地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第10話

『さぁ、各ウマ娘ゲートに続々入ります』

 

 舞台は中山2000mの若葉S。バ場は良、私的には多少重くなって欲しかったところだけど仕方がない。どっちにしろ、ここで結果を出さなければ皐月賞で好走することなんて難しいに決まっているから。

 

でも何も考えていないわけじゃない。出走が決まってから1ヶ月間、このレースのためだけにトレーニングをしてきた。脚は快調、呼吸も整っている、そしてトレーナーさんからの指示もある、さぁ勝ちに行こう!

 

『さぁ、注目の一番人気はベアエクジスタンス。前走のメイクデビューは上がり最速の脚で差し切り快勝! ここ中山でも自慢の末脚は活かされるでしょうか』

 

 トレーナーさん曰く、今回警戒するのはこの一番人気の娘みたい。理由はその末脚だ。

 とにかく最後の直線入口ではこの娘の前にいないといけない、そうじゃないと私のキレでは彼女には届かないから。

 

『さぁ、各ウマ娘ゲートに入って、体制整いました。 皐月賞トライアル若葉S発走です!』 

 

 さぁ、皐月賞の切符を掴むための切符を取りに行こう!

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

『ゲート開きました! おぉーっと、11番カナメが少し出遅れたが大きな出遅れはありません。さて、どのウマ娘が前に行くのか!』

 

「あ・・・」

 

 テレビの前で観戦していた私にとって、まさに恐るべきことが起きてしまった。そう、私の親友はスタートが下手くそだ。何度もレースで戦った私が言うんだから間違いない。

 

「大丈夫よ、シャインちゃん。2000mのレースでこのくらいの出遅れは問題ないわ。彼女は元々、後ろでレースをする娘なんだから」

 

「そ、そうですよね。はぁー」

 

 とはいえ、不利なことには間違いない。レースというものは1秒いや0.1秒を競うもの、その中で一人遅いスタートを切っているんだから当たり前だ。

 今だけは私のスタートと出足を分けてあげたいよ、全くもう。

 

「グリンさん、カナメちゃんはどんなレースをすると思いますか?」

 

「そうねぇ、私は中央では新潟と小倉しか走ったことないから分からないけど、中山の坂はかなり体力を使うみたい。だから、そこまでの脚を残しつつ位置を上げられるのが理想だけど。とにかく、直線まで自分のリズムを守ることが大事ね」

 

 カナメちゃんの好走パターンは大きく分けて2つ。1つ目は向こう正面から捲って4角入り口で先頭に立って押し切る。2つ目は捲りが不発に終わった時の直線一気。

 どっちも中央の高いレベルでは難しい・・・。

 

「・・・だったら、その2つの間かな?」

 

「あら、シャインちゃん。あの娘の考えが分かるの?」

 

「いや、ただの勘ですよ勘」

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「いや、ただの勘ですよ勘」

 

 そう言ったシャインちゃんの顔はどこか誇らしげなようだった。

 本人は恥ずかしがるかもしれないけど、ケガの後の彼女はカナメちゃんの話題に以前よりも関心を示すようになった。前走の共同通信杯なんかはすごかった、

最後の直線の叫び様なんて・・・ね。こっそり撮影していたのはシャインちゃんには内緒だ。

 

 あーあ、私にもそういうライバルがいたらなぁ。あいつは、ライバルっていうよりはムカつく後輩だし。そういう関係って憧れるわ。

 

「そう、だったらその勘が当たるかしっかり見ないとね。シャインちゃんも、しっかり応援しないとだめよ」

 

「もちろんです!」

 

 こうやって、素直に応援できるようになったのも変わったところだと思う。必ずしもそれが良いこととは限らないんだけど・・・。

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 うぅー、出遅れちゃったー。

 けど、これくらいなら問題ない。どうせ、後ろからレースをするんだから大丈夫。むしろ周りに囲まれる心配もないから、これでいい! とにかく、内を通ることを意識してと。 

 

『さぁ、最内枠から一人果敢に前に出てきます。続いて8番、6番と続き隊列がすんなりと決まりました』

 

 隊列がすんなり決まった分、どっちかというとスローな流れかな? いや、トレーナーさんも言ってたのように、前半は何も考えずに自分のリズムを守らないと。

 

『さぁ、隊列固決まって1コーナから2コーナに入って行きます』

 

 来た! ここからだ、ここからペースが重要になる。トレーナーさんが言っていた目安のタイムはハロン12.5。今回はそれよりも少し遅い・・・はず。今の私だとはっきりしたことは分からないけど、ストップウォッチで測り続け勘でやるしかない!

 

『2コーナ回って向こう正面、1000Mの通過タイムは61.6。バ場を考えると少しスローの流れか!』

 

 私の感覚だと、向こう正面に入ってもペースは上がっていない! だったら、ここで位置を上げていく!

 

『おぉーっと、ここで最後方の今回唯一の地方ウマ娘、カナメが位置を上げていく』

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

「よし、ドンピシャだ!」

 

 今回のレースは先行争いがすんなりと収まった分、明らかにスローな流れ。これはかなりラッキーだ。あいつには言っていなかったが、正直Hペースだとあいつにはキツかった。

 

「あいつあんなところから仕掛けてるけど大丈夫なのか?」

 

「あぁ問題ない。というか俺が指示したからな」

 

「まぁ、お前が言うなら勝算はあるのか・・・?」

 

「結局あいつは根本的にスピードが足りないんだ。どうせ動かなくても追走で脚を使わされちまう。だから、このロングスパートは勝つためには必須だ」

 

 前走の共同通信杯はダートだったからあいつも気付いていなかったかもしれないが、前々走の白梅賞はHペースで脚を無くして捲りも中途半端になっちまってたからな。

 

『さぁ、3コーナに入るところで前から5番手の位置まで上がって来たカナメ。このまま捲りきれるか!』

 

「よし、いい位置だ。恐らく先頭の3人はこれでオーバーペースにならざるを得ない。十中八九、脱落する。後はあいつが垂れなければいいが」

 

「確かに逃げの連中は厳しいな。とはいえ、意外と後ろの連中は余裕をもって構えているぞ。この流れだと、あいつもろとも差し切っちまうんじゃないか?」

 

「カナメ自体の3-4コーナのペースはそれほど速くない。所詮、地方のウマ娘だと思って甘く見てやがるな」

 

 完敗といえど、あいつは共同通信杯4着。決してこの面子でも実績は引けはとらない。

 さぁ、中央の連中に見せつけてこい!

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 誰かの捲りのせいで先行集団に私にとってはキツイ流れだ。

 

 けれど、私は負けられない、負ける訳にはいかない。

 もし私が負けたら偉大な2人の姉は私のことをどう思うだろうか。

 

 

 15戦連続連対の葦毛の王者、3冠を達成した怪物。この2人の妹に生まれたことを恨むこともあった。だけど今は感謝している、負けられない理由ができたから。私は強くなる、強くなって偉大な姉2人を超えてみせる。

 

 だから・・・

「地方のやつに負けてる暇なんてないんだよ!!!」

 

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 ペースが思ったより上がらない。あの地方ウマ娘の捲りをみんな甘く見すぎている。地方のウマ娘と言えどあの娘には地力がある。このままのペースで差し切れるか?

 

 けれど、私は勝たないといけない。 

 背負っているのは1番人気、多くのファンが私に期待してくれている。

 

 

 いや、そんなのは詭弁だ。本当の理由じゃない。

 私には1つ下の妹がいる。そして、彼女に今日の勝利を約束してしまった。妹はいずれ私を超えるだろう、それは間違いない。彼女の才能は私と比べるまでもないのだから。けれど私は姉だ、姉なのだ。なら、妹の前では常にカッコイイ姿でいたい。私の勝ちたい理由なんてそんなものだ。

 けれど、その思いの強さは誰にも負けていないつもりだ。

 

 だから・・・

「勝つのは私。自慢の瞬発力、舐めないでよね!」

 

 ◇  ◾️  ◇  ◾️  ◇

 

 いける! 

 少し苦しいけど、このペースなら最後の直線を向いても余力を残せる。あのマスクが効いていたのかもしれない。

 

 ここまで来たんだ、負けたくない、絶対に負けない!

 必ず皐月賞の切符を手に入れるんだ! きっと、これが私の人生のターニングポイント。ここで負けたら何にもならないんだ頑張れ私!

 

 トレーナーさんのため、シャインちゃんのため、金沢のみんなのため、どれも違う。自分の戦う利用を人に預けちゃダメなんだ。だから私は自分のためだけに走る。

 

 そして・・・

「絶対に負けない! さぁ、今こそ肝心要の末脚を見せてあげる!」

 

 

 

 

『各ウマ娘、それぞれの想いを抱いて最後の直線に向きます。勝つのは一体、どの娘だぁーっ!』

 

 

 

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