【SIDE:タルス】
「随分と奇遇なことで……」
私は侵入したワンダーワールドの中で思わず呟きました。そこに居たのは、可能ならば今は会いたくは無かった相手。
「今日は運が良いね。美味しいケーキは食べれたし、獲物は勝手に来るし……」
我が一族の因縁の相手、強欲の剣士シャムシール。既に変身し、臨戦態勢を取っている。
まさかこんな時にまで出会ってしまうとは……この不運に奥歯を噛む。この状況は悪い。出来ることならば、奴とは剣を合わせずメギドを倒してしまいたかったところですが、奴がそれを見逃すというわけが無いでしょう。
「てめえ、面倒な時に現れやがって!」
「別に良いでしょ。さっきだって会ったんだし」
そう言って剣を向ける彼女を私とレボスは睨みつけます。
ここで最善なのは……
「レボス、ここは私が相手をします。あなたはメギドを倒してきてください」
「は、何を言ってるんだよ!?」
私の言葉にレボスが食って掛かりました。それは彼女に誰よりも強い敵対意識を持っているからでしょう。
「認めるのは癪だが、あいつは一人で倒せる相手じゃない。ここは俺も……」
「レボス、ここで優先すべきは何ですか?」
しかしだからこそ、私は彼に呼びかけました。
「今はメギドを倒すのが我々の役目。しかし奴が私達をみすみす見逃すことは無いでしょう。だから私が時間を稼ぎます。あなたはメギドを」
「いや、それでも……」
レボスも分かっています。ここで強欲の剣士に執心していても、人々が危険に晒されるだけだと。それでも私を一人にするのが心配なのでしょう。その思いに感謝をしながら、私は言葉を続けました。
「私はあなたの力を信じています。だからあなたも、私を信頼してください」
その言葉にやっと覚悟を決めたのか、レボスは横目で私に一瞥しました。
「分かった。俺が戻ってくるまで、出番は残してくれよ」
「ふふっ、それはどうでしょうか」
互いに軽く冗談を口にすると、レボスはその場から走り去ります。その後ろ姿を強欲の剣士は不気味なほど静かに見届けました。
「おや、あなたが何も仕掛けないとは……」
「まあ、一人でも残ってくれれば良いし」
こちらを見つめる奴から感じられるのは、獲物を前にした獣のような雰囲気。ですが私も無様にやられる気はありません。
「悪いですが、あなたの蛮行もここまでです!」
『百夜怪談!』
「変身!」
ライドブックから放出された力が私の身に宿り、剣士としての姿を解放します。
『Don't fear! The one hundred souls turn into the your force. 百夜怪談!』
『深魂解読! 冥府の剣が彷徨う魂を支配する!』
「……では!!」
そして私は剣を構えながら走り、奴もまた対抗して剣を振るいます。
自分はレボスがメギドを倒すまでただ耐えればいいだけ。しかしそんな姿勢では、奴を止めることは出来ない。だから私は、奴を倒すという気概を込めて挑みかかりました。
「はっ!」
「くっ!?」
最初の戦い。その時の感覚では、たとえ一人でも奴を抑え込むことは出来ると考えていました。しかし二度目の戦闘では奴が未だに本気を出していないという事実を叩きつけられ、そして今まさに私が感じている奴の力は、私の予測を遥かに超えていました。
その動きは目で追えず、僅かに発せられる気配を頼りに何とか攻撃を防げている状態。しかもその一撃一撃が重く、何度も受け続けていると手が痺れてきてしまいそうになる。
「ですがっ!!」
ここで退くわけにはいきません。相手の動きが追えないのであれば、移動の範囲を制限してしまえば良い。
『必殺リード! 百夜怪談!』
『深魂必殺撃!』
「妖魔百閃!!」
ライドブックを読み込むことで放たれた光が、周囲を縦横無尽に駆け巡ります。
いくら奴が不死身と言えど、この攻撃の全てを受けてまで迫ってくることは無いでしょう。きっと回避をしながらこちらに向かってくるはず。そこをカウンターする!
「……それ、見飽きたよ」
そんな私を嘲笑うかのように、奴は聖剣をゆっくりと構えると、勢いよく走り出す。そんな奴目掛けて舞う光弾。私も奴の動きを予測して構える。
しかし、奴が取った行動は私の想像を超えていました。
「ふん……」
奴は自らに向かう無数の光弾の一つ一つを、まるで踊るかのように剣を振るって受け止め吸収した。徐々に刀身が纏うエネルギーが増していくのが分かりました。
『必殺黙読!』
放たれた全ての光を吸収した聖剣を腰のドライバーに装填した奴の動きを見て、背筋に冷たいものが走る。
不味い……この距離では奴を止めることが出来ない。
状況を瞬時に判断した私は、腰のホルダーに魂魄剣深魂を納める。
『深魂居合……』
そして奴と私は、ほぼ同時に剣を抜き放つ。
『大蛇欲心撃!』
『読後一閃!』
奴の剣から姿を現した、大蛇を模したオーラ。迫りくるそれに対し、私は斬撃を当てて何とか軌道を逸らそうとします。しかし私が放った光弾を吸収して威力を増した大蛇を抑えきることは出来ませんでした。
「ぐぅっ!?」
間一髪で直撃こそしなかったものの、掠っただけであるのにその衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がる。明らかな大きな隙。それを奴は見逃しませんでした。
「ふっ!」
剣を大きく振るい、こちらに走り出す。確実に止めを刺そうという一撃。ですが同時にそれは、私にとっても千載一遇のチャンスでした。
懐から一冊のワンダーライドブックを取り出す。それはかつて、覇剣の使い手を封印した力を持つ、伝説の本。
『必殺リード! グローリーベオウルフ!』
魂魄剣深魂の刀身に清廉なる光が宿り、周囲を照らし始める。
「それはっ!?」
私が使ったライドブックに奴も気付いたようで、急ブレーキをかけて止まる。しかし、もう遅い!
「はああああっ!!」
渾身の力を込めて聖剣を振るうと、放たれるのは眩い斬撃。その一撃は躱す暇も与えずに命中すると、爆音と共に奴の姿は光と炎の中に掻き消えた。
その光景を見た私は溜息を一つ吐くと、足から力が抜けその場に跪きました。
さすがにこれで確実に倒せたわけでは無いでしょう。しかしこのワンダーライドブックは、奴の不死身の源である覇剣を封じる力を持っています。その力を込めた必殺の斬撃を受けた以上、奴はしばらくは復活できない。
今、私達が置かれている状況で奴の介入を受ければ、きっと厄介なことになる。その前に奴の動きを封じられたのはかなり大きいと言えるでしょう。
ですが、予想以上に消耗しました。出来ることなら、レボスが戻ってくるのを待ってから対処するべきでしたが、それを待つほどの余裕が無かったというのが事実。不完全になってしまいましたが、それでも得た物は多い……。
「さて……レボスの様子を確認しますか」
彼のことだからきっと大丈夫だろう。そう考えながら、私は聖剣を支えにして立ち上がり……まさにその瞬間でした。
『ムゲンウロボロス!』
「……え?」
突然、聞こえたその音に私が振り返ると、炎の中から紫色の大蛇が姿を現し、私を睨みつけたかと思うと、その太い尾を振るいました。
消耗していた私はそれを躱すことも、防御することも出来ず、まともに食らい、近くのコンクリートの壁に叩きつけられました。
「ぐはっ……」
肺から空気が漏れ、呻き声が零れる。そして霞む視線の先に居たのは……殆ど無傷の強欲の拳士の姿でした。
【SIDE:エドナ】
危なかった。あの一撃を受ける瞬間、少しでも判断が遅かったら、間違いなくただでは済まなかった。
「どうして……」
倒れ込みながら私を見つめる剣士。その瞳には文字通り困惑が映っている。それだけあの攻撃には自信があったのだろう。それが効いていなかったのだから、こいつの動揺は当然だ。
「昔、自分を封印した力に、何の対策もしないと思っていたの?」
私が何故無事なのか。それを教えてあげる義理は無いけれど、まあ別に話したところで大した問題じゃないか。
「ただの予想だけれど、そのワンダーライドブックは私の聖剣を封印することに特化してるんでしょ? だったら、聖剣に頼らなければ良いだけ」
そう言って私はドライバーに差し込まれたライドブックを撫でる。
やったことは単純。こいつの攻撃が当たる瞬間、ライドブックのページを押し込んで、封じられていた神獣を呼び出した。ただそれだけだ。もし私の予想が当たっていれば、あくまでワンダーライドブック単体から発生した力は封じられないはず。そう考えての行動だった。
勿論、それが当たっている保証なんて無い。もし外れていれば、この体を維持させることは出来なかっただろう。だけど、私はその賭けに勝った。それがただ一つの事実だ。
「それに、そのライドブック使いこなせていないのに、本当に私に勝てる気でいたの?」
「っ!!」
どうやら気付かれていないとでも思っていたのだろうか。
「さてと……」
私はお目当てのものを手に入れるために、倒れ伏した剣士に近づく。既にこいつは満身創痍。抵抗は出来ないだろう。
そんなことを考えていた最中だった。
「ギキーっ!!」
「待ちやがれっ!!」
突然、私の前に飛び出して来たメギド。そしてそれを追うようにして現れた灰色の鎧を纏った剣士。
「な……タルスっ!!」
灰色の剣士は倒れ伏した仲間の姿を見て驚いたような声を上げると、私を睨んで激昂する。
「お前っ!!」
「待ちなさいレボスっ!」
倒れ伏した剣士が制止するものの、その声は届いていないようだ。奴は手にした剣を振るい、私に立ち向かってくる。しかし、怒りの感情がそのまま乗った剣閃は読みやすい。何度も振るわれるその攻撃を避け、往なし、捌いて行く。
「お前は絶対にここで倒す!!」
『必殺
何としても私を倒そうと、必殺の一撃を放つ準備をしたのが見えた。しかし、それは先程破っているのを忘れているのだろうか。
『黒鉄斬鉄閃!』
「だあああああああっ!!」
気合と共に放たれる一撃。私はそれを餓欲で受け止める。それまで以上の力が込められたその一撃は、こいつの感情がそのまま表れている。絶対に私を許さない。そう言っているように聞こえた。
しかし、結局はそこまででしかない。こいつなんかに許されたいとは思わないし、そもそもこいつの怒りは浅い。私の絶望には程遠い。
「はあっ!!」
「なっ!?」
力を込めて、私は剣を弾いた。全身全霊の一撃。零れ落ちた言葉からは、奴の仮面の奥に隠れた驚愕の感情が浮かんでいた。
その隙を狙って、私は聖剣で斬り上げる。それを慌てて目の前の剣士は防御しようとして腕を動かす。
―ザンッ―
それが結果的に、
「え……」
私がそれを切り裂いたことが信じられなかったのか、灰色の剣士は呆けたような声を上げる。
それはエンブレムと呼ばれるもの。聖剣の力の根源であり、通常であれば破壊はおろか傷一つ付くことのない、聖剣の心臓部とも入れる部位だ。それがこれほどまでにあっさりと真っ二つにされたことが信じられないのだろう。
「ど……どうしてだよ?」
狼狽えるその剣士の体から装甲は消え去り、生身の体が露となる。さらには、破壊された剣が徐々にくすみ、まるで錆び付いたかのように変化した。
まあ、これは当然のことだ。何故なら……
「所詮は偽りの聖剣。本物の聖剣には勝てるわけが無いんだよ」
「……偽りの……聖剣?」
あれ? 呆然自失とする剣士の呟きに私は疑問を抱く。まさか知らなかったのだろうか。私と同じ一族―ゴート家のものなのに。
そして私は背後で倒れ伏した、魂魄剣深魂の使い手だった剣士に視線を動かすと、彼は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていたことに気付き、理解した。
「なるほどね。あんた、当主候補でも無かったんだ」
つまりは、目の前の剣士は何も知らされずに偽りの聖剣を与えられただけであるということか。
「おい……答えろよ。偽りの聖剣って何なんだよ……」
言っていることが信じられないのか、力の抜けた声で呟く。まあ、折角だから教えてあげよう。どうせ知ったところでどうしようもないのだから。
「単純なことだよ。ゴート家は
全ては1000年前に遡る。無銘剣虚無を手にした剣士バハトが、光の剣士に封印された後、その光の剣士もまた自らの聖剣が悪しき者に利用されることを恐れ、異空間へと姿を消した。これにより、ソードオブロゴスは、限られた数しか存在しない聖剣の内、二振りが消えたということになった。
これに悩んだのは当時のマスターロゴス。当時は光の剣士の尽力によって多くのメギドが撃退されたものの、その光の剣士は姿を消してしまった。もし再びメギドが活発化した時、苦戦は免れないだろう。さらに、もし聖剣が敵に奪われでもすれば、それはバハトに並ぶ危険になり得る。
そこで当時のマスターロゴスと賢神、刀鍛冶はあるものを作り上げることにした。それは聖剣に近い力を持ち、聖剣を守るために存在する剣。それこそが「偽りの聖剣」と呼ばれる代物だった。
そして初めて作られた偽りの聖剣である魂魄剣深魂を与えられた人物こそ、初代ゴート家当主となる剣士だった。
魂魄剣深魂は代々、ゴート家の当主に伝えられた。時にメギドを倒し、時に聖剣とその担い手を守るために命を賭して戦う。それこそがゴート家の役割。文字通り、聖剣を守るための囮となることが定められた一族だった。
そしてこの事実は外部に漏れださないように、限られた者のみに伝えられた。
私もかつて、魂魄剣深魂の継承者の候補であり、この事実は父だった男から直接伝えられた。だからこそ知っていたのだ。自分達がただの捨て駒でしかないことに。
「そんな……嘘だ……俺は、聖剣に選ばれた……」
目の前の剣士は震えながら振り向くが、その視線の先に居た深魂の剣士は俯き黙っている。その事実は知られたくなかったとでも言いたげに。
まあ、私にはどうでも良いわけだけど。それよりもさっさと目的のものを手に入れよう。私は震える剣士の傍に落ちていた一冊の本を手に取る。その表紙には「BOOK GATE」と記されている。
「これが欲しかったんだよね。これが無いとサウザンベースに行けないから」
「っ、やはりお前の目的は……っ!!」
どうやら深魂の剣士は私の狙いに気付いたようだ。だけども、最早私を止めることは出来ない。一人は満身創痍で、もう一人は最早立ち上がる気力も無さそうだ。
そんな私の視界の端に、あるものが映る。それは先程までの私達のやり取りをただ見ていたメギドだ。そう言えば、このメギドを倒すと聖剣の力が増幅されて……。
「ふーん……」
「ギシッ?」
こっちの方が面白いかもしれない。
『餓欲居合……』
『黙読一閃!』
素早く私はそのメギドに近づくと、居合切りによって胴体を真っ二つにする。
それと同時にメギドが爆散し、巨大な光の柱を作り出す。そこから放たれる突風に私も、倒れた二人の剣士も飲み込まれる。視界は遮られ、全身の自由が利かない。
そして気が付くと私は、ワンダーワールドから弾き飛ばされていた。周りにあの剣士達の姿は無く、代わりに天に聳え立つ光の柱が禍々しく輝いていた。
「さて、どうなるかな」
このままメギドの思い通りに進むのか、それとも剣士達が抗うのか……。
まあ、私は私のやることをしよう。そう考えて、ブックゲートを開くと、目の前に巨大な本を模った門が作り出される。この先に有るのは、サウザンベース。ソードオブロゴスの本部だ。きっとその禁書庫に破滅の書がある。
それを手に入れるべく、私は一歩前に踏み出したのだった。
【設定】
グローリーベオウルフ
●「とある災いに立ち向かう勇気が、気高き英雄を呼び覚ます……」
●600年前に破滅の本から発生したワンダーライドブック。「エモーショナルドラゴン」と同様に覇剣の力を封じることが可能。当時はカリバーが使用し、エドナ達を封印した。
●使用するには卓越した力が求められる。
【独自設定解説】
偽りの聖剣
●1000年前に無銘剣虚無と光剛剣最光が失われたことをきっかけに、新たな戦力の確保と聖剣の死守を目的とし、当時のマスターロゴス、賢神、刀鍛冶によって生み出された聖剣の模造品。
●ワンダーライドブックの力によって変身を可能とする点は通常の聖剣と同様だが、使用されるワンダーライドブックは全知全能の書と強い繋がりを持つものでは無い。
●現在、登場している魂魄剣深魂と鉄鋼剣黒鉄以外にも多くの偽りの聖剣は存在していたが、長きに渡る戦いの果てにほとんどが失われた。
●前話においてこの偽りの聖剣を知っていたタルスと大秦寺は、ゴブリンメギドを偽りの聖剣によって倒しても光の柱は発生しないと考え作戦を立案した。実際、この偽りの聖剣には、十一本の聖剣とは異なり全知全能の書と繋がる力は無いため、作戦通りいけばカリバーの目的は達成されることは無かった。しかしシャムシールの欲望剣餓欲によってゴブリンメギドが倒されたため、光の柱が発生。原作と同様の流れとなる。
ゴート家
●代々、魂魄剣深魂を受け継ぐ一族でソードオブロゴスの理念に忠実。
●その実態は、聖剣を守るために命を賭けて戦うことを使命とした、言うなれば剣士達の影武者と言うべき一族。通常時は他の剣士と共にメギドを倒しつつ、緊急時には命を賭けて聖剣を守ることを使命とする。
●ゴート家及び偽りの聖剣の真実を知る者は少なく、ゴート家の中でも当主と候補のみがその事実を教えられる。タルスは現当主であるため知っていたが、レボスは当主候補でも無かったため、この事実を知らなかった。
封印のワンダーライドブック
●「エモーショナルドラゴン」や「グローリーベオウルフ」のように、破滅の書から生み出されたワンダーライドブック。
●本作においては、その封印効力の対象は覇剣ブレードライバーと収められた聖剣としている。そのため、ワンダーライドブック単体に対してはその封印効力は上手く発揮されない。そのためシャムシールのウロボロスワンダーによって防がれた。