剣士列伝 仮面ライダーシャムシール   作:雪見柚餅子

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第16章 迷える者に、迫る毒牙。

【SIDE:尾上】

 

 サウザンベースから神代玲花と名乗る女が派遣されたこと。ソフィアが突如として姿を消したこと。飛羽真が組織を裏切ると語り、マスターロゴスの意思と称してオレ達に火炎剣烈火とワンダーライドブックを奪うように、ソフィアに変わって指示を出し始めたこと。それと同じ時期にユーリと光の聖剣、そして人間を取り込む新たなメギドが現れるようになってからも、メギドに対しては一切触れず、逆に光剛剣最光に対しては執着を見せるようになったこと。

 これらの態度に疑問を感じたオレ達が、飛羽真の覚悟を見届け、組織から離れ飛羽真に協力するようになったこと。上條が飛羽真に、組織の中に裏切り者が居ると語ったこと。マスターロゴスから真意を確かめるべく、飛羽真がサウザンベースへ侵入したものの、そこでメギドの幹部であるストリウスに会ったこと。そのストリウスを追った先で、奴が禁書の封印を解き、それが新たなワンダーライドブックに代わり、飛羽真を乗っ取って暴走を始めたこと。そして今は、そのワンダーライドブックの暴走を止める方法を調べていること。

 オレ達が知っていることを全て語り終えると、タルスは文字通り信じられないといった表情を見せた。

 

「まさか、そのようなことが……?」

 

 タルスは顎に手を当て、しばらく考え込むと、ゆっくりと口を開いた。

 

「正直なことを言うと、貴方達の言うことを全て鵜呑みにすることは出来ません」

 

 自分が知る神代玲花という人物は、組織とマスターロゴスに忠誠を誓った、崇高な人物であり、我欲で動くような人物ではない。そんな彼女が組織を裏切るような真似をするとは思えず、かといってマスターロゴスがまるでノーザンベースを混乱に陥れるような指示を出したとも考えにくい。そのため、今の話を信じることは難しいと、タルスは言った。しかし、同時に「ですが」と続ける。

 

「先程の人間を取り込んだメギド。あれについては私は知りませんでした。本来であれば、あのような存在が現れたのであれば、すぐに組織全体に周知されるはず。それがされていないということは、何か組織の内部で異変が起きているのかもしれません」

 

 それはオレ達自身も抱いていた疑問だった。それまでとは違う新しいメギド。人々と世界を守ることが使命である組織にとって、あのメギドの存在は新たな脅威そのもの。分離する手段が限られている以上、それは広められるべき情報のはず。しかし、あの(神代玲花)がそのことをマスターロゴスに伝えたと言っていたものの、状況が変わる気配は全くない。まるでわざと情報が隠されているかのような感覚を感じさせる。

 そんなことを考えていると、タルスはブックゲートを起動させると、俺達に背を向けた。

 

「今回の件は、マスターロゴスに報告させてもらいます。その上で何が起きているのかを確かめることにしましょう」

「良いのか。今のオレ達は組織を裏切ったも同然の状態なんだぞ」

「……今回、私が貴方達と接触したのは、あくまで私の独断です。私自身に火炎剣烈火の奪取や、貴方達の拘束は命じられていません。よって今回は見逃すことにしましょう。ですが、もしマスターからの指示があれば、その時は容赦しません」

 

 そう告げると、タルスはブックゲートの中へと姿を消した。

 どうやらアイツの反応から、サウザンベースの中でも情報が錯綜しているようだ。上條が言っていた、組織の内部に居る裏切り者の存在が、俄然真実味を帯びてくる。

 

「とりあえず今は戻るべきだ。今の情報も整理しないといけないからな」

 

 大秦寺の言葉にオレとユーリも頷くと、飛羽真の本屋へと足を進める。

 ふと空を見上げると、空は薄暗い雲で覆われ、どこか不気味さを感じさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:タルス】

 

 私はサウザンベースの長い廊下を、一人歩いていました。

 私の中に渦巻くのは、これまでにない悩み。その原因は、先程のマスターとの対話にありました。

 

 

 

 

 

「マスター、ご無礼は承知ですが、お耳に入れたいことがございます」

 

 1時間ほど前、私はマスターロゴスが座する玉座の前で跪くと、謝罪をすると同時に、土の剣士から聞いた内容を報告しました。

 正直、私でもその内容の全てを信じることが出来ません。あの神代玲花がノーザンベースを混乱に陥れるかのような真似をしていること。組織の内部に裏切り者が居るかもしれないということ。その他、いずれもそれまでの私の価値観を大きく揺るがしかねない内容です。

 ですが、あの人間を取り込んだメギドの存在しかり、土の剣士の眼差しもまた嘘を言っているようには思えませんでした。

 それ故に、私は直接マスターと話す機会を頂き、先程の内容を包み隠さずマスターへと報告することにしたのです。きっとマスターなら、この疑問を払拭させてくれるだろうと。

 

「そうですか。ですが心配はありません。彼女の行動は全て私の指示によるものです」

 

 ですがマスターの言葉は私の期待したものとは異なりました。

 

「……失礼ですが質問をよろしいでしょうか」

「何でしょう?」

「私が出会った、人間を取り込むメギドに対しては、どのような対策をしているのでしょう?」

「ふふっ、何も心配はありません。全ては私の計画通りに進んでいます。それが為されれば、メギドへの対処も全て完了します」

「計画……ですか? それは一体?」

 

 続けて質問すると、マスターは耳を疑うことを口に出しました。

 

「全知全能の書について、貴方はどう思いますか?」

「全知全能の書……?」

 

 それはソードオブロゴスが設立当初から守って来た存在。森羅万象、ありとあらゆるものを司り、その本に記された知識によって人間は進化し、文明は発展してきた。手にすれば、この世界全ての知識を得ることが出来るとも言われる、伝説の書物です。

 

「我々は全知全能の書を、長きに渡って守ってきました。ですが私は思うのですよ。果たしてこの力を守っているだけで良いのかと」

「それは……」

 

 満面の笑みで語るマスターロゴス。その顔に思わず寒気を感じました。ですが、続けて語られた言葉は、さらに私を驚かせるものでした。

 

「私は全知全能の書を復活させます」

「っ!?」

「その力を手にすれば、この世界は全て私の思いのまま。平穏もまた容易く実現するでしょう」

 

 確かに、伝説の力を手にすることが出来るのであれば、メギドを倒すことも容易いでしょう。しかし……

 

「貴方も協力してくれますね? この崇高な目的の為に」

 

 私はその言葉に、ただ黙ることしか出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 その出来事を思い出し、私は思わず溜息を吐きます。

 マスターロゴスの語る計画。それは鍵となる聖剣とワンダーライドブックを集めることで、全知全能の書を復活させ、その力を用いて世界に平穏を齎すというもの。確かに実現すれば、ソードオブロゴスの悲願である世界の平穏を実現できるでしょう。

 ですが、それだけ強大な力。もし使い方を誤れば大きな災厄となる。だからこそ初代マスターロゴスはその力を封じたとされています。そのような力を、果たして復活させて良いのでしょうか。

 マスターであれば、きっとその力を正しく扱うはず。ならば迷う必要は無いでしょう。ですがそれは果たしてソードオブロゴスの在り方として本当に正しいのでしょうか。

 それに、何故マスターはわざわざ混乱を煽るような真似をしてこのような計画を進めているのでしょうか。先程聞いた話では、上條大地のような裏切り者を警戒して、信頼できる一握りの者のみに明かしているとのことでしたが、それでも違和感は拭えません。

 

 ……こんな時、凌牙なら迷うことは無いのでしょう。

 我がゴート家と同じく、代々マスターロゴスに仕える神代家の現当主であり、時の剣士でもある神代凌牙。古くからの私の友であり、家族以上に信頼できる相手でも有ります。

 そんな彼は、私以上に組織の理念とマスターに忠実であり、今はマスター直属の剣士という立場になっています。きっと彼もこの計画を知っていることでしょう。

 この悩みを払うためには、彼に打ち明けた方が良い。そんな気がして、私は彼が居る部屋へと向かうべく、振り向いたその時……

 

「え?」

 

―ズッ―

 

 気配を何も感じませんでした。

 振り向いた先、私の眼前に立っていたのは、それまで見たことのない装甲を纏った剣士の姿。そしてその剣士が握っている剣、その刃先が私の脇腹に突き刺さっていました。

 

「ぐっ……!?」

 

 数舜の後に感じる灼けるような痛み。剣が抜けると同時に私はその場に蹲ります。

 

「あなたは一体!?」

「……」

 

 私の問い掛けにその剣士は答えることなく、頭上に掲げた剣を振り下ろしてきました。

 

「ぐっ!」

 

 すぐさま私も魂魄剣深魂を抜いて、その攻撃を防ぐものの、傷のせいで上手く動けません。いや、それどころか、痛みが全身に広がっているような……

 

「ぐぅっ!!」

 

 力を振り絞って剣を弾き、ふらつく体に鞭を打って後退します。その最中、私はその剣士が持っていた剣を見て、あることに気付きました。

 

「それは……まさか!?」

「……」

 

 大きく曲がった刀身。鋸状の刃。その形状が記憶の片隅にあった記録と一致しました。

 

「600年前に失われたはずのそれを、どうして!?」

 

 かつてあの強欲の剣士によって失われ、行方知れずとなっていたはずの偽りの聖剣の一振り、『毒牙剣弧毒』。目の前の剣士が手にした獲物は、ゴート家に残された記録に残されたそれと形状がそっくりでした

 何故、失われたはずの毒牙剣弧毒がこんなところに……いや、それ以上にこの剣士は一体!?

 ですがそんな疑問を考える暇もなく、再び謎の剣士は攻撃を仕掛けてきます。

 

「っ!!」

 

 その攻撃を紙一重で躱しますが、徐々に全身に痺れと痛みが広がっていくのが感じます。

 不味い。恐らくあれは本物の毒牙剣弧毒なのでしょう。そしてそれが扱う属性は、名の通り『毒』。その刃で切り裂いたもの全てを蝕む強力な毒を操ることが出来るとされています。

 このままでは、避け切れずに剣で斬られるか、毒で動けなくなるか……どちらにせよ私の命は無いでしょう。

 ならばマスターロゴスの下に逃げるべきでしょうか。そう考えたとき、ふと疑問が浮かびます。

 

 何故、このような襲撃者が居るにも関わらず、誰も来ないのか……。

 

 このサウザンベースは結界によって覆われ、外部の者が入ればすぐにマスターに伝わり、衛兵達が即座に対応できるようになっています。

 ですが今、衛兵達が来る気配はありません。それはすなわちこの剣士はサウザンベースの者であるということ。そしてもう一つ、嫌な考えが浮かびました。

 

 いや、そんなはずはない。マスターロゴスに忠誠を誓う者として、そのような疑問を浮かべることは在ってはならない。しかし……

 

「っ!」

 

 頭の中をその考えが埋め尽くし、思わず集中が途切れたその隙を突かれ、今度は左手を斬られます。キズは浅いですが、それでも体がさらに毒で侵されるのが感じられました。

 

「……」

 

 剣士はゆっくりと私に近づいてきます。

 どうすれば……変身をするにも、戦う体力も無い。ですが迷っている暇は有りませんでした。

 

「っ!!」

 

 私は懐からブックゲートのワンダーライドブックを取り出し起動させると、一目散にそのゲートへと走り出しました。

 

「……っ!」

 

 不意に背中で感じる熱。それはあの毒牙剣弧毒によって背中を斬られた痛み。再び全身に毒が広がっていきます。ですが何とか堪え、ブックゲートへと飛び込むことに成功しました。

 

「……うぅ」

 

 呻き声を上げながら、ゲートをふらふらと進みます。サウザンベース以外で私が向かえる場所。その中で真っ先に思い付いた場所へとゲートを繋げ、倒れこむようにその場所へと降り立ちました。

 

「なっ、お前は!?」

「その傷は、一体どうしたんだ!?」

 

 霞む視界では、その声の主を捉えることも出来ません。僅かに言葉にならない声しか出せず、私の意識はそこで沈んでいきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:マスターロゴス】

 

「よくやってくれましたね」

「いえ、全てはマスターの意思のままに」

 

 私の言葉に、その剣士は跪きながら答えます。

 タルスもこれくらい私に忠実であれば良かったのですが、残念です。私が計画を語った時点で怪しい反応を見せたので、仕方なく処分することにしました。

 もし神代凌牙と接触してしまえば、彼までも反旗を翻すかもしれませんでしたからね。まだ手駒を失うわけにはいきません。

 

「これからも頼みますよ、私の剣士」

「はい」

 

 そう言ってその剣士は静かに玉座の間から出ていきます。

 やはり手駒は、あのような疑問も持たずに忠実に動いてくれる者こそ相応しい。きっと彼は長い間、私の道具として動いてくれるでしょう。

 さあ、いよいよ計画は佳境。私が望む世界も、もうすぐ実現します。

 ふふふ……あっはっはっはっは!!




【キャラ設定】
謎の剣士
●600年前に失われたとされる偽りの聖剣『毒牙剣弧毒』を所持する剣士。右半身は黒、左半身は白のツートーンの装甲を纏う。
●マスターロゴスに忠誠を誓っており、彼の意のままに動く。
●毒牙剣弧毒は毒の属性を司り、切り裂いたもの全てを強力な毒によって蝕む。
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