剣士列伝 仮面ライダーシャムシール   作:雪見柚餅子

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時系列は原作26話。
本格的に原作介入し始めます。


第17章 相対する、幻と闇。

【SIDE:大秦寺】

 

「まさか、賢人が生きていたとはな……」

 

 尾上の言葉に、その場に居た全員が押し黙った。

 サウザンベースからやって来て、私達を翻弄した神代玲花。奴が私達が持つ聖剣を奪うために、煙の剣士としてノーザンベースを襲撃してきた。

 何とか私達も対抗したものの、その実力は圧倒的で、あと少しで土豪剣激土と音銃剣錫音が奪われる寸前。あのワンダーライドブック―プリミティブドラゴンが飛羽真に取り憑いて暴れ始める始末。暴走した飛羽真は神代玲花を一蹴し、その勢いのまま生身の倫太郎へ斬りかかろうとしたその瞬間、突如として闇の剣士カリバーが現れて、その攻撃を防いだ。それと同時に飛羽真とカリバーの変身が解け、私はそのカリバーの正体を見て愕然とした。

 それは数か月前、上條大地によって斬られ、死んだと思っていた雷の剣士、賢人だった。

 どうして闇の聖剣を持っているのか、何で生きていたことを伝えてくれなかったのか。そんな気持ちもあったけど、それ以上に生きていてくれたことの喜びが溢れた。しかし賢人はどこか影のある表情のまま突如としてこう宣言した。

 

「俺は全ての聖剣を封印し、この世界を滅びから救う」

 

 そう言うと、そのまま姿を闇の中へと沈め、俺達の前から消えた。

 

 ユーリによると、闇黒剣月闇には空間を切り裂いて、聖剣の中に有る闇の世界へ繋げる力があるらしい。賢人がカリバーによって殺されたと思ったあの時、実際は闇の世界へ送り込まれていたということだ。

 それから何があったのか。あの時の賢人の目は、私達を映していなかった。

 飛羽真はまた一緒に戦うことが出来ると言っているが、それは空元気のように感じる。実際、飛羽真も不安はあるんだろう。それを支えてやるのが、私達の役目だ。

 

「それと、こいつのことも問題だ」

 

 私は近くのベッドへと視線を向ける。

 

「う……」

 

 そこに居たのは、青ざめた表情で唸りながら眠る男。サウザンベースの剣士の一人、タルスだ。

 神代玲花が姿を消してすぐのこと。突如としてノーザンベースの扉が開き、また誰かが襲撃に来たのかと警戒していた中、姿を現したのがこの男だった。

 左手で抑えた腹から血を流し、苦悶の表情で倒れ込んだタルス。一体何があったのか聞こうにも、意味のある言葉を口に出すことは出来ないほど弱っていた。

 ユーリが特殊な力によって傷を塞いだものの、未だに目を覚まさない。ユーリが語るには、恐らく毒によるもので、傷を塞いでも毒が消えない限り完全に回復することは無い。

 私はふと思い出す。かつて強欲の剣士によって奪われた、毒を操る偽りの聖剣があったと。その名は『毒牙剣弧毒』。刀傷に加えてユーリでも治すことの出来ない毒となると、その剣によるものだと直感的に感じた。

 今、所在不明となっているはずの毒牙剣弧毒によって、何故こいつが傷つけられたのか。一体何があったのか。それはタルスの目が覚めない限り分からない。

 しかし、メギドに加え、神代玲花に蘇った賢人、それに破滅の剣士達。大きな異変が起きているという事実に、これまで以上に過酷な戦いが待っているであろうことは、想像に難くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:怜花】

 

 

「タルスが……?」

 

 お兄様と共にマスターに呼ばれた私は、玉座の間でマスターの口から紡がれた言葉に、思わず呆然としました。

 

「ええ。彼もまた私の理想を理解してもらえると思ったのですが、残念ながらそれは敵わず、何を血迷ったのか私に剣を向けて来たのです」

 

 マスターの目的である全知全能の書の復活。それを進めるべく、私とお兄様はマスターの指示の下、極秘に行動していた。これも全て、世界を守るというソードオブロゴスの理念のために。

 しかし組織を裏切ったノーザンベースの剣士達や、封印から逃れた破滅の剣士など、不確定要素が増えてきたことを理由に、マスターはタルスに協力を求めるべく、彼に計画を明かしたらしい。しかし、突如として彼はマスターを裏切って、マスターを襲おうとしたというのだ。

 

「幸いにも彼が居たので大事には至りませんでしたが……」

 

 そう言ってマスターが視線を横に向けると、そこに居たのはフードを目深に被った剣士が一人。脇に携えるのは、毒を操る剣である毒牙剣弧毒。マスターが時間を掛けて回収したそれを与えられた剣士は、口を開くことなく、マスターの前に跪いている。

 

「今回のように、タルスのように反旗を翻す者が近くに居るかもしれません。信用できるのはこの場に居る者のみ。あなた達もそのことを理解して、行動してください」

 

 マスターが笑みを湛えながらそう言い、話を終えた。

 私とお兄様は静かに玉座の間から退室する。背後では、あの剣士がずっと黙ったままこちらを見ていたのが、少し苛立たしく感じるけれども、それ以上にタルスが裏切ったということが信じられなかった。

 サウザンベースの内部にある、神代家の私室へと着くと、私は口火を切る。

 

「お兄様。タルスが裏切ったというのは、本当なんでしょうか?」

「……マスターが言ったことが全てだ。我らがそれを疑うことはあってはならない」

 

 いつも通りの凛とした表情でそう言うお兄様。だけどその声が少し震えているのを私は感じた。多分、それだけショックがあるのだと思う。

 実際、タルスは長年ソードオブロゴスの理念に忠実に動いてきた剣士だ。気は食わないけれども、私もお兄様も彼と幼い頃から共に剣の腕を磨いてきただけに、その人格と実力を認めている。

 強欲の剣士を封印するという役目にこそ失敗していたけれども、彼は決して言い訳はせず、自らの失態を認めていた。ただひたすらに自らの役目に専念するその姿には好感が持てた。

 そんな彼が、突然マスターを裏切るというのは正直言って信じがたい。何かの間違いなんじゃないかと思ってしまう。マスターのことを信じていないわけではありません。でも、何故タルスが裏切ったのかが分からない。

 しかしお兄様は、鋭い目を決して緩めることなく、私を見つめた。

 

「神代家は代々マスターロゴスに仕え、世界の均衡を守って来た。今までも、そしてこれからもそれは変わることは無い。俺達はただ一振りの剣として、己の使命に殉じるのが使命だ」

 

 強い決意の瞳。例えどんな試練が待ち受けていようと、我々が切り開く道の先に、人々の平穏があると信じ、自らの役割を遂行する。お兄様のそんな思いが感じ取れる。

 

「……そうですね、お兄様」

 

 なら私もまたお兄様と同じ道を行くだけ。そこに迷いはない。私は煙叡剣狼煙の柄を強く握り直し、お兄様に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ロレラ】

 

 鈍色の建物が並ぶ街。その中心で私は歌う。人々を安らぎへ誘うために。

 

―~♪―

 

 私が持つワンダーライドブック、「スリーピングプリンセス」の力を込めた歌。それを聞いた人々は、静かに意識を奪われ、眠っていきます。彼らはこれ以上苦しむ必要はありません。安寧の夢を見続け、安らぎのままに世界が終わる。それこそが人類にとっての幸福なのですから。

 

「見つけたぞ」

 

 そんな私の前に現れたのは、深く暗い闇を瞳に宿した剣士でした。

 

「……あなたは?」

 

 手に握られているのは、確か闇の聖剣。ということはあの炎の剣士の仲間ということでしょうか。

 ですが私の問い掛けに応えることなく、彼はワンダーライドブックを構えました。

 

「答える必要は無い。お前の聖剣はここで封印させてもらう」

 

ジャオウドラゴン

邪道を極めた暗闇を纏い、数多の竜が秘めた力を解放する!

 

 どうやら彼は言葉を交わす気も無いようです。仕方ありません。ですがその瞳から、彼もまた苦難を味わったものなのでしょう。であるのなら、私のやるべきことは一つ。

 

エンドレスマーメイド

かつて封じられし人魚の歌が今、解き放たれる……

 

 彼に呼応するように私もワンダーライドブックを開きます。既に私の力は完全に戻っています。これなら十分戦うことが可能。

 互いにワンダーライドブックを腰に装着したドライバーに装填すると、剣士は手にした聖剣の柄でドライバーを叩き、私はドライバーから幻世剣夢幻を引き抜き、互いに睨み合い、一言。

 

「「変身!」」

 

闇黒剣月闇!

Jump out the book. Open it and burst. The fear of the darkness.

You make right a just, no matter dark joke. Fury in the dark.

ジャオウドラゴン! 誰も逃れられない!

 

抜刀!

エンドレスマーメイド

夢幻! 魅惑の剣が揺らめく!

 

 私は桜色の装甲を、闇の剣士は紫色の装甲を纏うと、互いに剣を構え、そして

 

「ふっ!」

「はあっ!」

 

 互いに相手に向かって飛び掛かりました。

 闇の聖剣。かつて私を封印した剣士も使っていましたが、目の前の剣士が使ったワンダーライドブックは知らない物です。油断はできません。ですがそれでも易々とやられるほど、私の覚悟は甘くはありません。

 闇の剣士が力強く横に振るった剣を、私も手にした夢幻で受け止めます。しかしワンダーライドブックと聖剣の力で強化されているこの体でも、純粋な剣士では無かった私では、剣術という点では他の剣士に圧倒的に劣ります。

 幾度か剣をぶつけ合いますが、私の動きよりも闇の剣士の動きの方が素早く、どうしても攻勢に出れません。

 ですがこのことは600年前に既に分かりきっていました。

 

「だあっ!!」

 

 闇の剣士がより一層力を込めて鋭く突きを放つと、私は静かに剣を下しました。

 

「っ!?」

 

 彼にはまるで自ら剣を受けようとしているように見えたでしょう。その事実に疑問が浮かんだとしても、その攻撃を止めることはもう出来ません。

 

―ザンッ!―

 

 私の体が鎧ごと貫かれる鈍い音が響きました。ですがその瞬間、闇の聖剣に貫かれた私の体が無数の泡へと変わっていきます。

 

「これは……っ!」

 

 一瞬、闇の剣士の動きが止まるという明確な隙。それを狙って私は闇の剣士の右側から斬りかかりましたが、寸前に何かに気付いた闇の剣士が大きく後退して躱しました。

 

「今のは幻覚か」

 

 闇の戦士がぽつりと呟きます。

 そう、今の彼が貫いたと感じたのは私が生み出した幻覚。幻世剣夢幻は幻の属性を宿した聖剣。自由自在に幻を生み出し、相手を撹乱する力を有します。

 ですがこれは夢幻の力の一端に過ぎません。

 闇の剣士との距離が出来たことで、余裕が出来ました。

 

トルネードグリフォン

終わりなき翼獣!

 

「ちっ!」

 

 闇の剣士が私の動きに気付いて止めようと駆け出しますが、もう遅い。

 

幻惑一突!

 

「はっ!」

 

 私が剣を振るうと同時に、強大な竜巻が引き起こされ、闇の剣士を飲み込まんとします。

 

月闇居合! 読後一閃!

 

「ふっ!」

 

 闇の剣士も対抗して斬撃を放ち、竜巻を押しとどめようとします。ですが、地力が違います。

 

「ぐ、なっ!?」

 

 緑の竜巻は闇の斬撃を飲み込むと、闇の剣士の体を軽々と吹き飛ばし、近くの建物の壁へと叩きつけました。

 もし私が使っている聖剣が夢幻でなければ、彼の斬撃は竜巻を切り裂いていたことでしょう。ですが夢幻には、他の聖剣とは一線を隔す力が有ります。

 本来、ワンダーライドブックには聖剣との相性があり、相性が良いほど強力な力を発揮することが出来ますが、逆に相性が悪ければその力を十分に発揮することは出来ません。

 しかし私の幻世剣夢幻にはその相性が存在しません。幻世剣夢幻の属性である「幻」は、幻覚だけを指すのではなく、幻想の力も表します。つまりこの夢幻は全てのワンダーライドブックを完全に使いこなすことの出来る、唯一無二の聖剣なのです。

 ですが、闇の剣士もまた熟練なのでしょう。あれほど激しい竜巻に巻き込まれたにも関わらず、壁に叩きつけられる瞬間に受け身をとってダメージを抑えたのが見えました。実際、倒れはしたものの、すぐに体勢を整えて私に剣を向けてきます。

 そして再びお互いに走り出す。ですが純粋な剣技で劣る私は直接、剣を交わす気はありません。

 

エンドレスマーメイド

 

 ワンダーライドブックの力を解放したことによって、私の体は無数の泡となって掻き消えました。それだけではありません。闇の剣士の周囲に漂う無数の泡。その一つ一つに私の姿が映っては消える。そんな光景が闇の剣士には見える事でしょう。

 勿論、これは現実ではなく、夢幻の力によって生み出された幻。闇の剣士もそれを理解して、じっと私の動きを伺っているようですが、この幻を破ることはできません。

 

「くっ!」

 

 右腕を狙った突き、背後からの袈裟斬り、あるいは真正面から横薙ぎ……。

 無数の幻に紛れて放たれる攻撃を見極めることなど出来るはずがありません。

 すぐに終わらせ、彼も安寧に沈めてしまいましょう。そう考えて私が一歩踏み出した時でした。

 

必殺リード!

ジャオウドラゴン

月闇必殺撃! 習得一閃!

 

 ずぶりと、まるで泥沼に踏み入れたかのような感覚が足から伝わります。思わず目線を下げると、そこにあったのは、深く暗いドロドロとした闇が地面を覆う光景。その闇は、あの闇の剣士が地面に突き立てた聖剣から流れ出しています。

 まずい。それに気付いたと同時に、闇の剣士が放った斬撃が私を襲いました。

 咄嗟に夢幻でガードしたものの、衝撃を受け止めきることは出来ず、今度は私が吹き飛ばされ、地面を転がりました。

 ここで大きな隙を作るわけにはいきません。夢幻で体を支え、すぐに顔を上げます。闇の剣士はじっと私を見つめながら、聖剣を大きく上に掲げました。

 互いに睨み合い、三度目の激突を前に息を整える。

 

「見つけましたよ」

 

 ですがそれに水を差す気配。

 そちらに視線を向けると、そこには朱い衣装を纏い、細身の剣を手にした女性。さらにその隣には、白と黒の装甲を纏った剣士が並び立っていました。

 

「聖剣を封印される訳にはいきません。ここで両方とも回収させてもらいます」

 

 女性はそう言うと、手にしたワンダーライドブックに息を吹きかけて開きます。

 

昆虫大百科

この薄命の群れが舞う、幻想の一節……

 

「変身」

 

 そのまま彼女は手にした聖剣に起動したライドブックを装填し、スイッチを押した瞬間、その全身が煙に包まれ、その姿を変貌させます。

 

Flying! Smog! Sting! Steam!

昆虫・CHU・大百科!

 

 そうして変化した真紅の剣士。そして白黒の剣士は揃って私と闇の剣士と対峙しました。

 

「さあ、己の愚かさを後悔しなさい」

「……お前達は、俺が狩る!」




【ワンダーライドブック設定】
トルネードグリフォン
●「かつて気高き獣が、荒れ狂う旋風を巻き起こした……」
●ロレラが所持するワンダーライドブックの一つ。ジャンルは神獣。
●本来は風双剣翠風と最も相性が良いが、幻世剣夢幻も同等のパフォーマンスを発揮できる。
●幻世剣夢幻にリードすることで、暴風を具現化できる。
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