ポケットファンタジア   作:肥えたチヌ

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第二章 帝国の脅威 その4

“ブラッシー帝国 女王の間”

二人のポケモンが机を隔て、

向かい合いながら話をしている。

 

「…例えば、女王陛下…

 世界に“神なる者”が

 存在していたとして

 その存在は絶対だとお考えですかな?」

「全能の神…か。

 もし本当にそんなものがいるとするならば

 何故、お前は

 この時代に来ることが出来た…?」

「…。」

ダークライは無言になりながら

目の前の女王…バンギラスの様子を見ている。

 

「ただ…。」

「…?」

 

「…お前という存在…

 そしてお前の手の中にある二柱の神…

 それらが否定できない以上、

 全能の神とやらもまたどこかにいる と

 判断せざるを得ない…

 というのが私の見方だ…。

 まぁ…いずれにせよ、

 私にとっては

 どうでもいい要因でしかないがね…。」

「…なるほど…。」

部屋全体に、

何とも言えない緊張感が走っていた。

 

たった一言…

たった一言でも言葉を間違えれば

全てが崩れ去ってしまうような…

そんな予感が走る。

 

「…ふむ…それで…

 どうだね…?

 こうして実際に話をしてみて…

 君の力を貸すに、私は足る人物かね…?」

バンギラスはダークライの真意など

既に予想していた。

 

長年の外交の経験と勘

そしてこのタイミングで断り続けていたはずの

アポイントを受けてきたという事実。

 

それらに伴い総合的にバンギラスは判断する。

 

 

…今、私はこのポケモンに

 試されているのだ、と。

 

 

その上で…にやりと笑みを浮かべていた

 

…甘い。

…この私が、貴様などにはかれるものか…

 

「どうなのかね…?」

決断を急がせる。

…すでに部屋の外には兵を待機させてある。

 

…もしも協力を断った時の保険だ。

 

そう…この時点で、

ダークライには協力するより他に手はない。

そうなるようにバンギラスは

手を打っているのだ。

 

 

…さぁ、どうする…?

協力するか…死ぬ(断る)か…

 

 

「…そうですな…

 …やはり、お断りを…

 …入れてもいいのですが。」

ピクリ…

部屋全体が…小さく揺れる。

 

「ふむ…なるほど…

 部屋の外には既に兵が配置され…

 いつでも突入できる算段だと…。

 私が断れば…私を殺すつもり…ですな?」

 

…なるほど…これを見破るか…。

 

「そこまで分かっているのに…

 何故味方に連絡を取らない…?

 私を試すような真似をして…

 遊んでいるつもりか?」

「ふっふっふ…

 いえいえ…滅相もない…。」

 

トンッ…

椅子に座り、机を指で叩くダークライ

 

「女王陛下…

 最後に一つ…お尋ねしても?」

「…なんだ…申してみよ?」

 

「人は誰しも…その人の…

 絶対に知られたくない闇の部分…

 俗に言う“心の弱み”…

 トラウマが必ず存在します。

 その“部分”に触れる事は、

 誰であろうが許されない。」

「…?」

 

「あなたの…“それ”は…なんですかな?」

次の瞬間…

 

部屋全体が歪み、

変形していく…

「なんだ…!?

 …なんなのだこれは…!?」

「ふっふっふ…

 いつまでふんぞり返っているつもりだ…?

 もうここは…私の掌の上…悪夢の底だ。」

 

お前の底は…もう十分知れた…。

残念だが…期待外れ、というしかない

 

 

「きさまぁ…この女王に向かって

 なんという口を…!!」

…無礼者が!!

 

怒りの形相のバンギラス…

「…これは残念…。

 交渉は…決裂ですな!!」

ダークライの背後から黒い液体があふれ出し、

バンギラスの前に集合…形作る。

 

 

[…ナァ…イツマデ…]

 

 

「…!?」

それを見た瞬間、

バンギラスは目を見開いた。

…液体が形作ったもの…

 

黒い…ドサイドン。

 

[…イツマデモ…ダマシキレナイ…

…ワタシハ…]

「…や…やめろ…。」

 

…く…来るな…!!

 

バンギラスにどんどん近づいていく

黒いドサイドン。

 

[…ワタシハ…ホシイ…]

「…っ!!

 …やめろ…それ以上は…!!」

 

[…コドモガ…アトツギガ…!!]

 

…ワタシタチノ…

 

「――――!!」

形容できない悲鳴と共に。

バンギラスは黒い液体に飲み込まれ、

ボールに収まった…

 

「…なるほど…

 それがお前の…トラウマ…か。」

ナイトメアバンギラスの完成を

横目で見ながら…

ダークライはため息をついていた。

 

 

「女王陛下…!!」

部屋の様子が元に戻り…

ブラッシーの兵士達が

部屋に駆け込んでくる。

「…ダイジョウブダ…

 …モンダイナイ…。」

 

トラウマの存在には例外などない

たとえ…神であったとしても。

見ていろ…この時代の全能の神…

必ず私が…

お前にもこの恐怖を味わわせてやる。

 

「さて…それでは…

 協定の…続きと行きましょうか…。」

女王…陛下殿…?

 

 

 

視点は変わり…マサラ王国

「…。」

ルカリオは…ソワソワしていた。

 

「どうか…なされたんですか?

 王子様…?」

隣からイーブイの声がする。

「いや…どうにも私は…

 こういう暗闇が苦手でな…。」

今現在、ルカリオ達は

周囲を暗闇に包まれながら移動中である。

 

パレードの目玉…

 

精霊役がハートのうろこを

城下町の中心…泉に囲まれた

全能の神の像に捧げる行事…。

 

その前に…国民にお披露目、という段取りだ。

ルカリオ達に周囲の様子は

あまりよくは見えない

 

イーブイと二人だけの薄暗い空間。

 

壁越しに伝わってくる

段々と近づいてくる大衆の声…

 

「昔…小さい頃に父様といった森で

 ゲンガーとゴーストに襲われてな…

 あれ以来暗闇が苦手になってしまった…。」

「そうなんですね」

 

乗り物が揺れる…

…っ!?

 

「あぁ…情けない話だ…。」

ブルブルと

小さく震えているルカリオの身体

それを暗闇で感じるイーブイ

 

「王子様…?

 大丈夫ですか…?」

「…だっ…だいじょうぶだ…。」

明らかに大丈夫ではなさそうな声

 

その声を聴き、イーブイは少しだけ笑う

「ふふっ…王子様のそういうお姿を

 …初めて見ました。」

「…っ!

 …おっ…可笑しいか…?

 私だって、

 苦手なものぐらいはある…!」

 

なけなしのプライドを振りかざし、

強がりを言ってみせるルカリオ…

 

だが、身体が小さく震えている上で

そんな事を言っても

効果などあるわけがないわけで…

 

「いえいえ…

 ただ…私にとっては

 王子様は雲の上の存在で…

 初めて会った時の印象も

 完璧なお方だったので…

 なんとなく、安心しただけです。」

「…?

 そう…なのか…。」

 

「もう間もなく到着いたします…

 お二人とも、

 外装上部にお上がりください…」

運転席から運転手

ゴリランダーが声をかけてきた。

 

「分かった」

ルカリオが扉を開き、外に出る

 

風がなびき、用心しながら頭を出す

「足元に気を付けて…」

ルカリオは振り返り、

イーブイに手を伸ばす

 

「はい…」

 

イーブイはその手をとった

そして…イーブイもまた外に出る。

 

精霊役として、衣装を身に着けたイーブイは

とても可憐だった。

 

…まさにそれこそ、思わず

見とれてしまう

美しさというものだろうか?

 

「…今日は、よろしく。」

「はい…王子様。

 よろしくお願いします…」

二人は微笑みあった。

 

そして…乗り物はトンネルを抜け、

大衆の前に出る

 

「きゃ~!!

 王子様~!!」

「精霊役の人!!

 綺麗だぜ~!!」

包み込むような声が、二人を出迎えた

 

国民に笑顔で手を振る二人

パレードの中で、

彼らはひときわ輝いているように見えた。

 

 

「お似合いですよ~二人とも~!!」

パレードの野次の中でそんな声が聞こえる。

 

「…っ!?」

はっとしたように驚き、

イーブイの顔が何故か少し赤くなる

 

「…?」

ちらりと横目でルカリオを見るイーブイ

 

ルカリオはイーブイに気づかず、

国民に手を振り続けている。

 

「…。」

イーブイは小さく首を振った

 

…この人の隣にいられるのは今だけ…

…この人には…私じゃなくてきっと

 他の人でいい人がいる…。

 

…王子様に私は…

やっぱり釣り合わない…。

 

「…王子様に…私は相応しくない…。」

 

「…?」

観客の歓声に掻き消えるように…

ルカリオの耳にひどく小さな声が聞こえた。

 

 

「う~ん…

 駄目だね…ここからじゃ

 パレードがよく見えないよ~」

パレードを見る大衆の中で

出遅れてしまい、

人の壁に阻まれるミズゴロウ達

 

「ごめん…俺が…はしゃぎすぎた…。」

がっくりと後ろで肩を落とすキモリ

 

「君のせいじゃないよ

 一緒に僕たちも楽しんでいたわけだし…」

アチャモがそんなキモリをなだめる

 

「このままじゃ、

 おうじさま達を見ないまま

 ぎしきが終わっちゃう…

 どうにかして

 見える場所に移動しなきゃね。」

 

「でも、どうする…?

 屋根の上から見ようにも

 警備隊が空から監視してて

 見れないだろ…?」

「…確かに…」

三人が見上げる空

 

そこにはファイアローやケンホロー達

鳥ポケモンが飛び回り、

空を巡回していた。

空から見る…

もしくは屋根の上から見るのは…

出来なさそうだ…。

 

「どうにかできないかな…?」

そこに、ヨマワルが通りかかる。

 

「あっ…!!

 ヨマワル君…!?」

「…みんな!

 ようやく会えた!!

 探したんだよ!!

 このお祭りに

 きっと来てるって思ったから」

三人にヨマワルが合流した。

 

そして事情を話す…

「…それなら…

 城の中から見ればいいんじゃない…?

 だって城門の目の前に

 像があるんでしょ?」

 

「…それが出来たら苦労してないよ…。」

ミズゴロウ達は俯く

 

「僕に任せて」

そのまま走っていくヨマワル

「待ってよぉ~」

ミズゴロウ達が後を追う

 

「ん…?」

キモリが背後に何かの気配を感じた。

 

振り返っても…誰もいない…

 

「気のせい…かな…」

首を傾げ、キモリも三人の後を追った。

 

キモリの見ていた闇の先…

そこからヨノワールが出てくる。

「そっちは頼みましたよ…ヨマワルさん…

 こちらはこちらで…

 そろそろ騒ぎを起こしましょうかね…。」

ヨノワールの背後には…

小さな無数の爆弾があった…。

 

 

「ねえねえ…ヨマワル君…

 こんな所…来ていいの…?」

ミズゴロウ達は今、

屋根を伝いながら城門に近づいていた。

 

ヨマワル達が進んでいる場所は

丁度空中からは死角になっていて

まだ見つかってはいない。

 

「大丈夫、大丈夫!

 ここからまっすぐ行けば

 城門の上の警備施設にたどり着けるよ!」

 

「へぇ…

 こんなとこ、よく知ってたな…」

キモリが隠れながら呟いた

 

「僕のお父さん…ヨノワールは

 城の工事をしに来ててね…

 この道は偶然見つけたらしいんだ」

「…。」

 

「すごいね、それ!!

 ヨマワル君のお父さん、天才じゃん!!」

目を輝かせるミズゴロウと、

無言になるキモリ。

 

<<ポルターガイスト>>

「うわぁっ…!?

 なっ…なんだ…!?」

 

「今だよ…行こう!!」

結局彼らは誰にも見つかることなく、

城に突入した。

 

「こんなの滅多にない機会だからね…!

 少しだけ見て回ろうよ!!」

ヨマワル達は城の中を少しだけふらつく。

城の中は警備が少なくなっており、

閑散としていた。

 

廊下やら、玉座の間やら…

自由に動ける範囲で、城の中を見て回る。

 

食堂にて、

ヨマワルが盗み食いをしようとする。

 

「ヨマワル君…それは流石に駄目だよ!

 怒られちゃうよ…!!」

 

「…もう既に怒られるのは…

 確定なんだけどな…。」

キモリのつぶやき。

 

ヨマワルはやめはしたものの、

クッキーに仕掛けを一瞬で施した。

 

毒物を、振りかけたのだ。

 

「…。」

そのまま、ヨマワル達は出ていく。

…のだが…。

 

「…。」

アチャモが戻ってくる。

「ちょっとだけ…なら…いい、よね…?」

…。

…ごめんなさい…

 

 

パクリ とクッキーを一欠けらだけ食べ

みんなの元に戻った。

 

潜入は続く。

「これで…よし…。」

ヨマワルの…

全ての仕掛けの施しが終わった。

 

 

…終わって…しまった…。

 

 

「…!

 だれか来る…!!

 隠れて!!」

 

城の兵士が廊下に集まった

「いったい何があった…!?」

兵士長ハッサムが兵士達から事情を聴く。

 

「…連絡によると、

 城下町でボヤ騒ぎがあったようです…

 火の手が回るのが

 予想以上に早いらしく…

 応援の要請がありました」

「こんな時に…。

 分かった、出られる者は

 すぐに応援に行け!

 ただし、城の警備の人数は

 必要最小限残すように!」

「了解!!」

ハッサム達が動き出す。

 

 

「どうか…したのかな…?」

「さぁ…大変そうだってことは分かるけど…」

隠れるのをやめ、廊下に出る四人

 

「うん…?

 なんだ…君たちは…

 一体どこから入った…?」

「あっ…!」

四人はガブリアスと鉢合わせる。

 

「あっ…いや…えっと…

 その…!」

「ふむ…いけない子達だな…。」

ガブリアスは冷たい目で四人を見ていた。

 

「俺たち…ただ、パレードを

 見に来ただけなんです!!

 でも…迷っちゃって…!!」

「迷って城の中にまで来られるのか…

 逆にすごい才能だな…。」

驚きだ…

 

「…はい…

 ごめん…なさい…。」

涙目になりながらガブリアスに謝る四人

 

…。

その様子を見て、

ため息をつくガブリアス

 

 

「…ちゃんと反省したな…?」

ガブリアスの問いに頷く四人

 

「しょうがないな…。

 ほら…ついてきなさい…」

 

ガブリアスが案内した先…

それは城門の上だった。

 

「せっかくここまで来たんだ…

 君たちの勇気に免じて、

 特別サービスだ。」

ただし…

 

「もう二度としないこと!

 …いいな?」

「はいっ…!

 ありがとうございます…!!」

こうして、四人のいたずらっ子達は

パレードを見ることが出来た。

 

 

「…。」

ルカリオ王子にエスコートされ、

精霊役として、像にハートのうろこを

捧げるイーブイ。

 

「…ミーの言う事を信じてくれなくて…

 こんなお祭りをして…。

 この国も信じられないんデス…。」

城の窓から豊穣祭の様子を見て

本心を漏らすシェイミ。

 

「シェイミさま…?」

後ろからガーディが近づく。

「…ガーディ!?

 いっ…いや、何でもないんデス!!」

そう言いながらも。

 

「…。」

シェイミの顔は曇っていた。

 

パレードを見ている四人。

ヨマワルはパレードの中で

人混みに紛れていたヨノワールを見つけ、

笑顔で小さく合図を送る。

 

ヨノワールもまた、小さく合図を送った。




~次回予告~
光も闇も…笑顔になる。

シェイミ…ガーディ…
ルカリオ…イーブイ…ウーラオス
ゾロア…ガブリアス…ハッサム…
ミズゴロウ…キモリ…アチャモ…
そして…ヨマワルとヨノワール。

豊穣祭も終わりを迎え…
全てがいよいよ動き出す…!

次回 帝国の脅威 その5
   お楽しみに!!

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