チキチキ!しあわせ家族計画   作:支部にいた鯨

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元々pixivの方で書いた作品であるため、向こうのフォーマットやページ機能を利用して話の構成を考えた部分がかなりあります。そのため、一話一話の文字数が違ったり、見にくい文章構成になっているかもしれません。
修正を入れるつもりですが、御容赦ください。


息子君のしあわせ家族計画

 ぷつん、と。張り詰めた糸が切れたように。微睡みから引き上げられたように、私は目を覚ました。

 

 雨が降っているのか、真っ先に目に入った地面には絶え間なく天からの恵が降り続け、無機質なアスファルトに汚らしく溜まっている。

 

 零れ落ちる水滴は歪な水面を揺らし、ふと見上げた視界に銀糸が張り付く。

 

 

 なんだろう、これは。

 

 

 薄暗い曇天の元でもキラキラと輝く銀の糸を摘む。軽く引っ張ってみると不思議な事に自分の頭皮が連携したように引っ張られた感覚がする。

 

 おや? と思うも、どうにもこのキラキラとした美しい銀糸は私の髪であるらしい。

 

 身に覚えがないとはいえ、自分の髪。物珍しい色合いのソレを暫し眺め、引っ張ったり。緩めたりを繰り返す。

 

 

 大して面白味があるわけでもないが、霧がかった不明瞭な頭には関係ない。

 

 

 パタ、パタタ……と瞳の近くに落ちる雨粒が鬱陶しく、遮るように銀糸を弄っていた手を頭上へ翳す。

 

 

 薄い肉の付いた骨ばった大きな手だ。

 

 

 きっちりボタンの止められた袖口からは白く、いっそ頼りなく思える手首が覗き、しなやかに伸びた腕はどこか艶めかしく映る。

 

 

「………………は」

 

 

 おかしい。何がおかしいのかは分からないが、まるで私ではない誰か他の人の腕なのではないかと。明確な根拠も自信があるわけでもない。だけれど確かにどうしようもない違和感を感じる。

 

 

 得体の知れない気持ち悪さに、思わず一歩。バシャリと後ずさる。

 

 大きな水溜まりに足を突っ込んだのか、激しい飛沫音に振り返る。

 

 トン、トン、トントンと揺れる水面には、人間味の感じられない能面のような幼い美貌。長くけぶる髪と同色の睫毛に囲まれた、淡く美しい空色の瞳を持った少年の姿。

 

 

 なんだ……これは……。

 

 

 遥か昔の最古の叙事詩のように、神々が手ずから作りたもうた美の結晶。まさにそう表現するしかない幼い麗人。

 

 

 私であるはずなのに、私ではない。

 

 

 これは……、彼は一体……誰だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばちん、と。反転する意識の中、耳の奥でブレーカーの落ちる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───魂の侵食を確認───

 

 ───主人格の融合を開始───

 

 ───それに伴う矛盾点の消去を開始───

 

 ───判定 : 成功───

 

 ───補助システム【六眼】を起動───

 

 ───認識能力の齟齬を確認───

 

 ───判定 : 修正は不可能───

 

 ───術式【無下限】を補助システム【六眼】でのオート処理に変更───

 

 ───判定 : 成功───

 

 ───ギフト【歪曲】【千里眼】共に問題なし

 

 ───天与呪縛(てんよじゅばく)【言動選択】: 続行───

 

 ───領域展開■■■■ : 問題なし───

 

 ───特級呪具■■■ : 問題なし───

 

 ───特級■■怨霊■■■ : 正常───

 

 ───オールクリア───

 

 ───■■ (めぐる)の意識を再起動───

 

 

 

 

 

 

 ───────────

 

 

 

 

 

 

 きっとこれは乙女ゲーかなんかの世界だな、うん。

 

 

 目が覚めて1ヶ月。ちょっとしたアルバイトをしながらその日暮しを始め、出た結論がこれだ。

 

 

 自販機で買った割高なペットボトルを握り潰す。蓋を開ける前はお茶が並々と入っていた。価値は180円である。高い。

 

 

 不細工にひしゃげたペットボトル(もうボトルでもなんでもないが)を片手でプラプラと揺らし、新鮮な空気が売りだと言う森の中を進む。

 

 生い茂った緑の隙間からはチラチラと光が溢れ、森の中といっても観光地として舗装されたコンクリートに複雑な影を落としている。

 

 ひとたび風が吹けばその影は形を変え、生い茂る草木は楽しそうに体を揺らす。

 

 

 平和だ……、すごく穏やかな時間の満ちる場所だ。俺が最初に目覚めた場所はどこの世紀末かと思うくらいの荒廃っぷりであったし、気色の悪いクッッッサイ化け物が我が物顔でそこら辺を闊歩していた。

 

 

 うへぇ、と。げんなりした声が出るも、実際にはそんな声は出ていないし、表情も変わっていない。

 

 

 うん? 意味がわからない? 安心しろ、俺も意味がわからない。

 

 

 肩にかけた刀袋を背負い直し、丁度よく見つけたベンチへ足を向ける。

 

 観光地として開示した時にでも直したのか、それとも新しく設置したのか、比較的新しい感じのする木製のソレ。

 

 硬い背もたれに体重を預け、上着の内ポケットをゴソゴソと漁る。

 

 取り出したのはボロボロと言っても差し支えない状態の日記。すっぽりと手のひらに収まってしまう表紙を捲り、子供が書いたのであろう拙い文字を追う。

 

 表紙を捲った一番最初のページ。そこに書かれているのは

 

 

「かあさんを助ける。おれがかあさんを守る」

 

 

 

 という汚い字。

 

 

 血反吐でも吐く思いで書き殴ったのか、古ぼけた紙面に刻まれた字は刺々しい。

 

 

 なにも覚えていないはずなのに、つい時間があれば見てしまう。以前の俺がルーティンワークとしていたのか知らないが、変な奴だったんだろう。

 

 

 パラパラと分厚いページを捲り、裏へひっくり返せば小さな字で「巡」と。

 

 

 こちらは日記の主、 まあ以前の俺だが、それと違い綺麗な字だ。所々癖なのか、丸みを帯びているのが可愛らしい。

 

 

 もう摩耗して消えかけた「巡」の字を優しくなぞり、はあ……と深いため息を零す。だけど相変わらず乖離してる表情筋と口にもう一度ため息が溢れる。

 

 

 

 以前の俺ってなんだよ。そう疑問に思った方は大正解。俺も現在首を捻っている最中だから。

 

 

 名前は(めぐる)、年齢は不明。ベビーフェイスとふわふわしてる色彩で分かりずらいが、恐らく未成年。身長は測る機会なんて皆無だったから分からないが、多分180あるか無いか。

 ギンギラギンに趣味悪く主張する白銀のサラッサラヘアに、ぴゅあぴゅあな水色の伏し目がちな瞳が特徴的な(推定)日本人。表情筋と口が死滅したものっそいイケメンである。俺の趣味じゃないけど。

 父親は居らず……いや、人間の生殖条件的にはいるんだろうけど、日記に父親なんて言葉は出ていなかったので、多分母親ひとりの母子家庭。

 あとは普通の人間には見えない化け物……呪霊なるものが見えて、それを殺すための武器。術式、呪具などを片手に化け物を殺す仕事を請け負っている。

 恐らく最終的な目的は母親を見つける? 救出? 守る? こと。なにか特殊な事情があって離れ離れになったのか、それとも誰かに連れ去られたのか。どちらでもいいが(めぐる)にとって母親が生きる目的であり、とんでもないマザコンヤローであったのは間違いない。

 

 

 とまあ、俺が日記から知ることが出来た以前の俺についてはこんなところだ。唯一付け加えるならば、とんでもない阿呆か馬鹿のどっちかだったんじゃないかな。

 頭をどこかにクリティカルヒットさせたのか知らんが、今の俺が目を覚ました一か月前。それ以前の記憶が綺麗さっぱりアッパラパーなのである。

 

 

 お分かり頂けただろうか? 簡単に言うと、記憶喪失……というやつだ。

 

 

 記憶もねぇ、家族もいねぇ、金もねぇ、表情筋もねぇの無い無い尽くしのフルコンボ。

 

 最初に居た都会の面影を残した廃墟は化け物がウロウロと歩き回って人の子一人居なかったし、持ってたのは鞘に収められた業物っぽい日本刀と分厚いボロ日記だけ。

 

 こりゃあマズいと思って安全そうな廃墟に隠れ、唯一の手がかりらしき日記を読み解き、まさかの中身が激重感情ハッピーセット。

 前の俺こんな激重系男子だったのお……? と頭を抱えたが、しょうがないと割り切り、記憶が無くなる前に書いたのであろう最後のページに書いてあった事を実行。

 

 半信半疑でやったソレは見事に成功し、ポーッンとどこかの路地裏に投げ出されたのが二週間前。

 

 

 俺、爆誕☆ってやつだな。うん。

 

 

 他にも色々と事情があるっぽいが、ざっくり巻きで説明するとこんな経緯を経て今に至る。

 

 こっちに来てからは裏サイト? っぽい仕事斡旋サービスから呪霊に関する依頼を受けてマネーを貰って各地を転々。その日暮らしの生活だ。

 

 

 ……………………………………いや、濃くね? 

 

 

 最高級のビスクドールみたいに整った人間味の無い能面もそうだけど、生い立ちやら目的やら生き抜く力やら、あまりにも濃すぎるだろ。間違いなくどこかのバトル漫画の中ならばラスボスに近い立ち位置の強キャラか、闇を抱えた主人公のライバルポジに収まるキャラクターである。

 バトル漫画なんて死亡フラグの巣窟であり、少年の心がジャンプしちゃいそうな週刊誌に連載されてる作品に当たったもんならば冗談ではない。確実に死ぬ。特に最近はじゃがりこ感覚で重要人物が死んでいく作品が多いので死に物狂いで生存戦略を練らなければならない。

 …………まあ、それもバトル漫画であったならばの話なんだが。

 

 

 鴉の濡羽色の鱗粉を優雅に揺らした蝶がヒラヒラと顔周りをグルグルと飛び回る。

 虫が嫌い、というわけでもないが、ヒラヒラとこのまま飛び続けられるのも落ち着かない。

 

 日記から手を離しアゲハ蝶へ指を差し出せば、フワリと羽を畳んだ蝶が足をつける。やはり蝶もふわぴゅあ系のイケメンが好きか。

 

 

 軌道修正。

 

 

 断言しよう。ここはバトル漫画の世界ではなく、最近流行りのバトル要素の入った乙女ゲーの世界であると!! 

 

 

 本来ならば渾身のドヤ顔を披露したいところだが、生憎と表情筋は目が覚めてこの方、俺の言うことを聞いてくれた試しがないので代わり映えのしない能面なのは許して欲しい。

 

 

 その確固たる証拠がコチラ。クッと目に力を入れればあら不思議。

 

 

 ───補助システム【六眼】、起動します

 

 ───身体機能、精神機能 : 共に問題なし

 

 ───術式、呪具 : 共に問題なし───

 

 ───目標到達までの過程を算出、段階別に分けての可視化に成功───

 

 ───現段階 : 初期、進行度 : 中───

 

 ───フリークエストの消化を確認───

 

 ───新たな経過目標を設定───

 

 ───おはようございます、■■ (めぐる)───

 

 ───補助システム【六眼】の起動に成功しました───

 

 ───貴方の望む未来へ向けて、私は情報を取得します───

 

 

 無機質な男とも女ともつかない音声と共に、俺の世界が変わる。

 

 豊かな森林と中央に打ち込まれたコンクリート、生い茂る木の葉の隙間から覗く空だけだった風景に白色の文字が踊る。

 

 まるで現実の風景とゲームのステータス画面が合わさったかのような俺の視界。

 

 

 そう、これがここが乙女ゲーの世界であると確信した確固たる証拠。その名も、補助システムなるご都合主義、【六眼】先生でーす! 拍手! 

 

 

 いやもうこれ完全にアレでしょ? 最近流行りの「前世の記憶を思い出したら生前夢中になっていたゲームの世界にいて、俺にだけ自分のステータス情報が見えるんだが?」っていう感じのやつでしょ??? (めぐる)くん知ってる。深夜のアニメ番組こんなのばっかだから詳しいんだ。

 

【六眼】先生の出してくれた文字列は左から順に、メインクエスト、フリークエスト、ステータス、スキルの五つである。

 

 メインクエストはその名の通り、今or近々やらなければならない設定された目標のこと。最終到達目標から細かく分岐し、ゲームでいつ序章、一章、二章って感じに小さなゴールが設けられている。

 

 フリークエストは今受けてる裏サイトからのお仕事斡旋やらだ。主にお金稼ぎに使うしかない。お金大事。

 

 ステータス、スキルは言わずもがな。ただ条件を満たしていないのか、それともそういう仕様なのか定かではないが、文字が潰れて読めない物がいくつかあるのが玉に瑕だ。

 

 ■■ (めぐる)

 

 術式■■ ■

 

 領域展開■■■■■

 

 特級■■怨霊■■■

 

 今確認できるのはこの四つ。最後の四つめがあまりにも不穏すぎるんだが、気にしてはいけない。

 俺の身に危険が迫ればオートで【六眼】先生が色々とやってくれるし、反応が無いということは今のとこ無害判定が出されてるはずだから、うん。

 

 

 話を戻そう。

 

 

 俺が以前から肌身離さず持ってたっぽい刀袋の中身。太刀に似た日本刀、特級呪具【閻魔刀(やまと)】も最初は文字が潰れていたが、こっちに来るのに使った際に読めるようになっていた。

 

 

 スパッと切れば、くぱぁと次元の裂け目ができる優れものだ。どこの冥道残月波かな? キャ-セッショウマルサマア!!!! 交通費がかからない。

 

 

 開示条件は一度でも使用することなのか、それぞれに条件が課せられているのか。まあ、いつか見える日が来るだろう。

 

 推定苗字に該当する部分が潰れてるのはアレだ。多分父親か親戚と知り合えば開示されんじゃないのかなあ。

 

 

 じゃあお前それ、どっちかっていうとMMOの世界なんじゃん? って思ったそこのあなた。甘い。甘いぞ、あまりにも甘すぎる。

 

 

 なぜならば!!! なぜならばだ!!!!! 

 

 

 俺以上か俺と同等のイケメンを見たことがないので、自由にイケメン美女が作れるMMOではありません。おーけー? 

 

 

 …………いや、本当。自意識過剰でも自信過剰でもナルシストでもなく、マジで俺とどっこい以上のイケメンがいない。

 MMOなんてキャラクリが売りと言っても過言ではないのだから、作ろうと思えばNPCでも誰でもスーパー超絶イケメンが三分クッキングできる。

 

 

 対して乙女ゲームはどうだ? 乙女ゲームは基本的にモブの顔は共通のパターンが一種か二種。ひどいと鼻から上は影になってぼかされてたりもする。

 つまり、攻略対象は多種多様なイケメンが揃うが、それ以外のキャラクターは棒人間と大差ないわけだ。

 

 

 見てこのパーフェクトな一部の隙もない理論。天才すぎじゃない? 

 

 

 俺に盛られた属性から見て、多分隠しキャラ的ポジションに座ってるキャラクターが妥当。素晴らしいね。

 

 

 

 

 パンッ、と。アゲハ蝶が弾け、顔の横に汚らしい舌が通過する。

 

 茂みの奥深く、ギョロリとした三つ目。

 

 

 丁度良い。ゴミの処分をしてもらおう。

 

 

 うごうごと。伸び切った舌の側面が盛り上がり、気泡のように膨れた場所から肉の舌が増える。

 

 迷うことなく顔面を狙ってくるソレの前に潰したペットボトルを絡ませ、人差し指を三つ目の元へと向ける。

 

 

 ───補助システム【六眼】、オート起動───

 

 ───術式【無下限】: 起動───

 

 ───術式順転【蒼】───

 

 

 ぐい──んと、ただ一つの変わらない吸引器のごとく、ペットボトル付きの分裂舌が持ち主の顔まで戻り勢い余って突き破る。

 

 パァンと咲いた汚い花火に眉を寄せるも、やはり眉は寄ってくれない。悲しい。

 

 明るい朝には不釣り合いな黒い塵となって三つ目が消えるのを見届け、よっこらせとベンチから腰を上げる。勿論、立てかけた閻魔刀(やまと)も忘れずに。

 

 

 蝶々は残念だったなあ。折角綺麗だったのに。

 

 

 残念な気持ちのままポケットからスマッホを取り出し、発信ボタンを押す。

 

 

 選択肢

▷・依頼は完遂した。確認した後にいつもの方法で振込は頼む。踏み倒したら分かっているな

 

 ・金

 

 ・終わった。対価は払えよ。でなければ殺す

 

 

 ひっっどい選択肢しか出なくて草。知ってたけれども。

 

 

「依頼は完遂した。確認した後にいつもの方法で振込は頼む。踏み倒したら分かっているな」

 

 

 相手の返事も待たずに通話を切り、金属製のスマートな電話をコンクリートへ投げ出し、躊躇無く踏み壊す。

 

 ベキリと嫌な音が靴裏からするも、俺の意思ではどうする事もできないので勘弁して欲しい。

 

 中身からぶちまけられた金属品に別れを告げ、空を見上げる。

 

 

 いやあ〜〜、やっぱここ乙女ゲームだろう。選択肢とか普通出ないからね。

 

 

 今日のお昼は何を食べようかなあ。ふんふんと鼻歌を歌いながら(歌ってないけど)、出口目指して森を進む。

 

 

 俺も、以前の俺が設定した目標に向けて頑張らなければ。ちょっと物騒な目標だけどね。

 

 

 

 

 

 ■■ (めぐる)

 

 

【メインクエスト】: 最終到達目標

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【青き瞳を撃ち落とす刻】: 五条 悟(ごじょう さとる)の抹殺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【報告書】

 

 昨日早朝、〇〇市の運営する自然公園を見回っていた補助監督が特異な残穢(ざんえ)を発見。

 

 照合したところ特級呪術師 五条悟の残穢とほぼ一致。

 

 残穢(ざんえ)の痕跡から使用された五条家の無下限術式。さらに細かく解析した結果、五条 悟の使用する術式順転【蒼】そのものであるとの結果が判明。

 

 

 

 

 

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