本話からしばらくタッセルは席を外します。
【SIDE:タルス】
強欲の剣士に敗北してから、既に2か月近く。使命を果たせなかった私達は、マスターから待機を命じられ、ただ鍛錬の毎日を送っていました。
あの強欲の剣士が何をしているかも分からないのに、何も出来ない自分が歯がゆい。しかしそれは自分の過信と実力不足のせいだ。言い訳をするつもりはありません。
だけどそれ以上に心配なことがありました。それはレボスのこと。偽りの聖剣の事実を知ってから、彼とはほとんど会うことも無く、やっと見つけたと思ったら、すぐに姿を消してしまう。それは偽りの聖剣について、何も教えなかった私に対する、彼の拒絶なのでしょう。
偽りの聖剣。それは真の聖剣を守るための、言うなれば囮。その存在が外部に漏れることを阻止するべく、その事実を知っているものはごく僅かに絞られます。故に私もその事実を決して誰にも教えることはありませんでした。それが兄弟同然に育ったレボスだとしても……。
しかしこのような状況になって、改めてそれが正しかったのかと迷う。彼は聖剣の担い手に幼い頃から憧れ、鉄鋼剣黒鉄を与えられてからは、その立場に強い責任と自信を持つようになりました。ですが、その聖剣が囮であると告げられたが故に、それらが一気に崩れ去ってしまった。
こうなることが分かっていれば、もっと早くその事実を私から伝えておくべきだったのではないか。ですが、それは組織のルールに反すること。それを易々と伝えるわけにはいかない。私は一体どうすれば良かったのでしょうか……。後悔が絶えませんが、今はもう起きてしまったこと。もしものことを考えていても仕方ないでしょう。
もう一度、レボスと直接会って話したいですが、結果として彼を騙してしまった私が今更どのような顔をして彼と話をすればよいのかも分かりません。それらの悩みを吹き飛ばすべく、私はただ鍛錬に打ち込んでいました。
そんな折、私は衛兵達からある噂を耳にしました。それは組織を裏切ったという炎の剣士、神山飛羽真がサウザンベースに侵入し、禁書を盗み出したというもの。
寝耳に水の話で酷く驚くと同時に、幾つか疑問が浮かびます。このサウザンベースはソードオブロゴスの本部であるが故に、常に厳重な警備が張られ、入り込むにも一部の認められた者のみに渡されたブックゲートを用いるしかありません。その上、普段は特殊な結界で誰にも見えないように隠蔽されている禁書庫から、誰にも気付かれることなく禁書を盗み出すなど、果たして出来るのでしょうか。
……それに、それほどの重大な出来事となれば、普通なら剣士達を呼び出して奪還に向かうはず。しかしそのような話は私の耳にも届いていません。全くの事実無根であるという話も聞いていません。混乱を避けるために、敢えて情報を隠しているのかもしれませんが、既にこのような噂が出ている以上、隠す必要があるのでしょうか?
何か嫌な気配を感じました。
……本来、私は組織を守るために、マスターの命に従うべき。しかし、ただでさえメギドが活発化し、その上禁書まで盗まれたというのなら、これはまさに非常事態。何もしない訳にはいかないでしょう。
無断で行動するのは、剣士として許されない事。ですが、この噂が事実なら、何者かが手引きした可能性が有ります。ならばここは、私一人で事実を確かめに行くことにしましょう。
そして私は密かにブックゲートを取り出し、神山飛羽真がいる街へと跳ぶ。
そこで私の人生を一変させる出来事が始まるとは、その時は予想だにしていませんでした。
【SIDE:尾上】
組織から離れ、飛羽真と共に戦うことを選んでから数日。メギド出現の情報を聞いたオレは大秦寺、ユーリと共に街を駆け抜けていた。
最近出現しているという、人間を変貌させたメギド。今回出現したのもそれの可能性がある。それを元に戻せるのは飛羽真とユーリだけ。しかしその飛羽真は今、この場には居ない。というより、オレ達が止めた。
何故、あいつが来るのを止めたのか。その理由は、ノーザンベースで保管している一冊のワンダーライドブックにあった。
マスターロゴスに会うべく、オレが持っていたブックゲートを使って飛羽真がサウザンベースへと転移した時のことだ。その時、何故かサウザンベース内に居たというメギドの首領の一人「ストリウス」が持っていた禁書が飛羽真の許へと渡り、それが水色のワンダーライドブックへと変化した。だが禁書の力はあまりにも危険で、飛羽真の意思を乗っ取って二度の暴走を引き起こした。
その力は、ストリウスと同じメギドのリーダーである「レジエル」を一蹴するほど。それほどの力が解き放たれれば、それはメギド以上の脅威になりかねない。
そこで飛羽真はその禁書の力を制御するべく、乗っ取られていた際に見えた映像を手掛かりに、方法を探していた。
だが、進捗は芳しくなさそうだ。オレも手伝いたいが、ヒントが少ない現状では飛羽真の記憶を頼りにするしかない。
だからオレがやるべきことは、飛羽真の負担を少しでも減らすことだ。
そのため、今回のメギドの対処にアイツが行こうとするのを止め、代わりにオレ達が駆け付けた。
体は鈍ったとはいえ、伊達に何年もの間剣士として戦っていたわけじゃ無い。メギド相手にそう簡単に不覚は取らない。
街を見渡すと、立ち並ぶ建物の一部が不自然に崩れ、まるで石膏像のような形状に削り出されている。きっとメギドによるものだろう。このままでは、街中の建物が破壊されてしまう。
さらに今も、ビルの一つが崩れるのが見える。恐らく、メギドはそう遠くには居ないはずだ。
そう考えて辺りを見回すと、一人の男が蹲っているのが見える。
「う、うう……嫌だ……何が、うああーっ!?」
男は苦しみながら絶叫すると、その身体が真っ赤なメギドへと変わっていく。それはまるで、御伽噺に出てくる赤鬼のよう。
「これが……」
あらかじめ聞いていたとはいえ、直接目にすると、その悍ましさが分かる。そしてオレと同じように、この光景に唖然としていた奴が居た。
「何なんですか、これは……」
「っ!?」
その呟きが聞こえた方向へと視線を向けると、そこにあったのはサウザンベースから来た剣士の一人の姿。確か名前はタルス……。
あの上條との決戦の日から姿を見かけなくなっていたあいつが、一体なぜこんなところに……。いや、あいつもあの女《神代玲花》と同じサウザンベースの人間。飛羽真から聖剣を奪いに来たと考えるのが自然だ。そしてオレ達も標的である可能性は十分ある。
ここはどうするべきか。それを考えるよりも先に、メギドが手にした金棒を振りかぶって飛び掛かって来た。
ちっ、ここで悩んでいる暇は無え!
「「「変身!」」」
『一刀両断! ブッた斬れ!ドゴ・ドゴ・土豪剣激土!!』
『銃剣撃弾! 銃でGO GO! 否、剣でいくぞ! 音銃剣錫音!!』
『Get all colors! エックスソードマン!!』
攻撃を回避したオレ達はすぐに変身し、メギドに相対する。だが、いつ襲って来るかも分からない後ろの奴にも気をつけないといけない。
緊張しながらも、土豪剣激土を握りしめる。
「芸術は……バクハツだーっ!!」
「っ!!」
オレ達が動くよりも先に、メギドが地面に向かって金棒を叩きつける。すると周囲の地面が盛り上がり、見上げるほどの大きさの像が作り上げられた。その像はゆっくりとその自重によってオレ達に向かって倒れこんでくる。
「おらあっ!」
『激土乱読撃!』
すぐにオレはワンダーライドブックの力を使い、倒れこむ像を渾身の一撃によって粉砕する。
周囲には土塊が降り注ぎ、土煙が舞い上がる。その中を大秦寺とユーリが疾走し、メギドに肉薄した。
「はっ!」
大秦寺の鋭い突きがメギドの金棒による一撃を逸らし、
「ふっ!」
ユーリの熟練の一撃がメギドの体を捉える。
メギドと取り込まれた人間を分離するチャンスを作るべく、少しずつだがダメージを与えていく。
「ググ、我が芸術をミヨっ!!」
だがそんなオレ達に対抗するように、メギドも手にした金棒を再び地面を叩きつけた。すると今度はメギドと同じ姿をした像が現れる。その数はざっと十体。
「行けっ!!」
メギドの号令に従い、像が動き出す。その動きは本物と大差なく、その数に今度はオレ達が追い詰められていく。
「くっ、ならば!」
僅かな動きで大秦寺がワンダーライドブックを交換しようとする。しかし僅かに注意が逸れたその瞬間、像の金棒が大秦寺の腕に直撃する。
「ぐっ!?」
火花を散らしながら転がる大秦寺の体。その明らかな隙を逃すメギドじゃない。何体かの像がそのまま大秦寺に迫る。
「っ、どけっ!!」
カバーに入ろうとするものの、オレもユーリも像に囲まれ、動くことができない。そして大秦寺を像達の金棒が再び振り下ろされようとしていた。
「っ大秦寺!!」
オレは声を上げることしか出来ない。
大秦寺は近くに転がっていた聖剣を拾い迎撃の姿勢をとるが、腕にダメージを受けた今の状態じゃ、まともに受けることは出来ない。
「おらあっ!!」
強引に大秦寺の許へ走ろうとする。オレの体にも像の攻撃が辺り、痛みを感じるが、それを無視する。だがそれでも辿り着くには時間が足りなかった。
そして大秦寺に像達の攻撃が直撃する……その直前だった。
『深魂解読! 冥府の剣が彷徨う魂を支配する!』
「はあっ!!」
ガキィンと金棒が何かとぶつかる高い音が響く。
「なっ!?」
大秦寺が顔を上げると、驚愕の声が漏れる。そしてオレもまた、思わず口を開けた。
「……ぐぅっ!!」
大秦寺を攻撃から庇った人物。それは見覚えのない鎧を身に纏った剣士。いや、声で分かる。その剣士があのタルスであると。
何でこいつが大秦寺を守ったのか。だがそんなことを考えている暇はない。実際、あいつもまたガードするのはギリギリの状態で、像達の金棒が少しずつ押し込まれていく。
「やらせるかっ!!」
ダッシュの勢いをそのままに、像達に向かって激土を叩きつける。強度はそれほど高いわけでは無いらしく、オレの攻撃を受けた像は、そのまま土塊に変わっていく。
その光景を横目に見ながら、オレはサウザンベースの剣士へと視線を向ける。
「……お前がどうしてここに居るのかは知らないが、大秦寺を守ってくれたことは感謝する」
「いえ、私も色々と聞きたいことがありますから。ですが今は……」
軽く言葉を交わして、オレ達は再びメギドに相対する。体勢を立て直した大秦寺に、像の包囲網から抜けたユーリも合流する。
「あれは……あのメギドは一体なんなんですか? 先程、人間が変わったように見えたのですが……」
「知らないのか?」
オレの問い掛けにタルスは困惑したように頷く。あの
意図的に情報が閉ざされているのか? やはりあの女は信用できない……。
「あれは人間を取り込んだメギド。元に戻せるのは、光の聖剣か炎の聖剣だけだ」
「人間を取り込んだ? そんなことが……」
大秦寺の説明に困惑しながらも、構えを解かない辺りは場慣れしているのだろう。その姿には頼もしさを感じる。
「とりあえず詳しい話は後にしよう。俺がメギドを倒すから、その間、あの像を抑え込んでくれ」
ユーリの言葉にオレは頷く。シンプルだが、それが一番有効なはずだ。大秦寺も同様に賛成し、タルスは「あなたが光の……」と呟きつつ提案には乗った。
「行くぞ!」
オレの号令と共に、オレ達とメギドは同時に仕掛ける。
「さっきのようにはいかねえぜ、Yeah!!」
『剣で行くぜ! No No! 銃でGo Go! Bang Bang! 音銃剣錫音!!』
最初に攻撃を放ったのは、ワンダーライドブックを交換した大秦寺。他の聖剣とは異なり、銃に変形させることが出来る音銃剣錫音の弾丸が、迫る像の足を撃ち抜き、その動きを封じる。
「どらあっ!」
そこにオレが土豪剣激土を叩きつけ、像の胴を両断する。そこに出来た穴を縫うように、ユーリとタルスが走り抜ける。
「行きますよ!」
『必殺リード! 百夜怪談!』
タルスが剣を振るうと、無数の光弾が不規則な軌道を描いて像達に命中し、道を作っていく。
そして勢いよく駆け抜けるユーリ。一瞬でメギドに肉薄すると、金棒を僅かな剣の動きだけで弾いて見せた。さらにユーリはドライバーに装填したワンダーライドブックのボタンを押す。
『移動最光! 腕最高! Full color goes to arm!』
ユーリの全身を覆っていたカラフルな装甲が変化し、左腕が大剣のように変化する。
「さっさと決めるぞ」
『Finish reading! サイコーパワフル!!』
右手に握った聖剣と、左手の大剣に光が集まる。そして放たれた斬撃は、メギドの体を十字に切り裂く。
「ググ、ぐがあっ!?」
勢いよく吹き飛ばされるメギド。その身体は二つに分かれ、取り込まれていた人間がその場に倒れる。
「よし!」
その光景を見て、思わず俺はガッツポーズする。さらに人間と分離したためか、メギドの力が弱まり、残っていた像も崩れ落ちる。
ここで一気に決める。
『激土乱読撃!』
『錫音音読撃!』
体勢を崩したメギドに向かってオレは斬撃を叩き込み、止めに大秦寺が音波の弾丸で貫いた。
「グギ、グアアっ!?」
断末魔の叫びと共に、メギドはその身を爆散させ消え去った。
「……その人は大丈夫ですか?」
メギドが倒れたことを確認すると、タルスは取り込まれていた人間に視線を向ける。
「ああ、ケガはない。時間が経てば目覚めるだろう」
ユーリの言葉にオレも安堵する。
だが、まだ終わりじゃない。オレと大秦寺は再びタルスに視線を向ける。
「さて、それじゃさっきの続きとするか。オレ達に聞きたいことって言うのは何だ?」
オレの言葉に、タルスはじっと見つめて口を開いた。
「先程のメギドについても疑問ですが、私がまず聞きたいのは、神山飛羽真についてです。彼がサウザンベースから禁書を盗み出したという件について、何か知っていますか?」
すこし予想とはずれた質問。どう答えるべきか迷うが、わざわざこのようなことを問い掛けるということは、恐らくこいつはあの
警戒しつつも、オレは大秦寺に目配せをしながら、ゆっくりと事の顛末について説明を始めた。
【メギド設定】
赤鬼メギド
●『泣かせた赤鬼』のアルターライドブックから生み出されたメギド。ジャンルは「物語」。
●とある美大生を依り代としており、様々な物体を彫像へと変化させる力を有する。
●モチーフは「泣いた赤鬼」。