ポケットファンタジア   作:肥えたチヌ

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お待たせいたしました
では、お楽しみください。


第二章 帝国の脅威 その11

「じごくのていおうげんがー

 …だってぇ?」

 

プクリンは、

確認するように

相手の言った言葉を復唱する。

 

その、笑顔を崩さない

気楽で、どことなく

楽しそうな表情からは、

相手を見定めるような様子が見て取れる

 

本当にこのゲンガーというポケモンが

地獄の帝王と呼ぶに

ふさわしい実力があるのか…

 

 

 

誇張か、はたまた事実か…

 

 

 

「そうだ、その通りだ」

クスクス…

 

真意は予想できない。

 

ゲンガーの表情にもまた、

プクリンのそれとは違う、

不敵な笑みが浮かぶ。

 

 

冷静に考えてみれば。

 

一探検隊のトップを

務めているというプクリンの

警戒心が誰よりも強いはずのその人物の

背後を取れた、という事。

 

その事実は、ゲンガー…

彼の強さの証明には

十分な判断材料だった。

 

 

「…。」

…今動くわけにはいかない。

…こいつ…絶対になにかある…

 

 

故にゾロアは動かない。

ただ、今は黙って

プクリンの、そしてゲンガーの。

 

双方の様子を注意深く見ていた。

 

 

…プクリンを見る目は、

攻撃開始の合図、

指示を見逃さないように。

 

そして

…ゲンガーを見る目は、

攻撃の気配を

いち早く察知し、防御出来るように。

 

「…。」

緊張感を持って、その場に待機していた。

 

 

「ゾロア君

 そんなに緊張しなくってもいいよ~

 リラックス、リラックス~」

「へっ…?」

おもわず気の抜けた声が出てしまった。

 

予想に反して

プクリンはこちらを見て、微笑む

 

「じごくのていおうげんがー君…

 だったよね?

 さっき、どうしてボクたちに

 悪意のある視線を向けてきたのか

 教えてくれないかな…?」

 

プクリンはゲンガーに

先程のような敵対の表情ではなく

まるで近所の人と世間話をする時のような

雰囲気を出しながら話しかける。

 

「…。」

ゲンガーはプクリンのテンションに

呆気にとられたのか

不敵な笑みではなく微妙な表情をしながら

黙って聞いていた。

 

「あっ…!

 もしかして、

 じごくのていおうげんがー君は

 さっき、

 この森の元支配者って言ってたから

 ボクたちがこの森に無断で入ってきた事に

 怒ってるのかな…!?

 そうだったらごめんね!

 ボク達さぁ…」

 

話を続けるプクリンに。

 

 

「…っ!?」

 

<<シャドーボール>>

 

 

ゲンガーは攻撃を繰り出す。

 

プクリンの顔面に近づいた

黒い球体が爆発し

顔の付近に黒煙がまとわりつく。

 

 

「プクリンさん!!」

イーブイがプクリンに近づく。

 

「…?」

ゾロアたちはプクリンの様子を伺っていた

 

 

「大丈夫だよ

 心配してくれて、ありがとうね」

少しして、黒煙が晴れた時

プクリンはイーブイに自身の無事を告げた。

 

…。

 

 

「…痛ったいなぁ…

 …なにすんのさ、いきなり。」

 

 

どうやらプクリンは

話の途中に中断させられたため、

口の中を切っているようだ。

 

それ以外は特に外傷などはない

 

プクリンの口の端から

一筋の血が流れる。

 

 

そして、そんな事は

どうでもいいと思える程に

先程とは明らかに違う点は。

 

 

「へぇ…能天気な馬鹿かと思えば…

 そんな顔も出来るのか…」

 

プクリンのゲンガーを見る表情や雰囲気だ

 

「…。」

ゆったりとした雰囲気はとうになく。

今のプクリンはキッ…と

ゲンガーに睨みをきかせ、

不服と言わんばかりに頬を膨らませていた。

 

一瞬、和やかになりかけた雰囲気が

また戦いの前の

張り詰めた空気感に逆戻りした。

 

 

「もう、十分に分かっただろ…?

 俺様はお前たちを

 この森から返す気はない。

 だからと言って勿論

 呑気にお喋りをするつもりもない。」

 

 

「さぁてと…始めようぜ…

 闘いだよ、た た か い…!」

 

 

「さっきから聞いていれば、

 ミー達になにをするんデスか!!

 控えるデス!!

 ミーは…!!」

 

「待った!!」

 

今にも

戦闘が始まってしまいそうな雰囲気の中、

プクリンがシェイミを手で制し

言いかけた言葉を中断させる。

 

「あんまり自分の事を

 ひけらかさない方がいいよ…

 こいつは善人ではないって事は

 明らかだからね…。」

 

こいつが何をしでかすか、

全く分からないから…。

 

 

「うぅっ…

 それもそうなんデス…」

 

「へぇ…?」

 

 

<<さいみんじゅつ>>

 

「…っ!?」

イーブイ、シェイミ!!

あいつの目を見ちゃだめだ!!

 

攻撃の気配を察知し、

ゾロアが二人を見た時には、

時すでに遅し。

 

ゲンガーが

シェイミとイーブイを睨みつけ

目が怪しく光ったような気がした後

イーブイとシェイミの二人は

パタリとその場に倒れてしまう。

 

 

「うっ…!

 くそっ…!!」

ゾロアが二人を起こそうと近づくものの

それよりも先に

ゲンガー達の技が発動した。

 

<<ゴーストダイブ>>

 

倒れた二人の近くに

ゲンガーが現れたかと思えば

地面がどす黒く染め上がり

それに伴い

二人の身体が地面に沈み込み、消えていく

 

「させないよ!!」

 

<<マジカルシャイン>>

 

影には光。

 

プクリンの身体が光を持ち

一気にその光を解き放つ。

 

 

「遅い」

 

しかし、タッチの差で

二人が影に取り込まれる方が早く、

影の出入り口がプクリンの技で消えた時

ゲンガー達の姿はそこにはなかった。

 

 

「くっ…!

 連れていかれちゃったか…!!」

 

「ふっ…

 そういう事だ。」

 

「…っ!!」

 

ゲンガーは二人から離れた場所に現れ、

次の瞬間に、消えたかと思えば

また目の前に現れる。

 

「どうやら、あの二人は

 身分が高いみたいだったからなぁ…

 誘拐させてもらった。」

 

 

「くっ…!」

プクリン達が焦りの表情を浮かべ

臨戦態勢に入る。

 

 

「さて…お前たちはどうやら

 少しは出来るようだからなぁ…」

 

ゲンガーは

言いながら大きく息を吸い込む。

 

「俺様直々に地獄へご招待だ!!」

 

 

はじめようぜ!!

 

 

 

<<ほろびのうた>>

 

 

「…っ!?」

 

まずいっ…!!

 

「ゾロア君…!!

 急いで耳を塞いで!!」

 

この歌を聞いちゃだめだ!!

 

 

「…っ!?」

ゾロアはプクリンの言う通り

急いで耳を塞ぐ。

 

 

――――――――――。

 

 

 

 

自分の心音だけが聞こえる

無音の空間になった。

 

 

ゲンガーの周囲で

周期的に草木が揺れている。

 

それは森の雰囲気と現状が相まって

ゲンガーに付き従うように

森が意思を持って、

自分たちを地獄に引きずり込もうと

こちらに手招きをしているように見えた。

 

 

恐怖から一瞬目を逸らすように

プクリンの無事を確認するゾロア

 

「…。」

 

プクリンもまた両手で耳を塞ぎ、

歌を聴くことから逃れたようだった。

 

…きっとまだ、歌は鳴り続いている…

 

 

身体全体が、

周りの空気から

超音波のような微振動を受け

かすかに震える…

 

更にゲンガーの面白くはなさそうな…

だが、どこか不敵な

不気味すぎる程の笑みが

その予感を確信へと誘う。

 

 

改めて指示を仰ぐため

プクリンをもう一度横目で見るゾロア

 

 

…っ!!?

 

 

幼いながらも

戦場で暗部として鍛え上げられた

ゾロアの目

 

その眼は敵の気配を見逃さなかった。

 

プクリンの背後…

風船のようなその大きな身体から伸びた

地面に走る影、暗闇から。

 

ゆっくりと気配を殺して出現し、

標的の背後に忍び寄るもう一人の敵…

 

 

―“ ミミッキュ ” の姿を。

 

 

…どうして今まで

気が付かなかったんだろう…

 

自分たちポケモンは

技を4つまでしか使えない。

そして、ゲンガーが現れてから今まで

自分たちが目にしてきた敵の技は

 

<<おにび>>

<<シャドーボール>>

<<さいみんじゅつ>>

<<ゴーストダイブ>>

<<ほろびのうた>>の5つ。

 

つまり。

…ゲンガーの他に

“ 確実に一人は仲間がいる ”、と

予想できたはずなのだ。

 

ゾロアは焦る。

 

「危ないっ!!」

 

ゾロアはそれの出現を

プクリンに伝えようと

声を張り上げて目一杯叫ぶ。

 

 

――叫んだ瞬間、またハッとした。

 

 

今自分達は、耳を塞いでいるのだ。

 

 

――届かない。

 

 

歌も森のざわめきも、

背後から忍び寄る敵のかすかな音も

そして自分の叫び声も。

 

 

――音が、何もかも届かない。

 

 

瞬間

 

 

 

 

ミミッキュの身体から

いくつもの黒い触手のような手が伸び

 

プクリンの腕や体に絡みついた。

 

…っ!?

 

 

急に背後に現れた思わぬ敵に

驚愕し目を見開くプクリン

 

 

黒い手の力は思ったよりも強力なようで

更に不意を突かれた事により

プクリンの手は

簡単に耳から離れてしまった。

 

まだ歌は鳴り続いていた。

 

「…っ!?」

一瞬プクリンの身体が震える。

 

 

プクリンはゲンガーの歌を聞いてしまった。

 

 

「…っ!!」

 

だが、プクリンはすぐさま

キッ…とゲンガーたちを

睨みつけるように表情を変え

 

そのやわらかな体の特性を

十二分に発揮するように

空気を吸って、

身体を何倍もの大きさに膨らませる。

 

 

<<ハイパーボイス>>

 

 

直後、先程感じていた

空気の微振動よりも強い衝撃波を感じた。

 

 

振動が止んだ…

 

――歌が止まった!

 

 

「…っ!!」

 

ゾロアは塞いでいた耳を開放した

 

 

―――――世界に音が戻ってくる。

 

 

 

…今度は、もう失敗しない!!

 

 

ゾロアは地面を蹴り、

一気にプクリンを拘束している

ミミッキュに近づいた。

 

「放せ!!」

 

ゾロアの一撃は

ミミッキュの顔面を的確にとらえる。

 

 

 

 

………?

 

手ごたえがない。

 

あまりにも

攻撃したという感覚がなさすぎる。

 

…これは、そう。

 

…敵に身代わりを使われた時の感覚…!!

 

 

 

 

「まだ…!!」

 

顔を上げ、視界に入れたミミッキュは

頭と思われる部分が

直立を続けている身体に反し

ペタン、と力なく横に倒れた。

 

その状態でなお、

プクリンを拘束し続けている。

 

 

あの顔は本体じゃない…!!

 

 

「ぐっ…!

 くそっ…!!」

 

急いで体勢を立て直し、

追撃を与えようとするゾロア

 

 

「…さてと、まずは一匹。」

「…っ!?」

 

 

だが、急に自身の眼前に出現した

ゲンガーによって進路を塞がれる。

 

 

目の前で、

うずうずとしたどす黒い塊が蠢き

形を形成しながら、より大きくしていく。

 

 

いまさら、避けることは出来ない。

 

 

 

<<シャドーボール>>

 

 

「がっ…!!」

 

ゾロアは身体に

シャドーボールをもろにうけ

吹き飛ばされ、近くの木の幹に衝突した。

 

傷は深くない…

だが、身体が動かない…。

 

 

「…ミミッキュ、

 もうこれぐらいでいいだろう。」

耳が、ゲンガーの声を聴いていた。

 

「…少しくらいは楽しめた。

 …。

 俺様たちが手を下さずとも

 もうこいつらは

 放っておいてもじきに死ぬ。

 それに…」

身体が…動かない。

 

「思わぬ収穫があった…

 これで俺様たちは

 もっと悪に近づいたわけだ…!!」

笑い声が遠のいていく。

 

「くっ…このっ…待てぇ!!」

プクリンの声が聞こえて、

また…遠のいていく。

 

 

…だめだ…

意識が…薄れて…

 

 

 

 

「…大丈夫かい、ゾロア君?」

その声を聴いて、

意識が完全に闇に溶けてしまった。

 

 

 

 

 

…オイラ達、困ってるんだぞ…。

 

薄暗い、暗闇の中

誰かの気配を感じる…

それが誰なのかまでは分からない。

 

だが、味方ではあるようだ。

 

…助けに来いよ…。

 

 

自身の身体に流れる気を集中させ、

練り上げ、球体を形成する。

 

そして、それは

攻撃手段として有効なものになるはずだ。

 

一度目の前で戦いを見ていたから分かる。

身体の動き、筋肉の癖

気の流れに至るまで…

 

 

この動きが得意な人物は…

 

 

…ルカリオ…。

 

ゾロアの頭に浮かんだのは、

ルカリオだった。

 

 

…いや、違う…。

 

しかし、ゾロアは

すぐさま自らの思考をかき消す。

 

…誰が、あいつなんかに!!

 

それは、心の底からの、叫びだった。

 

 

 

「はっ…!?」

 

次にゾロアの目が覚めた時、

丁寧に寝かされ治療をされていた。

 

…ここは…

 

起き上がり、キョロキョロと辺りを見回す。

 

「ゾロア君、調子はどうだい?」

 

「あっ…」

自分はプクリンに助けられたのだと

すぐに理解したゾロアは、

まずお礼を言う。

 

 

そして、あの戦いを振り返り

何があったのか、を確認する。

 

「あのじごくのていおうげんがーが

 歌った瞬間に、僕の大声を

 最初から使えばよかったんだけどね…

 えへへ…ちょっと油断しちゃった…。」

 

あの後、すぐにプクリンは

二人を追ったらしい。

姿は、

<<ゴーストダイブ>>などがある以上

頼りにならなかったので、

気配を探って森を歩き回ったのだという。

 

「やっぱり、あいつらも

 スカタンクのアジトに入っていったよ。

 どうやらあいつらもスカタンクと

 関係があるみたいだね…」

森の中を、生ぬるい風が通り抜ける。

 

「彼はさっき元支配者、と言ったじゃない?

 って事は

 他に支配者が居るって事だよね…?

 …この森にボク達が追っていた

 おたずね者がいる…

 そしてさっき襲ってきた彼は元支配者…

 つまり、考えられるのは…

 今、この森を支配しているのは…

 おたずね者 スカタンク

 じゃないかなって思ったんだ」

 

「…。」

プクリンの発言を受け、

ゾロアが一瞬沈黙する。

 

「…多分、その通りだと…思うぞ。」

そう言いながら、頷く

 

…となるとシェイミ達は、

 早く助けないと、誘拐犯の一味に…

…。

 

「…。」

思い出し、悔しそうに眼を閉じるゾロア

 

「…それと…

 ボクにはあんまり時間が

 残されてないみたいだしね…」

ほら…これ。

 

「…?」

ゾロアが目を開き、顔を上げる。

 

見えたのはプクリンの腕

そこには文字と数字が刻まれており、

“ 残り2 ”となっていた。

 

「奴らを追って森を走ってる時に

 この数字がある事に気付いてさ。

 最初は3ってなってたんだけど

 君を介抱してたりした途中に

 2に切り替わったんだ…」

あれから二時間ぐらいたった時かな…?

 

プクリンは話を続ける。

 

「多分、このタイマーが0になったら

 ボクは

 地獄に連れていかれるんだろうね。

 二時間で一減るんだから

 あと残りは…」

 

「四時間もない…」

プクリンの言葉の先を、ゾロアが埋めた。

炎はゾロアとプクリンの間で

静かに燃えている。

 

「…そうなっちゃうね。」

少しだけ、悲しそうにプクリンは笑う。

 

「…解除方法なんて分からないけど…

 …多分

 あのじごくのていおうげんがーを

 気絶させれば、いいんだと…思う。

 こうなっちゃうと、

 連れてかれちゃった二人の事もあるし

 トレジャーズキャンプに戻って

 援軍なんて呼んでる暇はないね…。」

トレジャーズキャンプのある方角を見ながら

プクリンは呟いた。

 

「…じゃあ、どうすれば…?」

ゾロアの問いに合わせて

炎が小さく揺らめく

 

「決まってるじゃないか…」

 

その返答は、すぐだった。

 

プクリンはにっこりと笑う。

 

 

大丈夫、と

まるで泣きじゃくる自分の子どもを

安心させる母のように。

 

そして、勇気を無くした人を

勇気づけ、

再び立ち上がらせる勇士のように。

 

そしてまた、

追い詰められてなお希望を失わず、

夢を追い求め続けるという

絶対の心構えを無くさない探検家として。

 

「もう突撃するしかないじゃない…

 奴らのアジトに、

 ボクと君の二人でさ!!」

 

 

そう、言い放った。

 




間話 ~勇ある者の試練~ その2

ジュプトル達は
潮風が吹く
海岸沿いの断崖絶壁に存在する
長い階段を上り終わった先の場所

祠にたどり着いた。

「ここは祭壇…
 勇ある者の試練を受ける者が
 最初に訪れる場所であり、
 そしてまた全てを終えた時
 意味を成す場所でもある。」
あの長い階段を上ってきたというのに
話を始めたヤドキングの息は
全く乱れていない。

「…勇ある者の試練…?」
少し、息を乱したジュプトルが
海岸で助けたポケモンを
優しく抱えながら
ヤドキングに聞き返す。

「…それについての説明は
 またにしよう…。」
さて…こっちだ。

ヤドキングは二人の間をすり抜け
崖際に移動する。

振り返るヤドキングを見る
ジュプトル達の視界の先には
崖の内側に入るための
丁寧に装飾が施された扉が見えていた。


キィ…と音をたてて扉が開いた。


その後、崖の内部にて
いくつかの部屋が存在していたが、
その内の一つ
ベッドの置いてあった
客室と思われる部屋に
マナフィと呼ぶのだという
このポケモンを運び、治療をする。

「うむ…あとの治療に関しては
 そちらのお客人の方が
 詳しいだろう…
 ここは任せるとしよう。
 この祠にある治療薬などは
 すべて使ってよい。
 先程、教えた場所にある。」
「…はい、任せてください」
ヤドキングは
マナフィとセレヴィを見つめ、
一つ頷く。

「さて…お客人
 そなたには話したい事がある。
 付いてくるのだ」
「はい…」
ヤドキングは次にジュプトルを見た後
その部屋を出る。

ジュプトルは
部屋を出る前に
セレヴィに一声かけて

ヤドキングが
自分に話したい内容は
勇ある者の試練の事だと思いつつ
そして
ルギア様に関する情報を聞くという
当初の目的を忘れないとも
思いながら
ヤドキングの背を追った。


「ふむ…」
ヤドキングが向かった場所は
先程ジュプトル達も訪れた場所
祭壇だった。

海が荒れ、波が大地に叩きつける。
その波音を足元よりも
さらに下に感じながら、
ジュプトルはヤドキングを見つめる。


「祠の管理者…いや、ヤドキングさん
 俺達がここに来た理由は、もう…」

「あぁ…ルギア様に会いに、であろう。」

「…。」
ジュプトルはヤドキングと話をしながら
いままで知ってきた情報。
そしてある程度の予想から推測する。

ルギア様…
三つの島からなる祠の管理者…
そして、勇ある者の試練…

…。

…それは、たった一つの可能性を示した。


「俺が、その勇ある者の試練というものに
 合格さえできれば…
 ルギア様に
 会う事が出来る…んですか?」

「ふむ…お若いの
 随分と頭が切れるようだ…」
…だが、その前に。
そう、急がれるな…

そう言いながら、
ヤドキングはもう一度海を見つめる。

「お若いの。
 我らの海の祠…
 ここが持つ伝説は知っておるか?」
まずは、ここについて
知っておくとよい。

「えぇ…小さい頃、
 そういった世界の伝説については
 よく教えてもらいましたから…」
確か…。

ジュプトルはガルーラから教わった
海にまつわる伝説を振り返る。


火、雷、氷…
三羽の大いなる鳥が守りし
三つの宝玉が揃いし時
癒しの笛の音が鳴り響き
海流と共に眠る案内人が目を覚ます。


…その案内人
海の王子に選ばれし者をのせ
偉大なる水神が護りし
王冠が眠りし場所
祝福の楽園、海の都へと導かん…。


「…だったと思います。」

「左様。
 …そしてその伝説が生まれた場所は
 紛れもなくここだ。」
ヤドキングは祭壇に置かれていた
小さな祠に近づく。

「ルギア様に会うための試練
 勇ある者の試練とは
 その伝説の冒頭を模したものでな…
 この祠にそれぞれの島にいる
 強者の護る宝玉を
 捧げる事が必要なのだ…」
それが、ルギア様との
唯一の交信手段なのだ。

…でもなぁ…と
ヤドキングの表情が曇る。

「今は、三つの島も
 海や影による世界の崩壊を察して
 緊張状態…
 ルギア様を召喚するための
 三つの宝玉を手に入れたくば、
 これまで以上の力を
 要求してくるであろう…。」

…。
「いいです。
 俺が力を認めてもらい、
 手に入れてきます。」
ジュプトルは頷き、拳を固める。
それなりの決意はしてきた。

ダークライを倒す

その為には
力が必要なのだと分かっている。

ルギア様の力にだけ頼るのではない
…自分自身の力もまた
磨かなくてはならないのだ。


…ワカシャモ…ヌマクロー…
…。

…後の事は…任せた…ジュプトル…

…あぁ…分かってるさ…。


一段と、ジュプトルの目に強い光が宿る


「ふむ、そなた…
 腕っぷしだけはそれなりに
 自信があるようだな…。」
ヤドキングはジュプトルに向かい合い
その様子を見て、小さく息を吐いた。


長年に渡り
いくつもの名のある挑戦者が
ことごとく失敗してきたこの試練…
そしてその挑戦者たちの全てを
見送ってきたヤドキング

その挑戦者たちと、
いま目の前にいるジュプトルを比べる。

「もしかすると、この勇ある者の儀も
 そなたになら…。」
あるいは…?

「必ず、成し遂げます。
 …そうしなければ、
 俺が生き延びた意味がない。」

「ならば
 お主の恐れを知らぬその勇気…
 どこまでやれるか…試してみよ」
ふふっ…

ヤドキングの顔には
いつの間にか
小さな笑みが浮かんでいた。


「“船”は既に手配してある…
 それに乗り、荒れ狂う波間を抜け
 三つの島…その始まりの地
 日の島に向かうが良い。」
試練の詳しい内容については、
道中で改めて案内人が教えてくれるだろう。

「船…?
 船なんてどこに…」
ジュプトルが海の方角を見る。

「お主たちと初めて会った場所…
 そこにもうついている頃だ…」

「…分かりました。
 …では、行ってまいります。」
ジュプトルはヤドキングに
敬意を持った深いお辞儀をし
階段を下りて海岸に向かっていく。

「…願わくば、
 彼の旅路、その勇気に
 海の光明があらんことを…」
ヤドキングは
再び荒れゆく海を見つめながら
そう呟いた。


海岸を歩くジュプトル
その視界に、映るポケモンが一匹

「…?」

海の青に似たコバルトブルーの身体
そしてその背にあるのは灰色の殻

のりものポケモン ラプラスの姿が。

「初めまして。
 あなたが、勇ある者の儀の挑戦者ですね?」

「ジュプトルです
 よろしくお願いします」
頷き、一礼するジュプトル

「私は島までの案内をさせていただく
 ラプラス、と申します。
 では早速まいりましょう
 ジュプトル様
 私の背に乗ってください」

― 勇ある者の試練が、いよいよ始まる。
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