ではお楽しみください。
ブラッシー帝国地下…
中央大研究所。
「…でありまして…
現在プロジェクトGは
ダークライ様より
お借りしました技術により…
最終段階まで到達しました。」
「そうか…ならば良い。」
研究員の一人であるケーシィと
鉄の廊下を歩きながら
話をするバンギラス女王
入れ替わった時の
言葉のカタコト感もなくなり
完全にバンギラスに成り代わっている。
「つまり…“あれ”も使用できる、な…?」
扉の前に立つ二人…
「はい…最初こそいくつかのトラブル…
予想外の事象の発生はしましたが、
既に稼働・戦闘実験は基準を
大幅に超える数値でオールクリア…
コンピューターの計算…そして
計測された戦闘データから判断しても
戦場に出しても問題なく稼働するかと…」
音もなく目の前の扉が開く…
薄暗い室内。
ムワリ…と生臭い血の匂いが漂ってきた
「…ようやくか…。」
部屋の中に入る二人。
淡い緑色に光るカプセルの前に足を運び
バンギラスは視線を上に向ける。
「飛行型試作大量殺戮兵器…G…
いや…飛行型大量殺戮兵器…
ゲノセクト…これで…
ワタシハクニヲトル…!!」
液体の中で
身体のあちこちにケーブルを付けられて
無気力に浮かんでいた
紫の体のポケモン…
ゲノセクトが
まるで生まれる前の胎児のように
…小さく動いた。
フハハハハハ…!!
…だが…まだだ…。
…まだ足りない…
…あの小娘が持ち去った…
“あれ”を取り返さなければならない…
「一体どこに行ったのだ…!
シェイミ…!!」
「…ガーディ…ミーは…
マサラは…この国は
ミー達を助けてくれるのか…
分からなくなってしまったのデス…。
早くしないと…南西の国にお母様が…。」
城の外では豊穣祭の熱気が
いまだ冷めやらぬ中
シェイミはガーディに本心を打ち明けていた。
「…シェイミ様…前にもお伝えしましたが、
国の兵を大量に動かす事は
そう簡単には出来ませんよ…」
「…でも…。」
「ここは根気よく待つべきだと
僕は思います。
焦ってもなにもなりません
それに…」
ガーディは躊躇うように顔を背ける。
これは言ってはいけない事だと
分かっているから。
でも、それでもガーディは言う事にした。
「バンギラス女王様が…
そのような事を…
なさるはずがありません…。」
「…っ!!」
その場の空気が…一瞬で凍り付いた。
…こうなることは分かっていた。
だが…それでも
ガーディがそれを言ったのは
ガーディの忠義によるものだ。
ガーディは
シェイミの世話役であるとともに、
一人の忠実な帝国兵だった。
だからこそ…
主を疑うわけにはいかない。
たとえ…相手が
その帝国の姫であろうと、である。
それが…ガーディの選んだ生き方だった
「…やっぱり…。
…そう…デス…か。」
ガーディの反論を受けて…
シェイミは何も言わなくなってしまった。
ただ、押し黙り、俯いている…
…裏切られた。
…信じていたはずの相手に。
そんな気持ちで…
今、シェイミの心は一杯だった。
「…。」
…どうしよう。
…どうしたらいいんだろう…
今まで感じなかった隙間風さえ感じる…
…。
居住まいが悪すぎる。
「…失礼します…」
その場から逃げるように…
ガーディは部屋を出た。
…すみません…シェイミさま…。
声にならない懺悔が…
ガーディの胸の中に溢れていた。
「ミーは…ミーは…
お母様を止めたいデス…。」
…たとえ…たった一人ででも…。
祭りの騒音が…とても遠くに感じた。
「…お疲れ様です。
国民の前でのあの堂々たる佇まい…
拙者はとても感動いたしました、
ルカリオ王子。」
「ははっ…
よしてくれ…照れるじゃないか」
パレードも終わりをつげ、
ルカリオ達が城に帰ってくる。
少々疲れた様子の二人に
ウーラオスが近づき声をかける。
「それと…
とてもお美しかったですよ、
イーブイ殿。」
「はい…ありがとうございます。」
一応、ウーラオスと
イーブイの間にも面識はある。
なので、多少ちぐはぐはしているものの、
途切れることなく会話を出来ていた。
「ルカリオ王子様…
王がお呼びです…。」
「分かった、
すぐに行きますと伝えてほしい。」
…城の兵士の一人が下がっていく。
イーブイと顔を見合わせるルカリオ
「…では、これにて…
拙者は失礼します。
話はまたのちほど…」
その様子を見て、気を使ったのか
ウーラオスが一礼し下がった。
「あぁ…すまないな、ウーラオス。」
「私もこれで…失礼いたします。」
イーブイとも別れ、
ルカリオは王の元へと向かった。
「…?」
城の中で、ウーラオスは自室に戻る途中
ガーディを見かけた。
暗い顔をして、とぼとぼと歩いていく。
そのまま城のバルコニーに出た。
「…どうか…したのだろうか…?」
流石は、困っている人を放っておけない
紳士のウーラオス。
ゆっくりと近づき、
驚かせないように小さく音を立てる。
ガーディが振り返る。
「…どうかしたでござるか?」
「あなたは…?」
「拙者はウーラオスという者でござる…
世界中を旅しているが…
訳あって今はこの城にいるでござるよ。」
「…そうですか」
…ガーディの暗い表情は変わらない…
「…なにか悩みでも…?」
そっと、ガーディの横に移動し
言葉を促すウーラオス
「…いいえ…悩み…というか…
なんというか…。」
「…?」
言葉を選ぶガーディに対し
ウーラオスは黙って次の言葉を待っていた。
「…拙者でよければ…
話を聞くでござるよ…?」
…できる限り、怪しくないように…
…嫌われないようにしながら、
ウーラオスは言った。
「…。」
何度も何度も躊躇う様子を見せるガーディ。
そして…
「あの…」
ガーディはウーラオスに胸の内を話した。
「…なるほど…
それで…自らの忠義を取るべきか
現状の忠誠心を取るべきか
迷っている、と…」
「はい…。
どうしたらいいのか…分からなくて…。」
ウーラオスの横で迷うガーディ。
「…。」
ウーラオスは空を見上げる。
…今宵は月なき空。
ただ空にあるは無数の星々の輝きのみ…
…だが、今だけはそれで良かった。
ウーラオスは月が嫌いだった。
…あの時の事を思い出してしまうから…。
二つの塔
そして空に浮かぶ満月…
塔の先端に立ち、月を背後に浮かぶ影…
手裏剣を使い、数を増やし…
クナイを操る…俗にいう“忍び”…。
その赤き眼光が光る…。
“月光(の)牙” の影を…。
話を戻そう。
「…それで…ガーディ殿は…
どうしたいのだ…?」
そんな言葉が…口をついていた。
ウーラオスにとって
ブラッシー帝国は
祖国の敵国“だった”ものだ。
…。
……。
「僕は…」
「国に対する忠義も、姫に対する忠義も
微塵も落ちてはいないだろう…?」
「…勿論です!!」
勢いよくガーディは答えた
「…のなら…
その忠義は決して捨てない事だ。
そして…
何が正しいのか…
何が間違っているのか…
自分で判断することだ。
忠義に酔う事と、忠義を全うする事は違う。」
「…。」
ウーラオスの話を真剣な面持ちで聞くガーディ
「…ありがとうございます…!
…あのっ…一つ聞いてもいいですか…?」
「…いいでござるよ?」
ガーディとの話が終わった別れ際…
ウーラオスは
ガーディに尋ねられ首をかしげる。
「すごく具体的で分かりやすかったです…
それで…ウーラオスさんは
旅をしていらっしゃるんですよね…?
旅をする前は…
どこかの兵士を
していらっしゃったん…ですか…?」
「…っ!!」
固まるウーラオス
…自分は…
…自分は……。
「いや…拙者はただの旅人でござるよ…。」
「…王!
私は何もしていない…!!」
「…?
これは何の騒ぎですか…父様!!」
玉座の間につき、扉を開けると
ガブリアスと二人の子ども達が
兵士たちに包囲され、
王の前に突き出されていた。
「ヴぁぁ~!!
ごめんなさい、もうしませんから…!!」
「本当に…ごめんなさい…」
泣きじゃくるミズゴロウとキモリ。
「あぁ…ルカリオ…
ガブリアスが…どうやら大量虐殺を
図ったようなのだ…」
「…っ!?
…どういう事ですか…!?」
それは少し前に遡る…
「さて…
君たちが使った抜け道は塞いでおいた。
これからはこんな事がないようにしよう…
さ、早く帰るんだ…。」
「はい…ごめんなさい…。」
城門前で、ミズゴロウ達を見送るガブリアス。
「さ…もう、行こう…
三人とも…って、アチャモ…?」
次の瞬間…
アチャモは倒れた。
「…!?
一体どうしたんだ…!?」
「きゃあぁああああ…!!」
城から叫び声が聞こえる。
「…!?
とりあえず、彼を城の医務室へ…!!」
ガブリアスは倒れているアチャモを
医務室へと運んだ。
そこで…
「ガブリアス殿…!!
あなたには
虐殺を企てた容疑がかかっています…!!
ご同行願えますか…!」
「…虐殺…!?
いったい何の話だ…!?」
…そして…今に至る。
「私とて疑いたくはない…
今回は城に住み着いたラッタが
犠牲になってしまったが、
だが…城の兵士が手薄だった事…
そしてお前の部屋から
毒物が見つかった事…
その二つから見て…
お前の容疑が完全には晴れないのだ…。」
これが、
もし城の重要人物の口に入っていたら…。
「待ってください…!!
俺は…私は本当にやっていない…!!」
ガブリアスが…ルカリオ王子を見る…
見下げるルカリオと…見上げるガブリアス。
「…。」
ルカリオは強く拳を握った。
「お前は、ガブリアスだ。
この国の宰相。
…そして、この国の、力だ。」
最初は呟くように言う声が…
大きくなる。
「…?」
「それ以外の、何者でもない。
…無論、お尋ね者でも
国を奪おうと企む危険人物でもない
お前は… ガブリアス だ。」
…違うか?
「…おう、じ…さま…。」
涙目のガブリアス。
「父様…
私は、彼の無罪を主張します。
きっと犯人は別にいます。
私に調べさせてください…。」
「あっ…あの…!!」
キモリが発言する。
「はっ…犯人は…
俺たちと一緒にいたヨマワルです…。
俺は…それを見て何もしませんでした…」
ゆっくりとキモリに近づくルカリオ
「…確か…なんだな…?」
…?
聞き覚えがある声…
…そうか…君は…。
「はい…
その証拠に…!!
アチャモがクッキーを食べて、
さっき倒れたんです…!
きっと同じ毒物にやられたんだと…!!」
「そのヨマワルに
話を聞かなければなりません。
父様、緊急手配を。」
「分かった、すぐにしよう。」
…ありがとう、話してくれて…。
ルカリオはキモリの頭を撫でた
「…。」
王は、ルカリオのそんな後ろ姿を
じっと見つめていた。
はぁっ…はぁっ…!!
ヨマワルは北の森を
息を切らしながら移動していた。
「ヨマワルさん、
どうやら…失敗したようですね…?」
ヨノワールがヨマワルの前に出る。
「途中まではうまくいっていた…!!
でも…
何故か王妃の口には入らなかった!!」
「まぁ、そうでしょうね…
そんなに毎回うまくいくはずがない…」
…まぁ、それはもういいでしょう。
「さて…これでは私はダークライ様に
殺されてしまう…。
どうにかして“埋め合わせ”を
しなければならない…。」
ヨノワールの顔の…影が濃くなる
「…!!
まっ…待って…!!
僕は…まだ…!!」
「消えなさい。」
――――!!
断末魔をあげ、
ヨマワルが仮面を残し、消える
「今回は…私の負けでいいでしょう…。
ただ…次はこうはいきませんよ…」
…覚悟しておけ。
…王子…
…
……ルカリオ…
血まみれのヨマワルの仮面が
北の森から見つかったのは…
それから約三時間後の話だ…。
…ガブリアスの無実は…証明された。
次の日…
「…ルカリオ王子…
少しよろしいですか…?」
ガブリアスに呼び止められるルカリオ
「…なんだ…?」
バッ…!!
ガブリアスは片膝をつき首を垂れる
「ルカリオ王子…
この度は本当に…
ありがとうございました!!」
「…。」
…よかった…
これで…歴史が変わる…。
「あぁ…これからも…頑張ってくれ。」
「イーブイさん…少し…いいかしら…?」
「…?
はい…なんでしょうか…?」
イーブイは王妃に呼び止められていた。
「…ん…んん…。」
皆が寝静まった後…
イーブイは目を覚まし、
そっと部屋を出た
少し夜風に当たろうと思ったからだ…
ギィ…と静かな城に
扉の軋む音が小さく響く。
「…急に…あんな事を言われても…私は…。」
夜風の吹く中、イーブイはため息をつく。
[…あのね、イーブイさん…
…まずは精霊役を
務めてくれてありがとう…。
…それでね、
息子の隣に並んだあなたを見て…
私や城の者…いや…
国民からあなたを時期王妃に
選ぼう、という声が多く出たの…。]
[…そっ…そうなん…ですか…!?]
[えぇ…本当よ…。
だから…もし良ければ、でいいの。
この城に…住んでみないかしら…?]
「…決められるわけ…ない…。」
イーブイの心が揺れ動く…。
迷いを抱えたまま、部屋に戻るイーブイ
そこで…シェイミと鉢合わせる。
「シェ…シェイミさっ!?」
「しぃ~!!
静かにするんデス!!
皆が起きたら大変なんデス!」
慌てて声を小さくさせるシェイミ
シェイミは、道具で一杯のカバンを持ち
よたよたとしている。
…見るからに長旅の準備だった。
「シェイミ姫様…なぜこんな事を…?」
イーブイが問いかける
「ミーは…ミーは
守ってもらうために
ここに来たんじゃないんデス!!
このままじゃお母様が…
お母様がまた間違いを…!!
ミーはそれを止めてもらいに来たんデス!!」
…でも…ここはミーを守ろうとしているだけで
ブラッシーと
交渉してくれなさそうなんデス!!
「…姫様…」
「止めても無駄デス!!
ミーは…ミーはこの国を出ていくデス!
そして…早くお母様を止めに行くデス!!」
…。
どうやら…話を聞いてくれないようだ。
少しして、イーブイは決意を固め、頷く。
「…分かりました。
では私も一緒に行きます。」
「えっ…?」
「…姫様一人ではあまりにも危険です
私も一緒に同行します!!」
…王妃は…確かに
誰しもが目指す名誉なことだ…。
でも…それが務まるか…
という事になると話は別だ。
…王子様には…私は相応しくない…。
…それが、イーブイの今の答えだった。
「…姫様、待ってください!!
いくら何でも危険すぎます!!」
城の裏手から国を出ようとする二人…
「…!?
ガーディ…なんで…。
…ミーを止めても無駄なんデス!!」
シェイミ達の前にガーディが現れる
…しかし…ニシシッ…と
ガーディ? は可笑しそうに笑った。
「…な~んてね。
話は聞かせてもらったぞ!!」
イリュージョン
ガーディはゾロアだった
「一緒に…オイラも行くぞ!!
いや…連れて行って欲しい!!
オイラは…
マァを見殺しにするような奴と
…一緒に居たくない!!」
「ゾロア君…」
「…それなら早く行くデス!!
見張りに見つかる前に!!」
三人は真夜中にマサラを発った…
…すみません、王子様…。
翌日。
朝、城は騒然としていた
「…シェイミ様が…
シェイミ様がどこにも…!!」
ガーディがルカリオの元を訪れた。
「ゾロアとイーブイもいない…!!」
…他の部屋を見回るとその事実が判明する。
「一体これは何の騒ぎでござるか…?」
ウーラオスが騒ぎを聞きつけ、
部屋から出てくる
「シェイミ様は…早くしないと女王様は
南西の国に行く、と言っていました…」
「まさか…三人で南西の国に…?」
「…シェイミ様は…母君…
バンギラス女王を…止めに…?」
…。
…嫌な予感が二人の間に走る。
「…なぁ…ウーラオス…!
今すぐ私たちを案内してくれないか…!!
…南西の国に行ったはずの
イーブイ達を追いたいんだ!!」
「それなら…
今から出発すればまだ間に合うはず!!
ルカリオ殿、ガーディ殿
拙者たちも早く行きましょう!!」
「…お待ちなさい…」
「…っ!!」
城を抜け出そうとしていたルカリオ達を
王妃が止める。
「…母様…」
「ルカリオ、あなたは仮にも一国の王子…
そしてこれから向かおうとしているのは
戦場となるかもしれない場所でしょう…?
王妃として、
それをさせるわけにはいきません…」
「…。」
…ですが…
無言になったルカリオを見て、
そっと微笑む王妃
「…母としては…
息子のやりたいことを
応援してあげたいのです…
前回の旅で急に大人になったあなたを…。」
…聞きましたよ…
…ガブリアスの無実を証明したと…。
よく頑張りましたね、ルカリオ…
そっと、ルカリオに近づき
肩に手を置く王妃
「ですが、約束してください…
これが最後にすると…
そして…絶対に無茶はしないと。
王には私から話をしておきましょう…」
「ありがとうございます…母様!」
こうして、ルカリオ達もまた、国を出た…
~次回予告~
シェイミ達を追いかけ
国を出た王子、ルカリオ。
シェイミ達を追い、
早まる鼓動を抑えながら
ルカリオ達は南西の国を目指す!
次回 第二章 帝国の脅威編 その6
お楽しみに!!