【SIDE:エドナ】
「ガアアアアッ!!」
「止めろ、飛羽真!」
「邪魔をするなアっ!」
「行かせはしない!」
私の眼下に広がる、二つの戦い。
一つは暴走した炎の剣士と、それを止めようとする光の剣士。
一つは禍々しい力をその身に宿した始まりのメギドの一人であるレジエルと、彼の行く手を阻もうとする音の剣士。
どうやらレジエルは、あの炎の剣士に執心のようで、今にも飛び掛かろうとするところを音の剣士が抑えている。
そして炎の剣士の方も、野生の獣のような雄叫びを上げながら、目につくもの全てに敵意を向けている。
それぞれが雄叫びを上げながら、剣をぶつけ合うその光景を見下ろしながら、私は手にしたパンを口にする。
「……」
片や力に呑まれ、片や怒りに呑まれ、そして荒れ狂う二人に翻弄される剣士達。それはまさにこの世界の縮図と言って良いのだろう。
「悲しいことです……」
そんな戦いに乱入する一つの影。
「っ、慈悲の剣士!」
その姿を見た音の剣士が忌々し気に口にした。
「……あなたから感じる強い悲しみ。今、それから解き放ってあげましょう」
そう言うと、ロレラはワンダーライドブックをドライバーへ装填し、抜刀する。
『抜刀!』
『エンドレスマーメイド』
『夢幻! 魅惑の剣が揺らめく!』
光に包まれ仮面ライダーブロードへと変身した彼女は、その聖剣の切っ先を暴れる炎の剣士へと向ける。それに気付いた光の剣士が、凶行を止めようとする。だが、
「グアアアアアアっ!!」
「っ!!」
視線を逸らした一瞬を突かれ、暴走した炎の剣士のドライバーから伸びた白骨化した腕で薙ぎ払われる。さらにその腕は自在に伸び、自らに向かってくるロレラを貫こうとする。
「ふっ!」
しかしそれがロレラの体に触れることは無かった。
『エンドレスマーメイド』
ロレラの体は一瞬にして泡となってその場から消えたかと思うと、いつの間にか炎の剣士の背後へと回り、その背を斬りつける。
「グガアっ!!」
寸前に気付いて自ら地面へと転がったため、そのダメージは大きくは無い。しかしすぐに追撃の斬撃が放たれ、今度は肩口から袈裟斬りにされる。
「ガアっ!」
しかしながら青白い骨のような装甲はかなりの耐久性を持つようで、深い傷を付けることは出来ず、さらに反撃と言わんばかりに握りしめた聖剣をロレラに向かって振るう。
「ふっ!」
素早い一撃。だが不安定な体勢から放たれた力任せに振るわれた乱雑な攻撃は、ロレラがすっと後ろに下がるだけで躱せる代物でしか無かった。
互いに距離を保ちながら向き合う。すぐにまた、二人は相手に向かって飛び掛かる準備を整えた、はずだった。
「アっ……」
おや、とその異変に気付く。
突如として暴走していたはずの炎の剣士の動きが止まり、剣を握った腕から力が抜け、その場で気絶したかのように立ち止まったのだ。
思わずその場に居た全員が、炎の剣士に注目し動きを止める。ただ一人を除いて……
「炎の剣士ぃっ!!」
「な、ぐあっ!!」
ただ一人、怒りに任せ暴れまわるレジエルは炎の剣士の変化に気を取られることなく、自らの前に立ちはだかっていた音の剣士に痛烈な一撃を見舞うと、一直線に炎の剣士へと襲い掛かる。
「させるか!」
それを止めるべく光の剣士がレジエルの前に立ちはだかるが、強大なレジエルの力に押され、その場に止めるのがやっと。
そしてそれは、彼女を止める存在が居なくなったことを指していた。
「はっ!!」
「っ待て!?」
倒れ込んだ音の剣士が制止の声を上げるが、その声が届くことは無い。
ロレラによる幻世剣夢幻による致命的な一撃が、ただ立ち尽くす炎の剣士へと振り下ろされる。
―ギィンッ!!―
しかし、その一撃が炎の剣士を仕留めるまさにその時、彼を守るように青い影が突如として割り込んだ。
「飛羽真君はやらせません!!」
「水の剣士ですか……」
間に入ったのは、青い鎧を纏った水の剣士。彼の聖剣が、寸前でロレラの聖剣から炎の剣士を守った。
さらに見知らぬワンダーライドブックを取り出すと、それをドライバーへ装填する。
『流水抜刀!』
『Rhyming! Riding! Rider!』
『獣王來迎! Rising! Lifull! キングライオン大戦記!』
『それすなわち、砲撃の戦士!』
「僕は僕の信じる道を進みます。この水勢剣流水に誓って!」
強大な力を宿した装甲を身に纏った水の剣士はそう宣言すると同時に、両肩についた大砲から光弾を放ち、ロレラとレジエルを迎え撃つ。
「邪魔ダぁっ!!」
「ぐっ!」
レジエルが手にした大剣で、近くにいた光の剣士もろとも光弾を振り払う。奴からすれば、邪魔なものを払いのける程度の動き。しかしそれだけで衝撃波が発生し、それを間近で受けた光の剣士は体勢を大きく崩し、続けざまに放たれた斬撃をその身に受け、倒れこむ。
「何と恐ろしく、哀れな姿なのでしょう……」
レジエルと同じく光弾を防ぎ切ったロレラも、怒りのままに暴れ狂う奴の姿を見て、改めて脅威と認識したようだ。その上で、動きを見せない炎の剣士よりも優先して対処すべき相手と考えたのか、レジエルへ剣を向ける。
「その怒りも苦しみも、全て終わらせましょう。幸福な夢と共に……」
『慈悲深き眠り姫!』
『幻惑一突!』
そう言ってロレラは、ワンダーライドブックの力を宿した聖剣を構え、レジエルに向かって真正面から斬りかかる。
しかしいくら覇剣を所持しているとはいえ、あのレジエルに向かって正面から立ち向かうのは愚行。レジエルも新たな邪魔者を排除すべく、大剣を構えると
「消えろォッ!!」
たった一振り。
しかしその一振りは、灼熱の業火と轟く雷を纏った斬撃となってロレラの体を切り裂く。
だけど、ロレラは自らの力を過信しては居なかった。
『エンドレスマーメイド』
先程、炎の剣士に対して見せたように、彼女は再びエンドレスマーメイドの力を利用した幻覚によって、自らの姿を隠していた。
そして幻へと向かって放たれた斬撃は、ロレラの実体を捉えることは無く、悠々と攻撃を避けたロレラの聖剣の一撃が無防備となったレジエルを捉えた。
「グっ……」
剣で刻まれた傷跡から、茨が伸びる。
スリーピングプリンセスのワンダーライドブックの力を宿した聖剣は、あらゆるものを眠りに導く力を持つ。それもあのワンダーライドブックの力を用いない限り、永遠に覚めることの無い眠り。
ロレラ曰く、全てが終わる時、誰も恐怖や絶望を感じずに消えることが出来るようにという、慈悲によるもの。実際、あの技を受け、眠りから目覚めた者は居ない。それほどまでに、あの技が与える夢は甘いのだろう。
茨が徐々に伸び、レジエルの体を包もうとする。すぐに奴もまた、永遠の眠りに誘われることだろう。そう思っていた。
「……グ」
「?」
「っ邪魔ヲするナアアアアっ!!」
しかし、レジエルが突如として咆哮を上げたかと思うと、体を覆おうとしていた茨が炎上し、燃え散っていく。
「な!?」
あまりのことに唖然とするロレラ。それによって隙が出来た。
「ハアアアアッ!!」
「っ!?」
周囲を薙ぎ払うように放たれる雷撃。それをまともに受け、ロレラは膝から崩れ落ちる。何とか剣を支えにするものの、受けたダメージが大きく、回復には時間が掛かりそうだ。
そんなロレラを無視して、レジエルは炎の剣士へと歩みを進める。
「飛羽真君には近づけさせません!」
『キングライオン大戦記!』
『Splash Reading!』
「ライオニックフルバーストぉ!!」
そのレジエルを止めるべく立ちはだかる水の剣士が放った、獅子を模した斬撃。並みのメギドなら何体相手であろうと、一撃で屠るだろう必殺の技。
「邪魔ダぁっ!!」
それすらもレジエルは一刀の下に薙ぎ払う。
怯むことなく水の剣士はレジエルを止めるべく攻撃を放っていくが、その攻撃の全てをレジエルは容易く防ぐと、目障りだと言わんばかりに今度は水の剣士へ向けて漆黒の斬撃を放つ。
「退けぇっ!!」
「ぐああああっ!!」
大きなダメージを受けよろめく水の剣士へ、二度、三度と次々に斬りつける。
それでもなお立ち上がることを止めない彼を援護すべく、光の剣士と音の剣士も駆けつけるが、完全に力を解放したレジエルの前には為す術もなく蹂躙されていく。
そしてさほど時間も立たないうちに、三人は倒れ込み、変身が解除される。
「炎の剣士ぃ!!」
最早、レジエルを止める者は誰も居ない。
あの炎の剣士も遂にここまでか。そんなことを思いながら戦場を見つめていた私は、直後の光景に目を疑うこととなる。
「ぐっ!?」
突如として炎の剣士の周囲が燃え上がり、その勢いに押されてレジエルが後退する。
そして炎の中から現れたのは生身の炎の剣士。その手には、私も知らないワンダーライドブックが握られている。
「何それ……?」
思わず口から零れた言葉は風に掻き消える。
そんな私の視界の中で、炎の剣士は手にした二冊のワンダーライドブックを組み合わせドライバーへセットすると、勢いよく火炎剣烈火を抜き放った。
「変身!!」
『烈火抜刀!』
『バキ・ボキ・ボーン! メラ・メラ・バーン! Shake Hands!』
『エレメンタルドラゴン!!』
『エレメントマシマシ! キズナカタメ』
それはまるで炎そのものを纏ったかのような姿。強大な力を宿しつつも、それに振り回されることなく、完全にコントロールしていることが、見ているだけで分かる。
「……悲しみが消えた? 一体何故?」
呆然とするロレラと同じように、私もこの光景に目を疑っていた。だけどその理由は異なる。
「はあっ!!」
変身した炎の剣士は、三人掛かりでも一方的に圧倒していたレジエルを相手に、互角以上……いやむしろ優勢に戦っていた。
レジエルが放つ攻撃を、同じ属性でそれ以上の威力の技で打ち返す。それはまさに御伽噺に登場する勇者のような姿。
見るものに勇気を与えるその姿に、思わず私は
「……気に食わない」
苛立ちを露にする。
「ふっ!!」
『必殺読破マシマシ!』
『烈火抜刀!』
そしてレジエルに引導を渡すべく、あるいは彼の苦痛を終わらせるべく、炎の剣士は渾身の力を込めて聖剣を構える。
「森羅万象斬!!」
『エレメンタル合冊斬り!』
「ぐうぅぅぅぅっ!?」
放たれた斬撃を受け両断されたレジエルは、苦悶の声を上げると、光と共に爆散する。
それは一つの歴史の終わり。長きに渡って数多のメギドを生み出しては世界を恐怖に陥れてきた三体の怪物の一角を打倒する。剣士にとっては悲願の光景だった。
「……炎の剣士、あなたは一体?」
やっとダメージが回復したロレラは、未だにその光景に驚きを抱きつつ、ここで戦っても不利になるだけと判断したのか、誰にも気付かれることなく姿を消す。
私もまた、ひっそりとその場を後にしながら、少し前に
「確かにあいつの言っていた通りになった。つまりは……」
炎の剣士の活躍が定められていたかのような、都合の良い展開。あまりにも出来すぎたシナリオ。
ああ、本当に腹立たしい。あれが事実なら、私は、そしてこの世界は何と下らない事だろうか。
「良いよ、ストリウス。あんたの思惑に乗ってあげるよ」
私は一人、薄暗い道を歩き続ける。
「全部壊してやる。こんな下らない物語なんて」
決意を胸に、私は欲望剣餓欲の柄を強く握りしめた。