では、お楽しみください
「うそだ…」
…あり得ない…。
僕が見た時には、
まだイメージ映像でしか
なかったはずなのに…!
…実現には少なくとも
あと1年はかかると
言われていたはずなのに…
…どうして…どうして…
…こいつは、僕たちの目の前に!!
「ガーディ、早く行け!!
手遅れになる前に…!!!」
「…っ!
はっ…はいっ!!」
混乱し、乱れたガーディの意識を
取り戻させたのはルカリオの怒号だった。
ガーディは己に課せられた任務を果たすべく
洞窟の外へと全力で走る。
…っ!
「させぬっ!!」
カブトプスが獲物を逃がすまいと
ガーディに向かって
攻撃を仕掛けようとしたが
ウーラオス達が前に立ちはだかり
それを止める。
「ウーラオス、行くぞ!!」
「了解!」
…早く、早く行かなきゃ!!
…洞窟の、出口…外…マサラへ!!
出ないと…二人が…!!
一心不乱に己の体力の限界も忘れ、
走り続けるガーディ。
洞窟の出入り口が目前に迫った時
事は起こる。
洞窟の…崩壊である。
「はっ…!!」
前にも述べたが、
この洞窟は脆く、
崩壊と新たな道の形成を繰り返しており
ルカリオ達が潜入した後も
活動を続けていた。
そして、運悪くその崩落が…
ガーディ達の生命線である
出口を、塞いでしまったのである。
ガーディは何とか土砂崩れを
回避することが出来たが
目の前で大岩に阻まれた出入り口に、
絶望を覚えていた。
「嘘だ…うそだ…!!!」
思考を奪われ、追い詰められた
小さき獣が取った行動は
大岩の破壊であった。
その身体を幾度となく大岩にぶつけ、
破壊を試みるガーディ。
だが、大岩はびくともしない
「壊れてよ…
お願いだから…こわれてよ!!」
ガンッ…ガンッ…!!
叫び虚しく、傷が増えていくのは
ガーディの身体の方だった。
「今行かなきゃ、
二人が殺されるんだ!!
僕のせいで…
僕が助けを呼べないせいで
死ぬなんて、嫌なんだよ!!
僕は…僕は…!!」
…行かなきゃいけないんだ!!
だが…大岩は…壊れなかった。
「…ごめんなさい…
本当に…ごめんなさい…。」
大岩がガーディの涙に濡れる
…僕は…無力だ…。
マサラ大国にて
「…なぁ、ガブリアス。
妙な胸騒ぎがするんだ」
「…俺もだ。」
ハッサムとガブリアスが
城下町を一望できるベランダで話をしている。
空は青く澄み渡っているものの
今の二人の目には
どことなく儚げで脆く映った。
「まさか、王子の身に何か危険な事が…?」
「…。」
ハッサムの言葉に、
何も答えないガブリアス
その沈黙が妙にリアルで
現実味を帯びていたことは
言うまでもない。
少し前にこの国を訪れた
隣国の兵士 カメール
彼の話によれば王子達は
化け物を退治するため、臆さずに
国境を抜ける洞窟に侵入したらしい。
…だが、この胸騒ぎが…
もしも本当だとしたら…。
「いや…よそう。
私たちには、
私たちの出来ることをしなくてはな…」
「あぁ…」
二人は視線を空から城下町に移す。
…すでに援軍を王が派遣している。
なら、自分たちに出来ることは
王子なきこの国を守り通すことのみ。
「王子は無事だ。
あの方は…大丈夫だ。」
「絶対に、な。」
ハッサムの言葉を補うように
ガブリアスもまた、呟いた。
王子…どうかご無事で…。
「ふんっ…!!」
ウーラオスの拳は
カブトプスの身体にヒットすることはなく
ただ、空を切る。
反撃として振りぬかれた鎌を
ウーラオスは後ろに飛び、かわした。
「はぁっ…!!」
カブトプスの背後からルカリオが迫る。
「つぅっ…!」
ルカリオの拳は硬い甲羅に阻まれた
衝撃が甲羅から拳に痛みを伴い、跳ね返る。
ぐるりと身体を回転させ、
鎌を横なぎに振るカブトプス。
「ぐっ…!」
ルカリオも反撃をかわし、距離をとった。
「ふぅ…」
構えを崩さず、カブトプスを見つめ
ため息をつくウーラオス。
「…厄介だな…。」
近づいてきたルカリオが話しかけてきた。
「あの身のこなし…
やはり戦闘訓練を十分に受けている…。
帝国の戦力はそこまで…
ガーディ殿から話は聞いていたが…
まさかこれほどまでとは…。」
ウーラオスの額からじんわりと
洞窟の湿気の水分とともに汗が落ちる。
ウーラオス達の話の途中で
カブトプスは近くにあった岩を砕き、
ルカリオ達に破片を飛ばす。
<<ストーンエッジ>>
「…っ!」
高速で飛んできた破片をかわしていく二人
「うっ…!!」
破片がウーラオスの右腕を掠る。
「大丈夫か、ウーラオス?」
「ただのかすり傷…大丈夫でござる…。」
かすり傷にしては、傷が深く
血がポタポタと滴り、毛を赤く染めていた。
「ルカリオ殿は…?」
「…切り傷だ。
深かったが…止血した。
問題はない。」
…今のところは、な。
ルカリオは左足に怪我を負っていた。
やはり、戦闘経験が浅いためであろう…
かなりの傷で、
動きが制限されてしまいそうだった。
「あまり時間をかけては、
いられませぬな。」
「…まったくだ。」
…どうにかして、攻撃を与えなければ…。
「ウーラオス、私に考えがある…。」
「…。」
無言で頷き、
カブトプスを視野に入れながら
催促するウーラオス
「その前に…
奴をどれぐらい足止めできる…?」
「…どれぐらいの時間が必要でござるか?」
ウーラオスの言葉に、
小さく笑うルカリオ。
…本当に、頼もしい存在だと改めて思った。
「二分、稼いでくれ。」
「余裕でござるっ…!!」
言って、勢いよく飛び出していく。
後ろでルカリオは大技の準備をする。
少しずつ波動をため…
巨大な気の塊を形成していく…。
目的は定まった…。
なら…!
迷いはない!!
正直、ウーラオスの実力から考えて
この破壊人形を止める事は容易だったはずだ。
だが、ウーラオスがそれを出来なかったのは
単に冷静な判断力が
決定的に欠如していたからである。
自国の兵士達の亡骸の上を歩く死神
その事実がウーラオスの無意識領域のうちに
焦りと恐怖心を植え付け、
更にカメールとの約束を交わしたことにより
彼の中では、
怒りの炎が燃え盛っている。
そんな精神状態で
冷静さを保つなど、まず不可能だった。
「ぐぅっ…!!」
だからこそ、ウーラオスは今
痛みを知らない鬼神へとなり果てた。
己の内なる魂の鼓動に導かれるままに
カブトプスに攻撃を与え、
逆に与えられていく…。
血が幾度となく飛び交い
鍛え上げたウーラオスの身体を
鎌が切り裂いていく。
そして、約束の二分に到達した
「十分貯まった!!
ウーラオス!!」
…どいてくれ、退避だ!!
「…っ!」
ルカリオの言葉にウーラオスが振り返り、
カブトプスの攻撃の合間の一瞬をつき
横に退避する。
ルカリオとカブトプスの間がひらけた
…いける!
「うぉおおああああ…!!」
<<はどうだん>>
叫びとともに勢いよく両腕を前に突き出し、
たまり切った全力の攻撃を解き放つルカリオ
ドンッという重い音ともに
青色の閃光が空を切りカブトプスに迫る。
ルカリオの狙いは正確だった。
相手は逃げることをせず、
直撃は避けられない状況。
…勝利、かと思われた…。
が、しかし…。
ルカリオ達は戦闘に必死で忘れていた。
カメールの言葉…
硬い甲羅によって
全ての攻撃が跳ね返されてしまった、と。
…っ!
<<かたくなる>>
「なっ…なにっ…!?」
カブトプスの横で一部始終を見ていた
ウーラオスが声を上げる。
カブトプスはルカリオのはどうだんが迫る中
丸まるように姿勢を低くし、
攻撃が比較的柔らかい
内側の胴体に当たらぬよう
姿勢を変えていた。
それにより、はどうだんは
カブトプスの上層
硬い甲羅に当たることとなり
威力が弱くなる。
勿論、カブトプス自体には
かなりのダメージがあったが、
意識を失い、
直ちに戦闘不能になる事はなかった。
カブトプスの身体、
表面の甲羅の繋ぎ目から、
ギシギシと音を立てて血が滴る。
ボロッ…と、はどうだんの命中により
ひび割れた表面の甲羅が音を立てて砕けた。
洞窟内に軽い音が響き渡る…
「…っ!」
刹那
…信じられない速度で、
カブトプスがルカリオに迫った。
「ルカリオ殿っ…危ない!!」
この時、ウーラオスは
直ちには動けなかった。
先ほどの時間稼ぎの際
無茶な戦いをしたことによって
ウーラオスの身体は
傷つきすぎていたからだ。
今のウーラオスに出来るのは
早急な体力の回復と
ルカリオの身を案じ、見守る事のみ。
何人ものポケモンを仕留めてきた
死神の鎌がルカリオに迫る。
「…っ!!」
<<でんこうせっか>>
カブトプスの超高速の連撃の前に
ルカリオは速度を上げ応戦するものの、
為す術を持たない。
ましてや大技を繰り出した直後なので
体力もろくに回復してはいない。
だが荒い息を吐き出しながら
死神の攻撃に何とか喰らいつくルカリオ
一応急所を外してはいるものの、
鋭い斬撃のもとに毛皮が裂け、
痛みとともに鮮血が地を走る。
じりじりと回復も出来ずに減っていく体力と
蓄積していくダメージ。
…しかし…この絶体絶命の状況の中で
ルカリオは更なる進化を遂げようとしていた…。
「…ルカリオ…殿…!」
…動体視力、反応速度の向上…
そう、猛る魂の波動の覚醒である。
瀕死に近づくごとに、
ルカリオの身体能力は
劇的なまでの向上を遂げていた。
…みえる…。
…奴の攻撃が…死角からの連撃が…
…避けられる…
…追いつける!!
ガァッ…!!
「…させるかっ!!」
カブトプスもルカリオの進化を
無意識のうちに感じ取ったのか、
それとも単に体力の限界が近づいたのか、
両腕を振り上げ
勢いよく両側から振り下ろし、
殺意を込めた一撃で決めにかかる。
それをルカリオは鎌の根元…
腕の関節部分を掴むことによってくい止めた。
手負いのカブトプスの力は…
もはや限界を超え、怪力と化していた。
今ルカリオが、筋肉の一筋でも気を緩めれば
たちまち斬撃が命を刈り取るだろう。
「…しっ…死ぬわけには…いかないんだ!!」
…こんなところで!!
カブトプスの顔を睨みつけ
全身に力を込めて攻撃を止めているルカリオ
…けれども、
世界はそんなルカリオを更に追い詰める。
ドッ…!!
「はうぐっ…!!」
その瞬間、見えない一撃が
ルカリオの腹を直撃した。
カブトプスのメガトンキックである。
両腕に力を込めて
踏ん張っていたルカリオには
腹への攻撃を止める術はない。
拮抗した力の中で、
その抵抗力を奪う一撃が
容赦なくルカリオを襲う。
腹に受けた痛みによって
バランスを崩した
ルカリオの手は、力を失う。
直後
ルカリオの大量の鮮血が
両肩から飛び出した。
「はっ…!!」
激しい痛みによって、
意識を失いかけるルカリオ。
後ろに倒れかけたその身体を
再びメガトンキックが襲う。
次にルカリオが見たのは
洞窟の天井だった。
「ルっ…ルカリオ殿…!!」
ウーラオスの、叫び声と。
やけに生温かな…
自分自身の身体から
流れ落ちる血を感じて。
混濁した意識の中で…
ルカリオが見たのは…
「がっ…がー…でぃ…。」
絶望したように、ルカリオを見つめる
洞窟から出たはずの、ガーディの姿だった。
「ル…ルカリオさん…!!」
己の無力に打ちひしがれ、
情けなく思いながらも帰ってきたガーディ。
「ガッ…ガーディ、殿…」
「…っ!」
…ウーラオスさんまで…!!
その目が捉えたのは
今まで背中しか見えなかった二人の窮地
――――――!
目を通し、小さな体に稲妻のように
激震が走る。
ガーディの中で弱弱しく消えかけていた炎
その炎が、それを見て、今再び燃え上がる。
…自分は弱い
…まして相手は二人をここまで追い込んだ相手…
その事実を一瞬忘れさせる程
ガーディは極限まで集中していた。
毛の一本一本が逆立ち…
脚が…尻尾が…
緊張し、小刻みに震える…。
それらを断ち切るように。
キッ…!と睨みを利かせ
全身から今までの彼とは
思えぬ程の殺気を放つガーディ
「お前は…僕がやる!!」
「や…めろ…がーでぃ…」
「いかんっ…ガーディ殿!!」
二人の制止も聞かずに。
「――――――!!」
けたたましい爆音の咆哮を上げながら。
ガーディは今、赤き矢となって
カブトプスに特攻した。
~次回予告~
窮地に追い詰められる三人。
ルカリオは鎌に倒れ、
いまだウーラオスの回復も為せない。
残るはガーディ、ただ一人。
果たして、
その牙はカブトプスに届くのか?
次回 第二章 帝国の脅威編 その8
お楽しみに!!