール
●「餓欲! 飢え渇く剣が喰らい尽くす!」
●エドナが覇剣ブレードライバーとムゲンウロボロスワンダーライドブックを使って変身した姿。メインカラーは白と紫。覇剣ブレードライバーの色はバハトのものとは異なっており、紫色をしている。
●覇剣ブレードライバーに装填されている聖剣の名は『欲望剣餓欲』。属性は『欲』であり、あらゆる力を吸収することが可能。
ムゲンウロボロス
●「かつて全てを貪り喰らった蛇の王が今、蘇る」
●シャムシールへの変身に用いられるワンダーライドブック。神獣のジャンルに属しており、高い回復能力を発揮させる。カラーは紫。1ページ目には自分の尾を噛む蛇の姿が描かれており、2ページ目には「貪欲な不死身の蛇の王が聖剣と交わり身に宿る」と記載されている。
銀河エクスプレス
●「とある二人の少年が乗り込んだ、不思議な列車の物語」
●エドナが持ち出したワンダーライドブックの一つ。ジャンルは物語。
●基本的に欲望剣餓欲にリードさせて使用しており、その場合は線路の形状のエネルギーで相手を拘束する技を発動する。
●モチーフは「銀河鉄道の夜」。
コウモリメギド
●『怪しいコウモリ』のアルターライドブックから生まれたメギド魔人。ジャンルは生物。
●人間を操り、自らの兵士として戦わせることが出来る能力を持つ。ただし聖剣を持つ人間にこの能力は通用しない。また遠距離攻撃として強力な音波を発することが可能。
●モチーフは「卑怯なコウモリ」。