「次走の皐月賞に向けて意気込みをお願い致します」
若葉S後、一躍有名になった私。特にレースの翌日は凄かった。
記者会見、そしてテレビ出演。昔から目立つことが好きだった私にとっては、願ったり叶ったりだったんだけど・・・
「え、えと。じ、次走の皐月賞も頑張りまひゅ。あ、噛んじゃった」
ここまで、テレビが緊張するものだとは思わなかった。ある意味ではレースよりも大変だよ。
「はは、頑張ってください! 金沢のみんなが応援していますよ」
「は、はひぃ」
後日、この様子が放映された際にはトレーナさん、そしてシャインちゃんにも散々からかわれることになりました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
一通りのメディア対応が終わって落ち着きを取り戻したある日、トレーナさんと次走についての打ち合わせ行うことになった。
そこで、私は驚きの言葉を耳にすることになる。
「次はいよいよG1皐月賞だ。正直、お前がここまで頑張ってくれるとは思っていなかった。よくやったな」
「どうしちゃったんですかトレーナさん。私のこと素直に褒めてくれるなんて何か悪いものでも食べましたか?
そう、あのトレーナさんが私を素直に褒めたのだ。今までは褒められることはあっても、何か引っかかるような言い方をされていたので本当にビックリだ。そう思わず、悪いものを食べたのではないかと疑うくらいには。もちろん冗談だけどね。
「・・・はぁ。まぁいい。知っていると思うが、皐月賞は中山2000mで行われる。つまり、若葉Sと全く一緒だ。だが一つ大きな違いがある、何だか分かるか?」
「えーと・・・、強い娘が多いってことですか?」
呆れた様子でトレーナさんは私に問いかける。一番大きな違いは、やっぱりレベルだよね。何て言ってもG1、前回の川崎の時もそうだけどやっぱり特別なものがある。
「それも間違ってはいない。が、本質ではないな。一番の違いはペースだ」
「ペースですか・・・」
そう言われてみると、前走まで私ってペースとかほとんど考えたこともなかったなぁ。
「改めて聞くが、前走のペースはどうたった」
「思っていたより、Sペースでした。追走も楽でしたし」
そのお陰で出遅れも何とかなったからね。仮にあれがHペースだと好走できていたかは怪しいかもしれない。
「そうだ、だからこそお前も位置を上げていくことができた。でも、次の皐月賞はそうはいかないぞ。確実にペースは早くなる」
「だったら、ロングスパートは封印ですか?」
「バカかお前。自分の武器を見失うなよ。いくらペースが早くなっても道中緩む場面はあるもんだ。そこを逃さず仕掛けていく必要がある。前もいったが12秒、13秒この2つの感覚は掴めるようにしておけ。」
何となく口にした言葉だったが、トレーナさんには強く咎められた。確かに私の勝ち筋はそれしかない、それは間違いない。ただ、それでも気になる部分はある。
「は、はい。でも、トレーナさん、仮に道中のペースが緩まない場合はどうしますか?」
「その時は前走の対策と一緒だ。3コーナから上がっていけ。間違っても後方待機なんてするなよ。しんどくなってでも前へ出ろ、お前がしんどければ回りもしんどいもんだ。持久戦に持ち込めば勝機はある。逆に後ろにいれば、瞬発力の差でお前に勝ち目は無い」
「分かりました! でも一つ、仮に捲りきったとしても前走みたいに差し切られませんか?」
前走は直線を向いて勝ったと思える程度には自信があった。それでも、最終的には差し切られてしまったわけで。
「そこなんだよな。前走ははっきり言って、理想的な展開だった。捲って行った時、そこまで脚を使っていないだろう?」
「そうですね、割と余力を残して直線まで行けました」
「お前の捲りに対して、中団より後ろのやつは静観していた。結果として逃げ連中だけがペースを上げて自滅したわけだ。つまり作戦自体は成功している。現に1着を除いて、後方から伸びてきたやつはいなかったからな」
「でも、負けちゃいました・・・」
「実力差・・・というのが正直なところだな。勝ったウマ娘の瞬発力は一級品だった。展開不利を差し切っているんだからな。けど、本番はもっと強いウマ娘も出てくるだろう。じゃあ、どうするかだ」
うーん、何かあるかな。
あ、自分が差す側で考えればいいんだ。私が差し損なう相手は基本的にシャインちゃんだったけど、大抵既にセーフティリードをつけられていてどうにもならなかったことが多い。つまり、
「直線を向くまでに十分なリードを確保するとかですか?」
「それができれば理想だが、流石にそれは期待薄だな。とんでもないSペースならともかく、普通に考えれば脚を無くしてお終いだ。だからさっきも言ったが持久戦に持ち込む。理想としては、ペースの緩む向こう正面からの5ハロンのスパート戦だ。直線向いて全員が脚を無くしていれば瞬発力もくそもないからな」
「はぁ。でも、どうすればいいんですか? 前走みたいに無視されちゃうかもしれません」
そうなると、前走よりもレベルの高い今回のレースだと間違いなく差し切られてしまうだろう。
「前走でお前が無視されたのは地方のウマ娘だと舐められていたからだ。こいつは勝手に垂れるだろうってな。結果的にそれが展開利を生んだ」
「ということは、今回は無視されないってことですか。一応、二着になりましたから」
自分で言うのもなんだけど、地方からの参戦ということもあり私もそこそこ注目は集めているはず・・・多分だけどね。
「それは正直分からん。まぁ、一番人気のあいつの動き次第だろうな」
「一番人気ですか?」
「あぁ、そうだ。そいつがお前についてきてくれればペースは間違いなく上がる。警戒している他の連中も動かざるを得ないからな」
「あのートレーナさん。その一番人気の娘って誰なんですか? まだ投票もされていないですけど。もしかしてエルちゃんですか?」
「・・・お前も少しは情報を仕入れておけよ。そもそもエルコンドルパサーは出走しない。今回の一番人気はこいつ。名前はお前も知っているだろうーーーーだ」
耳にした名前は、この数ヶ月でよく聞いたものでした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「クシュン!」
「あらスぺちゃん。もしかして誰かがスぺちゃんの噂でもしているのかもしれないわね」
「えぇー、何か悪いことを言われていないといいけど」
「フフフ、もうすぐ皐月賞だものね。それにスペちゃんは一番人気濃厚だから、注目を集めるのは仕方ないわ」
「緊張しますよー。スズカさんはこういう時、どういう風にしていましたか?」
「うーん。私、あんまり緊張とかしないから」
「でも、スズカさんって確か弥生賞のtーー」
「スペちゃん、それ以上は言わないで。あれは私の黒歴史だから」
「は、はい」