本話から劇場短編とクロスします(ただし、ストーリーと直接関わるわけではありませんが)。
「ボンヌ・レクチュ~ル! 僕はタッセル」
「ノーザンベースに突如として現れた二人の剣士、タルスとレボス。彼らは封印から解き放たれたエドナを倒すために、ソードオブロゴスの本拠地から派遣されてきたんだ」
「だけど彼らは飛羽真達と協力する気は全く無いようで、それどころかノーザンベースの剣士達を見下す始末」
「先行きが不安だけど、大丈夫なのかなあ?」
「それに何か、嫌な予感がするんだ……っ!?」
「この気配、まさかあの剣士が?」
「これは、大変なことになりそうだ!!」
【SIDE:エドナ】
それは突然の出来事だった。
突如として私が持っていた欲望剣餓欲の刀身が淡く光を放つ。そして背筋を走る、僅かな寒気と高揚。
急いで私はその気配が感じられる場所へ向かった。久しぶりの再会だ。挨拶はしておくことにしよう。
そうして辿り着いたワンダーワールドの開けた土地。そこにあの男は居た。
「やあ、久しぶり……」
「ふっ!」
声を掛けた私に振るわれる漆黒の剣を餓欲で防ぐと、高い金属音が鳴り響く。
「相変わらず、剣士と見るや否やそうやって剣を向けてくるのは止めてくれない?」
「貴様か。まさかまた会うことになるとはな……」
狂気を感じさせる笑みを浮かべた男。相変わらずの態度に溜息を吐く。
かつて私が世界を滅ぼすために手に入れた、破滅の本に封印されていた剣士。全てを無に帰す聖剣の所持者。
「おはよう、バハト」
彼は私が知る限り、最強であろう剣士だった。
彼と出会ったのは、私がソードオブロゴスを離脱した数年後のこと。
醜く争い合う人間達が蔓延るこの世界に失望し、自分の思うがままに生きることに決めた私だったが、そんな生き方にも疲れたある日、ふと「破滅の本」について思い出した。
それを用いればこの醜い世界を一掃できるのではないか。その考えに辿り着いた私は、密かにサウザンベースに侵入し、難なくそれを手に入れたのだが、その本に封印された剣士というのが、この「バハト」だった。
その出会いは最悪の一言に尽きる。
「貴様、剣士か……ふっ!!」
封印が解かれたその瞬間に私に剣を向け襲って来たのだ。私も自らの聖剣で応戦した。
だけどお互いに不死の身。どれだけ傷つけ合おうと、すぐに回復する。それが何時間続いただろうか。
「貴様……中々面白いじゃないか」
「そっちもね。さすがは世界を滅ぼそうとした剣士」
互いにこれ以上の戦闘は無意味と理解した私達は、互いに言葉を交わした。バハトは「何故、私がこの本を求めたのか」、私は「何故、彼が世界を滅ぼそうとしたのか」。
そして私達は二人とも、この世界の有様に絶望していたことを知った。つまり目的は同じ。その果てに求めるものは違うとしても、それまでの道筋は共通している。ならば、協力できるはずだ。
それから私とバハト、さらに同じように世界を憂いた一人の剣士も合流し、私達は世界を滅ぼすべく行動したのだった。
「それにしても、どうやって復活したの?」
「知らん。気が付いたら、この本と共にここに居た」
そう言う彼が抱えていたのは、悍ましい気配を放つ一冊の本。これこそが世界を滅ぼす力を秘めた「破滅の書」。世界の滅亡を願う者が開けば、たちまち地球とワンダーワールドの両方を無に帰すほどの力を秘めた禁断の本だ。
「だが、相変わらず世界は変わらんな……人間共の煩わしい声が、あちこちで響いてる……」
その口元には笑みを浮かべているけど、目はどこまでも深い憎悪に溢れているのが分かる。
「だが、その世界もすぐに無に消える。これの力でな……」
「……良いの?」
そのまま破滅の書を開こうとするバハトに、思わず口を挟んだ。
「何だ。邪魔をするなら、容赦はしないぞ?」
「……別に世界を滅ぼすのは望むところだけどさ」
こんな世界は滅びてしまえば良い。辿った道こそ違えど、その結論は私達共通の答えだ。しかし、気がかりな事が一つ。
「まだ本調子じゃないでしょ。それで剣士達に勝てるの?」
「ふん……」
鼻で笑うものの、復活が完全じゃないことは本人が何よりも分かっているだろう。
肌の一部が罅割れ、右目も僅かに霞んでいる。本来、不死身である私達であればすぐに回復するであろうダメージが残っている。それこそが彼が復活しきれていない証拠だった。
それにまだ、もう一人の「慈悲の剣士」も目覚めていない。かつて万全の状態で戦った果てに封印されているのに、この状況で勝てるのかという不安は有った。
「例え連中が来たとしても、知ったことか。その前に全て終わらせてしまえば良い話だ!」
だけど答えは変わらない。いや、変えられないと言うべきだろうか。彼は立ち止まるという考えも持っていない。ただこの世界に憎悪を燃やし、滅ぼすためだけに歩み続ける。
「相変わらずだね……」
呆れながら溜息を吐く。
「それなら私は、見物させてもらうよ。まあ、剣士と会ったら、足止めくらいはしてあげる」
私はバハトに背を向けた。
私からすれば、バハトの行動を強く止める必要は無い。このまま世界が滅びればそれで良し。もしバハトが負けたら、さっさと逃げさせてもらおう。
ふと、一人の剣士の顔を思い出す。この間、剣を交えた炎の剣士。その力はまだ未熟だけど、
彼とバハトが出会ったら、どうなるのか。少し面白そうと思いながら、私はその場を離れたのだった。
【SIDE:バハト】
奴が背を向けて離れる姿を見ながら、俺は破滅の本の表紙に手を掛けた。
幾度と剣士共に邪魔されてきた悲願。この世界を滅ぼし、無に変える。その目的を、今こそ達成させる。
全ての始まりは遥か昔のことだった。当時、キエフ大公国の騎士だった俺は、世界を守るべく剣の腕を鍛えていた。
そんな俺には掛け替えのないものが二つあった。一つは家族。幼馴染で俺が怪我をする度に心配そうな顔で手当てしてくれた妻。そしてその間に生まれた愛娘。二人の笑顔を見るだけで、俺はどんな苦境にも耐え忍ぶことが出来た。
そしてもう一つは親友。同じ騎士団に所属し、共に世界を守ることを誓った二人の剣士だ。一人は冷静かつ馬鹿正直で、たまに言葉足らずで誤解されることも有るが、誰よりも優しい心を持っていた。もう一人は誇り高く、戦いとなると非情な一面もあったが、普段は陽気なムードメーカーでよく俺達を笑わせてくれた。
この二つの宝を守るべく、俺は平和を汚す連中と戦い続けた。例えどれだけ自分が傷つこうと、どれだけ傷つけることになろうと、その先には争いの無い平和な世界があると信じて。
だが、そんな俺の思いは裏切られることとなった。
「何故だ……何故なんだ!!」
それは突然のことだった。俺が戦場に赴いている間に、親友の一人である陽気な騎士が反乱を起こしたのだ。
知らせを聞いて、俺はすぐさま城へと駆け付けた。だがそこに有ったのは、燃え盛る家、道端に投げ捨てられた民の遺体、そして逃げ惑う人々を襲う醜い異形の兵士の姿だった。
俺ともう一人の親友はすぐさま民を助けるべく、暴れる兵士達を斬り伏せながら街を駆け抜けた。
だが俺には気がかりが有った。剣を振るいながら人々に視線を向けるものの、そこに俺の大切な家族の姿が見当たらない。いくら兵士を倒そうと、嫌な予感が晴れることは無かった。
焦燥しながら、俺は一点を目指して足を動かす。どうか……どうか無事で居てくれ。俺はただ祈りながら走った。
だが、その願いが叶うことは無かった。
「あ、ああ……」
やっと辿り着いた場所、俺の家。そこには裏切った親友、そしてその足元で倒れる一人の女と小さな子供の影が有った。
それを視界に入れた瞬間、俺の心に怒りが満ち、その激情のまま親友へと斬りかかった。親友もまた有数の騎士では有ったものの、実力は僅かに俺が勝り、僅かな隙を突いて斬り伏せた。
力無く倒れた親友の姿を見届けた後、俺はすぐさま倒れ伏す女と子供の許へと向かう。どうか間違いであってくれ。そう考えながら、震える手でその女と子供の顔を確認する。そして声にもならぬ叫びを上げた。既に冷たくなっていたその二人は、間違いなく俺の妻と娘だった。
何故だ。何故、俺の家族がこんなことで死ななければならないのだ。それも、信じていた親友の手によって……。
俺はたった一日で、大切な宝を二つとも奪われたのだ。
後に分かったことだが、親友は少し前から敵国と通じていたらしい。その国の王から国宝である剣を渡され、その力に魅入られた結果があの悲劇であると。
もう一人の親友「ユーリ」にそう伝えられたものの、その時の俺は空っぽだった。何故、こんなに理不尽に家族を奪われなければならなかった。何故、信頼していた親友にこのような非道を受けなければならなかった。何故、何故、何故!!
全てを失い絶望した俺には、最早世界を守る意味を見出せなくなっていた。
当てもなく国を離れ、放浪する。だが見えてくるのは、人間の汚い所だけ。奪い、騙し、傷つけ、争う。
そんな人間達に次第に憎しみが湧いてくるのを感じた。平和の為に身を惜しまず尽力してきたというのに、人間達は、悪意のままに争い合う。結局、それが人間の本性だと言うのか。
永遠に平和が作られないというのなら、
そう決意すると、いつの間にか俺の目の前に、燃え盛る漆黒の刀身を持つ剣が有った。何故か俺には、それが語り掛けてくる感覚がした。引き抜け、全てを滅ぼせと……。
『無名剣虚無!!』
その言葉のままに俺は剣を引き抜くと、その瞬間、俺の姿が変貌する。それはまるで伝説に語られる不死鳥のような姿の鎧だった。
それだけじゃない。体の奥底から噴き出るかのような熱い力。そしていつの間にか手にしていた、一冊の本。それは古びた黒い本。ふとその本を開くと、開かれたページから闇が溢れ、周囲の街や人を飲み込み始めた。
ああ、そう言うことか。これを使って世界を滅ぼせと……。
全てを理解した俺は早速行動を始めた。最早、この世界に未練など無い。争いが終わらないというのなら、全てを消し去ってしまえば良い。
あちこちへ足を伸ばしながら、俺は破滅の書と名付けたそれを使って滅びを与えた。時に名のある騎士達が挑んでくることも有ったが、虚無を手にした俺の敵では無い。それに大概の奴は、闇から生み出された白い怪物によってなすすべなく倒されていく。
この世界に俺を邪魔する者は居ない。そのはずだった。
「止めろバハト!」
立ちはだかったのは、親友だったユーリだった。奴も俺と同じように聖剣を手にし、俺に勝負を挑んできた。
「何故邪魔をする。貴様も理解しているはずだ。この世界に守る価値など無いと!」
「そんなことは無い。今も昔も、俺は世界を守る剣士として戦う!」
互いに主張を退けることは無く、剣をぶつけ合う。だが聖剣を手にしたユーリは、俺の記憶の奴とは全く違っていた。光と闇の聖剣を巧みに扱い、俺を追い詰める。俺も虚無を振るって奴の力を無効化するものの、追いつかない。
そして遂に奴の聖剣が俺の胸を貫いた。その切っ先が心臓を通り、肉体を貫通する感覚が有った。
そうか。俺は負けたのか。だが、これであいつの許に……。思い出される家族の顔。やっとこれで俺は終われる。
だが、それは許されなかった。
「なっ!?」
驚愕の声。それを発したのは俺か、それともユーリだったか。俺の全身が炎に包まれ、瞬く間に傷口を塞いでいく。
「ははっ……ははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!」
俺の意思に反して、完全に回復した体を見て、俺は嗤った。
なんだこれは? 俺は死ぬことも許されないのか? 止まることも許されないのか?
「バハト……」
唖然とするユーリに、俺は嗤いながら剣を振るう。だが奴も二本の聖剣で攻撃を往なし、幾度となく俺の体を斬り付ける。だがどれも致命傷になることは無い。いや、致命傷になろうとも、すぐに回復する。
世界が滅びるまで、俺が死ぬことは無い。この世界の結末は決まったのだ。
だがただ一人、ユーリが折れることは無かった。
「すまないバハト……」
たった一言の謝罪。それが何を意味していたのかは知らない。知る気にもならない。
奴は回復のために動きが止まった俺を、破滅の書へ投げ込むと、そのまま光と闇の聖剣で俺を破滅の本ごと封印した。
俺は抵抗したが、幾ら暴れようと脱出することは出来ない。永劫に続く闇の中、死ぬことも出来ず、ただ閉ざされた世界で暴れ続けた。
俺は許さない。絶望を知りながら俺を封印したユーリを、争うことを止めない愚かな人間達を、偽りだらけの不完全な世界を。
そして憎悪に身を焦がし続けていた時、不意に俺の封印が解かれた。
何故、俺の封印が解けたのか。そんな疑問を持つことも無く、ただ世界への憎しみを燃え上がらせながら降り立つ。
「……あんたが不死身の剣士?」
そんな俺の前に居たのは、破滅の書を開いた少女。
やがてこいつと、世界を滅ぼすべく共に戦うことになるとは、その時は思ってもいなかった。