第1話
12月 川崎 全日本ジュニア選手権にて
「速い、速すぎるよ・・・」
スタートが切られる否や、隣りのウマ娘は圧倒的なスピードでハナを切る。そして、それを追いかける数人とで先行集団が形成される。
正直に言って、私はこの時点では焦ってはいなかった。だって、元々私は差しを得意とするタイプだし、それにこのペースなら間違いなく先行集団は垂れると確信していたから。
けど、その考えは2コーナーに入る前に打ち砕かれてしまった。追走することすらできな、いや正確に言うならば追走はできる、ただ全力を出さなくてはいけないけれど。それほどまでに先行集団のペースが速すぎる。
ふと周りを見れば、私以外にも追走することが精一杯なウマ娘が数人いることに気づく。その多くが私と同じ地方の子たちだった。けれど、私たちはましな方だ、既に追走すらできない子もいるのだから。第3コーナーに入る頃には、先行バ群は完全に追いつけない位置に行ってしまった。
あぁ、もう私に勝ち目はないんだろうなぁ。それでもせめて、見せ場くらいは作らないとね、最後の直線300m、ここに私の全力をぶつける。
「ッ、行くよ!」
あのペースで走っている先行集団だ、多少は脚が鈍るはず。応援してくれている地元のみんなのためにも、せめて私の全力を見せないといけない、それが私のできる精一杯だから。
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「お疲れ、よく頑張ったな。最後の直線の脚は中々よかったぞ」
レースを終えた私をトレーナーさんが迎える。その声色からは私を気遣っていることが如実に読み取れる。そういう気遣いをさせてしまっていることが、申し訳なくてたまらない。けれど、感情を我慢できるほど私は大人ではなかったみたい。直ぐに、トレーナーさんに泣き言を漏らしてしまう。
「トレーナーさん、まるで歯が立たなかった・・・。あの子たち、強すぎます・・・」
ここまで悔しい思いをしたのは初めてだった。もちろん、私も今まで負けたことがないわけではないよ。けど、今日のそれは今でのものとは全く違うものだったから。そもそもレースに参加出来なかったんだから・・・
「何を言ってんだよ。それでも14人中8着だろ、そんな絶望するほどでもないさ。帰ってまた練習だな」
「トレーナーさんは、本当にそう思うんですか? 私に先着したのは、ほとんどが中央と南関東の子だった。正直に言って、レベルが違ったんです。金沢でいくら活躍しようとも結局は・・・」
世間では、中央で行われるトゥインクルシリーズがもてはやされている。一方、私たちが所属している地方シリーズは、正直に言って扱いはかなり悪い。例外は南関東シリーズくらいだろうか、ここのウマ娘はトップクラスともなれば、中央の子とも渡り合えるほどの実力を持っているからだ。一方で私の所属する金沢なんかは、世間では落ちこぼれが集まるところと見なされているほどだ。
もちろん理由は分かっているよ。レースレベルは低いし、設備も古いからね。それでも、レースになれば応援してくれるファンや関係者の人たちがいる。そんな人たちの前でライブをするのは最高に気持ちが良かったんだ。
だからこそ、その人たちの期待に応えたかったんだけど・・・。結果はこんな有様、レース名には全日本なんていう言葉がついているけど、結局私たちはただの数合わせに過ぎなかったんだ。
「なるほどな。確かにお前の言いたいことは分かる。じゃあ、お前はどうしたいんだ? あいつらに勝ちたいのか? それとも今まで通り金沢でファンの人たちのために走りたいのか? 別にどっちがいいとか悪いとかじゃないんだ。お前のしたいようにすればいい。その時には、俺が精一杯サポートしてやるよ」
トレーナーさんが親指を立てて、ドヤ顔で私に言う。きっと、内心ではカッコイイことを言ったとでも思っているんだと思う。でも、そんなトレーナーさんだからこそ、私は信頼しているんだ。きっと、私のことを誰よりも考えてくれているのがトレーナーさんだから。
けれど、私はトレーナーさんの問いに答えられなかった。
私は、結局どうしたいんだろう? あの子たちに勝ちたいのか、それともシロヤマさんのように金沢を盛り上げるために精一杯尽くしたいのか。
「トレーナーさん、それ二つとも選んじゃダメですか?」
これが、私の答えだ。優柔不断な私には、どっちかを選ぶことなんて出来なかった。だって、二つとも私にとっては譲れないことだったから。
「ん?」
「だから二つです。金沢でファンの人たちのために走りながら、中央の子や南関東の子に勝ちたいんです。我儘ですか?」
トレーナーさんは一瞬、呆気に取られた表情を見せるが、いつものようにドヤ顔を見せつつこういった。
「いーや、最高にカッコイイ選択だよ。だったら、覚悟をきめろよ。言っておくが簡単にあいつらに勝てるとは思うな。何だったら、頑張っても勝てないかもしれない。それでも、一度やると言ったんだ、取り消すんじゃないぞ」
「はい!」
この日から、私の目標が決まったんです。