では、お楽しみください
ブラッシー帝国は、
能力値を主に考える組織である。
いわゆる“厳選”と呼ばれるそれは
古くから
ブラッシー帝国の政策の根底を支え続けていた。
ポケモンは普通、卵から生まれる。
そしてその卵から生まれる
ポケモンの生まれ持つ才能は
卵を持っていた親の能力に依存する。
つまり、能力が高ければ高いほど
よい後継ぎが生まれるという事だ。
…より良い、より高い能力を持った子どもたちを
世に送り出すために
ポケモンたちの卵を量産するポケモン達。
そのなれの果てが近接…。
そして、“メタモン”という
ポケモンの存在であった。
だがしかし…卵を用いて
後継ぎを作り出す政策には
すぐに限界が来た…。
…総人口(ボックス)の肥大限界である。
すでに、ブラッシー帝国内でのポケモン人口は
限界量をオーバーしており、
帝国領内にはスラム街が大量に存在していた。
生まれ持った能力値が低く、
親から見捨てられた子どもたち…
そして、能力値政策によって切り捨てられた
低い能力とされるポケモンが跋扈する地獄の街。
けれども、ブラッシー帝国を
長年支え続けた
その“厳選”を今更やめるわけにはいかない…。
だが、このまま博打のような事をしていても
埒が明かない…。
そして…王がとった手段が…
路線変更…
ポケモンの再生…創造である。
ポケモンの遺伝子を解析し、
遺伝子情報をもとに
ポケモンを再生し、創造する技術…。
長年、不可能とされてきたそれを、
ブラッシー帝国の王、
ドサイドンはついに実現させた。
…そして…姿を消した。
消えたドサイドンの代わりを務め、
現女王に就任したのがバンギラス。
バンギラス女王は
プロジェクトGを発足し、
政策を推し進めていく中で
領土拡大のための武力を求めた。
すべては歴史の闇に葬られ、
ブラッシー帝国は先進国に躍り出た。
…そして…今に至る。
「報告いたします。
どうやらヨノワール様のマサラ陥落は
少々のトラブルにより
遅れが生じている模様です。」
「…なるほど。」
ダークライは静かに報告を聞き
不服そうに顔を少し歪める。
「…ヨノワールには、
マサラ陥落後に
それ相応の覚悟をしておけ、とそう伝えろ。」
「…かっ…かしこまりました…。」
ダークライの殺気に恐れおののく報告者
「…それで…南西の国に向かった
ガブリアスはどうなっている?」
「…依然、国境周辺に兵を固め、
膠着状態が続いているようです。
…思っていたよりも、
あの帝国の“プロトタイプ”に
癖があったようで…
今はガブリアスの手を離れ、
洞窟に立てこもったとか…」
…更に、ダークライの殺気が膨れ上がった。
部屋に緊張感が漂う。
「…流石に、
そう簡単に上手くはいかないか…」
ダークライがそう言った瞬間、
殺気が解け、緊張感の糸がぷっつりと切れる。
「…ふむ、しょうがない…。
ヨノワールはそのままの作戦の続行を。
ガブリアスには、
“あれ”の使用を許可する、と
そう伝えろ。」
「…かしこまりました。」
逃げるように部屋から出ていく報告兵
「…白き“潜水者”。
…いや、今はもう黒き“潜水者”か…。」
…次は心して扱え、ガブリアス。
海沿いの洞窟。
国境となっている山脈に
海の潮が絶えずぶつかった影響で出来た
マサラと水の都を結ぶ
国境沿いに広がる自然の関所。
マサラから水の都に行くための陸路は
ここを通るしかなく
中は迷路のように入り組んでおり
絶えず崩落と
新たな道の創造を繰り返していた。
「ここを、抜けるんだな。」
「えぇ…それ以外に手は、残念ながら。」
「…シェイミ様が…ここを…。」
ルカリオ達が洞窟の前で見たのは惨劇だった。
壁には恐らくここを守っていたであろう
水の都の兵士の乾いた血が、
べっとりとこびり付き
中からは潮の匂いをかき消すように
強烈に何かが焼ける匂いが鼻をつく。
「あなたは…ウーラオス様ですか…?」
洞窟内に踏み入ろうとした
ルカリオ達にかけられる声
「…?」
振り返るルカリオ達の目に映ったのは
甲羅などがボロボロになった
ポケモン、カメールだった。
「…あぁ、ここで何があった
どうしてこのような有様に…!」
「ここに…少し前に…
…怪物が…!」
ぐっ…!
満身創痍であったためか、
カメールは顔をしかめ、
その場に倒れるようにうずくまる。
「まずは、傷の手当てを!
話はそれからでいい…」
ルカリオがカメールにそう告げ、
洞窟を一旦離れる。
…傷の手当ては、その日の夜まで続いた。
「…。」
…満点の星が空に輝く夜…
ぱちぱちと音を鳴らしながら
四人の中心で火が燃えている。
「…それで…
何があったのか、話してくれるか。」
「はい…。」
カメールは燃えている火を見ながら
少しずつ話していく…。
「いつもと変わらない
警備の日々を送っている中で…
それは、突然やってきました。
洞窟内を警備していたはずのポケモンと
連絡が取れなくなり…
その様子を見に行ったポケモン達も
消息を絶っていく…。
不審に思った我々は
装備を固め、突入しました。
そして…中で見たのは…
中にいた警備隊の無残に床に転がる姿と…
その上を歩く見たこともないポケモン。」
「…見たこともない…ポケモン…?」
「えぇ…硬い甲羅は我々の攻撃を
いとも簡単に跳ね返し…
そして、鋭い鎌によって…
俺の…仲間たちは…
一人…また一人と…。」
うっ…うぅ…。
カメールは涙を流し始めた
「…地獄…まさに地獄でしたよ…あれは!
我々の称える
洞窟に流れる海の蒼き水が…
仲間の血で赤に染まるなんて…
どうして…どうしてこんなことに…!」
…俺は…俺は…!!
頭を抱え、自分を責めるカメール。
…見ているルカリオ達も、
胸がキリキリと痛んだ。
「…よく、話してくれた。
…あまり自分を責めるな…。」
ウーラオスはカメールの横に座り
その肩を優しく叩く。
「…。」
…カメールは泣き疲れ、
そして元々の疲労もあったのだろう。
ルカリオ達に話をした後、
すぐに眠ってしまった。
「…まさか…こんな事になっていたとは。」
ウーラオスが小さく呟く。
「…。」
あまりの深刻な事態に、
言葉を失っているルカリオ
…あの洞窟を…
イーブイ達は…通って行った…?
…それに…カメールが言った敵の特徴…。
…見たこともない、敵…
ルカリオの両手に、力が入る。
「あのっ…」
「…?
どうかしたか…?ガーディ殿」
「ウーラオスさんに…
話しておきたいことが…。」
「拙者に、でござるか…?」
「はい…ここでは言いにくいので…
場所を変えてもいいですか?」
そう言って、ウーラオスと
場所を離れるガーディ。
…やはり、敵は…帝国の…。
ルカリオは一人その様子を見て確信する。
「うっ…。」
ウーラオスたちの足音で
カメールが目を覚ました。
「…傷は、まだ痛むか…?」
「えっ…?
えぇ…まだ…。」
包帯の上から手で傷口を触り、頷くカメール
「カメール、といったな…。
私はルカリオ。
マサラ大国の…王子だ。」
自己紹介を兼ねて、挨拶をするルカリオ
「…っ!
…やはり、そうでしたか…。」
一瞬驚きはしたものの、
分かっていた、と言わんばかりに
息を吐き、もう一度頷くカメール。
「王子様にお会いできるとは
思いませんでした…が、
やはり…使いの者が
お気になられたのですか…?」
「…?
使い…とは何の事だ?」
使い…。
マサラは内部のごたごたにより
南西の国にここ最近は
使いを送ってはいなかったため
まったく身に覚えがない。
「えっ…?
マサラの宰相様と思われるお方が
自ら南西の国に用がある、と
数人の部下を引き連れて
この洞窟を通って行かれましたが…
てっきり、そのためだと…。」
「…?」
…マサラの宰相…。
「…!」
ザワリ…と胸がざわめいた。
脳裏に浮かぶは、黒い鱗…
ぎらついた瞳…鋭い爪。
―ガブリアス
そして…その後ろにいる…ダークライ。
「王子、さま…?」
「はっ…!
すっ…すまない…」
意識を現実に引き戻し、
頭を小さく振るルカリオ
「…分かった。
とにかく、マサラに向かうといい…
父様なら、事情を話せば
かくまってくれるはずだ。」
「はいっ…ありがとうございます。
王子さまは…これから一体…?」
カメールがルカリオの顔色をうかがいながら
そっと尋ねた。
「…私は、やるべき事が増えた。」
空に浮かぶ遠くの星々を見つめながら…
ルカリオは静かに、力強くそう言った。
…次の日。
「…それでは、お気をつけて。」
「一人で大丈夫でござるか…?
拙者も…良ければマサラに…」
ウーラオスの言葉に首を振るカメール
「…いえ、大丈夫です。
ウーラオス様は洞窟内にいる
怪物の退治をお願いします。
…俺の仲間の…仇を…とってください。」
「…分かった…必ず。」
手を握る二人
…お願いします。
カメールがこちらに手を振り、去っていく。
「…行こう、二人とも…。
南西の国は…帝国だけではない…
ダークライにも狙われている!」
三人の前には、
洞窟の暗闇が広がっていた…。
…洞窟の中は所々に水たまりが出来ていた。
ポチャン…と
その水たまりに水滴が落ちていく。
…静寂。
…あまりにも静かすぎる洞窟内の雰囲気は
まさに、嵐の前の静けさだった。
「…。」
「気をつけろガーディ…
水に濡れて足元が滑りやすい…。」
この三人の旅の中で
パーティの中心で
旅先で冷静に状況を分析し、
最終決定を決めるのがルカリオ、
先導し、皆を導き、
心や体のケアをしていくのがウーラオス。
そしてしんがりを務め
敵の接近などを
いち早く探知するのがガーディ、と
それぞれの得意な項目を生かした
自然な流れが出来ていた。
「…血の匂いが一層濃くなり始めた…。
…。
…ルカリオ殿、ガーディ殿、
警戒を。」
…ウーラオスは三人の中で
戦闘経験が最も多く、旅慣れているため
こういう時に一番に頼れる存在だ。
「ガーディ。
もし…私たちにも
手に負えない敵だったなら…
迷わず洞窟を抜けて、
マサラに戻り援軍を呼んできてほしい。
…これは、一番足の速い
お前にしか頼めない。」
…ルカリオの命令は的確だ…。
…パーティ内で自分がどうするべきか、
どう動くべきかを明確にしてくれる。
「…はい。」
…そして…自分だ。
ガーディはこの旅で、
少しずつ自分の無力さに
打ちひしがれ始めていた。
…自分は…何が出来るだろうか…。
「…。」
前を歩く二人の背中を見ながら
ガーディは静かに思う。
敵を相手にするのはウーラオスの役目だ。
そして、判断するのはルカリオ。
…なら、自分は…?
…自分に出来ることは…一体…。
トンッ…
鼻先に柔らかい毛が当たった。
「うっ…」
小さく唸るルカリオ
「あっ…すみません…。」
ガーディは謝る。
…どうやら考え事に夢中で
前を見ていなかったようだ…
だから、立ち止まったルカリオに
気が付けなかった。
「ガーディ、敵だ。」
「えっ…?」
ルカリオの言葉に驚くガーディ。
ガーディは
ルカリオよりも身長が低いため
顔を見上げる形になるわけで…
「あっ…。」
ガーディの目は
天井に張り付くその姿をようやく捉えた。
茶色い甲羅に覆われた身体…
ウーラオスの持つ松明の光を反射する
殺気に満ちた鋭い両手の鎌…
“見たこともない敵”
この洞窟を血の滴る地獄へと変えた…張本人
…カブトプス、その姿を。
~次回予告~
ルカリオ達は
各々、逸る気持ちを抱えながら、
旅を始めてから出会った初めての脅威、
カブトプスと対峙する。
戦いは激化し、
変化していく状況の中
ガーディの行動が全てを大きく揺るがす!
次回 第二章 帝国の脅威編 その7
お楽しみに!!