今回から原作と深く関わるようになっていきます。
「皆さん、ボンヌ・レクチュ~ル! 僕はタッセル」
「前回は大変だったよ。なんせ破滅の本から復活した不死身の剣士ファルシオンによって、世界が崩壊する寸前だったからね」
「でも神山飛羽真を始めとした剣士達の手によってファルシオンは倒され、破滅の本は無事封印されたんだ」
「だけどまだこの世界には、シャムシールというもう一人の危険な剣士が残っている」
「サウザンベースから来た二人の剣士が彼女を追っているようだけど……彼らは無事に彼女を倒せるんだろうか?」
【SIDE:芽依】
もぐもぐ、バリバリ、むしゃむしゃ、ごくごく……
そんな擬音が聞こえてきそうなほど、沢山のケーキを一心不乱に食べる一人の女の子。どう見たって入るとは思えないのに、まるでブラックホールのように華奢な体に次々と飲み込まれていく光景は、周りの人の注目を集めていた。
どうしてこうなったのか。ベンチで女の子の隣に座りながら、うちはその光景を遠い目で見つめていた。
今日もまたノーザンベースへと向かうべく、飛羽真の本屋へと向かっていた。
ただの編集者だったうちは、小説家の神山飛羽真と共に突如としてソードオブロゴスという組織とメギドの戦いに巻き込まれて、その日から色々な出来事が有った。ある時はメギドに襲われたり、ある時はメギドに攫われたり……あまりろくな目に遭ってないような気はするけど、まあ良いや。
何はともあれ、うちも(自称)組織の一員として頑張って来た。
だけど最近はどこか雰囲気がピリピリしている。少し前には破滅の書が復活して、世界が滅びる寸前にまでなったり、時々現れていた闇の剣士の正体が実は飛羽真の命の恩人だったことが判明したり……。
そのせいか皆どこか緊張しているみたいだし、少しでも雰囲気を和らげようと、ちょっと奮発して高いケーキを買ってみた。皆喜んでくれると良いけど……。
―ぐきゅるるる~―
そんな時、妙に甲高い音が耳に入った。
その音が聞こえたのは、人気のない路地裏がある方向。どこか不気味な雰囲気を醸し出すその場所へ、少し身構えながら音の正体を探ろうと一歩ずつ近づいてみる。
もしかしたらメギドかもしれない。そんなことを考えながら、もしもの時にはすぐに飛羽真や倫太郎に連絡できるように、片手にスマホを持ちながら、その路地裏を覗き込んでみた。
だけどそこでうちが見たのは、予想外のもの。
「……うぅ」
「え?」
そこに居たのは、うちよりも年下と思われる女の子が、倒れている光景だった。
一体何が……事件にでも巻き込まれたのか。そんな不安を抱えてうちはその女の子に近寄り、抱え上げる。
「どうしたの? しっかりして!?」
必死に声を掛ける。いや、こういう時こそ落ち着かないと……まずは救急車だ! 急いでスマホに手を掛ける。だけどそこで女の子が口を開いた。
「……か……った」
「え、どうしたの?」
何を言おうとしているのか聞き取るべく、彼女の口元に耳を近づける。するとさっきより明確な言葉が耳に入った。
「……おなか、へった」
「お腹減った?」
―ぐきゅるるる~―
再びあの甲高い音。それが彼女のお腹の虫と気付いて、うちは全身から力が抜けてしまった。
そしてうちは持っていた高級ケーキを分けてあげた訳なんだけど……本当は一個だけのはずだったのに、なぜか箱ごと持っていかれ、そのまま女の子がケーキを貪る光景をただ茫然と見つめることしか出来なかった。
それほどお腹が空いてたんだろうけど……少しは遠慮して欲しかったなあ……それ買うのに財布の中身がほとんど全部吹っ飛んだし……。
だけどそんな気持ちも全く気付かず、女の子はケーキを手づかみで次々と口に放り込んでいく。
そして遂に最後の一個まできれいに平らげると、ふぅと息を吐いて一言、
「……足りない」
っ、ケーキをあれだけ食べて足りない!?
驚きと怒りがないまぜになりながら、どうにか気持ちを落ち着けようとする。
女の子はそのまま自分の手に付いたクリームをペロリと舐めると、こっちに視線を向けてきた。
「……ああ、ごちそうさまでした。これ、美味しかったよ」
「あ、うん。それは何より……」
「でも悪いことしたね。あんたの菓子、全部貰っちゃって」
そう思うなら少し残して欲しかった。でもそのことはとてもショックだけど、まあケーキならまた今度買えばいい。
「それよりも、どうしてあんなところで倒れていたの?」
あんなところで飢えて倒れているなんて、普通なら有り得ない。それも、まだ20歳超えているかも分からない子がだ。
そう聞くと、女の子はどこかはぐらかすような笑みを浮かべた。
「まあちょっと色々あってね。探してるものがあるんだけど、それがなかなか見つからなくてさ。それで気が付いたらお腹が減って倒れてた」
「その探してるものって?」
「……ちょっと言えない」
何か隠してるようだけど、あまり話したくないみたいで、そこで会話が途切れた。
そして女の子は唇をぺろりと舐め上げると、座っていたベンチから立ち上がる。
「お菓子、ありがとね。助かったよ」
「あ、うん」
そのまま去っていく女の子。だけど不意にうちの方に振り返ってこう呟いた。
「人間が皆、あんたのように優しかったら……」
「え?」
聞き返すけど、女の子が答えることは無く、そのまま人込みの中に消えていく。
うちはその後ろ姿をただ見つめていた。
【SIDE:蓮】
「でやあっ!!」
いきなり街にメギドが現れた。しかも六体も。そいつらを倒すために、俺はワンダーワールドの一つに入り込んだ。
「ギシィっ!!」
そこに居たのは、小鬼みたいな姿のメギド。それを見た瞬間に俺は「
このメギド、この前現れた蛇のメギドと比べたら、大して強くは無い。俺のスピードには付いてこれず、さっきから攻撃を空振りしてばかり。対して俺の連撃は面白いくらいに命中する。
この程度ならさっさと他のところの奴も大したことは無さそうだ。
「すぐに終わらせてやる!」
さっさとケリをつけるため、ワンダーライドブックを風双剣翠風から外す。このまま必殺技で終わり。そう思ってた。
『強欲な大蛇! 欲求一突!』
「うあっ!?」
不意に殺気を感じて右を向くと、そこには紫色の斬撃が迫る光景が有った。思わず後退るけど、躱し切ることが出来ず、俺の体に斬撃が当たった衝撃で吹っ飛ばされる。
「うぐ……」
一体何が……まさか新手のメギドか……。
そんなことを考えながら俺は顔を上げる。
「風の剣士か……予定外だったけど、まあ良いや。さて、あんたはあれを持ってる?」
そこに居たのは、紫色の鎧を纏った女の剣士。まさかこんな時に会うなんて……
「強欲の剣士……」
尾上のおっさんや賢人君たちが言ってた相手。あの不死の剣士と同じ実力を持つという、最悪の剣士の一人。
いつか会ったら、俺が倒してやろうと思っていた相手。コイツを倒すことが出来れば、賢人君も俺のことを認めてくれるだろうし、それのサウザンベースから来たいけ好かないあいつらも見返してやれる。
「お前は俺が倒してやる!」
俺は双剣となった翠風を両手に持ちながら、強欲の剣士に向かって挑みかかる。例えどんな相手だって、俺のスピードには付いてこれない!
「喰らえっ!」
フェイントを織り交ぜながら、一瞬で無防備な背後に回り込んで、俺は翠風を振るう。これは絶対に躱せない!
「……とろいね」
だけどソイツは、俺の動きが予測していたように振り向いて、その剣で攻撃を防いで見せた。
「っやるじゃん。なら、これはどうだ!」
今度は連撃。俺の武器は二本でコイツは一本。手数なら俺の方が多い。防御が追い付かなくなるまで攻撃すれば良い!
「ふぅん……」
俺の剣と強欲の剣士の剣がぶつかる度に火花が散る。だけど俺の攻撃に対して、奴は防御することしか出来ない。これなら……。
-ギンッ-
-ガンッ-
-ガィン-
一撃、二撃、三撃と連続で剣を振るう。その度に奴は剣で防御して、俺は次の攻撃を放つ。何度も何度も……。
だけど次第に焦る。
「っ!?」
どうして俺の攻撃が当たらないんだ。全力の振り下ろしも、二刀を別方向から振るっても、回転で勢いを付けた一撃も、その全てが奴の聖剣に防がれる。
徐々に焦りが出る。そんな俺に奴は一言、
「……つまらないや」
「なっ!?」
つまらない。そう言われて思わずカチンと来た。そんなに俺を舐めるなら、これでも食らえ!
『猿飛忍者伝! ニンニン!』
『翠風速読撃! ニンニン!』
「疾風剣舞・二蓮!」
ワンダーライドブックの力を宿した双剣を俺は何度も振るい、疾風の斬撃を放つ。まるで嵐のように奴に迫る攻撃。これを躱すことなんて……
「無駄」
だけどソイツはまるで声色を変えず、ただ剣を前に掲げた。だけどそれだけで、俺が放った攻撃の全てがソイツの聖剣に吸収されていく。
「なっ!?」
ソイツの聖剣が取り込んだ風を纏い、徐々にその力を増していく。
「はっ!!」
そしてさっきとは逆に、暴風のような斬撃が俺に襲い掛かった。
それを俺は双剣で防ごうとしたけど、食い止めることは出来ずに、渦に飲み込まれながら吹き飛ばされ、地面へと強く叩きつけられた。
「ぐあっ……」
こんな奴に俺が……その事実を認めたくないけど、すぐに立ち上がることが出来ない。その間に奴はゆっくりと俺に近づいてきていた。
「さて、それじゃ」
そして倒れ込んだ俺に聖剣の切っ先を向けると、勢いよく振り下ろす。
思わず自分が受けるだろう痛みを覚悟して目を閉じる。
-ガィンッ-
だけど俺に届いたのは、剣で突き刺される痛みじゃなく、金属同士がぶつかり合う音。
「無事ですか、風の剣士?」
「な、お前っ!!」
俺の命を救ったそいつは、俺が嫌いな奴、サウザンベースから来た剣士の一人だった。
【SIDE:タルス】
強欲の剣士を仕留めそこなった私達は、あれからも奴の行方を追っていましたが、未だに発見することは出来ず、一向に進展しない状況に対し、ビルの上で溜息を吐いていました。
「ったく、あいつはどこに居やがる!!」
レボスも苛立ちを隠し切れないようで、近くの建物の壁を殴りつけます。
あの後、一度ノーザンベースへと戻りましたが、そこでも大した情報は得られず、逆に風の剣士から「あんな大きいこと言っておいて、逃げられてんの?」と挑発されたのが、大分レボスのストレスとなっているようです。
「落ち着いてくださいレボス。私達の戦術は確かに奴に効いていました。次は必ず勝てます。焦ることはありませんよ」
「っタルス……」
私の言葉を聞いて、何とか落ち着いてくれました。
ですが、出来るだけ早く奴を見つけなければいけない事は確かです。奴がこの世界に彷徨っている。それだけで、多くの人々にとって危機が近いということでもあるのですから。
「っ!?」
しかし、そんな私の思いとは裏腹に、世界に異変が起きました。そう、メギドの出現です。
「レボス、これはっ!!」
「ええ、まさかこんなことが……」
私達の視線の先に有るのは、メギドの出現によって現実世界がワンダーワールドに侵食されていく光景。それ自体は見慣れたものであるため、特に慌てるようなことではありません。ですがその数が問題でした。
「まさか、六ケ所同時とは……」
通常なら有り得ないほどの浸食が、同じ場所で同時に起こる。それは話に聞く15年前の大事件のそれとそっくりです。
「これは奴を追っている場合じゃありませんね」
私達の目的は奴を探して倒すこと。しかし使命はこの世界の平和を守ることです。ここでメギドを見過ごしていては、剣士を名乗ることは出来ません。
「ああ、行こうぜタルス!」
鉄鋼剣黒鉄を担いだレボスに私は頷き返すと、ブックゲートを開き、メギドを倒すべくワンダーワールドへと侵入しました。
そしてそこで見たのは、倒れ伏す風の剣士と彼を手に掛けようとする強欲の剣士の姿。
「っ!!」
急いで私はワンダーライドブックをベルトのバックルに装填し、スイッチを押します。
「Don't fear! The one hundred souls turn into the your force.」
「百夜怪談!」
「深魂解読! 冥府の剣が彷徨う魂を支配する!」
-ガインッ-
強欲の剣士の一撃がまさに風の剣士へと振り下ろされるその瞬間、魂魄剣深魂を割り込ませることに成功し、聖剣がぶつかり合う音が鳴り響きました。
「無事ですか、風の剣士?」
「な、お前っ!!」
私の姿に思わず絶句した様子の風の剣士。その隙に強欲の剣士が私に斬りかかろうとしましたが、ここに居るのは私だけではありません。
「させるかよ!」
「ちっ」
変身したレボスが奴に向かって斬りかかります。上手く奴の隙を突いた一撃、しかしながら奴は瞬時に背後へと跳躍し、その攻撃を躱しました。
「はっ、大口叩いた割に、随分とこっぴどくやられたみたいじゃねえか」
「っ煩いな! お前達だってあいつ逃がしてたんじゃないか!」
「はんっ、俺達はアイツに負けた覚えはねえよ!」
互いに憎まれ口を叩く二人。どうやらそれほどダメージは無さそうです。
ですがまさかこんなところで強欲の剣士と出会うとは……あれは倒すべき相手。ですが同時にこの場も放置することは出来ません。
「……風の剣士、貴方はメギドを倒しに行ってください。奴の相手は私達がします」
「なっ、お前達の助けなんか……」
「お願いします。ここで言い争っている暇はありません」
私が強くそう言うと、風の剣士は押し黙ります。
「確かに強欲の剣士は倒すべき相手です。ですが同時にこの街も救わなくてはなりません。何せ六ケ所同時にメギドが出現しているのです。ここで時間を取られては、他の場所に居る人々が危険です」
風の剣士は状況を理解し、どこか不満げな雰囲気を纏いつつも、手にした聖剣をこちらに向けました。
「分かった。お前らもしくじんなよ!」
「ええ、任せてください」
彼が駆けだす姿を見送り、私とレボスはそれぞれの聖剣を構える。
「それでもう良い? ちょっと
「ふん、わざわざ待っててくれたのかよ。随分と余裕だな」
剣をゆらゆらと振る強欲の剣士に対し、レボスが挑発し、私もゆっくりと隣に立ちます。
「では、今度こそ決着を付けましょうか」
そして私達は意気揚々と私達は強欲の剣士へと挑みかかりました。