では、お楽しみください。
その森は、周囲の地形の影響で
昼間、たとえ晴れていたとしても
あまり日がささない。
湿気に覆われている森では霧が多発し
森全体が近寄りがたい
怪しげな雰囲気を帯びていた。
…そして、薄暗いこの森は、
この世のものではない存在…
幽霊が出るともっぱらの噂だった。
マサラ大国北部、黒の森。
ここに来るのは、よっぽどの物好きか
トレジャーズキャンプを目指しているものの、
道を間違えた者のどちらかだ。
「ほっ…ほらっ…!
ミーを、守るデス!!
男の子なら、ちゃんと先導するデス!!」
ほら…はやく行くデス!!
「後ろからおっ…押すなよ!!
オイラだって怖いんだぞ!!」
やめっ…!
分かった、分かったから押すなって!!
「…不気味ですね…この森。」
行方不明者などが、続出する中で…
この三人は…紛れもなく後者である。
国を飛び出して来て、早数日…
とりあえず情報収集の為に
北部のトレジャーズキャンプを目指そうと
なったはいいものの。
「ミーに任せるデス!!」
…。
シェイミの勘というよく分からないものに
振り回され続け、
あっちに行ったり…こっちに行ったり…。
そして、三人がたどり着いたのが
ここ、というわけだ。
「この道で、本当に合ってるのか…
オイラ、心配だぞ…。」
…絶対、大丈夫なんだ…よな…?
「絶対に合ってるデス!!
…きっと。」
ガサッ…!
ひぃっ…!!
カァーカァー!!
…っ!!
薄暗い森の様子にビクビクしながら
躊躇いがちに進んでいくゾロア
そして、その後ろにぴったりと
張り付くようにして
傍を離れないシェイミ。
二人の身体は縮こまり、
小さな音にも
敏感に反応しながら、進んでいる。
「…ここが…王子様の言っていた…。」
逆にイーブイは、
キョロキョロとはしながらも
別に怖がる様子はなく、
歩きながら森の様子を窺っていた。
[…なぁ、見たか?]
[…見た見た…また3人のお客さん…
迷ったのかなぁ…
それとも望んできたのかなぁ…?]
…どっちにしても…。
[…まずはボスに報告…
その後…いつも通り…
冥界(アジト)へごあんなぁ~い!!]
紫の影と、
いびつな…どこかで見たことがあるような
ポケモンのような影
そして、パタパタと飛ぶ
小さなコウモリのような影が
ニヘラと闇の中で、笑みを浮かべていた。
「はぁぁ…。」
一方、黒の森の別方向にて…
パタパタと森の中を飛びながら
ため息をつくポケモン…ペラップ
「親方様はまた勝手に
どこかに行っちゃうんだから…
もう、めんどくさいなぁ…
何故私がこんな事を…ほんとにもう…」
ブツブツ…
「いくらこの森に誘拐犯罪者…
ドガース、スカタンク、ズバット達が
いるとしたとしても…
親方様一人で十分とはいえ
勝手な行動は慎んでほしいもんだよ…」
ほんとにもう…。
ペラップの後ろから近づく二つの影…
「で…?
だぁれが、一人で充分だって…?」
「…っ!?」
急いでペラップは振り返る…
「スッ…スカタンクっ…!
それにドガースも…!!」
「よおよお…黙って聞いてりゃ…
随分と勝手なことを
言ってくれるじゃねぇか…?」
あぁ…?
「それにこいつ…仕えるべき主人の
悪態までついてましたよ…!!」
どうしようもない奴ですよね…!
ペラップにメンチを切るスカタンク
そしてその横で
ヘラヘラと笑っているドガース。
「…おっ…お前ら…!
おっ…親方様を待つ必要などない…!
わっ…私だけで、倒してやる…!!
お縄につけ…!!」
字面だけでも十分分かるとは思うが、
構えてはいるものの、腰が引けて
更に小さく震えているペラップだった…
「…へっ…。
なら…
…やってみろよ…!」
スカタンク達はペラップの言葉に
全く怯えていない
平然とペラップを睨みつけている
「こっ…後悔するなよ…!!」
わっ…私だって…!!
トウッ…!
…。
ポカッ…。
…
……
………。
ノーダメージ。
振るわれたペラップの軽い攻撃は
スカタンクにダメージすら与えられない。
「…お前…なめてんのか…?」
「…っ!!
あっ…あぁっ…!」
分かりきっていたとはいえ
どうしようもない状況に戦慄するペラップ
「ドガース…」
「はいっ…」
「…やれ。」
「はい。」
「うっ…うわぁああああ…っ!!」
ペラップは叫びながら
敵前逃亡をする。
「…っ!?
逃げんなっ…!!
追え、ドガース!!」
「了解です、アニキ…!!」
待て!!
「親方様…
おやかたさまぁああああ…!!」
どこにいったんですかぁああああ…!!
「へっ…けったいな叫び声まで上げて…
何が後悔するなよ、だ。」
ドガースとペラップの後ろ姿を見ながら
呟くスカタンク。
「ボス~!」
「…?
…おぉ…お前らか…
どうした?」
そこに、また三匹のポケモンが現れる。
ズバット、ゲンガー、そしてミミッキュ。
ゲンガーとミミッキュは
元々この森の支配者だったものの
スカタンクと決闘ののちに敗北
今はスカタンクがこの森のボスだ。
「またこの森に来客です!!
三人のポケモンが入ってきました!」
ズバットが報告する。
「今回の奴は弱そうで
それでも生きがよさそうだぜ…!
脅かしがいがあるってもんさ」
ゲンガーが笑い、ミミッキュが頷く
「よし、なら引き続き
今この森に入ってきてる
探検隊の隊長に警戒しつつ
その三人を捕まえろ!」
「了解っ…!」
そう言って、
ゲンガーとミミッキュは
森の奥へと入っていく。
「あれっ…そう言えば…
ドガースはどこへ…?」
「あぁ…ドガースなら雑魚狩りだ。
心配しなくても、
すぐに帰ってくると思うぞ。」
「…了解、んじゃぁ、アニキ
アジトに戻りましょうぜ」
「そうすっか…」
ぎゃぁああああ…!
「…?」
「…わっ…!
危ないから
急に止まらないでほしいデス!」
「今…叫び声みたいな…
声が聞こえたような…?」
「…きっと気のせいデス!
いいから急ぐのデス!
こんな場所からは、
ミーは一刻も早く離れたいデス!」
ほらっ…!
早く行くデス…!!
「おっ…おうっ…!
分かった。」
シェイミの横暴に
少しだけ腹が立ったゾロアだったが
一刻も早くここから離れたい気持ちは
一緒だったのでその怒りを抑える事にした。
「…?
待って、二人とも!!」
「ふゃうっ…!?
きゅっ…急に大きな声は
やめてほしいデ…!!」
イーブイが叫んだことに
振り返りながら頬を膨らませるシェイミ
ガサガサッ…
ひぃっ…!?
茂みが揺れ…
そして…
「邪魔だ、どけぇ!!」
「ひっ…ぎゃぁああああああ!!」
木のようなポケモン…
オーロットが飛び出してきた。
飛び出し際の剣幕にシェイミ達は驚き
声を上げる
「まてまてぇ~!」
オーロットの背後から
小さな声が聞こえてきた。
「げっ…!
やばいっ…!!」
なにか慌てた様子でオーロットは
この場から走り去っていく。
「一体…なんだったの…?」
イーブイが首を傾げる。
…確かにこれは王子様が
恐がるのも頷ける…。
と心の中でそう思った。
「おっ…おいっ…シェイミ!!
急に寄り掛かるなよ!
重い…重いってば…!!
…って、あれ…?
シェイミ…?」
「…。」
シェイミは答えることなく
ただ白目をむいている。
…どうやら気絶してしまったようだ。
「ちょっ…シェイミ!!
なんで気絶してるんだよ!
起きろっ…起きろってば!!」
「姫様っ…?
大丈夫ですか…?」
「あれっ…?
君たち…ここで何してるの~?」
「…っ!?」
先程オーロットが出てきた方角から
また新たにポケモンが現れる。
「さっきポケモンが
すごい剣幕で出てきて…
それに驚いた仲間が気絶しちゃって…」
事情を説明するゾロア
「ポケモンって…
もしかしてオーロットだったりする?」
「そうです。」
今度はその問いにイーブイが答えた。
横でシェイミを支えながら頷くゾロア
「あ~らら…
どうやらボクのせいで
驚かせちゃったみたいだね…。」
ちょっと、反省かな…
と苦笑いを浮かべる。
「一体何が…?」
「ん…?
ボクが彼をスカウトしようとしたんだよ。
珍しいし…カッコよかったからね
それで、声をかけたら
突然相手がボクを襲ってきて
バトルになって…
返り討ちにして
仲間に入ってもらおうって
近づいたら彼、
逃げ出しちゃってさぁ…」
だから、追いかけてたんだよ。
「…そうなんですか…。」
何故かイーブイには、
目の前のポケモンが
只者ではないような…
そんな予感がした。
「あぁ…そうだったそうだった…
仲間を気絶させちゃった
お詫びをしなくちゃね…
この先にひらけた広場があるから
そこでその子の目が覚めるまで
待った方がいいと思うよ
今から案内するよ」
「あっ…ありがとうございます…。
あのっ…
でも、失礼ですがお名前は…?」
頭を下げ、お礼を言うイーブイ。
しかし、不気味な森で
急に現れたこの人物に疑いがあったため、
とりあえず、名前を聞くことにした。
「あっ…そうだね!
自己紹介をしなくちゃね。」
その人物…
飄々とした雰囲気を漂わせている
ピンク色のポケモン…
プクリンは笑顔で二人に宣言する。
「ボクらはとある所では
ちょっと有名な探検隊さ。
よろしくね!!
改めまして、ボクはプクリンだよ!!」
一方その頃…
「…。
ふぅ…」
「…失礼いたします。
ガブリアス殿…
見張りからの連絡によりますと
どうやら
我々が通ってきた海岸の洞窟が
崩落したようです。
これで、しばらくは
マサラへの連絡の通行手段は
完全に途絶えたかと…。」
水の都領内…
見渡す限りの大平原に
陣を構えるガブリアスのもとに
黒いポケモン…ハブネイクが
床を無音で這いながら報告に現れる。
「…へぇ…なるほど。」
ガブリアスは、その報告を流した。
いずれそうなる事が、
ガブリアスには分かっていたからだ。
ガブリアスは
単に扱いにくかったが故に
カブトプスを手放したわけではない。
ガブリアスの真の目的は
あの洞窟の封印…
マサラへの連絡手段の完全な遮断…
そして。
「なら逆に考えれば、だ。
あの“化け物”を倒して
水の都に入ってきた奴がいる、
という事になるな。
まぁ…相打ちかもしれないが。」
そう。
それでも乗り越えて来るであろう
強敵の…そしてその背後にいる
マサラ軍の早期発見である。
あの洞窟は
構造上から見ても崩れやすく、
それに洞窟というだけあって狭い。
中で派手に暴れようものなら
たちまち岩なだれが襲うだろう。
であるとして。
いくら歴戦の手練れであったとしても
少数でしか攻め入って来れないはず。
更に洞窟の内側には
殺人目的の生物兵器がいるという二段構え。
それを乗り越えてくるという事は
よほどの戦士であると見てまず間違いない…。
「…それで…
”こっち側”に
入ってきた奴はいるのか?」
「はい…三人ほどが…。」
「…三人?」
「はい…ですが、
誰もが重傷を負っており、
動けるものが
実質一人だけであるとの…報告が」
「…ん、あぁいや
俺が聞きたいのはそういう話じゃない。
その三人の見た目は、分かるか?」
「少々お待ちください…」
その部下ポケモンは
そう言うと、一瞬で姿が溶ける。
カランッ…と音を立ててボールが床に落ち
黒ずんだ液体のようなものが床を漂っていた。
「あくまでも、
イメージでしかありませんが…」
そう言うが早いか。
その黒ずんだ液体は姿を変え、
ウーラオス、ガーディの姿を順に形作った。
「犬…は、見覚えがないな…誰だ?
まぁ…警戒しておくか…。
だが、最初の奴は知っている…
水の都の元将軍 ウーラオス、か。
祖国の為に戻ってきた、
という口だろうな…。」
なるほど…確かにそれなら
カブトプスがやられたのも頷ける…
「そして…」
最後に黒い液体はルカリオの姿を
ガブリアスの前に現した。
「おぉ…これはこれは…」
ニヤリ、とガブリアスが
不気味な笑みを浮かべる
「まさか、王子自らが参戦してくるとは…
面白い…
水の都の滅亡を阻止しよう、
というつもりだな…?」
…さて、出来るかな…それは?
「いずれ、王子達はここに来るんだろ…?」
黒い液体は再びボールを飲み込み、
数秒の時を得て、部下の姿へと変わった。
「はい…現在は傷の療養中とみられますが
いずれ必ず…。」
「…せっかくの王子様の来訪なんだ…
手厚いおもてなしをしてやる。」
「では…もう少しここで
お待ちになりますか…?」
「そうだな…。
まだダークライ様の狙いの精霊の一人…
アグノムの居場所も割れてねぇし…
俺たちの中に紛れ込んだ
水の都の“ネズミ”が分からねぇ…
それに…」
「…?」
「マサラの王子がここに来たとなれば…
その“ネズミ”も
動かざるを得ないだろうさ…
どうせ俺たちが
マサラに関連する者ではなく
水の都の敵であることは…
初めからバレてるんだろうしな…。」
その為の、“ネズミ”だろう…
「まぁ今は…気長に待とうや…
事態が急に動き出す…その時までな。」
間話 ~勇ある者の試練~ その1
マサラの東…
波打ち際。
目の前に広がる大海、
そして大海に抱かれた三つの島を
一望出来るこの場所に
訪れた二人のポケモン
「…この先に、
俺達の時代で
手を貸してもらったポケモン…
ルギア様が居る。」
「肝心なのは…
ちゃんとこの時間軸でも
力を貸してもらえるか、という事ね。」
「それについては、正直賭けだが…
まぁ、本人に会って
掛け合ってみるしかないだろうな…。」
ジュプトルと、セレヴィだった。
「ねぇ…ジュプトル…
あなたに一つ…
言っておきたいことがあるの…。」
「…どうした…?
改まって…。」
「この時代は…いいえ、この世界は…
時の神ディアルガだけでなく、
空間の神パルキアの影響を受けて
開かれたワープトンネルを
抜けた先の世界…。
私たちの世界とは違うもの…
一種の
パラレルワールドのようなものだと思うの。」
「…?」
セレヴィの言っている意味が分からず、
困惑の表情をしながら
首を傾げるジュプトル
「つまり…いくら
この世界を変えたとしても
私たちの時代には
何の影響もなくて…
この世界は、私たちの時代と
同じ未来をたどる可能性は
限りなく低いと思うの。」
まず、世界自体が違うから…
「…なるほど、な。」
ようやく話を少しだけ理解し
そう、声をこぼす。
「…でも、この世界には
俺たちの世界のダークライがいる。
奴がいる限り、
俺たちの世界と
同じ未来を辿らされかねない。
だからこそ、俺たちが止めるんだ。」
…そうだろ、セレヴィ?
「えぇ…そうね。」
「それに…ルギア様に
余計、この世界を守る為に
力を貸してもらう理由が出来た…
この世界の事については…
この世界の住人にも責任はあるはずだ。
…さあ、行こう。
伝承された祠は
もう、すぐそこのはずだ」
再びジュプトル達は歩き出した。
静かに波は一度…二度…と
大地に押し寄せては戻る。
その音を
耳に入れながら、二人は歩いていた。
「…?」
その波打ち際に
倒れている小さな人影が一つ…。
「ジュプトル…あれっ…!」
「あぁ…分かってる!」
ジュプトルはその影に
死人ではないか…と
疑いながら近づいた。
…まだ息がある。
「おいっ…!
大丈夫か…」
それが分かった時、
すぐに声をかけた。
「…海に…危険が…。
早く…助けを…」
まるでうわ言のように呟いている
その青いポケモン。
ジュプトル達には
まだ見たことのないポケモンだった。
「なぁ、セレヴィ
この子を治療出来るか?」
「出来るわ!
早く安全な場所へ…!」
「んんぅ~やだなぁ…。」
「…っ!?」
急にする声を聴き、
その方角を見る二人
そこにいたのは、
ピンク色の身体に
巻貝のような王冠を付け
海をそののんびりとした目で
じっと見つめる…ヤドキングだった。
「海の神様の力が乱れ…
荒れておる…
それに世界のどこかに
一人しかいないはずの
ルギア様の気配を感じる…。
あぁ…ルギア様は二人に…何故…?」
「…一体、何を…言って…?」
うわ言のように
呟いているヤドキングを見て
敵か味方か分からず、
様子を見ながら
ただ困惑するジュプトル。
「お客人、
その怪我をしておられる方を
こちらへ…。
まずは怪我の治療を。」
「…っ!?
あっ…あぁ…
だから安全な場所へ…」
「我らが海の祠へ…
案内してしんぜよう…
そこでゆっくりと休ませればよい…
そなたらの目的も分かっている。」
「…っ!
なるほど、
あなたがこの世界の
“祠の守り人”ですか…。」
「左様。
我が三つの島からなる
この祠の管理者
ヤドキングである。」
続く。