地方は中央の2軍じゃない!   作:小魔神

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第14話

 中央から地方に移籍するウマ娘は基本的には中央で通用するだけの力が無いことが多い。だからこそ、わざわざレベルの低い地方に移籍するわけである。

 とはいえ、中には例外もある。

 

「ここが金沢かぁ、今日から私の戦う舞台・・・。何だか田舎って感じね、うん」

 

 私が金沢に移籍することを決めたのは、つい最近の話。自分で言うのもなんだけど、中央で通用しなかったわけじゃない。現に1勝クラスでも掲示板には乗っている。そんな私がどうして移籍を決めたかというと・・・。

 

「おぉ、よくきてくれたね。君のことはトレーナー君から聞いているよ。短い時間かもしれないがよろしく頼むよ」

 

「はい、よろしくお願いします。石川ダービー、絶対に取ります」

 

 石川ダービー、別にその看板はどうでもいい。ただ、その1着の賞金は私にとっては魅力的なものだった。仮に中央で同等の賞金を得ようとするなら、1勝クラスで1着を取らないといけないからだ。相手関係を考えれば前者の方が容易い事は間違いない。

 

「元気があっていいね。私が言うのも情けないが、君の実力なら石川ダービーも取れると思うよ。今年のメンバーは、有力ウマ娘のケガや路線変更で層が薄いからね」

 

 正直、私の実力は金沢では抜きん出ているとは思う。だからこそ金沢を選んだわけなんだから当然だけど。

 

「はい、頑張ります。ご指導のほどよろしくお願いします」

 

 指導なんて必要ないとは思うけど。今まで通りの走りをすれば、まず勝てるだろうし。

 

「はは、そう硬くならないで。とりあえず、一度レースに登録して走ってみないとね。地方の砂は中央とは別物だからね」

 

 中央の砂に比べて地方の砂は厚いため、パワーがいる。私は地方は走ったことはないけど、多分問題はないだろう。

 

「では、レースに登録をお願いします。それでは色々と挨拶もあるので失礼いたします」

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「皐月賞も、もうすぐな訳だが体の調子はどうだ?」

 

 皐月賞を近くに控えたある日、トレーナーさんがトレーニング中の私に話しかけてきた。トレーナーさんは私の体の調子に問題ないことは分かっているはず。そろそろ、トレーナーさんとの付き合いも長くなってきたから分かるけど、これは単なる会話の入り口に過ぎない。

 

「何も問題ありません。ただ、いまいちタイムが伸びてこないのが不安です」

 

 とはいえ、一応聞かれたことには答えないといけない。後半のタイムが伸びずに不安っていうのは本音だけどね。

 

「そりゃそうだ。そもそも短期間で劇的に成長するなんてことはないんだからな。その点、マスクは一時的なドーピングみたいなもんだ」

 

「それは分かっているんですけど・・・」

 

 確かに、そんな直ぐにタイムが伸びれば、誰も苦労しないからね。

 それにマスクも、外した前走は息をしやすかったけど、数日もすれば元に戻っちゃったから。今はまたマスクをしてトレーニングをしているから本番は大丈夫だろうけど。

 

「トレーナーである俺が言うのもなんだが、皐月賞は奇跡でも起きない限りお前に勝ち目はない。当日に雨が降って、ペースがお前に向いてもまだ足りない」

 

「何が言いたいんですか?」

 

 いつかの問答を思い出して、少し不機嫌な声を出してしまった。まぁ、出走を辞めろって言われることは無いだろうけど。

 

「なぁカナメ。お前、皐月賞の後も中央挑戦を続ける気はあるか?」

 

「もちろん、目標は日本ダービーですから」

 

 日本で一番注目を集めるレースは多分ダービーだと思うから、このレースには出走したい。

 

「そうか。実際のところお前が日本ダービーに出走するには皐月賞で掲示板に乗らないといけない」

 

「確かに今の私には難しいかもしれないですけど」

 

 つまり、ダービーに出たいなら相手の薄い別のトライアルレースに回れってことかな? けど、皐月賞も憧れの舞台の一つだし。

 

「違う、そういうことを言いたいんじゃない。要は、皐月賞で勝ちにいくか着を取りにいくかっていう話だ」

 

「着を取りにいく・・・ですか」

 

 今までトレーナーさんからは聞いたことがない言葉だ。だってそれは勝ちを狙わないってことと同じだから。

 

「そうだロングスパートはお前の脚質には合っているし、望み薄ではあるが勝つためにはこれしかない。が、これは言ってしまえばピンかパーの戦法だ。失敗すれば日本ダービーの出走自体も難しくなる。ダービーに出走するための権利を取りにいくなら違う戦法も考えられる」

 

「その戦法っていうのは?」

 

 まさか、逃げってことはないよね。うん、流石にないか。

 

「やることは、共同通信杯の時と同じだ。俺がこのレースで一番注目しているウマ娘を覚えているか?」

 

「えっと、スペシャルウィーク・・・でしたよね」

 

 トレーナーさんは、相当にこのウマ娘に注目しているらしい。考えてみれば、私も一緒に走ったことがあるんだよね。

 

「そうだ。道中はそいつの後ろに付けろ。後は直線まで連れていってもらってそこからスパートだ。進路はあいつが探してくれるだろうし、仕掛けどころもあいつの判断に任せた方が確実だ」

 

 なるほど、最後の直線勝負ってことだね。トレーナーさんの言うことを聞く限り、スペシャルウィークにおんぶにだっこの形になるみたいだけど。でもそれだと、

 

「その戦法だと瞬発力勝負になっちゃうから、勝てないって話じゃありませんでしたか?」

 

「あぁ、そうだ。だから言っただろ、これは着を拾うための方法だって。もちろん、この方法なら必ず権利を取れるって訳じゃない。ただ、ロングスパート戦法よりは可能性は高い」

 

 つまり、勝つことは無理らしい。もちろん、0ではないだろうけど。けど、それなら考える必要もないね。

 

「だったら、私が選ぶのは決まってますよ」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

『さぁ、舞台は中山2000m。最も速いウマ娘が勝つと言われる皐月賞。この舞台に18人の選ばれし精鋭が集まりました。解説の小山さんの注目はどの娘ですか?』

 

『そうですねぇー。今回の上位人気の3人は弥生賞の上位の3人でもあります。実力的にもこの3人が抜けていますね。ただその牙城を崩すとすれば、弥生賞組以外でしょうね。その中では前走すみれSを快勝したエモーションなんかは面白いですね』

 

『そうですか。では小山さんの本命は?』

 

『2枠3番、セイウンスカイ。彼女に決めました。雨が上がったとはいえバ場はまだまだ荒れています。内枠も引きましたし、グリーンベルトを活かしてもらいたいです。1枠2番のテンカムソウとの逃げ争いに注目です。対抗はキングヘイロー、スペシャルウィークは大外もあって、ここでは軽視します』

 

『なるほど、小山さんありがとうございました。それでは皐月賞、間もなく発走です』

 

 

 

「私、負けっぱなしってやつ、あんま好きじゃないんだよね。それじゃ、大物をさっくり釣ってきちゃいましょーかね!」

「一流のウマ娘は結果も一流…。さあ、価値ある時間をあげるわ!」

「日本一になる夢があるんです! 誰にも勝利は譲りません!」

 

「勝負っていうのは勝つか負けるしかない。勝ちを目指して負ける、それはしょうがない。けど、最初から負けるために走るバカはいない。肝心要のロングスパートで勝ちにいきます! 」

 

 

 

 

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