では、お楽しみください
ルカリオ、ウーラオスに比べ
ガーディの位置は圧倒的に低い。
それは二足歩行の二人とは違い、
四足歩行である
ガーディの最大の利点であった。
つい先程まで、高い姿勢の標的を
相手取っていたカブトプスは
急激に変わった
敵の体勢の変化にはついていけない。
結果として、カブトプスの鎌は
ガーディの頭上の空気を
切り裂くばかりである。
上からの突き刺し攻撃もあるだろうが
それは鎌が地面に刺さってしまったり、
振り上げる時間などを考えても
他の攻撃に比べて
カブトプスに大きな隙を生み、
相手の反撃を許す
きっかけとなってしまうだろう。
まさに相性抜群…
ガーディにとっては
またとない活躍の場であった。
けれども、やはり自らに自信を無くし
まだこういう戦いにルカリオ以上に
慣れていないガーディの攻撃には
無駄な隙が大きい…。
それによって、
瀕死の状態で
攻撃を繰り出し続けている
カブトプスよりも
それをかわし、
致命傷にならない反撃を
与えているガーディの方が
息切れを起こしているという
奇妙な現象が起こっていた。
今はレベルの差が
相性によって見えてはいないが
戦えば戦う程、
体力の消耗が激しいガーディが
劣勢になっていくであろう事は
すぐに皆が理解出来た。
…このままじゃ…まずい…。
それに、徐々にではあるが
カブトプスの鎌が
ガーディを捉え始めている。
スッ…!
「…っ!」
今の一撃もそうだ…
ガーディの毛を掠る一撃
その一撃に、ガーディは戦慄していた。
…もたもたしてはいられない…
…でも…。
重症のルカリオ…
そして徐々に不利になっていく戦闘…
ガーディの心の余裕をゴリゴリと
削ってくる要因達。
フゥー!
フゥー!!
「ゲフッ…ガフッ…!!」
息を整えないまま戦闘をしたせいか…
…咳が止まらない…。
早く呼吸を整えないと…!!
足元を見る目
床に映る影を捉えた。
すぐさま視線を移すと
カブトプスの攻撃が迫ってきていた
…しまった、攻撃が…!!
…避けないと!
咄嗟の判断で
横に避けようとしたガーディ
だが、次の瞬間
ガーディの足は床を掴み損ねた。
「えっ…」
バランスを崩し、床に倒れこむ
ガーディの居る位置の床には
今まで戦っていたウーラオス、
そしてルカリオの血が大量についていた。
まだ乾ききっていないその血に、
足を取られたのである。
なんとか転倒した衝撃で
鎌は避けられたものの
カブトプスの蹴りまでは防げなかった。
「…っ!!」
キャインッ…!!
身体に横から受けた重い衝撃によって
ゴロゴロと床を転がる。
すぐに体制を立て直したものの
ガーディの目に映ったのは
視界全体に広がる巨大な死神の姿だった。
…駄目だ…回避が間に合わない…!
…殺られる!!
ガーディは死を覚悟し、目を閉じた
「…っ!」
ガーディとカブトプスの間に割って入る物体
その物体はカブトプスの鎌を受け止め、
貫かれる。
吹き飛ぶ液体
それがガーディの顔に当たり、
ようやくそこでガーディは目を開けた。
「うっ…ウーラオスさんっ!!」
「だっ…大丈夫でござるか…
ガーディ殿…!」
割って入った物体の正体は
ウーラオスの左手だった。
鎌に貫かれた部分から血が流れ
鎌を伝い地面に落ちている。
「ぐっ…ぐぅおおおああああ!!」
そこからウーラオスは
右から来たカブトプスの鎌での反撃を
ルカリオがしたように受け止め、
下に軌道を逸らし右足で鎌を踏みつけて
これ以上の連撃を阻止し、
全力を込めて右拳を放つ。
「はぁっ!!」
その拳での一撃は、
カブトプスの右の鎌を打ち砕いた。
左手を貫いていた右の鎌が砕け、
左手が自由になったと同時
痛む左手でカブトプスの右腕を拘束し
胴をひねって力を込め
カブトプスの胴体に裏拳を放つ。
その強烈な一撃は
しっかりと
カブトプスの腹の中心に食い込んでいた。
ウーラオスは攻撃の手を緩めず、
身体を回転させ、
カブトプスを大きく後ろに吹き飛ばす。
「拙者の左手はくれてやる…
だが、お前の右の武器はもらったぞ…!」
ここで、ウーラオスは
左手に突き刺さったままの
鎌の先端部分を無理やり引き抜く。
…本来は血が余計に出たり、
抜くときに激痛が身体に走ったり、
傷口が治りにくくなるなどのため
してはいけない行為であったが
現状を考えてウーラオスは
これがベストであると信じていた。
カランッ…と床に
ウーラオスの血に染まった鎌が落ち、
また軽い音が響く。
「ふぅ…ガーディ殿…
奴を倒す手伝いを!!」
…でも、決して無茶はしないように!
「はいっ…!!」
―!!
カブトプスが最後に取った手段
それは逃走だった。
己に迫る活動限界と
目の前の二人の不屈の闘志に恐れをなし
永らく主を失った怪物は今
―戦士たちに背を向けた。
「待て!!」
最初にそう、声を発したのは
ウーラオスだった。
「…っ!?」
走りだそうとしたウーラオスの視界が
グラリと揺れ、同時に一瞬足元がふらつく。
カブトプスの後を追おうとするが
血を流しすぎたせいか、
スピードにかけてしまう。
このままカブトプスが逃げるのが早いか…。
そう思われていたが…
「お前は、絶対に逃がさない!!」
ガーディがいつの間にか
カブトプスの前に躍り出ていた。
だが、カブトプスにとっては
目の前のガーディは脅威ではなく
ただの目障りな邪魔でしかない…。
ガァッ!!
走るスピードを一切殺さずに
カブトプスは
邪魔だと言わんばかりに
ガーディに向かって鎌を振りかぶる
「もうそれは、僕には通用しない!!」
ガーディは
カブトプスの攻撃を見切ることに成功した。
ガーディにとってもまた
今のカブトプスは
恐れるに足らない存在だった。
「今までのお返しだ!!」
そのまま突撃し、進行方向と反対の力で
カブトプスを押し返す。
そして、ウーラオスが
ガーディの元に到着し並び立つ。
もうカブトプスには逃げ場はない
「ガーディ、ウーラオス!!」
その時、洞窟内に声が響く。
「…っ!?」
二人が向いた先…
そこには血を流しながらも
最後の一撃…はどうだんをため切った
ルカリオが立っていた。
今までの二人の戦い
その全てが
この瞬間のための隙となっていたのだ
「ガーディ殿!!」
「はいっ…!!」
ウーラオスの呼びかけにガーディは頷き
行動を開始する。
二人はカブトプスの攻撃をかわし
ボロボロの硬い甲羅に覆われた
背中側をこちら側に向けさせる。
「はぁっ!!」
三人の声が被る。
ウーラオスはカブトプスが
鎌で攻撃を受け止めることが出来ないように
両腕を掴んで次なる攻撃の直前まで固定し、
ガーディが走りながら身体を回転させ
カブトプスの背中に全身を使って
強力な蹴りを繰り出し、
前に吹き飛ばす…。
ルカリオが反対側からはどうだんを放ち
その弾丸はまっすぐにカブトプスに向かう。
「これで…最後だ…!!」
カッ…!!
直後、目を覆いたくなるほどの眩い光が
爆発とともに発生した。
…。
三人の見つめる先…
煙が晴れたその先で
カブトプスはまだ立っていた。
多くの犠牲者を出した鎌に
大きくヒビが入り、
音を立てて砕ける…
カブトプスの目はもう光を失っており
そのまま抵抗することもなく
地面に倒れ伏した。
だが…まだ死んではいない。
「…。」
先程とは一転し、
静寂に包まれる洞窟内の戦場。
「…少し…無茶をしすぎたか…。」
ルカリオが左手で右腕を抑えながら
その場にへたり込む。
カブトプスから受けた傷の
傷口からの出血は止まったものの
激痛は治まる気配はなかった。
「ルカリオ殿!
大丈夫でござるか…?」
ウーラオスとガーディが近づいてくる。
「あっ…あぁ…何とか…。
でも、すまない…
一人で…まだ歩けそうにない…。」
ルカリオがそう言った直後。
ピキッ…!
「…っ!?」
洞窟のその空間の壁に大きく亀裂が走る
ゴゴゴゴゴゴッ…!!
空間全体を震わせる程の地震が起き
天井から小さな岩が
床に向かって落ち始めた。
「いかんっ…!
出口はもう、目の前でござる…!!
早くこの空間から脱出を…!」
ウーラオスがルカリオに手を貸し
立ち上がる。
「ぼっ…僕もっ…!!」
ガーディもまた
ルカリオに手を貸そうとしたが
そこでルカリオがそれを止めた。
「待ってくれ、ガーディ!
お前は…あいつを頼む!!」
「…っ!」
ルカリオが見つめる先には
倒れたカブトプスがいた。
「でっ…でもっ…!!」
「まだあいつは死んではいない…
私はあいつを助けてやりたいんだ。
たとえ敵だったとしても…
死んでしまいそうな者を…
目の前の助けられる命を
放っておくわけにはいかない!」
「…。」
崩壊を続ける洞窟の中で…
ガーディはルカリオの頼みに…
小さく首を振る。
「ルカリオ殿…急ぎましょう!!」
ウーラオスが天井を一度見上げ、
ルカリオを出口へと催促する
「頼むっ…!!
あいつを今助けられるのは…
お前しかいないんだ!!
全ての責任は私が取る!!
だからお願いだ、ガーディ!!」
「…。」
必死に頼むルカリオの前に。
一瞬、躊躇いの表情を見せた後
ガーディは崩壊し、
岩なだれを起こし続ける洞窟を戻った。
そして、ルカリオ達は脱出する。
ガーディは洞窟の中から
カブトプスを連れて戻ってきた。
全てが終わった後
辺りには再び静寂が訪れ
洞窟を抜けたルカリオ達の
目の前に現れた水平線の先では
静かに夕日がその姿を消そうとしていた…。
その日の夜…
「くぅ…。」
ガーディは食事を済ませると
寝る前の用事を手早く済ませ、
すぐに眠りについてしまった。
…やはり、相当に疲れていたのだろう…
足を地面に敷かれた布の上に
投げ出したような無気力な体勢で
静かに寝息を立てている。
「…。」
それを見つめる二人。
そして、少し離れた所に
寝かされているのは
治療を受け終わったカブトプスだ。
今はピクリとも動いていないが
死んだわけではなく、
手遅れだったわけでもない。
そのうち回復し、
歩けるようになるだろう…
というのがウーラオスの意見だった。
「ルカリオ殿…
どうして…
奴を助けたのでござるか…?」
ガーディを起こさないように
声を落としながら
ウーラオスがルカリオに話しかける。
「…。」
静かに、一旦星を見上げるルカリオ
「私は…
目の前で助けられたはずの命を…
一度、見捨ててしまったことがある…。」
ルカリオは続けた
「その時から…私は
助けられる命が目の前にあるのなら
全て…敵味方関係なく助けよう、と
そう考えている。
…勿論、お人好しにも程があると
蔑まれるばかりだろうが…
でも、私は…
私が殺してしまったも同然の
その命に対して
償いをしなければならないんだ…。
王子である前に、人として生きたい…。
私は、そう思ったから助けさせたんだよ。」
火を見つめていた視線をウーラオスに向ける。
弱弱しくも、逞しい正義の光が
この時のルカリオの目には
静かに宿っていた。
「…ウーラオス
これは…ガーディにも言った事だが…
私の勝手に付き合ってくれてありがとう。
…いくらでも、罵ってくれて構わない。
…私は、それに反抗はしない。
ただ…あの怪我人が
反抗や抵抗をしない限りは
思うところもあるだろうが…
命までは奪わないでやってほしい。」
…お願いだ。
「…ルカリオ殿…
いえ…ルカリオ王子…。」
「拙者などが、
言えた身ではありませぬが…
ご立派な…考えであると…。
感動いたしました…。」
今度は、ウーラオスが
ルカリオに対して頭を下げていた。
その後、ルカリオとウーラオスは
少しの間お互いの思い出話に華を咲かせる。
「さて…この先の平原を抜ければ
ついに拙者の国、水の都でござる…。
明日も早い…
それと傷の回復のために…
ルカリオ殿、見張りは拙者が
早めの睡眠を…。」
「あぁ…分かった…
だがウーラオス、
お前も休んだ方がいい。
見張りは
やはり交代制の方がいいだろう…。
またある程度してから起こしてくれ。
私が次は、ガーディを起こす…
それまで、休憩だ。」
「…了解。」
ウーラオスの方に視界を向け、頷く。
そして、敷かれた
布の上に横になるルカリオ
枕もないが…しょうがないだろう。
また、視界には星空が映る
視界全体に映るのは、満点の星々達…
それらを見ながら。
…一体…どこまで行ってしまったんだ…
…ゾロア…シェイミ姫…
…
……
…イーブイ…。
言葉に出さない思いを抱え
ルカリオは目を閉じ、
ゆっくりと眠りに落ちていった…。
~次回予告~
視点はシェイミ達に移る。
ルカリオ達が
壮絶な戦いを繰り広げていた中
シェイミ達もまた別の場所で
苦戦を強いられていたのだった
次回 第二章 帝国の脅威編 その9
お楽しみに!!