「皆さん、ボンヌ・レクチュ~ル! 僕はタッセル。まさか僕が少し目を離している間に、大きな事件が起きるなんて!!」
「かつて世界を滅ぼそうとした剣士のことは知っているね? 不死身の剣士バハト、強欲の剣士エドナ。そしてその二人に並ぶ最後の一人、慈愛の剣士ロレラが復活してしまったんだ!」
「ただでさえ、飛羽真達が大変な状況に置かれているのに、彼女まで復活したとなると、とんでもないことになっちゃうよ」
「既に彼女は動き出しているみたいだし……早くどうにかしないと!」
【SIDE:???】
俺は仕事を終え帰り道を歩ていた。やたらとうるさい上司の説教も聞き流し、一日の疲れを感じながら一人歩く街並み。既に周りは暗く、街灯の明かりが周囲を照らす。明日もまた仕事だ。夕食は適当なコンビニ弁当にでもしよう。そんなことを考えながら、誰も居ない家を目指してとぼとぼと歩いた。
昔は色んな夢を持っていた。小学生の頃はサッカー選手を目指して、毎日のように練習した。しかし中学生、高校生と進むにつれ、俺よりも才能がある連中が山ほどいることに気付くにつれ、そんな夢は色褪せていった。
そして今は、特にやりたいわけでも無い仕事をしながら、惰性のように生きている。楽しさも何も感じられない空虚な生活。しかし、今の俺に何が出来るわけでも無い。溜息を一つ溢した。
―~♪―
そんな俺の耳に入ったのは、美しい歌声だった。それもアイドルが歌うような軽快な歌でも、演歌歌手が歌うような圧力を感じる歌でも無く、それは鳥や虫の声のような自然と聞き入ってしまう澄んだ歌声だった。
思わず導かれるようにその歌声が聞こえた場所へ足が進む。
―~♬―
そこは小さな公園。普段であれば、小さな子供、あるいは時間を潰すサラリーマンしか寄らないだろう場所。しかしこの時は、年若い女性、部活帰りであろう高校生、杖を突いた老人、子供連れの母親、老若男女様々な人間が居た。そして俺を含めた全員の視線の先に居たのは、一人の女性。まるでアニメのシスターのような服を着た女性が、公園の中心に建てられた街灯をスポットライトにして、美しい歌を披露していた。自分に芸術のセンスがあるとは思わないが、それはまさに神々しい絵画のような雰囲気だった。多くの人々の中心で光を浴びながら歌い続ける彼女の姿は、俺には天使に見えた。
だから気付かなかったのだろう。いや、気付いていても気にしなかった。彼女の右手に一本の長剣が握られていることに。
―~♪―
ふと違和感に気付く。少しずつ瞼が重くなっていることに。抗いがたい睡魔を感じる。抗おうにも、この空間に響く歌声が、眠りへと誘い込もうとしているのが感じられ、逃れることが出来ない。
視界の端で一人、また一人と誰かが倒れていくのが見える。きっと俺と同じように、この睡魔に誘われ眠ってしまったのだろう。だけど不思議と、それを異常とは思えない。
そして俺もまた、誘われるままにその歌声に身を委ね、意識を沈めていく。おぼろげになる意識。そんな俺が最後に聞いたのは、一人の女性の声。
「全てが終わるその時まで、安らかな眠りがあらんことを……」
それが歌う彼女の声であることに気付いたその瞬間、俺の意識は完全に失われたのだった。
【SIDE:飛羽真】
『ここで速報です。今日の深夜1時半ごろ、市内の公園にて26名の民間人が昏睡状態となっているのが発見されました。これにより昏睡状態となった人は全国で284名となりました。二週間前より発生しているこの現象ですが、現在もまだ原因は分かっておらず、調査が続いております』
ラジオから聞こえるニュースに耳を傾ける。
ここ最近、テレビや新聞でもこの昏睡事件が取り沙汰されていた。連日連夜、どこかで人々が昏睡状態となって倒れているのが発見されている。被害者はいずれも眠っているような状態らしく、それ以外で健康状態に大きな問題は見られないらしい。しかし、どのような刺激を受けても起きることは無く、文字通り生ける屍といった様子だ。
原因は未だに不明。新種の菌やウイルスが原因と言う医師も居れば、特殊な化学物質が原因と掲げる科学者も居る。しかし、それらの説を裏付ける証拠は全く見つかっていない。
ただでさえ、今の状況は複雑だというのに、このような出来事まで起きると、どこか不吉な予感がした。
「どうした飛羽真?」
そんな俺に声を掛けて来たのは、古びた外套を纏った人物。今の俺の大切な仲間でもある、1000年前の光の剣士「ユーリ」だった。
数週間前、俺は大切な友の賢人を失いながらも、ソードオブロゴスの仲間と共にメギド、そして闇の剣士カリバーの目論見である全知全能の書の復活を阻止することに成功した。しかし、そのカリバーの正体であり、かつて俺を助けてくれた先代の炎の剣士「上條大地」から語られた衝撃の真実があった。
それは15年前、俺が巻き込まれて記憶を失う要因となった事件について。その要因となったのは、先代の闇の剣士である賢人の父親がソードオブロゴスを裏切ったことだが、その賢人の父親を唆した人物が組織内に居るということだった。その真の敵を見つけるために、上條大地は組織を離れ、メギドと共に行動していた。その真実を伝えた後、彼は消滅しその生涯を終えた。
残された謎、組織の中に潜むという真の敵。もしこれを放っておけば、再び15年前のような出来事が……いやそれ以上に酷い災いが起きるかもしれない。それを止めるために、俺は戦いを続けるという選択をした。
しかし、それを止めようとしたのは、共に戦って来たはずの仲間達。突如として俺の前に現れると、聖剣とワンダーライドブックを渡すように言って来た。だけど、ここで聖剣を手放せば、真実に辿り着く方法が失われる。それに、ルナへの手がかりも……だからその言葉には従うことは出来ない。
だけどそんな俺の言葉に怒りを爆発させた蓮が斬りかかると同時に、戦闘へと流れ込んでしまった。しかし、仲間を攻撃するわけにはいかない。1対4の数の差に圧倒され、瞬く間に窮地へと陥った。
その時、現れたのがユーリだ。彼は以前俺が訪れた異空間「アヴァロン」で出会った人物で、1000年前に光の聖剣である「光剛剣最光」と融合した剣士。彼が助けてくれたおかげで難は逃れたものの、倫太郎たちとは分断状態になってしまった。
その後、大秦寺さんとは何とか合流できたものの、問題は山積みだ。人間を取り込んだ新しいメギド、組織の中に居る真の敵、消えたルナの行方、それにこの頃姿を現さなくなった強欲の剣士……。それらに頭を抱えつつも、今は自分が出来ることをするしかない。
「大丈夫、何でも無い」
ユーリにそう答え、俺はブレイブドラゴンのワンダーライドブックを手にし、見つめる。必ず全てを救って見せる。
そんな時、不意に携帯が鳴り響く。そのメロディが指し示すのは、俺の担当編集であり大切な仲間でもある芽依ちゃんからの通知。すぐに電話を取ると、耳に入ったのは、背後から聞こえる慌ただしい音と、芽依ちゃんの焦った声だった。
「飛羽真、大変!! 街にメギドが現れたの!!」
「メギドが!?」
その言葉を聞いて、すぐに俺は火炎剣烈火を取る。その様子を見ていたユーリは静かに頷き、そして店の奥に居た大秦寺さんも姿を現す。そして二人と共に、俺は店から急いで駆け出した。
【SIDE:芽依】
街中で響き渡る悲鳴。ガラスが割れ、コンクリートの壁が砕ける。その光景を陰から見つめながら、うちは飛羽真が来るのを今か今かと待ちわびていた。
そんなうちの視線の先に居たのは、全身を硬そうな殻で包んだ怪物メギド。突然、街中で一人の女性が苦しみ始めたかと思ったら、あのメギドに変化した。
その姿を見た瞬間、うちはすぐにスマホを取り出して飛羽真に現状を伝えた。多分、そう遅くないうちに来てくれるはず。そうすればきっと、あのメギドの中に居る人も助けてくれる。そう考えてた。
「ん、そこにダレカいるのかっ!!」
「っ!?」
だけど不意に振り向いたメギドが大声で叫んだのにびっくりする。もしかして気付かれてしまったのかと、すぐにその場から逃げ出そうとしたけど、それは間違いだった。
「ひっ!?」
そのメギドの視線が向く方向。そこに居たのはうちじゃなく、まだ幼い女の子。ぬいぐるみを手にしたその女の子は、メギドに睨まれて涙を浮かべる。
どうしてこんなところに女の子が……もしかして騒ぎのせいで親と逸れてしまったのだろうか。だけどそんなことを考えている暇なんて無かった。
「ソノ泣き顔、イライラするなあ~っ!!」
メギドは右腕を回しながら女の子に近づく。このままじゃっ……そう考えると同時に、うちの体は動き出していた。
「っ!!」
うちは隠れていた物陰から飛び出ると、女の子を抱える。そしてメギドに背をむけて急いで走り出した。
「キサマっ、逃げるなっ!!」
背後からメギドが追ってくる気配が感じる。もし足を緩めれば、うちの命も、女の子の命も無いだろう。そのせいか、女の子を抱えているにも関わらず、うちの足は何よりも速く動いていた。
とにかく飛羽真達が来るまで、逃げ続けないと……!!
そんな使命感を抱えながら、走り続ける。だけどうちも体力にはそれなりに自信があるとはいえ限界はある。
「はっ……はっ……」
息が切れ、脇腹が痛み始める。だけどここで止まったら、抱えてる女の子まで……。
だけど絶望は途切れない。うちの前を塞ぐように、それらが現れた。
「「「ヴヴヴッ……」」」
「えっ!?」
それは茶色の布を身に着けた異形。前に何度か見たことがあるそれが、群れとなってうちを見つめていた。
「ココマデだ。もうニガサンゾ!」
振り向くと、そこにはメギドが鋭利な爪を見せびらかしながら近づいてくる。
「キシャアっ!!」
そして爪を大きく振りかぶった。
「ひっ!!」
腕の中で悲鳴を上げる女の子……せめてこの子だけでも! そう思ってうちは強く抱きしめる。その時だった。
―キィン!!―
何かが響く音。それに気を取られて、うちは顔を上げた。
「さて、久しぶりだね」
そこに居たのは、見覚えのある顔……以前、近くで行き倒れていて、うちが買ったケーキを残さず平らげた女の子が、手にしたものでメギドの爪を防ぐ光景。その手にあるものは、明らかに飛羽真達が持っている聖剣にそっくりだ。もしかして彼女も剣士?
「それにしても、私が偶然居なかったら、あんた死んでたよ?」
そう言って彼女は、その剣でメギドの爪を弾くと、無防備な胴体を横薙ぎする。剣と硬い殻がぶつかる音を響かせながら、メギドはよろめき後ろに下がった。
「キサマ、何者ダっ!!」
突然の乱入者に警戒を露にするメギド。周囲でも怪物の群れが蠢く中、彼女は何の焦りも緊張も無く、リラックスした様子で剣を肩に担ぐ。
「悪いけど、この人には借りがあってね。それを返さないのはポリシーに反するんだよね」
そう言って彼女とメギドが睨み会う。そんな中、うちが待っていた足音が聞こえ始めた。
「芽依ちゃん!!」
「飛羽真!!」
変身した飛羽真が異形の群れを蹴散らしながら姿を見せる。その後ろからユーリと哲雄も駆け寄ってくる。
「ごめん、こいつらの相手をしていたら遅れた!」
「うちは大丈夫。あの子が助けてくれて……」
「あの子……っ!!」
うちがそう言うと、飛羽真は彼女に視線を向け、同時に硬直した。
「その聖剣……」
「あれ、知り合い?」
哲雄も同じように動きが止まる。それらの様子に気が付いた少女はこちらを振り向くと、どこか煩わし気な溜息を吐いた。
「あー炎の剣士に……音の剣士か。それと……見たことないけど誰?」
「俺はユーリ。世界を守る剣だ」
唯一、平常運転なユーリが答えるものの、彼女は大して興味は無いようで、すぐにメギドへと向き直ると、懐から何かを取り出して、腰に装着する。
『覇剣ブレードライバー』
「生憎だけど、今はあんた達と関わる気は無いんだよね。これは私が片付けてあげるから、どっか行ったら?」
そう言うと、彼女は装着したベルトに聖剣を収めると、ワンダーライドブックを右手で掴んで開いた。
『ムゲンウロボロス』
『かつて全てを貪り喰らった蛇の王が今、蘇る!』
そしてそれをベルトに収めると、まるで心臓の鼓動のような音が周囲を包む。誰もが息を飲む中、彼女は収めた聖剣を引き抜いた。
『抜刀!』
「変身」
その剣が掲げられると、紫色の巨大な蛇が現れ、彼女の周りでのたうち回る。そして彼女は剣を反転させ、勢いよく地面に突き刺した。
地面が割れ、そこから紫色の衝撃が発せられる中、彼女の体は蠢く大蛇に包まれる。
『ムゲンウロボロス』
『餓欲! 飢え渇く剣が喰らい尽くす!』
そして大蛇の体が消えたかと思うと、後に残ったのは少女が変身した紫色の剣士。その姿を見た飛羽真が神妙そうな声で呟く。
「強欲の剣士……」
それを聞いて、やっとうちは気付いた。この子があの、飛羽真達が苦戦したという強欲の剣士であると。
少女……強欲の剣士は手にした聖剣をメギドに突きつけた。
「さて、さっさと終わらせようか」
【キャラ紹介】
カブトガニメギド
●『カブトガニの床屋』のアルターライドブックから生み出されたメギド魔人。属性は生物。
●ズオスがとある人間にアルターライドブックを埋め込むことで誕生した。
●硬い甲殻を持ち、鋭い爪で攻撃する。
●元ネタは「あわて床屋」
1年間、読んでくださり有難うございます。
本作はまだまだ続く予定ですので、ゆっくりとお待ちいただければ幸いです。